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日常で世界を変える(湯浅編)  作者: mei


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10月5日 相談Ⅱ

 昨日の話は、まるで今日の朝聞いた話のような感覚だった。一瞬にして、昨日の出来事が蘇ってきたのだ。


 ー10月4日ー


 俺は、近藤の話を聞きながら、いろいろ考えていた。もう、直江は辞めることを決めたんじゃないかと思っている。俺の目線の先には、ロッカーの手袋があった。誰だろうか?あの手袋は。近藤の話に対して、直江は沈黙を貫いていた。もし、ここで直江が辞めるのを止められなかったらどうなるのだろうか?もう監督には伝えたのか?心の震えを映す鏡みたいに雲が覆っているようだった。もう一度、直江に野球部に戻りたいと思える方法がないのか?

 まだ、佐藤は話そうとしていない。「今は我慢のときだ」と言わんばかりの表情。一方、もう話すことがなくなった近藤の目には、負けてしまったあとのように揺れていた。「辞めたいのか?」。俺が一瞬目を逸らした瞬間、佐藤は話をし始めた。本来、俺が聞かなければならなかった。しかし、話が始まってから一度もその話ができなかった俺は、何をしていたのだろうか?俺が聞くべきか迷った一言を佐藤はあっさり話をしてみせた。声に出せば、現実があらわれてしまうという当たり前のことに、俺は気づけなかった。

 佐藤は知っているようだった。黙ったままいても、この状況が変わらないことを。俺は、また同じ苦しい日々を繰り返すのかもしれないとあの日のことが蘇えってきた。佐藤は、ゆっくりと直江の背中を、そっと押してみせた「野球、嫌いになったわけじゃないんだろ?」。佐藤の言葉は、真っ直ぐで温かみがあった。直江は、沈黙を貫いていた。「もし、お前が野球を嫌いになったのなら、無理に誘わないよ」。佐藤は、言葉を選んで伝えたいく。この感じだ、俺がやりたかったことは。ただ、佐藤は一瞬だけ視線を落とし、直江の方は見なかった。直江自身が口を開くのを待っているようだ。まるで、遠い過去の記憶を探い出そうとするように宙を向いた。「俺は、野球が嫌いなわけではない…」と、ぼそりと返ってきた声は、ため息のように薄かった。

 「じゃあ、やれるんじゃないか?」。ついにと言わんばかりに直江の決意を揺らす小さな音を立てた気がした。「辞めることは、弱いことではない」。直江は、佐藤ではなくここにいるみんなに伝えたかったようだ。だから、やめる。直江は、そう言いたいのか?それとも別に何かあるのか?佐藤のターンはなんとなく終わった気がする。こうなったら、後は、俺がシメルしかないんじゃないかと脳裏がよぎったのだ。

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