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魔法学校の入学式③

 入学式が行われる会場には学校関係者、来賓、新入生をはじめ、おおよそ150人ほどの人たちが間隔を開けて着席していた。


 上級生らしき生徒が数名、出入口付近に配置されており、新入生を会場の各席へと案内している。よく見ると彼らは腕に『生徒会』と書かれた腕章を付けているので、成績優秀者の集まりなのかもしれない。


 魔法学校の入学式とは一体どんなユニークなものだろうと期待していたが、そこは特に意外性はなく、司会役の教師によりつつがなく進行した。


 まずはじめに学校長からお祝いの挨拶があり、次に各クラスの担任が紹介された。

 さらに学年主任から授業内容などの説明があり、そろそろ生徒たちも話に飽き始めたころ、次に司会から紹介された人物に会場はどよめいた。


「来賓のことば、王国第3騎士団長ボールス殿」


 ドスッ、ドスッと壇上の足音が場内に響く。如何にも屈強な男という出で立ちのボールスは、騎士学校ならまだしも魔法学校では浮いた存在のように思えた。


「えぇ、んん、ゴホン…。新入生諸君、この度は入学おめでとう!!!」


 ボールスは場内の最奥の席にも響き渡るほどの大声で、新入生に話しだした。


「騎士学校上がりの男子諸君には馴染みのある騎士団ではあるが、女生徒は関わりが無かった者も多いだろう。しかし、魔法学校に入学したからには、我々王国騎士団とも密に関わっていくことになる」


 ボールスが一息置き生徒たちを見渡すと、いつの間にかどよめきは収まり、真剣に話を聞く生徒たちの姿があった。


「王国騎士団には魔術師団という組織があることは知っているな?組織は主に戦闘員として前線に立つもの、騎士などを援護するもの、救助にあたるもの、鑑識を行うもの、研究者といくつかに分類されるが、あぁ、ここらへんの話は魔術師団にでも確認するといい。詳しくは分からんからな!それでだ、魔法学校の実習訓練では、魔術師団の団員とともに我々第3騎士団に同行することになっている」


 第3騎士団に同行するということは、辺境へ行くということ、即ち戦闘の最前線へ向かうということだ。

 しかし、幸いにも隣国との関係は良好で、戦争など微塵も起こりそうな情勢ではない。

 言うなれば、今の子どもたちは皆、戦など想像もできない、平和ボケした状態でもある。


「……諸君らの生まれる前、今から約20年前の大地震で我々は地獄を見た」


 それは、大人たちには記憶に新しい、大災害であった。


「怪我人や死者も多く出た。復旧の目処が立たず精神は病み、体力は奪われる日々。そして、災害時にもやはり、魔法を使えるものは特別な存在であった。感染症が蔓延しなかったのは、救護班の魔術師たちが除菌、滅菌を徹底し清潔を保っていたからだと後から知った。また、かつての大魔術師であった方は、己を顧みず、魔力が尽きるまで魔法で我々を救ってくださった。それまで当たり前に受けていた『回復魔法』の恩恵は、無尽蔵ではないと思い知ったのもその時であった」

 

 苦い思いをしたのか、時折後悔の滲むような表情でボールスは当時の様子を語った。


「災害や戦闘において、最前線に立つのは我々騎士だ。だが、魔術師がいなければ乗り越えられなかった壁が幾つも存在した」


 シーンと静まる生徒たちの顔を今一度見渡す。この中に、あの災害を知るものはいない。しかし、このように語ることで、何か響くものが少しでもあれば良いとボールスは思った。


「さて、諸君らのめざす道はどこなのか。魔力を持つもの、魔法を使えるものとして、どうありたいのか。それを学生生活の中でとくと考え、答えを見つけてほしい。我々は第3騎士団で待っているぞ!!!」


 ボールスが挨拶を終えると、割れんばかりの拍手が起こった。「ははは!」と陽気に退場した彼のことばは、間違いなく生徒たちの記憶に残っただろう。


「来賓のことば、王国魔術師団長セドリック殿」


 続いて、入れ違いで黒いフード付きのマントを着たいかにも魔術師らしい風貌のものが登壇した。

 背が高く、スラッとした体型の30代と思われる男性はどこか中世的で美しく、縁のない眼鏡が知的な印象を与えている。腰まである銀髪は首の後ろで一つに結ばれていた。


「はぁ………私はこういった場は苦手なんだ、確実に向いていない。だから団長になんてなりたくなかったのに……大体あのお方には振り回され続けたのに、後釜なんてはずれくじもいいところではないか……」


 セドリックは誰にも聞こえないであろう小さな声でぶつくさと何かを言っているようだった。

 ふと新入生席で着座するアサヒに目をやると、恨めしげに目を細めた。


(……?)


 アサヒはセドリックの視線に気付き記憶を探るが、セドリックぐらい印象的な人に会っていたらきっと覚えているはずだと、彼とは初対面であると思い至った。


「えぇっと……入学おめでとう………私はボールスみたいに話せないんでね」


 耳を澄ましてやっと聞こえるくらいの声量でセドリックが話し出すと、辺りが急にひんやりとした空気に包まれた。


(さ………寒い………!!!)


 凍えるほど寒い。


「実習訓練に先んじて、此度の第3騎士団の遠征に同行する成績上位者2名を発表する」


 セドリックが右手を会場に向けて開くと、ドドドドドドッと地響きが鳴りだした。二本の氷の円柱が地面から突き上がると、そこには座席ごと押し上げられたアサヒを含む生徒2名の姿があった。


「そこの二人、あとで来賓室に来るように。以上」


 開いていた右手をギュッと握ると、氷の柱はパキパキッとヒビが入り、パリンッと弾けた。

 座席は元の位置に戻り、いつの間にか凍えるような冷気は引いていたが……


 めちゃくちゃ注目されている。

 生徒たちからの視線をひしひしと感じる。


 アサヒはもう一人の生徒はどうだろうかと、左前方をチラリと横目で見た。

 ウェーブのかかった金髪が美しく、後ろ姿だけでも雰囲気のある少女である。


 その後、『新入生代表のあいさつ』を担った首席である彼女は、戸惑うようすなどおくびにも出さず、その堂々たる姿に関心すら覚えるのだった。

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