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異世界転聖 ~100歳で大往生した聖人が、滅亡寸前の異世界を救うために転生しました~  作者: 西玉
3章 地獄に落ちた魂

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54話 塔への挑戦

 気が付くと、俺は黒血の池に落ちた。

 どうやら、死ぬと振り出しに戻されるようだ。

 周りからもぼちゃぼちゃと音がしているので、同じように死んだ者たちが、同じように池に落ちたのだとわかった。


「うわっ、お前、気持ち悪いな。一体なにをやらかしたんだ?」


 俺は隣で立ち上がった、顔が三つある薄気味悪い奴に声をかけられた。顔が三つあるが、全く同じ顔が側面に並んでいるため、脳がたくさんあって便利だということもなさそうだ。

 こいつからみて、俺は気味が悪いのだろうか。考えてみれば、こいつも自分の姿を見たことはないはずだ。

 世間知らずなのだろう。気にすることはない。

 だが、俺は全身が真っ黒だったが、俺の横に落ちた三つ顔は、黒と茶色のまだら模様だった。


「あんた、黒くないな」

「……そうか?」


 やはり、自分の顔を見る手段が無いのだ。


「俺は真っ黒だけど、あんたはまだらだ。どうして違う?」

「何度も死んでいるうちに、色が落ちてくるらしい。色がすっかり落ちたら、地獄から出られるっていう噂もある」

「……へぇ」


 黒い色が落ちるのは、罪が償われたということを意味するのだろうか。地獄の罪というのは、償えるものなのだろうか。

 考えても解らない。


「どうして、みんな形が違う?」

「俺が知るか」


 ということだ。解っていることは少ない。

 俺は気持ち悪いと言われているが、実は周りの奴らの感覚が特殊なだけで、人間の姿をそのまま保っているということもあり得る。

 見た目を気にしても仕方がない。

 美女の極卒でもいるなら考えるが、極卒がそもそもいないし、地獄で性別が意味を持つのかどうかもわからない。






 しばらく黒血の池でじゃぶじゃぶした後、俺はまたも塔に向かった。

 他の多くの者が塔を目指す。俺より、遥かに多く死んだ者も、やはり塔を目指す。

 何度も死ぬうちに色が落ち、地獄から抜け出ることができるというなら、効率よく死ねる塔というのはとてもありがたい存在なのかもしれない。


 ほとんどの気味の悪い連中が、同じ方向に向かう。

 だから、俺も同じ方向に向かう。

 想像通り、塔が見えてくる。

 俺はまた、塔を見上げる位置にくる。


 足元には、針の堀がある。

 今度は押されなかった。

 一周ぐるりと回ってみたが、渡れる場所はない。塔を堀が囲み、堀の深さも幅も、凶悪なほど均一だ。

 気味の悪い連中が、次々に堀に落ちていく。


 すぐに死ぬ奴もいれば、死なずに動いている奴がいる。

 どんなに深い堀といえども、底なしではない。

 気味の悪い連中が次々に落ちれば、その上を歩いて渡れるようになるだろう。

 俺はしばらく様子を見ていた。


 次々に落ちていく。

 どうして、俺以外の奴らが何も考えずに落ち続けるのかわからない。あるいは、死ぬことも予定の一部なのだろうか。

 しばらく見続けて、俺は堀が一杯にならない理由を理解した。

 死なずに蠢いている奴は、いつまでもそこに居る。だが、死んでしまった奴の腐敗が、異様なほど早い。


 池で再び産れ、まっすぐに塔に戻ってきても、自分の死体を見ることはできないだろう。

 ということは、俺が自分の姿を見ることもできないというわけだ。

 少しだけ残念だ。どこかで鏡を探すしかないようだ。

 次々に落ちていく連中の上を歩けば、そのうち塔にたどりつくこともあるだろう。だが、いつまでも堀が埋まっているということはない。渡れるとしても、長い時間ではない。


 俺は、堀の淵に立って少し考えた。

 針に刺さるのを承知の上で、落ちるべきだろうか。あるいは、堀が埋まる短い時間を待って、渡るべきなのだろうか。

 そもそも、本当に塔に入れば、美味いものがあるのだろうか。

 何も疑わず、どうして他の連中は堀に飛び込めるのだろうか。


 堀に落ちても、結果は見えている。死ぬまで刺さったままで、死んだら同じ場所に、黒い池の中に、産れ落ちるのだ。

 なら、まず塔に入ってみることだ。

 何があるのかわからない。誰に聞いても要領を得なかった。


 俺は待った。

 結果が現れた。

 俺は、針に刺さった連中の上を渡った。

 もう少しで、堀を渡り切れる。

 そう思った瞬間だった。


 足元の死体が腐敗した。

 腐敗し、崩れ去った。

 俺の足に、針が突き刺さり、足の甲を貫いた。

 次の一歩を踏みだせば、掘を渡り切れる。

 だが、次の一歩を踏みだすために、別の足に力を込めた瞬間、足の甲を貫く針が長く伸びた。


 針が伸びたのではない。俺の体が沈んだのだ。

 俺は無数の針に貫かれた。

 今度の体は、簡単に死ねなかった。

 死なせてくれなかった。


 俺の頭を、針に串刺しにされた頭を、臭い足が踏みつけ、堀を越えた。

 理不尽だ。

 俺は文句を言うために、顔を上げようとした。

 顔が動かない。

 針で貫かれている。

 俺はしばらく、動こうとしてもがいた。


 動けなかったが、動こうとすればするほど、体中が痛んだ。

 体がぼろぼろと崩れた。

 手が動いたと思ったとき、手の皮膚が大きく裂け、黒い血が流れた。

 俺は、血も黒いらしい。

 再び、巨大な足が俺の頭を踏みつけ、俺の体が沈んだ。


 俺の上に、大きな胴体が降ってきた。

 俺は、堀の底に落ちた。

 俺はしばらくそこでじっとしていた。何もすることがなかった。できなかった。

 しばらくして、俺は死んだ。

 死んだのだと気づいたのは、黒い血の池に落ちた時だった。






 堀の中に落ち続けて、つまり、串刺しになり続けて、15回目にして、俺は堀を渡り切った。

 慣れてしまえば簡単だ。

 串刺しになるのを恐れず、死んでもいいやと割り切ることだ。

 つまり、間違いなく渡れるという攻略法など存在しないのだ。

 死ぬ時は、もちろん苦しい。死ぬほど苦しい、というのを実感できる。ただし、死ぬほど苦しいという感覚も、意外と慣れるものらしい。






 俺の前には、ただ塔がある。

 見上げるほど高い。

 掘さえなければ、塔に入るのは簡単だ。何しろ、入口には扉もない。

 俺の先輩たちが、我先にと道を示してくれている。


 塔に入れる奴は、見ている限り10分に一人ぐらいだろうか。もちろん、時計などないので俺の体内時計に頼るほかない。つまり、当てずっぽうだ。

 塔の中に入れば、死なずにご馳走にありつけるのだろうか。

 たぶんそうだ。そうでなければ、これだけ大勢の連中が、塔に押し寄せるはずがない。

 何より、入った奴はいるのに、誰も出てこない。


 きっと、塔の中は居心地が良すぎて出たくなくなるのだ。

 ならば、食い物と女もいるかもしれない。

 そう思ったとき、俺は自分の体を見降ろした。

 性欲、というのはどうなっているのだろう。


 体を見降ろすと、生前と変わらない、さほど腹は出ていないが鍛えてもいない体だった。

 体質的に太らなかったのは幸いした。もし太りやすい体質なら、俺はぽっこり腹が出て、自分の性器すら見ることができなかっただろう。

 幸いにも、俺は生前と同様の器官を発見した。ただし、反応はしない。静かに沈黙している。

 まあ、いまはどうでもいい。性欲があろうがなかろうが、発散する相手がいないのだ。

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