母の日エッセイ 水餃子は母の味
ごきげんよう、ひだまりのねこですにゃあ。
さて、明日は母の日ですね。
今日は母のことを書いてみたいと思います。
母は女三姉妹の次女で、筋金入りのお嬢様です。
父を小学生の頃に亡くしましたが、私の祖母が大変有能で努力家でしたので、それほど不自由なく育てられたと聞いています。実際は相当な苦労があったと思うのですが、そういうことは一切言わない人なのです。
母はとにかく温厚で、父も怒らない人間ですが、母が怒ったところは一度も見たことがありません。
私が八つ当たりしたり、酷いことを言っても黙って微笑んでいる、そんな人です。
母が父と出会ったのは、東京の美大です。油絵が専門で、とっても可愛いキャラ絵も描きます。
女優さん顔負けの美人ですし、人当たりも柔らかく優しい性格ですから、誰からも好かれていて悪口を言われているのを聞いたことがありません。
外から見れば完璧に近い母ですが、家族から見るとなかなか個性的で面白い人です。
なんというか……料理が男らしいというか、大胆というか、味は美味しいんですけど、豪快な料理を作ります。彩りとか一切無視、形や見た目はどうでもいい。美味しけりゃあ良いんだよ!!
そんな気概が感じられる男前な料理なので、友だちが泊りに来たりすると100%ビックリされます。父方の祖母や親戚が来たときの何とも言えない表情は忘れられないですね。
実家で食べていた料理が普通だと思っていた私にとって、他人と料理の話が通じないことに困惑しました。どうやら母の料理はほとんどオリジナルで、料理名も母が考えた名前なので、まったく通じない。いまだに似た料理すら見たこと無いので、たまに無性に母の作った料理が食べたくなります。
母の名誉のために言えば、味は本当に美味しいんですよ、未だに母の味を超える料理はないですから。
以前のエッセイで私の家の朝食はフレンチトーストだと書きましたが、夕食の定番は水餃子です。
家族全員で餡を皮に包む作業をして、大量の餃子を豪快に鍋で茹でます。
私はこの作業を物心がついた頃からやっていましたが、小さい頃は上手く作れなくて悔しいんですよ。父や母の作る完璧な造形の餃子がキラキラ輝いて見えて、一生懸命真似して作った記憶があります。ちゃんと作らないと中身が出ちゃうんですよね……もちろん失敗作は自分で食べますけど。
餃子の日は、餃子だけです。他に何もありません。餃子が主食ですから、ご飯もおかずも汁物もありません。
大皿に茹で上がった餃子がどーん!! と積み上げられて、ひたすら食べます。つるつる食べられるので、ほぼ無限に食べられますが、酢醤油のタレが水分で薄くなるので、タレの味がしなくなったら終了です。
水餃子の味が単調になった中盤に味変のために投じられるのが、余った餡をそのままフライパンで焼いた何か。
我が家ではそれをお好み焼きと呼んでいましたが、どうやら世間では違ったようです。
そして、焼き餃子が一般的だと知ったのも大人になってからです。
なんでや……水餃子の方が美味いやろ(なぜか似非関西弁
友人「私、餃子が好きなの~」
私 「良いよね餃子。今度食べにくる?」
友人「行く行く~!!」
母 「友人ちゃん、好きなだけ食べてね」
友人「え……あ、はい」 ※水餃子を知らなかったらしい
豪快な料理展開に付いていけない友人だったが、このままではマズいと気付いて見様見真似で食べ始める。当然皮を包むのも参加済み。
友人「美味しい!! いくらでも食べられそう」
母 「良かったわ。どんどん持ってくるから遠慮せず食べてね」
本当にハイペースで茹で上がって来るので、頑張って食べないと間に合わない。ある意味でわんこそばに似ている。したがって、話している暇などあるはずもなく、終始無言でひたすら食べるのが我が家の普通。友人ちゃん困惑。
「ねえ、ご飯は無いの?」
「ご飯? なんで?」
どうやら友人ちゃんはご飯と餃子を食べるのが当たり前だったらしいが、水餃子とご飯は合わない。
母 「お好み焼き出来たよ~」
友人「え!? お好み焼き? なんで?」
どうやら友人ちゃんの知っているお好み焼きではなかった模様。
家に来た友人たちは、最初こそ驚いても、また食べたいと喜んでいたから多分普通に美味しかったんだと思う。
実家を離れてからずいぶん経って、色んな餃子を食べたけれど、やっぱり全然違うんですよね。焼き餃子は別の料理だし、水餃子はワンタンみたいのしかない。これじゃない感が半端ないんですよ。
そして、母は生き物が苦手。
私の真逆で、動物も虫も爬虫類も両生類も鳥類も魚類も、その他全部苦手。触ることすら出来ない。嫌いというわけじゃなくて、触れないだけ。遠くから可愛いわね~とニコニコ見守っている。
嬉々として常に数十種類の生き物を飼育していた私はさぞ母にとっては悩みの種だったと思うけれど、やめなさいと言われたことは一度も無かった。本当に感謝しかない。
母の家系は代々女性が生まれる女系らしく、親戚も圧倒的に女性が多いから必然婿養子を迎えているケースが多い。
そしてちょっと変わった能力を持っている率が高い。これに関しては、私にもバッチリ受け継がれているけれど。
母の能力で私が知っているのは、死ぬ人間がわかるというものだ。
家族でテレビを見ていると、
「あの人もうすぐ死ぬわよ」
なんてことをサラッと言う。普通は笑い話になるだけで終わるが、母のこの発言は洒落にならない。
今まで母にこのセリフを言われて一年以内に死ななかった人はいない。
なんでわかるの? と一度聞いたことがあるが、
「うーん、なんとなくわかるのよ~」
という緩い答えが返って来るだけ。
一応母には、もし私が死ぬとわかったら教えてね。と伝えてあるが、今のところ言われていないので、来年までは生きられそうかな。
体の弱い母は、最近は入院とリハビリを繰り返している。
異能と引き換えなのか、短命な家系だからあと何年……なんていつも考えてしまう。
会いに行けない自分がもどかしい。
母の日に花を贈ることすら出来ない自分の無力さが悔しい。
「無理しないでね。元気でいてくれることが一番うれしいのよ」
そう言って笑う母の顔が浮かぶ。
ありがとうお母さん。世界で一番愛しています。
これからもどうぞ、お元気で。