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因果応報は残酷な仕打ちの代償

『グルルル…。』


密林の中で鼻先に小さな角、両目の上に角のようなトサカがある肉食恐竜が歩いていた。空腹で獲物を探しているらしく口からダラダラと涎が垂れていた。


『『ヒヒ〜!?』』


目の前を小さな馬のような生き物達が、自分を見て慌てて逃げるも追いかけるようなことはしなかった。


「おい、火をもっと炊くんだ。獣が寄ってこないようにするんだ。」


「「はい!」」


何故なら最近は変な声を出し、変な物を持ち歩く二足歩行の猿に似た生き物の方が、足が遅く弱々しいため確実に捕食出来ると知っていたからだ。


しかしまだその時ではないと襲うおうとはせず、チャンスが巡ってくるまで耐え忍ぶことにする。


「姫様…!姫様…!」


「リオーネ様!あまり先に行かないでください!」


場面は変わりハグレたキオナ達を探してリオーネ達は森の奥へ奥へと進んでいた。何者かによって穴から助け出され、何処かに連れて行かれたらしく今はその足取りを追っていた。


「ジッとしていられるか!姫様が何者かに連れ去られた可能性だってあるんだぞ!」


「そうですが…周りは我々の知らない未知の世界、何が出るか分かりませんよ!」


先走る気持ちは分かるがここにはアナコンダを上回る大蛇のティタノボアや、小山のようなステゴサウルスだっているのだから他に何がいるか分からない。


「なら尚更早く見つけなくては…姫様!」


「おい、マズいぞ…このままだと合流しちまうぞ…。」


「分かってる!でも何とか足止めしねぇと…。」


いじめっ子達は保身のために先回りしてキオナを先に始末しようと考えているが、そのためにはキオナに向かって真っしぐらに走るリオーネ達を足止めする必要があった。


「何か…何かいないか…っ!あれだ!」


いじめっ子のリーダー格は辺りを見回して何かいないか探していると、近くの茂みに何か動いているのが見えて気付かれないように矢を放つ。


『プオオオオン!?』


「いっ!?」


矢は見事に当たったのだがその生物はかなり印象的な見た目をしていた。これまでにも異世界故に多くの未知の生物は見てきたがこの生き物の見た目は一度見たら忘れそうになかった。


『プオオオオン!?』


「な…何だこの生き物は…!?それにこの鳴き声は…!?」


口先はカモの(くちばし)のように平べったく、後頭部から緩やかにカーブした棒状のトサカが生えている風変わりな姿形をしており、何よりも放つ声がとてつもなく(うるさ)くドラゴンの咆哮にも負けない程だった。


『プオオオオン!?』


「うわああ!?耳が痛えぇ!?」


『プオオオオン!?』


「しかも何匹いんだよ!?」


群れを成す生き物のため、一頭に危害が加えられたことで群れ全体が互いに警告するように騒がしい鳴き声で騒ぎ立てるため鼓膜が破けそうだった。


「こんな煩い声を出す生き物は初めてだ…何なんだこいつは…!?」


これまでにも多くのモンスターや獣と戦ったことがあるメリアスでも、こんな鼓膜が破けそうなほど騒がしい生き物は初めてだった。


「パラ…パラサ…ロロフ……パラサウロロフス…?」


「何だ…その発音しにくい呪文みたいなのは…。」


エインはかなり発音しにくい呪文に似たようなことを口走るためリオーネ達は首を傾げる。


「この生き物の名前みたいですけど…。」


「おい、今だ…!」


「よし…!」


パラサウロロフスの群れがパニックになって騒ぎ始めたことで救助隊の足が止まり、その隙にいじめっ子達は隊から離れて先回りすることにする。


「それで…キオナ姫は狼煙が上がった場所にいるのか?」


「恐らくな。無能の話だと出会った魔法使いはキャラバンの護衛とか言っていたからな。その魔法使いの仲間が引き上げたんだとは思うが…。」


「なら、この方角で合っているはずだ!」


話を聞いていたいじめっ子達は狼煙が上がっていた場所にキオナがいると考えて急ぎ足で向かっていた。


『ギャアギャア!』


「うおっ!何だ今の変な鳥は…!?」


近くの茂みから風変わりな鳥がバッタを追いかけて飛び出してきた。羽毛は生えているが嘴の代わりに歯が生えていて、翼からも前脚らしい物が見受けられた。


「鳥みたいだったけどトカゲのようにも見えたような…。」


「んなこと良いから急ぐぞ。」


トカゲのようにも見える鳥…恐竜時代に置いては鳥の始祖となる生物『始祖鳥』の存在はいじめっ子達からしたら不気味な鳥にしか見えなかった。だからこそ目的も含めてさっさと立ち去りたかったのだ。


「見えたぞ…あれじゃないか?」 


「狼煙もだが…これは野営をしたみたいだな。」


それから暫くして開けた場所に出て、壊れた馬車が三台ほど横たわっているのと煙がまだ上がっていふ焚き火の跡を見つける。


「肝心のキオナ姫は何処だ?」


「くそ…鑑定スキルでもあれば何処にいるのか分かるのにもどかしいな…。」


隠れた位置から様子を探るも、今は隠れているのか姿が見えず何処にいるか分からなかった。


「…何か音を立ててみろ。」


「何でだよ?」


「そうすると何の音か確認するはずだ。何でも良いから音を出せ。」


音がすればモンスターにせよ人間にせよ、何なのか確認するために姿を現すと考えいじめっ子達は何か音を出すことにした。


「…今のは?」


小石を横転した馬車に当てるとフワフワした髪をツインテールにした猫耳の少女が出てくる。 


「猫の獣人…見かけない奴だが、恐らくあいつがキャラバンの一行だろうな。」


「キオナ姫じゃないがあいつを騙してキオナ姫の所に案内して貰おうか。」


「よし、あの〜…。」


いじめっ子達は悪辣な顔をなるべく隠すように甘いマスクをして猫耳の少女に話しかける。


「…!もしかして救助隊の人達ですか!」


「そうそう!助けに来たんですよ〜!」


見慣れない人達が優しく話しかけて来たことで猫耳の少女の表情は明るくなり、次第に助かったことに感涙ていくのだった。


「良かったぁ…本当に良かたぁ〜…!?もうダメかと思ってましたぁ…!?」


「お嬢さん、もう大丈夫ですからね!」  


見た目は可愛い系なためいじめっ子達はここぞとばかりに英雄気取りでその少女に近寄っていく。 


「私はキャラバンのメンバーであるモナと言います!助けに来てくださってありがとうございます!他にもまだ…。」


「ところで…ここにキオナ姫はいらっしゃいませんか?」


彼女はモナと言うらしく、他のキャラバンの仲間達を紹介しようとするがいじめっ子達はそんなのどうでもいいからキオナのことを教えて貰おうとする。


「キオナ姫…?ああっ、さっきの人達のことですね!食べ物を探していたら護衛のキャロラインさんと一緒に穴の中に落ちていたので助けたんですよ。」


不意に聞かれて一瞬呆然とするもキャロラインと一緒に助けた少女のことだと思い出しそう答えるのだった。


「でしたら少し合わせて貰えませんか?今後の方針を話し合いたいので…そこの茂みに来るよう言って貰っても構いませんか?」


いじめっ子のリーダーは茂みに視線を移した後で、目配せをして仲間達に合図をする。


「ええ、良いですよ。ちょっと待っててくださいね。」


何の疑いもなくモナはキオナを呼ぶために横転した馬車の中へと戻って行く。


「ふん、獣人は力が強いとされていますが、その分バカで単純で騙されやすいですね。」


「けど見た目は良かったなぁ…胸もそれなりにあるし物にしてぇな…うへへ…。」


モナが去ってからいじめっ子達は、彼女の純粋さを嘲笑うと同時に彼女の身体を見て、甘いマスクの下にある下劣な表情が見え隠れし始める。


「とにかくキオナ姫を茂みに誘い込んで半殺しにしろ。あの女のせいでこちとら崖っぷちなんだ、それくらいはしないと気が済まねぇ!それで縛り上げてあのモンスター共の餌食にすれば完了だ!」


特に下劣な笑みを浮かべていたのはいじめっ子のリーダーだった。


自分達がエインとキオナに手を出したことを棚に上げて、彼女が来たら逆恨みの制裁を加え、その後はモンスター達に食わせて証拠も肉片も一つ残らず隠滅させるつもりだった。


「エイン!メリアス!何処にいるんですの!」


彼らが茂みの中に隠れたすぐ後でキオナが感極まった様子で馬車から出てきてエイン達を探し回っていた。特にエインはティタノボアに丸呑みにされたため、無事かどうかも分からなかった。


「あ、そこにいましたのね。」


しかしいじめっ子達が隠れた茂みから手がパタパタと振られており、キオナも気が付いて安堵しながら近付いていく。


「むぐっ!?」


だが、茂みから複数の手が伸びてキオナの口を悲鳴が挙がる前に塞ぎ、身体を掴んで抵抗する間もなく茂みの中に引きずり込む。


「よお、姫様…久方ぶりだなぁ…!」


「…!?」


目の前にエインと自分の命を狙おうとしたいじめっ子達がいたことにキオナは凍りつく。


「悪いなぁ…まさかあんたに見られたとあっては俺らも腹を括らねぇとな…!」


「〜〜!?」


「恨むんならあいつを恨みな。俺達はスキルや魔法が使えなくなったのに…無能のくせして何かしら会得して…!チヤホヤされるあいつが全て悪いんだよ!」


声を出そうとするキオナだが口を塞がれて何も言えず、それを良いことにいじめっ子達は自分達の鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように叫びまくる。


「あいつだけ始末すれば良かったのに…あんたみたいなのがチョロチョロしているとは思わなかったぜ…!?」


「余計な手間を掛けさせた礼はしてやるぜ…!」


そう言うといじめっ子達はそれぞれナイフを取り出してキオナの服を切り裂き始める。


「…!?」


話からして殺されるかと思っていたが、切り裂くのは肌ではなく衣服であり、あっという間に清楚な白の下着姿を晒され、ティラノサウルスと出会った時とは別の恐怖心を覚える。


「動くなよ…あんたの柔肌に傷が付くぜ?」


「最初は半殺しにしてやろうかと思ってたが…あんたは王女だろ?まだ身体は小振りだが高貴な感じが堪らねぇぜ…。」


別のいじめっ子達は切り裂かれ辛うじて残された衣服と下着姿のキオナを見て興奮し下劣な表情を見せていた。


「物好きだな…こんなガキを犯してなんになる。」


「バカ野郎、こんな生きるか死ぬかの異世界で贅沢なんか言えるかよ!それに王族の女の純潔を犯せるなんて一生に一度あるかないかなんだぜ?」


何人かは趣味が悪いぞと笑っていたが、興奮しているいじめっ子達はそれが良いんだとより下品で気持ちの悪い笑みを浮かべる。


「あぐっ?!」


「ぐあっ!?このアマぁ!?」


恐怖心からキオナを意を決して口を押さえているいじめっ子の手に噛み付く。しかし逆上したいじめっ子はキオナを乱暴に押し倒す。


「あうっ!?」


「へへっ…良い気になるなよ?後悔するなら無能を称賛しノコノコ付いてきた自分を恨みなよ?」


押し倒されたキオナにいじめっ子が馬乗りになり、他の者達はキオナの四肢が動かないように押さえ込む。


「や…止めな…さい…!?王女の…命令です…!?」


「おーおー、恐怖に引きつりながらも無駄にプライドを張る様…もっと(そそ)るぜぇ…。」


無駄だと分かっててもキオナは何とか止めさせようとするが、いじめっ子達を更に興奮させ裏目に出てしまう。


「なぁ〜に、たっぷり可愛がってやるからよぉ…!」


「俺ら無しじゃ生きられないくらいの気持ち良いことしてやるからよぉ…!」


「そしたら俺らを側近にしてくれよ…そんで俺らのハーレムに仲間入りって訳だ!」


もはや強姦する気満々となり、いじめっ子達はキオナを自分達の虜にして都合の良い未来を作ろうと皮算用しており、その思想は完全に常軌(じょうき)逸脱(いつだつ)していた。


「た…助け…むぐ!?」


「おっと…邪魔を呼ぶなよ。お楽しみはこれからだ…すぐにその声も喘ぎ声に変わるぜぇ?」


キャラバンの人達を呼ぼうとしたが再び声が出せないように口を塞がれてしまう。


「それじゃあ…王女様の初めては…俺がいただくぜ!」


(た…助けて…!?)


このままでは好きな相手ではなく、下劣な相手に一生残る傷をつけられてしまう。恐怖の余り聞こえる訳でもないのにキオナは助けを求める。


(エイン…!?)


真っ先に浮かんだのは側近のリオーネや名うての狩人のメリアスでもなく、ずっと自分の側にいて助けてくれたエインの姿だった。


「ぐあああっ!?」


「…!?」


思わず目を瞑っていたキオナだが馬乗りになっていたいじめっ子の悲鳴と、身体にのしかかっていた重みが消えたことに何事かと恐る恐る目を開ける。


「キオナから…離れてよ!!」


「…!エイン!!」


願いが叶ったがどうかは不明だが馬乗りになっていたいじめっ子をエインが見たことのない必死な形相で蹴り飛ばしていたのだ。


「て…てめぇ!無能の分際で何様のつもりだ!?」


突然のことで蹴り飛ばされたいじめっ子は顔を地面に強打してしまい、相手が見下してイジメてきたエインだと知るやいなや大声で怒鳴りつける。


「キオナに…何をしようとしたの!」


対するエインはいつもならいじめっ子の怒鳴り声で怯んで何も言えなくなるはずだが、今回ばかりは打って変わって獣のように怒りを露わにしていた。


「姫様!」


「リオーネ!?」 


「ああ、姫様!?何と言うあられもない姿に…!?」


そのすぐ後でリオーネとメリアスが茂みから出てきて、下着姿のキオナに乱暴を働こうとするいじめっ子達とエインが睨み合う現場に直面する。


「貴様らぁ!これはどう言うことだ!?エインが突然姫様が助けを求めるからと言うから来てみれば…何をしている!?」


「バカ!だからさっさと始末しろって…あ!?」


再び罪をエインに擦り付けようにも自分達がキオナに手を出してしまっているのが丸見えであり、おまけに焦ったいじめっ子の一人が全部暴露してしまった。


「キオナを…始末する!?」


エインは大凡(おおよそ)のことは把握していたが改めてキオナを殺そうとしていることを目の当たりにして唖然とすると同時に表情が更に険しくなる。


「な…何だと貴様ら!?これはもはや反逆罪では済まされんぞ!?」


先程まではエインを疑っていたリオーネだが確たる証拠が目の前にあってはこの中で誰が悪いかなんて一目瞭然だった。


「この人達はエインと…変装していた私を秘密裏に殺そうとしていたんです!そして証人である私に手を掛けようとしたのです!」


更にダメ出しでキオナはこれまでの一部始終を話しいじめっ子達が言い逃れ出来ないようにする。


「黙れ!?」


「な…姫様に何をするか!?」


もはや手遅れだが腹いせにいじめっ子はキオナの腹部を殴って気絶させる。


「大人しくしろ!こいつがどうなっても良いのか!?」


「貴様ら…!本気で狂ったようだな!?」


気絶したキオナを抱えてナイフを突きつけ人質に取るいじめっ子達。


「おい、無能!こいつを助けたくば俺達の言う事を聞け!」


「…僕にどうすれば良いの?」


表情はより険しくなるがキオナの生命に関わる以上は話を聞く他ならなかった。


「こっちへ来い…!ぶち殺してやるよ!?」


「そうだ!でなきゃこのアマをお前の代わりにズタボロにしてやる!」


その内容はエインを殺すと言う物で、さもなくばキオナが犠牲になると彼女の白い肌にナイフの切っ先を当てる。


「エイン、止めろ。このままだと君は殺される…それに奴らの目はもはや異常だ。姫様だって無事に解放するかどうかも分からん。」 


メリアスはもはやいじめっ子達が普通ではないことを警戒しており、言う通りにしてはいけないとエインを引き留める。


「でも…キオナの命には代えられない。」


「エイン…貴様…。」


そうだとしてもキオナを助けるために自ら命を差し出すことも(いと)わないエインを見て、代われるものなら代わってやりたいと思っていたリオーネも絶句する。


「…リオーネ様、メリアスさん…耳を塞いでて…。」 


「…!分かった。」


しかし何も考えなしに命を差し出すつもりはないらしくエインは二人に耳打ちをする。それに気が付いたリオーネは気に食わないながらキオナを助けるために静かに頷くのだった。 


「…エイン…。」


「キオナ…僕が身代わりになるから…。」


「おー、おー、カッコいいねぇ。役立たずの無能のくせにそう言うのが気に食わねぇんだよ!」


意識が戻り始めたキオナを励ますようにエインが近付いて来るが、いじめっ子達は更に逆上して切っ先をキオナの首筋に強く当てて僅かに出血させる。


「…さあ、キオナを離して。」


「もっとだ…もっとこっちに来い!」


あと数メートル近付けばナイフの範囲内であり、エインはキオナを離すよう要求するが聞き入れて貰えなかった。


「僕は逃げない!だからキオナはもう解放して!」


「無能が命令してんじゃねぇぞ!そんなことが言える立場かてめぇは!」


それでも何とかキオナを解放するように説得するが、彼らの逆上は止まらなかった。


「無能なら無様に俺らのストレス発散の玩具になっていれば良いのに、お前だけスキルや魔法みたいな物を身に着けやがって!」


「俺らがどんな思いを過ごして来たかも知らねぇくせに上から目線で物を語ってんじゃねぇよ!?」


自分達の悪いところは見ずに、下に見ていたエインが輝き始めたことが許せなかったいじめっ子達は本音をぶちまける。


「…今更だがエインを無能と呼んでいた私は…あんな感じだったのか?」


それを遠くから見ていたリオーネはエインを虐げていた自分と、今のいじめっ子達の姿が重なったことで自己嫌悪に襲われる。


「てめぇみたいな奴がチヤホヤされるのは虫唾が走るんだよ!」


「無能の有益なところは殺されても誰も何も言わないことなんだよ!てめぇの両親のようにな!」


「…!」


心無い言葉の中でも両親に捨てられたことを言われてエインは胸が痛くなる。今までずっと自分の身を守るために忘れていたのにそんなことを改めて言われれば誰だって辛いはずだ。


「うっ…ううっ…!?」


「エイン…。」


「はっ!遂に泣き出しやがったか!てめぇが唯一役に立つのはなぁ…俺らのために死ぬことなんだよ!」


我慢できなくなったリーダー格のいじめっ子が泣き出したエインの腹を乱暴に蹴り飛ばす。


「がっ…!?はっ…!?」


「とっとと死ねよ!この無能が!!」


口でそんなことは言っているが、いじめっ子のリーダーは殴打による暴行で自分の気が済むまで攻撃する気だった。


「うっ…ぐっ…今だよ!皆ー!!」


腹を蹴られた痛みと息苦しさに悶え、涙でグチャグチャになっていたエインは声を捻り出して合図を送る。


『『『プオオオオン!』』』


「ぐああっ!?何だぁ!?」


合図の後にメリアスとリオーネの背後からドラゴンの咆哮にも負けない鼓膜が破けるような騒音が放たれ、リーダーはもちろん他のいじめっ子達も思わず耳を塞いでしまう。


『『『プオオオオン!』』』


「うわああ!?うるせええぇぇ!?」


「耳がおかしくなる!?」


騒音の正体は先程救助隊の行く手を阻んだパラサウロロフス達だ。彼らはまるでいじめっ子達を怯ませるかのように鳴き声をこれでもかと放っていた。


「キオナ!こっちだよ!」


「エイン!」


耳を塞ぎたくなる鳴き声にいじめっ子達が怯んで拘束を緩めた間に、エインはキオナの手を引いてその場から離れる。


「や…野郎!?させるかぁ!?」


するとキオナに興奮していたいじめっ子の一人が逃がしてたまるかと追いかけてくる。


「逃さねぇぞ!てめぇら!」


「きゃあ!?」


「うっ!?キオナ!?」


キオナの足にポーラが巻き付き転んでしまい、手を引いていたエインも尻餅をついてしまう。


「お…往生際が悪いんだよぉ!?」


「きゃあ!?」


再びキオナに馬乗りになり強姦をしようとするいじめっ子だが、パラサウロロフスとは異なる雄叫びにその場が騒然となる。


『グルルル…グアアア!!』


茂みから出てきたのはティラノサウルスの子供を一回り大きくさせたサイズで、鼻先に小さな角と両目の上に角のようなトサカが特徴的なモンスターだった。


「昨日のドラゴンとワイバーン…!?いや、姿形は似ているが鼻先に角はなかったはず…!?」


確かに翼がなくて後ろの二本脚で歩き、前脚は異様に小さい所はティラノサウルスやカルノタウルスと背格好は似ているが明らかに別種のような雰囲気があった。


『ケラトサウルス』。体長は六メートルの肉食恐竜であり、サイズ的にはギリギリ中型に属するがこの異世界に来た人類には充分脅威的な捕食者であることは間違いない。


『グアアア!』


「速い!?」


そして脅威的なのはサイズだけではない。中型であるためティラノサウルスよりも体重が軽いため素早く動けることだ。狙いを定めたケラトサウルスは一気に距離を詰めてくる。


「キオナ!?危ない!?」


「ひゃあ!?」


ケラトサウルスの狙いが地面に身体がついている自分達だと気付いたエインは、生体電流(パルス)で肉体を強化し咄嗟にキオナの手を引いてその場を脱する。


『グアアア!』


「ぎゃあ!?」


二人はその場からすぐに離れて無事だったが、いじめっ子はケラトサウルスから慌てて逃げようとするも後ろ脚による蹴りを受けてしまう。


『ギャアアア!ギャアアア!』


「ぐええっ!?ぎゃああ!?」


ただでさえあの巨体を支える後ろ脚による蹴りだ。人間からすれば一発でもかなりのダメージになるはずなのに、ケラトサウルスはいじめっ子をサッカーボールのように蹴り飛ばし続ける。


「…遊んでいるな…猫がネズミをもて遊ぶように…。」


特定の動物の中には捕まえた獲物をワザと逃がしてまた捕まえて遊ぶと言う悪趣味なことをする種類がいる。メリアスはこのケラトサウルスももて遊ぶつもりでいじめっ子を蹴り飛ばしているのだと考える。


「も…もう…止めてぇ…!?」


『グルルル…!』


いじめっ子は命乞いをするもののケラトサウルスはまだ物足りないと脚を上げる。


「ぎゃあああ!?」


と思ったらいじめっ子の脚を踏み潰しそのまま押さえ込む。いじめっ子は足の骨が踏み砕かれた痛みに絶叫する。


『ガルル…!』


「ぐぎゃあああ!?」


するとケラトサウルスは右腕に噛み付き顎の力だけで引きちぎり、次は左腕も同じく引きちぎるのだった。


「ひ…酷い…!?」


「……!」


回避していたエインとキオナはこれまでにも残酷な仕打ちをしてきたいじめっ子の一人が、こんな同情を覚えるほどに無惨にもて遊ばれる光景に息を呑む。


「あ…ああ…!?」


『ゴルルル…!』


もはや死ぬ間際になったいじめっ子に飽きたのか、ケラトサウルスはそのまま残された肉体を口の中に入れ、バリボリと骨を噛み砕きながら呑み込んでいく。


『…グルルル…!』


「…!キオナ!下がって…!」


食べ足りないのかケラトサウルスは近くにいたエインとキオナに狙いを定める。


『グルルル…!』


「キオナに…手出しはさせない!」


『…!?』


目の前にいるのは先程食べた人間よりも幼い相手のはずなのに、圧倒的な捕食者を前にしたようなプレッシャーに襲われるケラトサウルス。


『『『プオオオオン!』』』


それだけではない。パラサウロロフス達がエインの後ろに立って先程の騒がしい鳴き声で威嚇してくるのだ。

 

『グルルル……。』


幾らケラトサウルスが捕食者とは言え相手は大きさ的に同じである上に、パラサウロロフスの方が数では勝っているためエインを襲いたくともかなり難しかった。


『…グルルル…!』


「え…お…おい…!?」


「まさか…!?」


しかし何も無理してパラサウロロフスの群れに立ち向かう必要はなかった。もっと狙い易い獲物が他にいることをケラトサウルスは理解して他のいじめっ子達を見ていた。


『グアアア!』


「「「う…うわあああ!?」」」


それに気が付いたいじめっ子達は我先にと逃げ出し、ケラトサウルスもそれを追いかけて森の奥へと消えるのだった。


「…キオナ、大丈夫だった?」


取り敢えず脅威は去ってホッとしたエインはキオナに安否を確認する。


「え…ええ…お陰で助かりましたわ…それにしてもこのモンスター達は…?」


「パラサウ…ロロフスってモンスターなんだけど、たまたま出会ったんだけど、パニックになってて僕が落ち着かせたんだけど…。」


いじめっ子が救助隊の行く手を阻むためにパニックにさせたパラサウロロフス達は、エインが生体電流で落ち着かせたことで今や手助けしてくれる程だった。


「それにしても私の居場所がよく分かりましたね…。」


「…届いたんだよ。キオナが僕を呼ぶ声がね。」


「エイン…。」


キオナは口が塞がれて声が出せないでいたが、エインを強く思う生体電流が彼に届き、ここまで助けに来てくれたことに彼女は胸の高鳴りが強まる。


「おほん、おほん!…今はキャラバンの人々を助けるべきでは?」


「あ、そうだった!行かないと…。」


わざとらしく大きく咳払いをしたリオーネの台詞にハッとなったエインは慌ててキャラバンの馬車へと向かうことにする。


「あ、エイン…リオーネ!」


「姫様…勝手に城を抜け出すとはどう言うつもりですか。」


「う…それは…。」


良い雰囲気だったのに邪魔をしないで欲しいと文句を言おうとしたが、リオーネからの手厳しい台詞に口籠る。


「わ…わたくしは国王として民を救うのは…!」


「ですが今回は危うく強姦され、最悪死んでいたかもしれないんですよ!(こころざし)は立派ですが、あなたが亡くなったら残された私達はどうすれば良いのですか…。」


「…ごめんなさい、リオーネ。」


過保護を通り越した一面はあるものの、側近としてキオナの思いを無下にはしておらず、それでも彼女を慕う国民のために無謀な行動は慎んで欲しいと懇願されキオナも自身の軽率な行動にシュンとなる。


「キオナ、どうしたの?早く行こうよ!」


「…エインも少しはやるようですし、ここは暫く彼に任せてとよろしいかと…。」


「…!リオーネ…。」


さすがに今回のことでリオーネはエインのことを僅かに認めており、それを見てキオナも少し嬉しそうにしていた。

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