10月4日 相談
他の部員たちが帰った今、このロッカーにいたのは5人だった。当初予定されていた人数より一人増えていることこそが、この野球部の弱さを露呈しているように感じてならなかった。静かな部室の薄明かりは、部員の呼吸を静止させるように、直江の話が響き渡った。ロッカーの上にかかった時計の針は刻一刻と進んでいくのに対し、直江の心はまったく動いていない。止まってしまったんじゃないかと思うくらいだ。直江と同じ2年の若葉は、必死に聞こうという姿勢が伝わってくるのに対し、今日言われてきた近藤は何を考えているかすらわからない。
コイツらがこうして野球を引退してしまうと思うと、不憫で仕方がない。俺が間違ってるのだろうか?俺たちの代もいろいろあったけど、最後の夏の大会はベスト4までいけた。けど、それはそこに至るまでいろいろあったからだ。それをコイツらは理解していないのか?後輩として、2年も一緒だったのに。思ったより、俺たちは自分たちのことしか考えてこなかったのだろうか?それが、2年を見ていて思った感想だ。俺たちの頃と違って、部室はとても綺麗に使われている。グローブの匂いと汗の匂いが混ざった感じは、変わっていなかったが、古びた木製の棚にはきちんとモノが整理されていたのだった。俺は、椅子の縁に指先をのせながら、いつ話そうかと考える。視線を他の奴らに向けても何も変わらない。かと言って、今自分が何か言えるわけでもない。俺は、視線を床に落とし言葉を探していた。
一方、佐藤はというと思いの外ちゃんとしていた。自分にできることはなんなのか、佐藤なりに考えているように見えた。こういうトコロが佐藤の優しいところなのだ。「何が嫌とかはないけど、正直自信なくしてしまったんだ。もう限界かもしれないんだ」。直江の話は、いよいよ本題に入ったようだ。ここで、若葉と近藤はどうするのだろうか?俺はそれが一番大事だと思った。それは、いくら俺が考えても出るような答えではなかった。直江が一通り話すと、少し沈黙が流れてしまった。それを振り払うかのように、若葉が口火を切った。なれない口ぶりで、いろいろ話をし始めるから、余計何がいいたいのかわからない。
どうしようか?今口を挟むべきか?それとも、もう少し落ち着いてから話をするべきか?若葉の話を聞きながら、次に話すのが誰なのかを考えた。普通に考えたら、2年の近藤だよな?合ってるのかまったくわからなくなっていた。




