現在
テーブルの私の席の前には白米、味噌汁、たまご焼き、漬物といった当たり障りないメニューが並んでいる。
席について目の前には、コロンと並んだ白の持ち手のお箸を手に取る。
「いただきます。」
私がそう言うと向かいの母にいう。
「美味しいよ」
そう言えば母は満足そうに微笑み、席を外し朝の支度をする為、部屋を後にした。
…いつからか母の顔色を伺う人間に成り下がってしまった。周りとは違うと理解しているつもりだ。
朝起きた時からついていた情報番組は、必要としている誰かの為に発信している。
……誰も見ていないのなら必要無い。私はリモコンの赤いボタンを押した。
「ご馳走様でした。」
食器を手に持ち、席を立つ。
台所に向かいカチャカチャと食器同士が当たる音がシンクで鳴る。
私はスポンジに洗剤をかけ今朝の記憶も消すようにしつこく食器を洗った。
白い光に包まれた朝の世界は、私の心だけ汚れているように思えた。
食器を洗い終えると、私は再び準備をするために、2階の自室へと向かった。
自室に行く前に、洗顔・歯磨きを済ませる。
シャカシャカと先ほど食べた朝食の味をかき消すようにブクブクと汚れを吐き出した。
バシャバシャと自らの考えを覚ますように洗った。
…自室のドレッサーに座る。
鏡に映る自分の瞳の中の瞳孔が開いていて吐き気がした。
吐き気を無視して、下地、パウダー、マスカラ、アイシャドウと進めていく。
仮面を被った鏡の中の私は微笑んでいた。
化粧は一種の仮面だ。
誰にもこの感情を知られてはならない。
……だから大丈夫。
そう心の中で唱えながら最後にリップを塗って騒々しい心に蓋をするようにドレッサーを片付けた。