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魔法学校の入学式②

 レナードことリオは、王国騎士団に所属する騎士だ。

 癖のないさらりと流れる金髪に緑の瞳が印象的な彼は、細身ながらも鍛えられた体格に加え、王国の歴史ある侯爵家の子息という身分を併せ持つハイスペックな19歳の青年だ。


 そして、彼こそがアサヒがこの世界で初めて出会い、助けとなった人物でもある。


「アサヒ!!」


 リオは両手を広げてアサヒを待ち構えた。


(え!?駆け出したのは私だけど、その腕は飛び込めってこと?

 校門の前だし、見てる人もたくさんいるけど……)


 アサヒは考える間もなく、リオの腕の中へ思い切り飛び込んだ。

 そのままギュッと強く抱きかかえられると、両足は宙を舞いぐるっと回りだす。


「わぁ!!もう、リオ!!リオってば!!」

「ははっ、アサヒ、また少し大きくなったね!」


 大きく円を描くように一回転すると、ゆっくりと両足を地に降ろした。

 リオはアサヒを腕の中にすっぽりと収めたまま話を続けた。


「制服似合ってる。すっかり可愛いお嬢さんになって」

「リオ、言い方がおじさんっぽい……」

「えぇ?それはショックだな」


 リオは納得できないというようすで、少し口を尖らせた。


「ふふっ……ねえリオ、どうしてここにいるの?手紙では今は東の地を警備してるって言ってなかったっけ?」


 リオが所属しているのは第3騎士団だ。第3騎士団は国境などの辺境地を管轄しているので、王都にいることは少ないはずなのだが……


「どうしてもアサヒの入学をお祝いしたくて、馬を飛ばして駆け付けたんだよ」


 リオが仕事をしている姿を見てきたけど、そんなに自由がきいたかな。

 アサヒは訝しげにリオをじっと見た。


「明日は騎士団の定例会だから、各団長から騎士に召集がかかったんだ。……だけど、会いたかったのは本当だよ?」

「そうなんだ。でも、私もリオに会えて嬉しい」


 魔法学校に行くことを決めたときも、試験に受かったときも、一番に報告したのはリオだ。

 だから、今日の制服姿を見てもらえてとても嬉しい。


 リオはアサヒの素直な言葉に満足げに頷くと、肩にかかるくらいの艶のあるアサヒの髪を、こめかみから撫でるように片耳にかけ、確かめるように首元に光るネックレスに目をやった。

 それは以前、リオがアサヒに贈った小さな石がひと粒付いたシンプルなネックレスであった。

 リオは視線をアサヒに戻すと、にっこりと目を細めた。


「アサヒ、入学おめでとう」


 リオがとびきりの笑顔でほほ笑むと、周囲から「きゃあ〜!!」という黄色いざわめきが起きた。


 何事かと周囲を見渡すと、登校した生徒たちが二人を遠巻きに見ていた。皆の視線はリオに集中しているようだ。

 確かにリオをよくよく見ると、騎士服はそれはもう似合っているし、さらさらの金髪に透き通るような綺麗な肌、長いまつげに優しげな緑の瞳……女生徒がうっとりと見つめたくなる気持ちも分からなくもない。

 男子生徒も足を止めてこちらを見ているのは、もしかしてリオって有名人?


(リオは同性から見ても憧れの対象なのかな。

 ……ん?……私?)


 意識してみると、その視線は自分へも向いているようだ。

 確かに、リオが有名人なら、彼の腕の中にいる謎の女子は誰だとなるはずだ。

 久しぶりに会えた嬉しさで忘れていたが、リオを見上げながらのこの体勢はだいぶ恥ずかしい気がする……


 校門の前はちょっとした騒ぎになっていた。

 見かねたアルが二人に近付き、アサヒの腕をつかむとリオから引き離した。


「レナードさん、ご自身が注目の的となっていることをもう少しご自覚ください。アサヒが目立たないようにと気にしていることを、知らないわけではないでしょう」


 リオはアルの行動に一瞬驚いた表情を見せたが、気にすることなくアルに答えた。


「アル、久しぶりだな!そうだな、お祖母様やロン大叔父様の苦労が水の泡になってしまうところだった。それにしても、しばらく見ない間にアルもすっかりお兄さんだな」 


 侯爵家同士、もともと縁のある二人ではあったが、実際に会って話すのは久しぶりであった。

 リオの毒気のない様子に、アルのほうが怯んだようだ。もう強く言うことはできない。


「あ、あのですね、レナードさんがアサヒを気にかけるのは結構ですが……」


 アルは横目でリオがアサヒに贈ったネックレスを見た。

 繊細なつくりのネックレスは、小さいながらもキラリと光る緑の石がはめ込まれている。


 アルは、アサヒがいつもそれを大事そうに肌身離さずつけているのを知っていた。だからこそ、アサヒに手紙や花を送っても、アクセサリーを贈ることはできなかったのだ。


(牽制かなにか知らないが、少々独占欲がすぎるのではないか……?)


「ご自覚がないから困ったものです」


 意識せずにそれを贈ったなら、にぶいにもほどがある。

 リオがにこりと笑うと、アルは「はぁ……」とため息をついた。


「ほら、お前からも何か言ってくれよ」


 アルは、少し離れた場所で知らぬ顔で佇む少年に声をかけた。

 そういえば彼は、リオと同じ馬車から降りてきた少年ではないだろうか。

 アサヒは目を凝らし、その顔を確かめた。


(……!!!

 ちっちゃいリオだ……!!!)


 見た目こそ小さいリオだが、眉間に皺を寄せ呆れ顔の彼は、なんだか態度がふてぶてしい。


「アル、兄さんは放っておいて、もう行くぞ」

「あぁ、もうこんな時間か。じゃあアサヒ、帰りもここで待ってるからな」


 アルはそう言うと、リオにそっくりの少年と騎士学校の校舎へと走っていった。


 一体彼は誰だったんだろう?

 リオに詳しく聞きたいのは山々だが、そろそろ行かないと魔法学校の入学式が始まってしまう。


「リオ、私ももう行かなきゃ!それじゃあ、またね!」


 手を振るリオに見送られ、魔法学校の入学式会場へと向かった。

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