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來鞠駅前
「…もう無理だよ。」
來鞠駅前には平日にも関わらず人通りがある。
行き交う車の走行音の中、私は朔を放置し青信号になった横断歩道を進む。
「ねえ‼︎」
私の右腕は彼の右手に強く掴まれた。
「離して。」
私はせっかく助けてくれた朔に冷たく静かに言い放つ。
今の私にとっては迷惑だった。
だが朔は右手の力をさらに込めた。
横断歩道の真ん中。
傍から見たらただの痴話喧嘩の類に見えるのだろうか。
歩行者信号が点滅を始めた。
私はどうなってもいいが無関係な人を巻き込む趣味はない。
私は朔に促され、点滅する信号を急ぎ自宅側へと彼を誘導した。
…
いつだって理由はない。
ずっと苦しいから。
真っ暗な闇を見ていると自分が飲み込まれるのではないかと思えてくる。
…たったそれだけ。
けど。
「何で泣いてたの。」
やっと誰かに見つけてもらえたそんな気分になった。
「ばれたの。お母さんに。彼女が言ったから。だからね。もう私のことを……もう忘れて欲しい。」
嗚咽が止まらずうまく言葉が紡がれない。
駅前の灯りはずいぶん明るく見える。
私は再び闇へと歩き出す感覚に陥る。
視界は駅の電光掲示板で明るいのに涙は止まることを知らない。
「……ごめん。泣くつもりなんてなかった。」
私は思わず俯く。
灰色のアスファルトは私の涙で黒く染まる。
鼻を啜る音が車の走行音と重なる。




