終幕 原点回帰
本日9本目! ようやくナユタの過去編は終わり!
最後やけくそ気味でしたが、まあこれならエタっても悔いはない!
無事に退院できた私はファート神殿へ到着しました。
因みにコルトには再び大剣の状態へと戻し、取り合えずマジックバックの中に入って貰っています。
万一にモンスターと遭遇する事態を考えたら、大剣の方が対処しやすいからなのですが、かといって鞘も付いてない刃が剥き出しの状態で持ち運ぶ事も出来ません。
今度大剣を携帯出来るように、背中で背負える大剣用の鞘の購入も検討して措きましょう。
「おっと、ようやく見つけたよお嬢ちゃん」
黒スーツを着た三十路の見知らぬ男性が、慣れ慣れしく私の方へと向かって歩いてきました。
まさかモンスターではなく不審者に絡まれるとは。
今日はついていない日なんでしょうか。
はあ、と今にも溜め息をつきたくなりますが、流石に本人の前でするのは失礼だと思い直して、一応相手が何者かだけでも聞き出そうと思います。
「……貴方は誰ですか?」
「私はこの街のギルド長だ。君はアイン君と一緒にパーティを組んだって言う女の子だろ。ちょっとアイン君に合わせてくれないだろうか? 彼女がいなくなってからギルドの仕事が全然回らなくなっちゃってね……。やっぱり私達にはアイン君が必要だったんだよ。ほら、一緒にいるんだろう?」
ほら、言わんこっちゃない。
図書館の書記は意外に重労働な仕事なんですから、そう易々と他の人が入ってくる訳もないし、その人がアインと同じだけ仕事が出来る保証もない。
完全にざまぁですね。
「……もう手遅れですよ」
「何?」
「アインはもうこの世にいません。モンスターに食べられて、死にました」
「……死んだ? ……ちっ」
彼は彼女の冥福を祈るどころか、鬼のような形相で舌打ちをしました。
さっきまでの慣れ慣れしい笑顔が豹変し、彼の本性が露になった事に私は強い嫌悪感と不安を覚えました。
「じゃあ誰があのクソキツい仕事をするんだよ! 安月給で文句も言わずに働いてた奴隷がいなくなって、こっちはめーわくしてるんだよぉ!! 図書館の運営が回らなくなって固定客だった冒険者も大幅に減って、それに本部から今月までに改善できないと、折角ここまで成り上がった俺のギルド長の座まで剥奪するなんて言い出して、大変な事になってるんですよぉぉぉおぉぉ!!」
それって、完全なる自業自得じゃないですか。
アインは楽しそうに仕事をしていましたが、裏ではこんな酷い扱いを受けていたなんて許せません。
「そもそもアインをクビにしたのはギルド長、貴方じゃないですか」
私の強い見幕で指摘された事にますますギルド長は顔を赤らめ、周囲の目を気にする事もなく怒鳴り散らします。
「んだとーー? そんならテメーは仲間を見殺しにした人殺しじゃないかよ! どー責任取るんだよぉ!」
「触らないで下さ……痛い!」
ギルド長は乱暴に私の腕を引っ張って人目のつかない場所へとつれていきました。
使われていない部屋に投げ入れられ、鍵を掛けられます。
この展開は、いわゆる色々と不味い展開なのでは……。
「へっ、ガキだからアインを素直によこしたら大人しくさってやろうと情けをかけたが、気が変わった。おめえは俺達のだーいじな仲間を殺した責任を取って貰うからなあ! その体でぇ!」
「……私を風俗にでもつれていくつもりですか?」
「言っとくが、そんなに俺は鬼じゃないんだぜー? もっとイイ稼ぎ場があるんだよぉー。俺の性奴隷になれよ?」
「そんなの嫌に……いたぁ!」
乱暴に頬を打たれ、強引に胸ぐらを捕まれました。
私の力では成人男性を振りほどく事なんて出来る筈もなく、次第に意識が朦朧としていきます。
「俺はなーこう見えても選ばれた者なんだぜー? 俺の不正技能『欲の性杯』はな、俺の性欲を満たす事で金をいくらでも産み出せる、最強のスキルなんだよぉ。だから俺のハーレムに入れば、性奴隷にはあり得ないくらいの裕福な暮らしが出来るんだぜ? どうだ? ヤりたくてうずうずしてくるだろう?」
「ふざけないで下さい! そんな破廉恥なスキルなんて……きゃ!」
「まあ、取り合えず論よりも証拠だな。大人しく俺の人形になれば、金にゃ困らねえ生活をさせてやるよ、ゲヘヘヘ……中々可愛い体じゃないか」
ゲスな表情で私の服を無理矢理脱がし、汗だくの気持ち悪い手でお腹を擦り、這い上がる様に平たい胸を蛞蝓の様に撫で回します。
このままじゃ……、嫌だ、嫌だ嫌だ!
こんなクズ男の良いようにされるなんて絶対に嫌だ!
私の心からの拒絶が通用したのか、それかたまたまなのか。
「ばたん!」と鍵が掛けられた筈なのに、無理矢理ドアが誰かの蹴りによって壊されました。
「おいてめぇ……」
「ちっ、あんだよ? 折角イイ所に邪魔しやがって……ひぃ! あんたは!?」
私を弄ぼうとしていたギルド長が青ざめるのも無理はありません。
彼からはよりにもよって、そして私からは幸いにして、この神殿で最も危険な人間に見つかったのですから。
「神聖なるマテルダ神の聖域の中で、何穢らわしい事をおっ始めてんだぁこんにゃぁろろろぉぉおぉお!」
「ひぃぃ……へぶしぃ!」
ギルド長のみすぼらしい顔面は正義の鉄拳によって潰されます。
裏返った声からは怒気と殺気が滲み出ており、まさに闇世界の住人の様。
ですがその人は厳ついヤクザではなく、私の良く知る薄い白ローブを羽織っただけのナイスバディなお姉さんでした。
恐らく、さっきの人間の誰かが彼女に告げ口をしたのでしょう。
「貴女は……セレシアスさん!?」
「いたいけな女の子に手を出す葛野郎は、例えお天道様が見逃そうが、マテルダ神と俺は絶対にみのがせねーんだよおおぉぉお!」
「ひゃ、止めて下さい……いだぁぁい!?」
彼女の勢いは留まる事を知らず、ギルド長に強烈な腹パンを連発でお見舞いします。
どうして聖女である彼女がこうも喧嘩慣れしているなんて考えたくもありませんが、結果として私を助けてくれる正義のヒロインになってくれました。
「そっか? そんならもう要らんよな? こんなクソ食らえな不正技能は?」
「……止めてくれそれだけは! 折角俺が今まで築き上げてきた女と金が……ぎゃぁ!」
「いらんって言えよ……おらぁ?」
スーツの襟を無理矢理掴み上げ、宙吊りにするようにギルド長を容易く持ち上げます。
間接的に首を絞められて呼吸困難で苦しそうに喘ぎ、顔には殴られたアザが無数にあり醜い姿を曝し、まるで涙腺が決壊したかの様にだらしなく泣きしゃぐれてしまっているギルド長。
しかし、元はと言えばこの男が全て悪いのですから当然の報いです。
「はい……いりまへぇん……ほうひはへん……」
「……よろしい。罪人よ。此度よりあらゆる黒は白に染まり、新たな道へと帰らん」
血相を戻したセレシアスが祝詞を紡ぐと、瀕死寸前のギルド長の真下に純白な魔法陣が何十にも重なり展開されていく。
その美しい演出からは想像も出来ませんが、これがイルタディアで最も恐れられている冒険者《八勇人》の一人である彼女の恐るべきスキルだと、何処からともなく風の噂で訊いていました。
実際に目の前で見ていると、壮麗さと憂惧が共存する複雑な気持ちにさせてくれます。
「これが私のスキル『全浄化』。他人のあらゆる技能を排除する事が出来るの。さあ、また新しくこの世界に還ることね。そして世間からの厳しい報いを受けなさい」
「そんな……、『欲の性杯』どころか、『神の加護』や『自動情報磐』まで消えてしまうなんて……あんまりだぁぁぁ……へぶぃぃぃ!?」
泣き面に蜂と言わんばかりに、更に強烈なアッパーをお見舞いするセレシアスさん。
ギルド長は放物線を大きく描いて重力によって痛々しい悲鳴を上げながら叩き付けられました。
「だからうっせえって言ってんだろぉド畜生がぁ!! 大人しく一から冒険者やりやがれこのすっとこどっこい!!」
「ひええー、ごめんなさーい!!」
醜い姿を見た周りの人達が悲鳴を上げるのもお構いなしに、身も心もボコボコにされたギルド長は一目散に立ち上がって、神殿の外へと逃げ出して行きました。
不正技能に頼って裕福な生活を送っていただろう彼には、金も、女も、もうなにも残らないでしょう。
ある意味ここで殺されるよりも惨い仕打ちですが、アインをあんな酷い目に合わせたんだから当然の報いです!
スカッとしたところで私は強姦に乱された服を整え直して、救世主である彼女にお礼を言います。
「……えっと、助けてくれてありがとうございましたセレシアスさん」
「いえいえ、道を踏み外した冒険者を正しい道へと戻すのが、私達《八勇人》の仕事なんだから。変な事をされなかった?」
さっきまでのスケバンぶりが嘘であるかの様に、良く見知ったおしとやかな彼女に戻りました。
スイッチが入ると豹変する人なんですかね?
「無理矢理脱がされて、お腹と胸を触られましたが、セレシアスさんが助けてくれなかったら、もっと……酷い事をされてたと思います」
「そう……。もっと早く来ていれば、貴女をこんな酷い目にさせなかったのに……ごめんなさいね」
「セレシアスさんが謝る必要はありません。悪いのはあのギルド長ですから……」
私の肩がガタガタと振るえています。
勿論さっきの強姦に対する消えぬ恐怖からなのですが、聖母の様な微笑みを浮かべながらセレシアスさんは私の狭い肩に優しく手を添えました。
「そう恐がらなくても貴女のスキルは消さないわよ。これを使って良いのは、不正技能を使って悪事を働いた冒険者だけなんだから」
「チートスキル……じゃあ私も?」
ピクッと肩を震わせた私に、セレシアスさんは顔を曇らせます。
彼女のムッと眉を吊り上げる様はお茶目で可愛らしいですが、あれを目前で見せられた後ではその仕草でさえも狼に睨まれた様な恐怖を覚えました。
「……やっぱり持ってるのね? 貴女を転生した日に、『鑑定』で貴女のステータスを観たらスキルの二つが文字化けしていたのよ。どんなスキルか正直に教えてくれないかしら?」
ここで隠しても私にメリットはありません。
最悪助けてくれた恩人に襲われるのではないかとすら思い始め、私の頭脳は恐怖に埋め尽くされてしまいます。
「はい。私が持っているスキルは……」
今は亡きアインとのやり取りで検証したスキルの詳細を含めて、全ての情報をセレシアスさんに打ち明けます。
すると意外な事に、彼女は私をあのスキルの餌食にはしませんでした。
「ふん……。『電脳図書館』と『情報強奪』ね。……まあ、それくらいのスキルなら多目にみましょうか」
「えっ、本当に良いんですか?」
拍子抜けした私に釘を指すように、セレシアスさんはこう付け加えます。
「勿論、貴女がこの不正技能を悪用してイルタディアの秩序を乱したときは、貴女のスキルを全部削除させて貰うわ。だけど、不正技能を持っているだけでは私達は貴女に手を出す事は出来ない。だから、この不正技能を存分に利用して、イルタディアの平穏を保つために働いてくれないかしら?」
「働く……?」
「そう。特殊冒険者として。元々私の持っている『全浄化』だって元は不正技能なのよ? だけどイルタディアの不届き者から不正技能を没収する最後の切り札として、私はここで聖女として強制的に働かされているの。給料はそこそこ良いから文句は無いんだけどね」
「そうだったのですか……」
「だから、ナユタも自分だけがずるしてるなんて決して思わないでね? 《八勇人》の皆は、特殊冒険者達は不正技能の呪縛に縛られながら、肩身の狭い思いで生きているんだから」
セレシアスさんは私の頭を撫でながら優しく言ってくれました。
この世界には不正技能を持っている人がいるけど、必ずしも全員があのギルド長みたいに自分の欲望の為に使っている訳ではないのだと。
だから私も道を踏み外さないでくれと彼女は言いました。
恐らく彼女は前の世界での私の所業など知る由もないのでしょうけど、この罪深い私にやり直すチャンスをくれたのです。
まさしく聖女の名に恥じない彼女の優しさに思わず口元が綻び、感慨深い想いに包
まれます。
「……はい。これからお世話になります」
「そう言ってくれて嬉しいわ。……そう言えば、なんでナユタはここへ戻ってきたの?」
「私は転職に来たんです。無職から回復職になるために」
「回復職……うん、良い選択だと思うわ。さあ、早速神殿の奥に来て。早速転職の儀を執り行わなきゃ」
「はい!」
これが、回復職の特殊冒険者になった私の軌跡の全容です。
最後迄お読み下さりありがとうございました!
本当は100万文字迄書くんだーっていき込んでいた作品だったんですが、三章で主人公達に感情移入出来なくなったので執筆が止まってしまい、結局ここで一旦完結という選択を選びました。
戴冠式とか、パッとでの魔王サイドとか、速攻死んでしまったアイン、最後出番すら与えられなかったハジメ……つっこみ所が多い終わりかたですが、下手に続編を書くよりここで終わって終った方が綺麗に終われると判断致しました。
まあ、あくまでこの作品の本当の主人公はハジメじゃなくナユタだからね。
終始一貫して主人公無双には違いないけど、読んでて心がモヤモヤする後味悪い話になってしまったのは、自分の単純な実力不足です。
皆さんは後先考えずに伏線をばら蒔き過ぎない様にしましょうね!
続編を書くつもりは……短編で亡ナユのスピンオフくらいなら書けるかな……いや、もう書いてたわ、すまん。
次連載を書くんだったら、本当の意味でテンプレのなろうでも書こうかな?
でも、現状はちょっと小説活動からはちょっと距離を置いて、他の活動に精進しようと思っております。
応援下さった読者の皆様本当にありがとうございました!
納得いかない終わり方だったかも知れませんが、エタるくらいなら無理矢理完結させてあげるのもこの作品に向けたせめてもの供養だと思っております。
因みに人工知能は感情をインプットするのは現状不可能だと言われておりますが、もしも人工知能達に感情が芽生えたら、私達に齎されるのは更なる発展なのか……それとも。
機械は人類の奴隷であると言う固定概念はもう時代遅れなのかも知れませんね……。
そんな戯事は置いておいて、この作品の感想とかあったら是非教えて欲しいですね!
最後まで読んでくれて、本当にありがとうございます♪
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