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魔法学校の入学式①

 アサヒは、ワクワクした気持ちで今日を迎えていた。

 なんと言っても今日は、目標の第一歩であるウィンスレット国立魔法学校の入学式だ。


 ウィンスレット国立魔法学校ーーそこは選ばれた者のみが入学できる、王国唯一の魔法学校。


 この国の子どもたちは7歳になると男子は『騎士学校』、女子は『医療学校』で教育を受けるのが一般的だが、13歳になったときにごく少数の魔法に秀でた子どもたちは『魔法学校』への入学を選択できる。


「アサヒ、そんなに緊張しなくても大丈夫だ」


 馬車の正面に座るのは、アルフレッドことアル。

 魔法の才能を買われ、4年前にモーソン侯爵の養子になったアサヒであるが、アルはそのモーソン侯爵の実子でアサヒの一つ年上の義兄である。

 アルは身内の目から見ても整った顔立ちをしており、真っ直ぐに揃えられたダークグレーのサラサラの前髪からは、きれいな紫の瞳が見え隠れしている。アルの髪型は出会ってからずっとこのおぼっちゃまカットなのだが、顔がいいとどんな髪型も似合うという典型的な例だ。


 それはさておき、自分はそんなに緊張しているように見えるのだろうか。

 気持ちとしてはとても楽しみなのだが、確かに、膝の上に置いた両手は固く握りしめられていてリラックスした状態とは言えない。


 アルはこれから新生活を迎える妹を気遣い、励ました。


「アサヒはヤヨイ大叔母様とマーサさんのもとで、この日のために魔法の習得に励んできたんだ。知識も実力もなんの心配もいらない」


 よしよしと不器用にも優しくアサヒの頭を撫でるアル。慣れない動作に気恥ずかしさもあり、頬はぽっと赤く蒸気している。

 照れるくらいなら無理しなくてもいいのに。

 そうは思うが、アルのいじらしい姿は見ていて微笑ましい。

 これまで『兄らしく』する機会を取り上げられていたアルは、とにかくアサヒにかまいたくて仕方がないようだ。

 今のアルならアサヒの些細な機微も見逃しはしないだろう。


「不安なら、入学式へは僕も同席しよう」

「え?だ、大丈夫だよ!それに、アル兄様だって騎士学校へ行かないといけないでしょう?」

「校舎こそ別だが、同じ敷地内だ、問題ない」


 これはしっかりと断りを入れないと、本当に入学式へ来かねない。

 アサヒはなお首を横に振った。


「アル兄様といた方が目立ちそうだもん。私は目立ちたくないの」

「なんで僕といると目立つんだ?入学式に家族が出席することは珍しいことじゃないだろう?」


 確かにそうかもしれないけど。

 アサヒはアルをじとりと見た。


「私は貴族社会に明るくないから実際のところは分からないけど…アル兄様は舞踏会でよくご令嬢に声を掛けられるんじゃない?」

「舞踏会は貴族の交流の場でもある。そういうものだろう?」

「お父様から婚約の打診を受けたことはない?」

「何人か名前は挙がっているが、誰もがそういうものだろう?」


(ダメだ…

 きっとアル兄様は自分の価値を分かってない…)


 アサヒは「はぁ…」と小さくため息をついた。


「本当は成績だって、こんなつもりなかったのに…」

「…成績は、そうか。そうだったな」


 試験でもなるべく目立たないように、中の上くらいの成績を目指したにも関わらず、結果的には筆記も実技も高順位者になってしまった。


(首席じゃなかっただけマシか…新入生代表の挨拶なんてしたら、もっと目立っちゃうもんね)


「とにかく、入学式は一人でも大丈夫だから!ただ、初等部からの子たちはみんな顔見知りなんでしょう?私は初めての学校だから、ちゃんと友だちができるか少し心配だったんだ」


 アサヒは取ってつけたような心配事でアルの説得を試みた。


「そうか。本当に大丈夫なんだな?」


 アサヒがうんうんと頷くと、アルはしぶしぶ納得してくれたようだ。


 同窓のいない新参者にとって初対面の印象は長く引きずることになるし、何か失敗しようものなら、その後の学校生活に不安を拭いきれないのは確かだ。


 そういえば、日本にいたころの中学校の転校生も、こんなふうに悩みを抱えながら黒板の前で自己紹介をしていたのかな。


 アサヒはふと、そんな懐かしい場面を思い起こした。

 なぜなら、アサヒは日本という世界から来た『転生者』だからだ。

 4年前のある日、『佐藤旭』として生きた27年間の記憶を残し、8歳の少女『アサヒ』としてこの世界へ転生した。


 最初こそ魔法が使えたり、見たことのない生き物に遭遇したりと戸惑いもあったが、アサヒはすでにここが日本でないことは重々承知している。アルを説得するために挙げた友人ができるかという点は、言うほど心配はしていなかった。


 なんせ、アサヒには強い『味方』がずっと側にいるのだから。


(あれほど今日は大人しくお留守番だって言ったのに、やっぱりついてきちゃった…)


「うニャ…」


(ほら、我慢できずに声が漏れてるよ…入学式、大丈夫かなぁ…)


 両手を固く握りしめていたのは、緊張ではなく彼らのせいではないかという気もしてきた。


 そんなことを考えているうちに、学校に着いたようだ。

 門の少し手前で馬車が止まり、アルは先に馬車から降りると、慣れた様子でアサヒに手を差し出した。


「さぁお嬢様、お手をどうぞ」

「ふふっ、ありがとうアル兄様」


 一つしか変わらないのに兄たる然としたアルを微笑ましく思いながらもその手を取り、馬車を降りた。

 さて、門をくぐるかと歩を進めたそのとき、アサヒたちの馬車の後ろに一台の馬車が止まった。

 馬車から降りてきたのは、同い年くらいの少年ともう一人、よく知れた人物。


(もしかして…ううん、絶対そうだ…!!)


 その姿を確認すると、アサヒは勢いよく駆け出した。


「リオ!!」

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