嘘
いつもの様に昨日の様に醜態を晒さないように細心の注意を払いながら学校へ向かう。
いつも彼女が現れる場所。
いつもと同じ時間。
「朔羅‼︎おはよう。昨日は大丈夫だった?」
彼女の薄い唇からいつもと同じノイズが紡がれ私の耳へ届いた。
そしていつもの様に笑顔の仮面を被った私は彼女に耳ざわりの良い言葉を紡ぐ。
「昨日は心配かけちゃってごめんね。“また”迷惑かけちゃったね。」
彼女には耳ざわりの良い言葉だが私にとっては耳ざわりは悪いしむしろ自分の事を刺している様だった。
「朔羅の事が“迷惑”だなんて“一度も”思った事ないよ。“親友”でしょ私たち。」
彼女は私の言葉に満足したようでにっこりと微笑み声をワントーン高くした。
私の神経をさらに逆撫でし、気分を悪くさせた。
「…ところで昨日朔羅が仲良さそうに話していた彼は誰?随分親しげだったけど。」
彼女が不吉な笑みを浮かべてこちらを見る。
そして先ほどと打って変わり冷たい表情を浮かべた。
「そんな大した話をしてたわけじゃないよ。ただ気分が悪くなって心配して“くださってた”だけだから。」
あまり周りの人には朔の話はしたくない。
壊れた心をあっという間に楽にしてくれたから。
「嘘でしょ……?何で隠す必要あるの!?」
彼女は、とても短気だ。
自分の気に入らないことがあるとすぐ喚いて怒る。
そして平気で人を傷つけて支配して壊す。
…実際私が体験したこと。
「“本当だよ。貴女になんて嘘なんてつくわけないじゃん。”」
私は何度目かの真っ赤な嘘をついた。
すると彼女の機嫌は途端に直った。
私はあと何度この日常を繰り返して自分をすり減らすのだろう。
…
この日もいつも通りのコピーされた日常が始まると疑ってなかった。
家を出て、大学に近づいた時、いつものあの場所で彼女と会うことはなかった。
少し違和感を覚え、コピーの歪みを感じた。
その違和感は学校の教室についたと同時に確信に変わった。
…
向けられる白い目。
泣いている彼女。
状況が読み込めない私。
「謝りなよ。」
彼女を意識している知人の1人でしかないヒトにそう告げられた。
正直何がどうなっているか……分からない。
心のどこかでまたか。と思ってしまった。
グスッグスッと鼻をすするおとが数回した後彼女は口を開いた。
「いいの」
涙声で彼女はつぶやいた。