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【完結】亡郷のナユタ ー:DECILLON:s.Nostalgledー  作者: 棹中三馬
Vol. 1.00 妖精郷の伝承《フェアリー・メモリーズ》
9/47

1ー3 夕食にて

食堂にはそれなりに客がいた。

本日のメインディッシュは宿屋のおばちゃん特製のデスホーンラビットのクリームシチュー、ライオンフィッシュの甘辛煮、クリオネコンブの海藻サラダだった。



「はー、お肉がお口の中で蕩けるー。おいしーい」


「この甘すぎず辛すぎずの絶妙なタレの味加減。自家製ドレッシングの濃すぎない塩加減が絡まったサラダは、まさに食べる芸術品」


「いやー、そんなにベタ誉めされてもなにもでないわよーお嬢ちゃん。おほほほ」



このモンスター達はどれも捕獲が非常に難しく、とても美味な高級食材だという。

どうやらおばちゃんの夫が凄腕の討伐者らしく、毎日直々に食材を狩りに行っているようだ。

店からの仕入れを極力減らすことでコストを最大限までに下げているのだ。

確かにこの夕飯+宿がつくなら十分に安いし、寧ろ黒字が出ているのか客の方が不安になるくらいだった。



「うん。うまい」



俺は二人みたいに洒落た食レポも出来ないので平凡な一言しか出せない。

以降はただ黙々と味わいながら食べていく。


しかし、そんな平和な時間も束の間。



「おうおう。ちょっと可愛いなそこの嬢ちゃん」



折角の楽しい食事だったのに邪魔が入ってしまった。

でろんでろんに出来上がっている青年がコルトの肩をカーディガン越しに触り出したのだ。



「ちょっと、触らないで下さい!」


「酒臭いです。早くコルから離れてください」


「あんた、ナンパするなら外でやってくんな!」


「あんだとーババア。俺は偉大なお客様だぞああん?」



誰が見ても分かりやすいDQNである。

うわー、酒臭いし面倒くさい。


一旦食事を中断して、この酔っ払いをどうにかしよう。



「あの、やめて貰えませんか?」


「あん? お前はこいつの彼氏か?」


「いや、ただ成り行きで一緒に行動をするようになっただけで……」


「ほー、異世界転移したからせっせとハーレム作ってますってかー。こんなロリっ子にまで手を出しちゃって……、羨ましーぜまったくっ」



そんな軽蔑と羨望の眼差しで見られてもな。

そりゃ楽しい事もあるけれど、あんたが思い浮かべてる程俺はバラ色では無い。

まあこういう意見も相手には僻みにしか聞こえないだろうから、言わないが。



「兎も角、他の人に迷惑なのでこれくらいにしてください。それに俺は転移も転生もしていません。討伐者です」


「ほー、よりによって討伐者風情が俺達冒険者に楯突こうとはいい度胸だなぁおい。ちょっと表に出ろよ……いだぁ!」



酔っ払いの頭に誰かの鉄拳が飛んできた。



「おい、いい加減にしろポルド」


「誰だよおめー……ひっ、団長!? こっ、これにはちょっと事情が……」



気持ち良さそうに酔っ払ってた男は、振り向いた途端に顔を青ざめた。

硬派な鎧を纏った中年男性が呆れた様子で酔っ払いを見ていた。

団長ということは上司にあたる人間だろう。


しかし、団長はこれ以上部下を責めることはせずに、俺達に深々と頭を下げたのだ。



「すまんな。ポルドは普段は良い奴なんだが酔っ払うと手が過ぎるんだよ。今回は俺の顔に免じて許してやってくれんか? 慰謝料がいるなら俺が出すからー」


「いや、そこまでされる権利は俺達にはありませんから。此方はちゃんと反省してもらえればそれで良いです」


「だとよ。さあポルド。誠意を込めて迷惑かけた人に謝れ」


「すっ、すいませんしたぁぁ!」



謝罪は終わったので一件落着。

俺は無駄な争いはしない主義だからな。

だって俺死にたくないもん。



「仲介してくれてありがとうございます。……あの、誰ですか?」


「あちゃー、知らなかったのかよ! まあいい。俺達はここらではそこそこ名の通った冒険者集団【電波箱(エレキテル)】。俺は団長のイデカミだ。団長とでも、デカとでも好きに呼んでくれぃ」



噂程度には聞いたことがある名前だ。

所謂未攻略ダンジョンの攻略を主とした凄腕の冒険者集団、一般的には攻略班と呼ばれるパーティだ。

それに彼は、冒険者ギルドの中でも特に名声のある者達の組織である『八勇人』の一角を担っている大物だ。

具体的にどんな事をやっているのかまでは分からないが、兎に角有名人なのだ。



「俺はハジメです。そしてちっちゃい方がナユタで、おっきい方がコルト」


「さっきは助けてくれてありがとうございました。イデカミさん」


「……言葉に悪意が含まれている様に汲み取れるのは私だけなのでしょうか?」



俺の方をそんなジト目で睨まれても。

この方が紹介しやすいんだから。



「まあまあ気にすんなよ嬢ちゃん。俺達が昔いた地球には『貧乳はステータス』という格言があるくらいに、ロリには需要があるんだぜ」


「ステータス……貧乳?」



別に胸の事で言ってたつもりはないんだけど、そう捉えられても仕方ない表現だった事には反省する。

ナユタにはデカさんの言っていたことがよく分かっていない様子だったが、あまり理解して欲しい情報でも無い気もする。



「地球……もしかして、ナユタと同じ世界から来たんですか?」


「俺達はまごう事なく地球からやって来た生粋の日本人よ。まあ冒険者のなかにも地球以外の星出身の奴もわりといるんだけどなぁ」


「そっか。じゃあナユタの世界とデカさんの世界はまた別なのかも……」



ナユタについての情報が入手できると思ったが、そうは問屋が降ろさなかった。



「まあそれはひとまず置いておくとして、今度俺達と一緒に仕事してみないか?」


「えっ、それってまさか未攻略ダンジョンの遠征ですか!? 本当に良いんですか!?」


「おうよ。俺達は明日ケセ風洞という最近発見されたばかりの激甚級ダンジョンに潜入する。こうしてあんた達とあったのもなんかの縁だ。可愛い女の子が参加すればうちの奴らも喜ぶしな」


「最後の目的が本命なのでは?」



ナユタの図星な指摘に、デカさんは悪びれる様子もなくヘラヘラとしている。



「まーそうかっかしなさんな。嬢ちゃんのべらぼうな強さは八勇人の会合でも話題になってるぜ。それに兄ちゃんのひねくれた魔法の事もな。二人にとってもいい勉強になるだろうぜ」


「私としては同行したいです。ハジメはどうですか?」



意外に反対するかと思ってたナユタが乗り気だった。

どうやら平行世界には存在しなかった新しいダンジョンと聞いて興味が沸いたのだろう。



「ナユタが良いんだったら俺は構わないけど、死なないかな俺……」


「ああそこは気にすんな。今回はあくまでボスの間の直前まで下見で行くだけだから、ダンジョンボスとは戦闘させはしないよ。道中の雑魚ならあんたらでも狩れるだろうし。万一死にそうになっても俺達が責任をもってお前たちを護るさ」



そこまで言うのだったら心強い。

こうして俺達は、《電波箱》と共に遠征に参加する事となった。

この作品をお読み下さりありがとうございました。

※ 本文 一部改訂 2021/05/02

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