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『剣竜』は剣より強し

『『『ウオオオン…。』』』


「あんなに大きいのに意外に牛みたいに大人しいんだな。」


自分達の知らない()()()に国ごと転移し、狼煙の正体を探るために原生林を抜けていく中でステゴサウルスの群れに遭遇した一同。


「にしても、誰も見たことがないのに何故分かるんだ?」


「それが僕にもサッパリで…。」


『ステゴサウルス』と言う名前と草食で大人しい性質であると見抜いた張本人はエインだったが、ここは未知の世界だと言うのにそこに生きる生き物のことを言い当てたことに誰もが驚いていた。


「それが君の力なのだろう。正直に言って頼もしい限りだ。」


「え…そんなことは…。」


褒められることに慣れないエインは視線を逸らしながら照れくさそうに答える。


「狩人として名を馳せた私でもこんなモンスターは初めて見た。こればっかりは君の力が頼りになる。」


メリアスはエルフの狩人として名高いが、未知の世界の生き物のことを知っているエインは指南書と同じであり謙遜(けんそん)することはないと微笑む。


「…ところで狼煙が上がっていた方向は?」


「この群れの中を潜り抜けるた先だ。大人しいとは言え用心しろ。」


何とか話題を変えようと目的である狼煙のことを話すエイン。それを聞いたメリアスも地図と方位磁針を使って座標を確認し、ステゴサウルスの群れの合間を抜けることにする。


『ウオオオ…。』


「それにしても、あの背びれみたいなのは何だ?」


ステゴサウルスの合間を抜けていく際に、まず目に入ったのは背中に二列に並んだ五角形の板だった。


「あれで身を守っているんじゃないのか?」


「確かにあれじゃあ昨日のドラゴンだって不用意に噛みつけないだろ。」


板は尖っていてたくさん生えているため、外敵から身を守る防具の役割を果たすのだろうかと考える。


「お前達、今はここを通り抜けるぞ。まあ、これまでのこともあり物珍しいのは確かだがな。」


部隊長も救助隊に加わっており、ステゴサウルスを観察していた仲間達に先を急がせる。


「…ちょっと待ってて貰えますか。」


「ん、急にどうしたのだ?」


そんな時にエインは何かに気が付いて待って貰うように頼んでくる。


「すぐに戻って来ます!」


「おい!まったく…単独行動は危険だぞ。」


有無を言わさずにエインは何処かへと向かっていき、部隊長は溜め息混じりに付いていこうとする。


「私が様子を見てきます!」


「おお、頼むぞ。」


その中で一人の衛兵が名乗り出てエインの後を追いかけていく。


「ん…今の声は何処かで…。」


しかし部隊長は先程の衛兵の声が何処かで聞き覚えのある声であることに疑問に思う。


「いた!メリアス!トレス!」


「リオーネ様、どうされたのですか?」


そこへ慌てた様子のリオーネが城に待機させていた衛兵達を連れて部隊長ことトレスの元を訪ねて来たのだ。


「キオナ様を知らないか!?部屋で休むと言って戻られていたのだが、その間にティアが身代わりになっていたのだ!?」


目を離した隙に侍女のティアがキオナの身代わりとなっており、その間に彼女は何処かへと雲隠れしたようだ。


「そんなこと言われましても…待てよ、そう言えばさっきの声は…。」


今や王となった王女がいなくなったとなればここまで騒ぐのも無理もないが、それらしい人物は見なかったが先程エインを追いかけて行った衛兵のことを思い出す。


「確かこの辺に…。」


『キャンキャン!』


エインは少し離れた茂みで何か探しており、ロボも辺りの匂いを嗅いで調べていた。


「何を探しているんですか?」


そこへ先程話題にあった衛兵がエインの元へと辿り着き何をしているのか質問してくる。


「あ、ここに助けを求めている声が聞こえたみたいで…。」


「もしかしてここに要救助者が?でも狼煙が上がっていた所からだいぶ離れているようだけど…。」


狼煙が上がっていたのは密林の奥の方だが、まだここは入ってそんなに歩いていない場所で助けを求める声が聞こえたことに首を傾げる衛兵。


「それにどうしてあなただけに声が…聞こえたのならトレス部隊長達を引き連れて来れば…。」


要救助者のが声がエインだけに聞こえ、予定より早く見つかったとしても、トレス達を呼ぶことには変わりはないはずだ。


「…なんとなく()()()()()ような気がするんだよ。」


「それは一体…。」


『キャンキャン!』


エインは直感でか助けを求めた声は人間ではないと考えており、衛兵も何なのかと訊ねようとした矢先、ロボが飛び掛かって押し倒してくる。


「きゃっ!?ちょ…ちょっとロボ…!?あは!?あはは!?くすぐったいですよ!?」


押し倒された衛兵の鎧の合間に舌を入れて舐め回すロボ。首筋や脇と言った部分が集中的に舐められるため強制的に笑ってしまう。


「え…どうしてロボの名前を…。」


これまでのことで何人かとは良くも悪くもエインとは顔見知りになっていたが、ロボのことはキチンと自己紹介していなかったのに何故知っているのか疑問だった。


「ロボ…!?止めなさ…あひゃひゃ!?」


「えっ…!?」


笑い転げる余り兜のサイズが合っていなかったのかポロリと頭から落ち、隠していた素顔が露わになるのだが…。


「キ…キオナ!?」


「あ…。」


その衛兵の正体は艷やかな黒髪をワンサイドアップに纏めたグランドレイクのお転婆お姫様ことキオナ姫だったことにエインは驚かされる。


「ここで何してるの!?君はお城にいないとマズいんじゃ…。」


「一国の姫として、そして王として助けを待つ人のことを放っておけません!」


亡きドレイク王に代わって王となったキオナがここにいるのはマズいとエインも理解していたが、肝心の彼女は要救助者を王として助けたい一心でいっぱいだった。


「でも…今頃、大騒ぎなんじゃ…。」


もしもキオナが戻らないようなことになれば今度こそグランドレイクはおしまいだ。だからこそキオナは城にいるべきだと諭す。


「分かっています…リオーネには怒られる覚悟はあります。ですがやはり放っておけませんし、何よりも王ならこの世界のことをよく知る必要があるはずです。」


キオナもそれは分からない訳でもなかった。しかしこの未知の世界のことを知らなければ、今後の方針を決められないと考えてこんな行動を起こしたのだ。


「それにエインが私を守ってくれるのでしょう?ね?」


「うっ…それは…。」


異性にお茶目にウィンクされたエインは味わったことのない動悸(どうき)に思わず視線を逸らしてしまう。


「でもやっぱり…。」


「それよりもエインは要救助者を助けるのでしょう?」


「あ…そうだった。」


やっぱりダメだと何とか思い留まらせようとするが、華麗に話題を変えられてしまいエインもそれどころではなくなる。


「さっき人じゃないとは言いましたが、あれは…?」


「…多分、僕の青白い光が関係しているんだけどね。頭の中でパチパチってしたら誰かが泣いているような声が聞こえたんだ。」


生体電流(パルス)が覚醒してからエインは他者の生体電流を読み取れるようになり、ある程度の感情や思考を読み取れるようになっていた。


「それだけで人ではないと?」


「本当になんとなくなんだ…だからひょっとして本当に人なのかも…。」


しかしまだベタ踏みの段階であり、相手が何を思考しているのか、そもそも相手が人間かそうじゃないかもあやふやだった。


『!キャンキャン!バウ!」


「何かいます…。」


ロボが何かに気が付いて指し示すポーズを取っていた。その先の茂みでは何かがガサガサと動いていたのだ。二人は顔を見合わせながらそっと茂みを掻き分ける。


『ブオオオ…?』


「まあ、可愛いですわ!」


目の前には先程のステゴサウルスを子牛ほどに小さくさせた個体がいたのだ。


「さっきのステゴサウルスの子供なのかな…。」


「確かによく似てますわ。」


丸みを帯びた愛らしい見た目は子供の特徴であり、先程出会った群れの子供ではと考える。


『ブオオオ…。』


突然の来訪者に子供のステゴサウルスは戸惑っているが、まだ子供であるためか敵味方の区別が付かないらしくこちらをジッと見つめるだけだった。


「エインが言っていた助けを求めていると言っていたのはこの子ですか?」


「まだ何とも…ちょっと待ってて。」


確かに人ではなかったが本当にこのステゴサウルスが助けを求めてきたのか分からなかったため、エインは暫く周囲を観察してみる。


「あ、これは茨?これが原因かな?」


すると右の後ろ脚に茨のツルが巻き付き、棘が脚に食い込んでいた。


『ブオオオ?』


「大丈夫だよ。すぐに取ってあげるから。」


不安そうになるステゴサウルスの子供にエインは手を近づかると青白い静電気が自然と発せられる。


『ブオオオ…。』


普通なら痛がったり、怖がったりするが不思議とステゴサウルスの子供は先程より落ち着いた様子を見せていた。


「いたた…。」


「大丈夫ですか?」


「うん、もう少し…取れた!」


エインも棘に苦戦しながらも脚に巻き付いた茨と残った棘を全て取り除いた。


『…ウオオオン!』


「良かった、やっぱりあの声は君のだったんだね。」


痛みがなくなったことにステゴサウルスの子供は嬉しそうに鳴いていた。エインが聞きつけた声の正体はこのステゴサウルスの子供だったようだ。


『ウオオオン!』


「これでも大丈夫ですわね。」


「うん、皆の所に戻ろう。」


困っている人ならぬ恐竜を助けたエインとキオナはトレス達を待たせているため急いで戻ることにする。


「あ、すみません…もう用件が終わったので…うわっ!?」


目の前に人が数人ほどいるのが見えて、用件が終わったと合流しようとしたが目の前の地面に矢が刺さったことに驚く。


「そのまま帰ってこなきゃ長生き出来たのによぉ!無能くん!」


「あ…!あなた達は…!?」


よく見ると目の前にいたのはこれまでエインを虐げていたいじめっ子達だったのだ。


「リーアの奴があのクソドラゴンに食い殺されたのに、お前はあいつらを逃がした上に王を倒して王女の側近なんて…ふざけてんのかぁ!?」


リーアとは恐らく地下牢にてティラノサウルスの子供に食べられたあのいじめっ子のことだろう。


とにかく彼らは友達を食べた恐竜を逃がした上に、王女の側近に成り上がったエインが気に食わずに逆恨みして奇襲を仕掛けて来たのだ。


「あなた達!これはどう言うつもりですか!」


「あ?何だよ衛兵の野郎が一人いるじゃねぇか。」


「構うなよ!外で殺されてりゃあ、モンスターに殺されたってことに出来るだろ!」


いじめっ子達はエインの他に衛兵が一人いたことに多少驚くものの、こうなれば形振(なりふ)り構わずエイン共々始末しようと考えていた。


「な…なんてことを…!?あなた達はそれでも誇り高きグランドレイクの国民ですか!?」


隠れてエインを殺そうとしていると知ったキオナは英雄を多く輩出した国の民として恥ずかしくないのかと問いかける。


「うっせぇな!あんなエインと変わらねぇ小便くさいチビ女が王だなんてふざけてるだろうが!?」


「あんな成り上がりの奴なんかが王になるなんて世も末もだな!?これくらいしたって罰は当たらねぇよ!?」


衛兵に変装しているためか、目の前にいるのがキオナだと分からず好き放題に陰口や罵倒を吐き捨てる。


「そんな…そんな風に思っていたなんて…!?」


民達のためにこれから王として導いて行くつもりだったのに、国民から隠れて悪口を叩かれれていたことに裏切られたと言う失望感を味わうキオナ。


「な…なんて酷いことを言うんだよ!?」


自分が色々と罵倒されるのはもはや慣れているため言われてもなんら問題はなかったが、自分のこと以上に友達のキオナが罵倒されて珍しくエインは声を荒げる。


「ああっ!?無能の分際で口答えしてんじゃねぇよ!?これから死ぬってのに口を開くんじゃねぇよ!」


「てめぇが存在してるせいでスキルも魔法も使えなくなったんだ…!?その責任を取りやがれ!?」


しかしそれが彼らをより怒らせることになり、いじめっ子達は剣を抜いてエインと衛兵に扮したキオナを八つ裂きにしようとする。


「ぐっ…こうなったら…!?」


キオナを罵倒されて頭に血が昇っていたエインは自然と生体電流が活発になり身体から青白い光と火花が弾ける。


「何で無能のくせにこんなスキルや魔法を使えるんだよ!やっぱりこいつが奪ったんじゃないのか!?」


「つくづく人の神経を逆撫でしてくれるなぁ…!?」


エインの生体電流もまたいじめっ子達を逆上させる結果になってしまい彼らは更に殺意を向けてくる。


「お前がそうやってスキルやら魔法やらを使うのなら俺達が武器を使っても問題ないよなぁ?なあ?」


「俺達は剣術や弓術なら覚えがあってなぁ、てめぇらを矢で離れた位置から狙い撃ちにした後で八つ裂きにしてやるよぉ!?」


いじめっ子達は矢をエインと衛兵に扮したキオナに向けており、遠くから一方的に狙い撃ちにした後で剣でバラバラにするつもりだった。


「エインは…ずっとこんなことに耐えてきたのですか!?…あの人達の目はどうも普通には見えません…!?」


「僕もこんなのは初めてだよ…。」


いじめっ子達は復讐に燃えて殺意を剥き出しにして殺傷能力の高い武器を手にしており、目付きだけでも常軌(じょうき)逸脱(いつだつ)しているのが見て分かった。


「それに今は…。」


『ウオオオン…。』


エイン達の背後にはステゴサウルスの子供がまたいて、このままだと巻き添えになってしまうことは確かだった。


「死ねええぇぇ!?」


「わっ!?」


「ひゃっ!?」


頭に血が昇っていたこともあって彼らの矢の狙いは多少ブレており、当たることはなかったとは言え二人は逃げ回ることとなる。


「あいたっ!?」


「隙あり!くたばれ無能がああぁぁ!?」


回避しようとした際にエインは転んでしまい、男子の一人がその隙を逃さず剣を手にして振り上げる。


「こんのぉ!?」


「ぶはっ!?」


しかし地面に両手を付き、足を思いっ切り伸ばしていじめっ子の顔面に蹴りを入れるエイン。


「ぐっ…生意気にも顔に土を着けやがって!?」


「わっ!?」


蹴られた拍子に剣を落とすもいじめっ子はナックルダスターを装備して殴り掛かろうとして来たためエインは慌てて回避する。


『ウオオン!?』


「あ…ご…ごめん!?大丈夫!?」


ナックルダスターの一撃は避けるも、代わりに背後にいたステゴサウルスの子供の身体に当たってしまう。


「何だこのモンスターは…!?邪魔すんな!?」


『ウオオオン!?』


「ああっ!?なんてことを…?!」


対する殴ったいじめっ子は八つ当たりするかのように再びナックルダスターでステゴサウルスの子供を何度もぶん殴る。


『ウオオオン!?ウォオオ〜!?ウォン!?』 


子供のステゴサウルスは甲高い悲鳴を原生林の中に響くほどに叫ぶのだった。


「うるせぇぞこいつ!?ギャーギャー騒ぐな低俗のモンスター風情で!?」


「た…大変だ…!?逃げて!?」


「ああっ!?てめぇのことかそれは!?」


いじめっ子達は耳障りに思うが、エインにはそれが()()()()()()()()()だと理解し逃げるように勧告する。しかし既に手遅れだと周囲の木々が薙ぎ倒されていく。


『ウオオオ…!!』


『ブオオオン…!!』


「な…何だこいつらは…!?」


木々を倒して現れたのは先程のステゴサウルスの群れだった。先程の悲鳴は家族や仲間達を呼ぶための危険信号であり、我が子の危機に群れが駆け付けたのだ。


「逃げて!?怒りで我を忘れてる!?」


「何でてめぇの指図を受けなきゃなんねぇんだ!?モンスターの分際で一丁前に怒りを露わにしてんじゃねぇぞ!?」


あんなに大人しかったステゴサウルス達が鼻息が荒くなっていることを危険視したエインは、再び勧告するも男子達はより激昂してステゴサウルスを剣の切っ先を突きつけて威嚇する。


『ブオオオン…!』


ステゴサウルスはどの個体も頭を低くし背中の板が赤く染まって攻撃的な様子で睨みつけていた。


「はっ!何だよ!ただのデカいトカゲだろうが!こんなので俺が逃げ」


いじめっ子は相手がただデカいトカゲだと割り切って剣を振り上げ、生意気なトカゲの頭をかち割ろうとするが気が付くと剣の刃が折れて自分の肉体と共に宙を舞っていた。


「えでぇ…?」


「あ…ああ…おい!?」


何が起こったか分からなかったが、そのいじめっ子の身体には竹槍のような棘が身体を貫通していた。それと同時に振り回された勢いで身体はくの字どころか背中とお尻がくっつくほどに折れ曲がっていた。


『ブオオオン!』


「ぐえええっ…!?」


あまりの衝撃と勢いに何が起こったか分からなかったが、凄まじい激痛が肉体を襲うが苦しむ間もなく、棘から身体が抜けて地面にグチャリと叩きつけられる。


『ウオオオン!』


尻尾の先端についている四本の竹槍のようなスパイクを振りかざす。先程の攻撃は尻尾のスパイクによる振り回し攻撃だったのだ。


これこそがステゴサウルスの最強の武器であり、他の肉食恐竜でも打ち所が悪ければ致命傷になる代物だ。ましてや身体が小さく身を守る毛皮や甲羅などを持たない人間なんて一発でお陀仏だ。


「な…何だこの野郎!?よくも殺しやがったな!?死ねぇ!?」


『ブオオオン!!』


躍起になってもう一人のいじめっ子も仇討ちだと剣を振り上げて脳天をかち割ろうとするが、その前に振り回された尻尾のスパイクであっという間に串刺しになるだけだった。


『ウオオオン!!』


「「ぎゃあああ!?」」


何人かはステゴサウルスが押し退けた倒木の下敷きになったり、それこそ巨体に踏み潰されたりして圧死していく。


ステゴサウルスは象と同等の体高を持っているため、言ってみれば今の状況は荒ぶる象の群れに出くわしたのと同じだった。


「こっちへ!?」


「止められないのですか!?」


エインはキオナの手を引いてその場から急いで離れるが、彼女はエインならば止められないのかと訊ねる。


「スゴく怒ってるのが伝わってくる…もう僕の手には負えなくなってるよ!?」


ステゴサウルスからすれば『人間が子供を虐めた』としか見られていないため、子供を助けていたとしても相手が人間では信用してくれそうにはなかった。


『ブオオオン!』


「まだ追ってくるよ!?」


我が子に降り掛かる危険を完全に排除するつもりなのか、ステゴサウルスは背中の板を真っ赤に染め、木々を薙ぎ倒しながら二人を執拗に追いかけてくる。


『キャンキャン!』


「エイン!あそこに洞窟が!?」


「飛び込んで!?」


ロボは洞窟があることを教えるように吠え、それに気が付いたキオナとエインはその中へとダイブする。それと同時にステゴサウルスの尻尾が振り回され洞窟の淵に当たって崩落が起きる。


「さっきモンスター達が荒ぶり始めたが何かあったのか!?」


「エインの奴め、一体何をしたんだ!?」


一方その頃、エインの帰りを待っていた救助隊はステゴサウルスが騒ぎ立てて同じ方向に走り出したのを見て何かあったのではと後を追いかけていた。


「よりにもよって、付いていったのがキオナ様とは…!?」


「姫様…幾ら何でもやんちゃが過ぎますぞ!?」


更に悪いことにもしかすると付いていった衛兵の正体がキオナである可能性が高く、同じくトラブルに巻き込まれているのではないかと心配が募る。


「あの…トレス隊長。実は今気がついたのですが、救助隊に参加した何人かが足りないようですが…。」


衛兵の一人がエインと衛兵に扮したキオナ以外にも人間の数が合わないことを報告してくる。


「…案ずるな、どうやらここにいるようだ。」


「それは…うっ…!?」


こんな場所で行方不明者が出るのは厄介の物種でしかないが、トレスはその心配はないと告げてきたため、どう言うことかと彼が見ている方向を見て言葉を失う。


『『グククク…。』』


『『ギャッ、ギャッ!』』


「もう既に事切れているようだがな…。」


心配する以前に彼らは踏み荒らされた草木の中でグチャグチャに潰されたり、身体が柔らかいでは済まないほどに折れ曲がっており、見るも無残な姿になっており死体は肉食恐竜に食べられていた。


「何があったかは知らんが…持ち場を離れて先程のモンスターと戦ったのか?」


状況からしてまだ自分達が強力な魔法やスキルを持っていると思ってステゴサウルスに挑んで返り討ちにあったのではと考える。


「なんと無謀な…むざむざ死にに行くような物だぞ。」


この異世界ではこれまでの常識が通用しない上に魔法もスキルも消失しているため、未知数の危険に満ち溢れているのだ。


あの悪夢のような一夜を明かしたと言うのに、現実を認めたくない・受け入れられない人がまだいて、結果的に英雄に返り咲くどころか新たなる犠牲者になったことに哀れみの視線を向ける。


『グルルル…!』


鼻先に半円状の小さなトサカを持ち、犬ほどの大きさをした小型肉食恐竜の『オルニトレステス』は「これは俺達の物だ」と誇示するかのようにこちらを睨みつけてくる。


「新たな犠牲者が出てしまったが、お前達に取っては貴重な食料と言うことか…。」


確かに彼らの死は人間に取っては無駄に終わったかもしれない。しかし弱肉強食の野生の世界に置いては決して無駄な死ではない。こうしてオルニトレステス達の貴重な食料として自然に還っていくのだ。


「おい!それよりも姫様とエインはどうなった!?まさかもう…!?」


オルニトレステスと死人に気を取られて忘れていたが、食われている相手がキオナとエインではないかと一気に心配になる。


「隊長!こちらに生存者が…!?」


「姫様か!?」


死人が出ている状況下で生存者がいると聞いて、確認のために全員が一斉に集う。そこには何とか隠れてやり過ごしたらしく何人かが固まって震えていた。


「救助隊に参加していた人達です。」


見つかった生存者とは先程エインと、知らなかったとは言えキオナを始末しようとしていたいじめっ子達だった。


「…おい!ここで何があった!?」


「無能の奴が…エインの奴がいきなりあのモンスター共を仕向けて来やがったんだ…!?」


すると何を思ったのかいじめっ子の一人が根も葉もない嘘を言い始めたのだ。


「応戦しようとしましたが…結局、何人も犠牲者が…!?」


「そんな…彼に限ってそんなことは…。」


「ですがあいつしかいませんよ!?モンスターを操って人を殺させるだなんて!?」


「…あんなに大人しいモンスターが急に走り出したと思ったがまさか本当に…?」


その場を見ていた訳では無いため詳しくは知らないが、確かにエインにはスキルや魔法とは異なる特殊能力や、それこそモンスター達と意思疎通が出来る力があるため可能性としては大きかった。


(このままあいつらが死んだんじゃ(しゃく)だ…せめてあいつに罪を擦り付けて合法的に粛清してやる…!)


それもこれもいじめっ子達がエインを貶めるための策略であり、罪を擦り付けてこれまでの恨み辛みを晴らそうと考えていた。


「隊長!姫様とエインの姿は何処にもありません!代わりに洞窟へと続いていく足跡を複数発見しました!」


周辺の捜索をしていた衛兵が戻って来て、殺された人間の中にエイン達は見受けられず、代わりに洞窟へと続く足跡を見つけたと報告してくる。


「洞窟だと…!?まさかそこに…案内しろ!」


「しかし入り口は塞がっていて通り抜けることは不可能です!?」


洞窟に逃げたと聞いてすぐさま案内をさせようとするが既に塞がっていて通れないと追加報告を聞く。


「構わん!今はそこへ案内しろ!姫様の一大事…もしも何かあれば我々に明日はないぞ!?」


「…!こちらです!?」


助けるにしてもその洞窟へ向かわねばならない。手遅れになれば今度こそ自分達は破滅であると告げると、その衛兵は固唾を飲んで了承し案内を申し出る。


「ひ…姫様だって…!?まさかあの衛兵が…!?」


いじめっ子達もここでようやくエインの側にいた衛兵がキオナであることに気が付き、陰口や闇討ちが筒抜けだったことに今以上に顔が青ざめる。


「エイン…随分、暗いですね…。」


「ちょっと待ってて…えい!」


その頃、洞窟に閉じ込められたエインとキオナは中の暗さに困っていたが、エインが生体電流で青白く発光し辺りをほんのり照らす。


「意外にも奥に続いているね…。」


「何があるか気になるところですが、今はここで救助を待つしかありませんわ…。」


その洞窟は奥行きはかなりあるらしく、その気になれば何処かに続いていそうだ。しかしここは下手に動かずに助けを待つのが良いだろう。


『ギィー!ギィー!』


「フォーク、幾ら何でも無理だよ…。」


フォークはバリケードを破った時と同じように、崩落した岩に何度も角を突き立てるように突進するが重量が違い過ぎて打ち破れなかった。


『ウウゥゥッ…!』


「ロボ?どうしたのですか?」


すると洞窟の奥を睨みながらロボは低い体勢を取って唸り声を挙げていた。


「…!エイン…!?」


「え…?」


キオナが慌てた様子でエインに呼び掛ける。彼も何事かと奥を見てみると、最奥で二つの鋭い眼光が光っておりこちらを睨んでいたのだ。どうやらここには自分達以外にも何かいるようだった…。

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