表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転聖 ~100歳で大往生した聖人が、滅亡寸前の異世界を救うために転生しました~  作者: 西玉
3章 地獄に落ちた魂

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/79

55話 塔の上階へ

 塔の高さにやや気圧される。生前にもっと高い塔はいくらでも見ていたが、周囲に人口の建築物が一切ないことを考えると、建築技術が進んでいるとはとても思えない。

 しかし、人の手によるものに間違いない。これが巨大な蟻塚だというのならそれはそれで驚きだが、壁面の滑らかさや一定間隔で設置された窓の形は、人間以外の動物が作ったとは思えない。


 もっとも、ここは地獄だ。

 人間以外にこういった建築物について造詣が深い生物がいても、不思議ではない。鬼とかも、実は手先が器用かもしれない。

 そう思ってから、鬼とかいそうなものだが、どうにも出会わないことに気づいた。


 地獄はもともと、変な姿の奴であふれているので、鬼なんて初めからいなかったのかもしれない。

 地獄の変な奴らを表現するために、鬼、という言い方をしただけかもしれない。

 俺は勝手に納得した。


 別の言い方をすると、俺は初めから、鬼に囲まれていたのだ。

 ならば、いまさら気にすることでもない。

 待ちに待った、塔の内部を楽しむことにする。






 塔の中は、通路のようになっていた。3方向に伸びているが、すぐに壁に行き止まって見えなくなるのは、通路が折れているのだろう。

 迷路のように複雑に入り組んでいるのでなければいいがと思う。


 何度も死を繰り返してようやくたどり着いたのに、さらに虐められるのは悲し過ぎる。

 しかし、その悲し過ぎる事態が起きたのだと、俺は認めざるを得なかった。

 少し通路を進むと、俺に先行して塔にたどり着いていた先輩たちが、点々と転がっていたのだ。


 どういう原因かはわからない。

 姿かたちが不均一なので、倒れた奴の顔を見ても、苦しんでいるのかそうでもないのかも判断つかない。ただ、動かない。

 完全に死亡すると灰のように崩れてしまうので、死ぬのに時間がかかっていることはわかる。


 塔の内部に、疫病でも蔓延しているのだろうか。

 塔の管理人は何をしているのだろう。そんなもの、はじめからいないのだろうか。いないのだろう。

 誰に文句を言っていいのかわからない状況と言うのは、ストレスになる。

 俺は、ストレスを感じた。


 外に出てやろうか。外に出て、塔に入るなと、外にいる連中に言ってやろうか。

 そう思ってから、そんな義理は全くないことに気付く。

 面倒なので、放置することにする。

 塔の中だろうと、塔の外だろうと、死んだら同じことだ。


 もう一度、黒血の池からやり直すのだ。

 永遠に、飢餓状態から希望を求めて徘徊するのだ。

 そう思えば、怖いものはない。

 俺は塔の一階をぶらぶらと歩いた。


 周りに、動ける者も動けない者もいなくなっていたので、どこに向かえばいいのかわからなかった。

 解らないので、少し立ち止まって考えることにした。

 そうすると、なんだか招かれているような気分になった。


 一方向から、甘い臭いが漂ってくるような気がする。

 甘いものは好きではない。

 だが、この場合の甘いものというのは、飢餓状態を癒してくれそうな何かという意味で、文字通りの味覚的な甘さではない。

 誘われているのなら、その誘いに乗ることにする。


 塔の中で何者かが、塔の主か管理人か、住み着いている住人か知らないが、はるばる訪れてくれた相手をもてなそうというのだ。

 無視することもないだろう。

 俺は、その方向に向かおうとした。

 たぶんだが、塔の中央に向かうことになる。


 だが、まっすぐには進めなかった。

 塔の内部は、複雑な迷路になっていたのだ。

 進みたい方向に壁があり、俺は迂回を余儀なくされた。

 たまたま、階段に行きついた。


 一階の中央を目指すか、階段を上るか、やはり考えた。というのも、階段の上からも、同じように甘い香りが漂ってきたからだ。

 迷う時間は短かったと思う。どうせ、一階の中央にたどり着いても、何かがあるという保証があるはずもない。それなら、二階に上ろうと思った。

 自暴自棄になっていたのかもしれない。


 というより、地獄に落とされて、何度も死亡し、飢餓状態のまま計画的に物事を考えろと言う方が無理だと思う。

 俺が一階から二階へ上ったとき、動く影があった。

 仲間だろうか。


 いや、一緒に地獄に落ちたからといって、仲間ということにはならない。

 黒血の池で誕生を繰り返したからといって、仲間ということにはならない。

 だが、敵対をする理由はない。

 ならば、地獄の住人たちを、俺は仲間と呼ぼう。


 嫌がる奴は無視しよう。

 俺は生前の、宗教的なカリスマを勤めた絶対者の寛容な考え方を抱きながら、動く影を追った。

 ほんのわずかの間目を離した隙に、その者は俺の死角に入りこんでいた。

 俺が地獄で見たどんな奴らより、人間に近かった。


 前世の俺が憧れた体形に近く、鎧をまとっていた。

 地獄で見たどんな奴より前世の人間に近いそいつは、たぶん地獄で今まで見た誰よりも、人間から遠くはなれた存在だった。

 全身を石色の鎧で包み、石色の剣を振り上げ、俺の言葉を聴くこともなく、問答無用で剣を振り下ろしたのだ。


 俺は受け止めようか、避けようか、少しだけ迷った。

 迷う時間は短かったように思う。

 何しろ、あっという間に頭を割られ、迷うことすらできなくなっていたのだ。

 目の前が真っ黒に染まり、視界を確保するために顔を拭いた後、俺は黒血の池に戻っていることに気が付いた。






 2回目に塔にたどり着くまでに、43回死亡した。

 最初にたどり着いた時よりも多くの回数を重ねていたが、苦にはならなかった。

 こういうものだと慣れてしまったのだろう。

 最初に塔にたどり着いた時より遥かに多く死んだのにも関わらず、2回目の到達には感慨も沸かなかった。


 話し相手もできた。

 すぐに死んだあと二度と出会うことはなかったので、そいつとは長続きしなかったが、話し相手は割とすぐにできた。周りの連中も、孤独は嫌いなのだと感じた。

 死ぬと二度と会えないのは、死んで再生させられる度に、見た目が変わっているのかもしれない。

 俺も、実は死ぬ度に顔が変わっているのだろうか。


 考えてもわからない。鏡を拾っても、どうせ死ねば落としてしまう。

 物欲は無くなりそうだ。

 こうして、いくつかの欲をなくして、地獄に落ちた俺の罪は浄化されていくのだろうか。

 二度目に入った塔の中は、1回目と変わらなかった。

 時間にして数か月は経過しているはずだが、何も変わらない。


 本当に数か月経過しているのかと言われれば、俺にもわからない。

 地獄には太陽がなく、朝も夜もないため、時間の感覚はない。

 一度死んでから、どのくらいの感覚で黒血の池に戻っているのかもわからない。死んで再生する間、俺の意識がないだけで、数日も経過しているのかもしれない。


 代り映えはしない塔の中を、俺は前回とは違う通路を歩いてみた。だが、結局は一緒だった。

 途中で倒れる同僚の兄さんたちが転がり、完全に死ぬと崩れる。

 俺が通りかかるのとちょうど同じタイミングで、一人が崩れた。一人と呼ぶのが適切かどうかもわからない、ごつい奴だった。


 俺の足を止めたのは、そいつが崩れたからではない。崩れた後に、細長い木の枝のようなものがあるのに気づいたからだ。

 ごく細い木の枝は、縮れた髪の毛のように見えた。色は真っ黒で、人体に張り巡らされた毛細血管のように、複雑に絡み合っている。


 死んだあいつの一部だろうか。他の連中は、死んでも何も残らなかった。

 あるいは、死んだ奴の命を奪った何かだろうか。

 俺は、黒い血管のような植物の一部を見つめていた。


 毛玉のような植物が、ずりずりと移動を始めた。

 自ら動いているのではないことがわかった。

 引っ張られているのだ。引っ張っているものがあるのだ。

 毛玉のような植物につながる、蔓のような細い茎が続いている。

 俺は、その後を追うことにした。

明日から新作始めます。

異世界転聖は完結まで同じぐらいのペースで続けますので、応援していただけると嬉しいです。

異世界転生して100日間の出来事を書く予定で、タイトルに「100日」ってつきます。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ