変われない私
19時過ぎ。
玄関の電気はついていてまだ帰宅していない私を待っていた。
ドアの鍵も開いていて、母が私のために開けていると直感で分かった。
「ただいま。」
玄関の奥。
リビングの様子はここからは窺うことはできない。
返事は無く少し様子が違うと直感で分かった。
室内に入ると、母は洗い物をしており、至って普通の様だった。
水音で私の声はかき消されたのではないかという考えが浮かんだ。
「少し遅くなってごめんなさい。」
いつもなら口うるさい母。
その日は特に何も言わなかった。
文句の何個か言われると思った時
「もう大学生なんだから何も言わないわ。早くお風呂に入ってらっしゃい。」
母は告げた。
私をいつものように叱責することなくただただそれ以上何も言わなかった。
妙な焦燥感に1人駆られていた。
胸に焦燥感を隠し淡々と過ごし眠りについた。
昨日をそのままコピーした日々は私の心を確実に蝕んでいった。
凍りついて動かないと感じていた心は傷だらけだったと言うことに気がついた。
心が悲鳴をあげてもう限界だと叫んでいる。
だが、私には変わる勇気も変える勇気もない。
ただ、今を嘆くだけしかできない。
ベッドの上ぼんやりそんなことを考えていると、母が階段を上がってくる音がした。
ガチャっと音を立てて部屋の扉が開くと母が口を開いた。
「起きてたの。ご飯できているわよ。」
と告げあっさりと引き下がった。
少しするとパタパタとスリッパをならして階段を降りる音がした。
…
「行ってきます。」
何も変わらない、変われない。
そんな日常を嘆いても玄関の扉を開けば眩しい自由がすぐそばにあった。