首席の少女②
来賓室が静まり返ったところで、マリアはセドリックの正面のソファへ腰掛けた。
セドリックは二人が落ち着いたのを確認すると、ゆっくりと話しだした。
「入学式でも言ったけど………君たちには来週から…第3騎士団の遠征に同行してもらうから………」
「遠征…!!先ほどの話は、本当でしたのね」
マリアは前のめりになり、セドリックの話を食い入るように聞いている。
「遠征には他に…騎士学校の生徒が二名…同行することが決まっている………とボールスが言っていた………。遠征先は…東の地に突如現れたダンジョン………。詳しい場所や…現在分かっているダンジョンの特徴は…往路で話すけど………。今回は3日間潜る予定だから…必要なものは準備しておくように…」
「分かりましたわ」
「必要なものとは、具体的にはどういったものですか?遠征が初めてなので…」
アサヒの質問に対して、セドリックは「ふぅ…」と息をついた。
「遠征が初めてって君………冒険者でしょ?準備するものは大体…分かるんじゃない…?この話はマリアのために話したんだけど……あ……もちろん私も敬称なしでいいんだよね…?」
「もちろんですわ、セドリック団長」
(え?なんか私に当たり強くない……?)
それに、冒険者をしていることを隠しているわけではないが、あえて話す必要もないではないか。
アサヒは少しの不快感を覚えた。
「わたくしも遠征の準備については心得てましてよ!……実際に王都を離れたことはないけれど、問題はありませんわ!」
(ん…それ大丈夫?)
「………許可とか取ってないから。特別扱いはなしだよ………」
それを聞いたマリアは目を輝かせて頷いた。
(なんだろう、私だけ話についていけないんだけど…)
アサヒは置いてきぼりになったような気持ちになり、それ以上何も言う気にはなれずにいた。
しかし、そんなアサヒの薄暗い気持ちも吹き飛ぶような出来事が起こった。
いや、起こってしまった。
アサヒの足元の影から、突如アサヒの従魔であるハナが飛び出し、セドリックの顔面めがけて飛びついたのだ。
セドリックは慄き、大慌てで自身の顔に張り付いたハナを引っ放した。
「なっ……!猫……!!?どこから出てきたんだ………!!!」
ハナはクルッと宙を舞い、アサヒの肩へと飛び乗った。
「なまいきな奴だニャ。アサちゃんにイジワルするのは許さないニャ」
セドリックはハナがアサヒの従魔であると確信すると、ワナワナを体を震わせた。
そして、何かを諦めたようにため息をつくと、ボソリと呟いた。
「やはり………はずれくじもいいところではないか………」
セドリックは猫が苦手なのだろうか。
「あなた、学校にペットを連れてくるなんて非常識でなくて?」
マリアはやっとアサヒにも興味をしめしたのか、ぶつくさと文句を言ってはいるが、ハナが珍しい魔獣のため従魔とは思い至らず、ただのペットと判断したようだ。
いずれにしても、ハナを叱らなければならない場面ではあるが、スッキリした気持ちになったのも事実。
アサヒは優しくハナの首筋を撫で、今回はお咎めなしということにした。