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異世界転聖 ~100歳で大往生した聖人が、滅亡寸前の異世界を救うために転生しました~  作者: 西玉
5章 新たな守護者 

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83 魔王からの逃走

 瓦礫の下にできた空間に、俺はサリカと共に閉じ込められていた。

 上には魔王と魔王に従う地獄の囚人たちがいる。

 救出を待つというわけにはいかない。


 ただ瓦礫から逃れればいいということでもない。

 なんとかして瓦礫の下から脱出し、魔王からも逃げなければならない。

 俺が困っている時に、サリカは俺の手をとり、血まみれではあるが滑らかな肌に触れさせた。


「サリカ、俺を誘惑しないでくれ。俺は……地獄に落ちるような人間だ。何をするかわからない」


 サリカの肌に触れていた。

 滑らかで暖かく、弾力がある。

 魔王に傷つけられた痕も、どうしたわけか消えている。

 サリカは俺が消したのだと言うが、俺に自覚はない。

 俺は、自分の罪を吐露するつもりで言った。


「私、魅力ない?」

「そんなはずがない。だから……困るんだ」

「困らなくてもいいじゃない。だって、私……魔王に汚されたもの」


 真っ暗で、互いを見ることはできない。

 だが、サリカの声が掠れたのはわかった。

 俺は、拳を固めた。

 瓦礫を殴った。


 苛立った。何かを殴りたかった。

 苛立ちを紛らわせるため、自分の肉体を傷つけたかった。

 結果として、俺の殴った場所の瓦礫が崩れ、まるで横穴のような、狭い空間ができた。


「すごい。さすがダマス。ここを殴ると道ができそうだって知っていたの?」


 サリカが穴の中に入ろうとする。

 俺の体の上を通過する。

 サリカの肌の感触が、俺の顔に触れた。


「そんなはずはない。俺の力じゃない」

「誰の力でもいいよ」


 サリカの声は明るかった。

 俺は、もう気づいていた。

 俺の力は、俺自身のためには働かない。

 聖者が授けた力だ。


 地獄の囚人のためには働かないのだ。

 特別な効果をもたらした時、俺は常に、誰かを助けようとしていた。

 その誰かは、ほとんどの場合、目の前の女の子だ。


「つまり、サリカの力だな」

「えっ? 何それ。私にそんな力があるはずないじゃない」


 サリカは笑って振り向いた。


「行き止まりだ。さっきの、もう一回やってよ」


 サリカが穴の端による。それでも、空間が狭い。

 俺はずりずりと這い寄り、サリカに並ぶ。

 体が密着する。

 瓦礫の位置を確認し、拳を叩きつけた。

 ただ痛かっただけだ。


「どうする? これ以上、進めないの?」


 サリカも弱気になった。

 俺は、試してみることにした。


「このままだと、掘り出されて魔王に捕まるな。でも、サリカはもう魔王に……」

「やめて。ダマスはそんなこと気にしないって、自分に言い聞かせていたのに」


 サリカの声がふたたび掠れた。

 俺は苛立った。

 腹が立ち、俺は苛立ちを拳に乗せて、立ち塞がる瓦礫を殴った。

 再び瓦礫が崩壊し、穴が出来た。


「……どういうこと?」

「俺は罪人だ。俺自身のためには、何をしても何も起きないらしい。サリカのためじゃないと……」


 俺は言いながら、再び横穴を這い進む。


「ダマスはいい人じゃない。私だって……いえ、私だけじゃないわ。リマもキャシーも、トッドだって……悪いことはしてきているよ。生きるためだもの」

「ああ。仕方がなかったんだろう。でも、俺は違う。仕方がないから、じゃなかった」


 再び、行き止まりになった。

 俺は、その度にサリカを泣かせ、罪悪感と苛立ちを拳に込めた。

 いつしか、周囲は瓦礫ではなくなっていた。

 地下にできた空隙を、俺とサリカは這い進んでいた。


 本来は、そんな空隙はなかったはずだ。

 だが、俺が拳を振るうと、地下空間ができていた。

 その前に、つねにサリカが泣いていたが。

 明かりはなく、サリカは全裸である。


 這わずに歩ける空洞に出た。

 水が流れているが、下は岩が剥き出しである。

 俺はサリカを背負い、さらに進んだ。


「だんだん、水の量が増えてきた。この水はどこに出ているのかな」

「多分、街の炊事場だと思う。洗濯とか、水汲みとか、全部そこで賄うんだ」

「なら、このまま水の中を行けば、外に出られるかな」

「うん。たぶん」


 俺はサリカを背負い、道がなくなるところまでくると、水に入った。

 水量は多く、俺とサリカは息を止めて潜った。

 どれほどの深さがあり、どのぐらい続くのかわからない水の中に、呼吸を止めて入ったのだ。

 サリカは勇敢だと思う。


 俺は、再び死ぬことに抵抗はない。

 周囲が明るくなった。

 俺はサリカを背負ったまま、炊事場と呼ばれる場所に飛び出していた。

 人気はない。


 逃げたか、殺されたか、攫われたのだろう。

 水の中を泳いだため、サリカのまとっていた血が洗い流され、張りのある肌に傷一つないことがはっきりとわかった。


 サリカは炊事場を見渡し、唯一残されていた衣服である前掛けを身につけた。

 それが、別の世界では裸エプロンと呼ばれる姿であることは、サリカが知るはずがない。

 加えて、サリカは包丁を手にした。


「ダマス、これを」

「わかった」


 サリカが投げたフライパンを受け取った。

 調理器具だが、目的は武器だ。

 炊事場だが食べ物はない。もともと、食糧に乏しく、孤児は口減らしに街の外に追い立てられていたのだ。


 サリカは慎重に外を伺う。

 俺は、その間に割れていない貯蔵用と思われる水瓶を覗いた。

 怪我は治っても、サリカは衰弱している。

 何か食べ物が残っていないか探したのだ。


「ダマス、食べ物なんて残っていない。それより、まだ壊れていない家に入ろう。外から見られない場所なら、少しは安心できる」

「干し肉があった」

「嘘」


 サリカが外から目を転じた。

 俺は、水の入っていないただの焼き物の、水瓶の底を指でさらった。

 肉の破片があった。

 せめて食べられないかと掬い上げると、手の中で干し肉の塊に変化した。


「サリカ、食べろ」


 俺が投げると、サリカが驚きながら受け取る。


「ダマスは?」

「俺は平気だ。サリカは酷い目にあった。これぐらい当然だ」

「うん。ありがとう」


 我ながら、辻褄が合わないことを言っている。

 サリカが干し肉に食らいついた。俺は言った。


「魔物たちは鼻が効く。建物に隠れても、簡単に見つけられるはずだ。少しずつ移動しながら、リマたちと合流しよう」

「……リマたちは無事なの?」


 あっという間に肉の塊を完食し、泳いできた水源の水で喉を潤している。

 生水で腹を下すようなことは、サリカには無縁なのだろう。


「ああ。俺が会った時は無事だった。街の人間が逃げる時、置いて行かれたらしい」

「あいつら……」


 サリカが歯噛みをする。リマたちを置いていった街の大人たちへの怒りだろう。

 俺は笑った。


「腹を立てられるようなら、大丈夫だな。行こう。サリカが連れ去られたとリマたちから聞いたから、俺はここに来られた。逃げ遅れたことを感謝しなきゃならない。もっとも、まだ無事かどうかはわからないが」

「ダマスは、1人で来たの?」

「いや、途中までは……」


 俺が言い終わらないうちに、俺の足元に矢が刺さった。

 俺は、矢が飛んできた方向にある民家の屋根の上に、サリカの仲間キャリーがいるのを見てとった。


「サリカ、キャリーだ」

「うん……ダマス」


 俺は、キャリーを指差した。サリカが緊張した声で俺を呼んだ。

 俺が不思議に思ってキャリーを見ると、キャリーの背後に、蜘蛛に人の頭を生やした巨大な影が出現していた。

 形だけで、俺はそれが地獄の囚人だと判断した。


「キャリ……」


 大声を出して警告しようとしたサリカの口を、俺は塞いだ。


「魔物たちが集まってくる」

「キャリーを見殺しにするの?」


 キャリーは気づいていない。俺とサリカが一緒にいるのを見て、囃し立てている。

 そのすぐ後ろに、音もなく人頭蜘蛛が迫っている。


「俺がやる」


 俺は言うと、サリカから渡されたフライパンを投げた。

 弓矢でようやく届き、大声を出さなければ警告もできない距離だ。

 フライパンを投げて、届く距離ではない。


 だが、回転しながら飛んだフライパンは、人頭蜘蛛の人頭部分を吹き飛ばした。

 蜘蛛の黄色い体液が吹き出し、キャリーが振り返ってのけぞった。

 俺は走り出していた。

 蜘蛛は死んでいない。


 人の頭部がどんな機能なのかわからないが、人間であればオデキが潰れたようなものかもしれない。

 長い前足を振り上げている。

 キャリーは後退したが、民家の屋根の上である。

 足場はない。


「キャリー、飛べ!」

「無茶な……」


 キャリーの声は途中で消えた。

 飛ぶまでもなく、足を滑らせた。

 落下する。

 俺は飛び込んだ。


 受け止めようとした。

 間に合わない。

 俺はそう覚悟した。

 だが、俺は地面に這いつくばり、腕にキャリーを抱えていた。


「キャリー……無事か?」

「ナイスキャッチ」


 キャリーが立ち上がる。怪我もしていないようだ。

 民家の上で、蜘蛛が興奮している。


「キャリー、ダマスを誘惑しちゃだめよ」


 サリカが背後に立っていた。


「うん。それは、サリカに任せるよ」

「それより、あの蜘蛛どうする?」


 俺は2人の会話が聞こえていないふりをして、目の前の脅威を指摘した。

 蜘蛛が壁を垂直に降りてくる。


「はい」


 サリカは気軽に、俺に包丁を渡した。

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