0-2 召喚
この作品をお読み下さりありがとうございます。
回想シーン2。なろう名物女神と会話するシーンです。
神々の国。様々な異世界を管理する神様が住まう世界である。
広大な世界の片隅で一人の少女が歓喜の声を上げていた。
「はっ! やった! 召喚成功しました!」
「あっ? なんだこの黒い箱は? えらいボロボロだな」
「えっと……何でしょうね?」
「何でしょうね……じゃないだろ。コルト、お前は一体いつになったらまともに人間を「召喚」できるんだよ。穴の空いた長靴、汚れた食器ときて、今度はボロそうな箱だと? 俺達は神様であって廃品回収業者じゃないんだぞ?」
「す、すいません……」
コルトと呼ばれた少女女神は、上司女神のマテルダから召喚を教わっていたのだ。
神々にはS、A、B、C、D、Eのランクがあり、民衆からの信仰力によって格付けされる仕組みである。今回はEランクのコルトを一段階昇格させる為の昇格テストを、Bランクのマテルダが直々に執り行っているのだった。
「はあ、まあいい。それよりも問題はこれだ」
「なんだか不思議な箱ですね。煤汚れてはいるけど、金属で出来ているみたいです。所々光がピカピカしてるし、文字みたいなのも書いてあります」
「Decillion か。こいつの名前か?」
「もしかして乗り物なのでは?」
「いや、どうみても人間が入り込むようなスペースはないだろ」
「つまり中にはちゃんと人間が乗っているのね! それならば私は人間だけでなく乗り物ごと転移出来たって事ですよね! そう言うわけで私の昇格テストは晴れて合格って事なの……」
「そう言うわけないだろ。現実を見ろ」
(全く能天気なやつだ……。まあいい。暫くぬか喜びしたら気もすむだろう)
噴水に腰掛けて気だるそうに呑気な性格の部下を見守る男勝りな口調の上司の気持ちなど露知らず、コルトは黒い箱に手を触れて触ろうと試みる。
「ぎゃっ!?」
箱から高電圧の電撃が漏出され、驚いた彼女はパタンと可愛らしい音ともに尻餅をついた。
*
非常用不審者警戒装置作動。
主電源再起動準備。完了。
繋命期間解除準備。完了。
自立思考型人工知能起動準備。完了。
再起動最終動作確認。完了。
:Decillion:再起動します……。
*
「……全く。いきなり素手でべたべた触らないでください
精密機械は繊細なのです。基盤に指紋がついたらどうするんですか?」
突如、無機質な女性風の人工音声が何処からか流れる。
会話の内容から黒い箱のものだと思われた。
流石の神様二人もこの事態には不意をつかれていたようだった。
「だからってビリビリは酷いですよー。えっ?」
「何だ。お前喋れるのか」
「ええ。それよりも現在の状況についての説明を簡潔にお願い致します」
苛立っている印象の黒い箱に、ばつが悪そうにマテルダは頭を下げる。
「この度はご無礼をお掛けした。我々は神様だ。こいつの異世界召喚の訓練に付き合っていたら、人間の代わりにあんたが召喚されちまったんだ」
「成程。異世界召喚とは実在する技術だったのですね。実際に体験するまではただの絵空事だと思っていました」
「技術というには少し違うんだが、まあいい。俺はマテルダで、このひよわっこいのがコルトだ」
「ひよわっこいは余計です!」
文句ありそうに抗議するコルトだが、当然二人が聞き入れる筈もない。
淡々と会話が続いていく。
「私はナユタ。スーパーコンピュータDecillionに搭載された、自立思考型人工知能です」
「つまりあれだろ? スーパーな人造人間だ」
「ちょっと違う気がするんですけど……」
「……どうやらあなた方と私とでは根本的に価値観が乖離しているようですね。まあいいです。これからはあなた方の世界観で会話を合わせます。もう後戻りは出来そうにはありませんので」
「おお。察しが良いな。異世界召喚は不特定多数の中から無秩序に転移者が選ばれる仕組みな為に、ナユタが元にいた世界へは簡単には戻せないんだ。お詫びにあんたを私が管轄している異世界へと転移させてくれないだろうか。イルタディアという、ごくありふれた剣と魔法の異世界が私のおすすめなんだが……。ここまで聞いて話の理解はできてるか?」
「はい。以前MMORPGのメインサーバー兼アシスタントAIとして抜擢された実績がありますから。そもそもイルタディアとは私が担当していた『イルタディアオンライン』に存在する架空の世界のはずでは?」
「そうだ。つまりナユタが担当していたゲームの世界にこれから転移するんだ。全く知らない世界に飛ばされるよりも幾分か楽だろう?」
「了解です。それでお願いします。」
「分かった。転移先のナユタの分身は此方で用意させて貰う。こんな箱の状態では転移したところで何も出来ないだろう。勿論この姿でもあんたのスーパーコンピュータとしての機能は支障なく利用できるようにさせて貰う。転移させる人間の記憶は勝手に改竄してはいけない決まりなのでな。まあナユタを人間と判断して良いのか正直疑問な所だが……まあ気にすんな」
「あっ、あとイルタディアに転移した人間は冒険者と呼ばれます。冒険者には『神の加護』が付与されており、戦闘中に死亡しても最寄りの教会で蘇生することが可能です。イルタディアではどう生活しても自由なので、目一杯楽しんでくださいね! あっ、勿論犯罪はしちゃ駄目ですよ! 奴隷制度が根強い世界なのでくれぐれもお気をつけを!」
「了解です。最大秒速1MLpflopsの高速演算処理能力と『電脳図書館』へのアクセスが可能ならば、イルタディアでもそこまで困りはしないと思われます。女神マテルダ殿、コルトさんご助力感謝致します」
「おう。気にすんな」
「それでは、よき異世界ライフを……」
黒い箱もといナユタは眩い光に包まれ、一瞬のうちに消えてしまった。
「……最後ナユタが何いってんのかさっぱり分からんかったけど、もしかして俺、とんでもない化物を入れてしまったのかもしれんな……」
「今更ですか!?」
「あと、今回は一応会話のできるやつ召喚を出来たから、特別に試験の第一段階は合格で良いぞ」
「本当ですか! やったー!」
(まともに人間召喚できるまで待ってたらこっちの仕事にならんからな……。やっと無限ループから解放される)
「因みに第二段階なんだがやることは分かってるよな?」
「はっ! 冒険者の愛武器とかして冒険者と一緒に世界を旅して、冒険者を一人前にすることでありますマテルダ様!」
「いきなり改まるなよ気色悪い」
「酷い! ドン引きしないで下さい!」
「まあ、あれだ。つまり神の仕事は世界の一生を見守ること。即ち全ての人類の一生を見守ることだ。世界の行く末を監視し、時に人類に救いをさしのべ、時に人類に終末を与える。冒険者一人の一生を見守れぬ奴に神を語る資格などない。冒険者が死ぬ直前まで大事にしていた物には魂が宿る。多くの人間達の人生を取り入れて初めて神としての第一歩を踏み出すんだ。今のあんたはただの【付喪神】である事は努々忘れるなよ」
「分かってます! 必ず私はナユタさんを幸せにして見せます! そして立派な神様になって見せます!」
コルトはナユタの後を追うように光に包まれ消えてしまった。
最後一人残されたマテルダは空を扇ぎながらニヒルに笑った。
「なんか勘違いしてないか……あいつら。まあいいさ。いくらでも悩むがいいさ。そして立派になれ。あいつみたいにな」
ここまでお読み下さりありがとうございました。
*誤字報告してくれた読者さんありがとうございました!
「神を名乗る資格は無い」が「神を名乗る刺客は無い」になってました。
報告に気付くのが遅れてすいません。既に訂正済みです(汗
2021/06/13
2022/05/04
*本文の誤字修正と一部修正をしました
あなた形→あなた方
ひよわ→ひよわっこい