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【完結】亡郷のナユタ ー:DECILLON:s.Nostalgledー  作者: 棹中三馬
Vol. 1.00 妖精郷の伝承《フェアリー・メモリーズ》
7/47

1―1 困惑する受付嬢

「よし、ついたな」



最寄りのギルドへと到着した俺達。

田舎街のギルドという事もあり、素朴な木造作りの平屋である。



「わりいな。途中で薬草採取のクエストに付き合わせちまって。少しでも金の足しにしておきたくてな」


「いえ。食材調達は大事ですから。私も人工知能とはいえ人間の身体に梱包された以上は、飲み食いしないと生きてけませんので」



人工知能とは言うが見た目はどう見ても可憐な少女なんだよな。



「その事なんだけどさ、身体になんか入ってるのか? 機械みたいなのが。普通の人間と構造が違うの……」


「あまり女性の身体について聞くもんじゃありませんよ。やらしいです」



なんか冷たくあしらわれた。あんまり他人に言いたくないのかも知れない。

というかやらしいって単語どこで覚えたんだ……まあいいや。

深追いしても厄介事になりそうだから、忘れてさっさとギルドに入るとしよう。



 *



「いらっしゃいませお客様。本日はどの様なご用件でしょうか?」


「以前受注していた薬草採取のクエストの報告にきた」



財布のポケットからカードを引っ張りだし受付嬢に渡す。

ギルドカードというどこのパーティ、どこのギルドに所属している冒険者及び討伐者なのか、個人に割り当てられるギルドナンバーが書かれた代物だ。


このカードの情報はギルド協会に情報が共有されるので、受注したギルドと報告したギルドが異なっても問題ない仕組みらしい。


勿論個人情報なので紛失には気を付けなければいけないが、再発行代を払えば新しく作り直せるのがまだ救いではあった。



「了解しました。それでは必要個数の薬草20個と、他にお売りいただけるアイテムがあれば一緒に提出してください」



マジックバックに薬草を集めに集めたので当分は困らないだろうが、ついでに集めた副産物のアイテムはあらかたの物はここで売ってしまうことにした。


うーん、ウマシダケは軽く火で炙ると酒の肴として重宝するから残しておくか。

いくらでも入るし食べ物を入れても腐りもしないマジックバックはマジで重宝するぜ。どういう原理なのかはさっぱり分からんがな。



「はい結構です。クエスト報酬とアイテム売却合わせて3600キルです」



二人がかりで日が暮れるまで採取してもこんなものか。

まあこれだけあれば今日の晩飯には困らないか。


今日の努力の対価を片手で受けとり喜びを噛み締めていると、ナユタは不思議そうに俺の方を見つめていた。

上目使いがとても愛らしく、父性本能が逆撫でされるような蠱惑的な表情だ。



「成程。ここではアイテムの売却ができるんですか?」


「知らなかったのか? てっきりギルドカード持っていたから知ってたのかと思ったぜ」


「いえ。アイテムはアイテム屋で売るものなのかとずっと思ってました」



まさかの餅は餅屋理論であった。

受付嬢はくすりと微笑みながらナユタの方に優しく語りかけた。



「はい。お連れさんも売却したいアイテムがあればどうぞ」


「じゃあ。これを」



そういってナユタはマジックバックから、使わなかった輪廻の腕輪を10こほど取り出して受付に並べる。

受付嬢は目を見開いて驚愕していた。

周りの人達もドン引きしているし。

まあ、そうなるわな。



「!? お客様! この装備はヘルヘイムドラゴンのレアドロップでは! 何故こんなに沢山お持ちに……」


「? 適当に狩ってたら落ちました」



おい、適当に狩れる相手じゃないんですけど。

歴戦の冒険者でも8人以上のパーティを組んで漸く互角くらいの強さなんだから。

しかし複数人の場合だと、一つしかドロップしないアイテムを誰が所有するか争奪する争いが漏れなく勃発するんだけどな。



「……はあ。それでは、一応念のため《鑑定》をさせて貰いますね。……別に疑っている訳じゃありませんが、……一応決まりは決まりですので……」



そういってタジタジな受付嬢は腕輪達を部屋の奥へ持っていった。


最近は複製魔術によってアイテムを違法に複製するやからや、他人のアイテムを強奪するやからが後を絶たないから高額のアイテム売却には鑑定専門家による《鑑定》が必要なのだ。


アイテムの名前、相場売却値段、現在と過去三代までのアイテムの所有者のギルドナンバーが白黒はっきりするこの能力はこの世界でも使える物はそう多くはない。


因みに俺の薬草みたいな売却単価の安いアイテムは、鑑定は免除されるのが暗黙の了解である。

勿論建前的にはしなきゃいけないのだが、わざわざフィールドでいくらでもタダで採取できるアイテムを犯罪を侵してまで強奪する奴はまずいないからだ。

それに多忙なギルド職員の仕事量を少しでも削減する目的もあるのだろう。



「? 何であの女性はあんなに動揺しているんです?」



そしてご本人は何故こんなにキョトンとできるんだ。

万一あれが偽物だったらあんた偽物転売罪で憲兵に捕まるというのに。

まあこの悪びれない態度を見る限り全部本物なんだろうが、それだとそれでこの少女のヤバさを周囲に証明してしまうことになる訳で。



そして、案の定俺の特に意味のない期待は裏切られる事はなかった。



「大変申し訳ありませんでしたお客様。専門の鑑定士によって本物だと証明されました。此方が証明書と、輪廻の腕輪10個相当で……120000キルになります」



羊皮紙でかかれた証明書と共に、膨大なキルが運ばれてきた。

単価で12000キルもするのか。

やはり激甚級ダンジョンのエリアボスは伊達じゃなかった。

今にも眩暈で倒れそうな受付嬢から大量のキルを受けとり、無事に売却は終了した。





ギルドを出るとすっかり日は沈んでいた。

家から溢れる仄かな灯りがとても幻想的で、今までの疲れも全て吹き飛んでしまう。

ソロの討伐者生活だとこんなに世界が面白くて、素晴らしい物だなんて絶対に思えなかっただろうな。



「今日は沢山稼げました。ありがとうございます」


「いや、ドラゴン倒して腕輪集めたのはナユタだからさ……。俺は一頭横取りしただけだし」


「いえ。今夜は久方ぶりに良い宿に泊まれそうです。何ならハジメも一緒にどうでしょうか。今夜は私が奢りますので」


「おっ、俺は別に野宿で良いから。只より怖いものは無いって言うし」


「私としてもハジメに見て貰いたい物があります。今夜は是非一緒に」



これは、そういうことなのか。

だけどそういう展開にはあまりに早いというか、何か話が上手すぎて裏があるんじゃないかというか、そもそもナユタは見た目が幼すぎるというか。

いや、案外こう見えて実年齢は思ってたより年上なのかも……嫌々、何考えてるんだ俺は。馬鹿なのか。死ぬのか?



「あっ、勿論泊まる部屋は別ですからね?」



……まあ、でしょうね。

変な心配して損したぜ。

ここまでお読み下さりありがとうございました。


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