1ー序 妖精教の少女
今回は前日譚。神様目線のお話。
「ああ。我らのハルトニウス様。今日一日も我ら妖精郷の民をお守りくださいませ」
質素ながら掃除の行き渡った教会の聖堂に、エルフの修道女は祈りを捧げていた。
妖精郷はイルタディアの中でも特殊な街で、四方が険しい山々に囲まれており、上空の空洞は魔法によって周囲の山々の様相にカモフラージュされている。
故に誰からも気付かれない隔離された街であり、そこにエルフの一族はひっそりと暮らしている。
「姉さん。大変だー、大変だよー!」
「ちょっとタイム、お祈りの時間には話しかけないでって言ってるでしょ」
エルフ達は長命であり魔術の才能にたけている、容姿端麗な者達が多い種族だ。
それゆえに、人間達はエルフを古来より奴隷として利用し、兵器として扱った。
一見不便なこの立地も、遠い妖精郷の先代達が周囲の国家の争い事に巻き込まれる事の無く、一族の安寧の住み処をほっしたからだ。
この街では周囲の国々とは異なる独自の文化が根強く発展している。
「郷に人間が入ってきたって! それも盗賊だ!」
「何ですって!?」
「今大人達があいつらと戦っているんだ! ケシア姉さんも早く逃げて!」
「……ええ。分かった。タイムも一緒に逃げましょ」
妖精教は妖精郷のエルフ達が信仰する、妖精王ハルトニウスを祭り上げる宗派だ。
エルフ達は人間達の神々を信仰しない。
それが神々は酷く気に入らなかった。
妖精教の初代教祖であるマトカリナ教皇の謎の失踪事件以降、今現在も妖精教のトップは不在の状況が続いている。
(どうか妖精郷の民をお守りください。ハルトニウス様、お祖父様……)
声なき祈りを天へと捧げ、エルフの姉弟達は教会から駆け出した。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
このエルフの姉弟は今章の重要人物ですが、最初の内は出番ありませんよ。
中盤から登場します。