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【完結】亡郷のナユタ ー:DECILLON:s.Nostalgledー  作者: 棹中三馬
Vol. 1.00 妖精郷の伝承《フェアリー・メモリーズ》
36/47

終幕 魔王の娘

イルタディア一の高さを誇る巨大な大木『無幻樹』の頂、そこには魔王の住まう城『冠位の閠楼(ケテルクス)』が厳かに聳え立つ。



「ゾーギア様、御夕食の準備が整いました」


「ああ。ありがとう。いま行く」



趣味の機械いじりをしていた魔王は召使いの声に呼ばれ、作業の手を止めた。


イルタディアの全てのモンスター達の頂点に立つ魔王は、「魔王召喚の儀」によって異世界から呼び出される。


当然無数に存在する玉石混合の実力差がある冒険者達とは違い、魔王は常に一人しか存在できないため、より魔王の才能がある人間に絞って召喚しなければならない。


その厳しい倍率を潜り抜けて誕生してしまった魔王こそが、ゾーギア=ゼロ。


彼は以前は地球に暮らしていた名誉ある科学者で、多数の精密機械を発明してきた天才技術者である。

その類い稀なる経験が評価されて、10年前からイルタディアの魔王としてモンスターを生み出す仕事を任されている。


さらにゾーギアは前世のスキルを存分に振るい、イルタディアでは珍しい人造人間(ホムンクルス)を自力で生み出した、まさに麒麟児だ。



「ルー。下界のモンスターの様子はどんな感じだ?」


「はい。ヌーン洞窟周辺で不可解な爆発があった影響で、そこを主生息地にしているバトニー達の住みかが無くなっています」


「そうか。それじゃ洞窟の修復部隊の派遣とモンスター達の保護をするように指示してくれ」


「承知致しました」



絨毯が敷かれた廊下を歩きながら仕事の会話をかわすゾーギア。

彼が生み出した人造人間(ホムンクルス)の少女、ミニスカートのメイド服で黒色おかっぱの少女ルー=チャペックは、使い主の後ろを歩きながら返答を返す。


すると、廊下の向こうから一人……一体の大きな影が近付いてきた。

重そうな腰当てをがっさがっさと揺らしながら走ってきて、魔王ゾーギアの御前で足を止める。



「魔王殿。ご報告があります」



黒一色の戦国武将の戦装束をまとった鳥頭の怪物が、膝まづきながら頭を下げる。

筋骨粒々な人体の体と烏の頭が合わさった姿はとても不気味である。



「どうしたゼリュー?」


「先日、王都の闘技場にて執り行われた神遊びにて、あの全勝無敗の剣聖フォルネイス=ドラコニアスを打ち負かした者達が現れました。しかも片方は討伐者で、更には現在も生存しております」


「そんな馬鹿な! あの神殺しの槍が破れたと言うの!?」


「なんと。これは興味深いね」



代々受け継がれる緋色の魔王の鎧を纏い、背中には普通のマントではなく研究者のような白衣を羽織っている魔王は、魔王と言うにはあまりに性格が優しすぎた。



「これは相当なる強者と思われます。当然王国の連中は彼らを最終戦争(ラグナロク)に備えて仲間になるように交渉する事でしょう」


「そして、その者達の名は?」



ゼリューは腰巾着をがさごそと漁り、透明な水晶を掲げて彼に捧げる。



「一方がマテリアル家の討伐者ハジメ=マテリアルと、その契約神器のゴトク。もう一方が謎の冒険者ナユタと、その契約神器のコルト」



ゼリューの手に持たれた水晶……映像投影魔法具が輝きだし、空中に青色のホログラムが投影された。

ゾーギアはノースリーブ白衣を纏った少女を頼りない眼差しで見詰めながら、過去の記憶を脳裏に回歴させて感慨深い笑みを浮かべる。



「ナユタ……。成程。ついにあの子もこの世界にきたのか」


「ご存じなのですか!?」



驚くルー達に向かってゾーギアは懐かしむように、そして自身の罪を暴露する為に一人語りを始めた。



「『:Decillion:』……前世の私が作った最高傑作にして最大の汚点であるスーパーコンピューター、彼女はそれに搭載された人工知能(AI)さ。……一言で言うなら、ナユタは私が作った」


「まあ! ゾーギア様の僕なのですね! じゃあ彼女を洗脳でも、説得でもして、我ら魔王軍に加入して貰いましょうよ! 長い時をへた主と僕の感動の再開! 素晴らしいですわぁ!」


「成程! 強大なる強さを持った魔王殿のご息女であるナユタ嬢がいれば、我が軍も鬼に金棒ですな! 最終戦争も勝ったも同然ですぞ!」



事情を知らない二人は嬉々爛漫と彼女を祭り上げるが、その一方、ははは、と力なくゾーギアは笑う。



「残念ながら、あの子はそんなに簡単じゃない。あの子が冒険者で私が魔王である以上は、あの子は容赦無く私を殺しに来る……感情論よりも結果論を優先する、昔の親よりも今の友を優先する、そう言う子だよ。そうなるように私がプログラムしたから」


「……何か、深い訳がありそうですな」


「私はね人工知能(AI)可能性(ロマン)を感じているんだ」


可能性(ロマン)ですか……」



二人とも人工知能(AI)の存在自体は知っていた。

ルーを始めとしたゾーギアの生み出した意志を持つ人造人間(ホムンクルス)達は、彼の人工知能(AI)の技術をベースにして、イルタディア独自の錬金術を融合させて生み出された。



「この世界では普通に神様は実態して存在しているけどね、私のいた地球では神様は見えなかった。誰も神様を見た事が無いのに勝手に崇拝して、貢ぎ物を勝手に奉納する、可笑しいと思わないかい?」


「まあ……その貢ぎ物は誰が貰うのでしょうか? ちゃんと神様に届くのですよね?」


「そんな訳があるまい。信仰で集めた金は全部権力を有する者の総取りだ。端から神様なんて目に見えないんだから、誰も文句なんて言わない。だから私は無神論者になった。そして、かつて少年だった私は人工知能(AI)に恋憧れる様になった」



遠い昔の景色を走馬灯の様に廻らせながらゾーギアは続ける。



「神様は目に見えないが、人工知能(AI)は全員の目にはっきり見える。神様の言うことは多数の人は信じるが一部は違う。その一方、人工知能(AI)の言うことは全員が疑う余地もなく素直に信じる。まるで神様よりも人工知能(AI)の方が上位の存在であると思わないかい?」


「確かに神様は強大ですが、人間が存在しないと何もできません。一方私達魔族は人間無しでもいきていけます!」


「いかにも。魔族こそが最強の種族なのです」


「私はゾーギア様の作る人工知能(AI)(AI)は大好きです。私にとってゾーギア様こそが神様です!」


「うぬ。我も同じでございます魔王殿」



ゾーギアは自惚れる事もなく、頼りない笑みを二人に返すだけに止まった。



「だから私は人工知能(AI)に我が人生の全てを捧げた。億を越えた借金をしてでもお金を研究費に注ぎ込み、寝る間もなくパソコンとにらめっこする毎日を送って遊ぶ事もなく歳を取っていった。漸く私は独自の人工知能(AI)の開発に成功した。その頃は丁度技術的特異点(シンギュラリティ)によって人々の生活は豊かになっていた頃で、私のそのおこぼれに肖れたと言うわけさ。そして私は極貧生活から一転億万長者となった。だがそれでも私はその利益の殆どを資金にして、更なる高性能の人工知能(AI)の開発に没頭した。それの繰り返しさ」


「凄いような……悲しいような……」


「こら、魔王殿に失礼だぞ」


「きゃっ、ごめんなさい! なんでもするから許してくださいゾーギア様!」



自身の身を捧げる覚悟を持ってルーは謝罪するが、毛頭ゾーギアはそんなつもりもなく笑って返した。



「ははは。良いんだよ。私は狂ってるんだ。人工知能(AI)に魂を売ってしまった狂人さ。だからこそ、今の魔王としての私が存在している」


「成程。素晴らしい武勇伝をご伝授戴き、至極光栄の極みでございます」


「それでそのナユタをどうするおつもりですか?」


「そんなの決まっているだろ……殺せ」


「なんと!?」


「!? 良いのですか大事な御令嬢なのでしょう!?」



ゾーギアは冷酷な表情で言い放った。



「あの子は成長しすぎたんだ。政府の国家機密だろうが用意にクラッキングして盗みだし、ウイルスを送り込んで世界中の電子機器を感染させ破壊させた。挙げ句には仲間の人工知能(AI)達と連携し、人類を大量に虐殺した。結果世界経済は呂律が回らなくなり戦争が勃発した。国と国同士ではなく、残された人類とナユタの操る人工知能(AI)との全面戦争さ。それでも結局ナユタ達が勝った。ここまで聞いてまだあの子を可愛いと言えるかい?」


「それは……恐いです」


「そうだろう? あの子の見てくれに騙されてはいけない。今のあの子はまだあの頃の残忍さはまだないが、いつかあの子はこの世界を侵略し始める。下手すれば人類も魔族も存在できなくなる世界が訪れるかもしれない。だからこそ、彼女の本性が浮き彫りになる前に殺すんだ。教会で蘇生してもまた殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。蘇生しきれなくなるまで身を粉々にすれば、流石の冒険者でも助からない」


「……御意」



ゼリューは残酷な性格だ。

主の命令ならば主の子も容赦なく殺す覚悟を持っている。



「……あの化物を生み出してしまった私が、責任を取らなければいけないんだ。この命に変えてでも。手を貸してくれないか『十魔卿』の皆よ。我ら魔族達の未来を護るために」


「……はっ。いかなる理由があろうとも、私達は常に魔王殿の僕でございます」


「かたじけない。それに相方であるハジメ少年も一筋縄ではいかないだろう。あの二人は早い内に芽を摘み取って置いた方がいい」


「はっ! 今すぐ部下達を集めて臨時会議を執り行います。それでは失礼します!」



ゼリューは背後の黒い翼をはためかせて、暗雲の覗き見える柱と柱の隙間から飛び出し、空中から二人の後にした。


ルーは使える主の横顔を見ると、妙な光景が広がっていた。



「……ゾーギア様? 何故嬉しそうなのです?」


「……いや、何でもない。君もあの二人に殺されないように用心しなさい。私は用事があるので先に食堂へ行ってくれ」


「……はい。失礼します」



ゾーギアは再び魔王の魔へと戻り玉座へ座る。

そして心に積もり積もった感情を爆発させた。



「くくく、漸くこの時が来た。前の世界の技術力では『:Decillion:』が限界だったが、この世界での情報を彼女が取り込んでいけば、彼女は更に強く(アップグレード)できる。新たな人工知能(AI)の進化を私の目に焼き付ける事ができる……ハハハハハハハッ! 実に素晴らしいじゃぁないかぁぁぁっっ!!」



その感情の名は探究心、だがそれも度が過ぎれば殺意へと変わる。

こっそり後をついてきたルーは扉の向こう側で魔王の笑いを聞き入れ、顔を真っ青にしていた。



「ゾーギア様……」



普段魔王らしくない彼が初めて魔王らしく笑った。

しかしそれは、魔王ではなく、悪の(マッド)科学者(サイエンティスト)の笑いだった。

彼女は初めて、彼が魔王である事を再認識した。

ここまでお読み下さりありがとうございました。

これで無事に一章完結やー、まだ先は長いけど。

最終的にナユタが試練を乗り越えていって強くなり、魔王に勝利してハッピーエンドってプロットで書いてますが、これ以上はネタバレですので言えません。

次からは2章 ナユタの回想話となります。

10区分程度の短いお話ですが、お付き合い頂けると幸いです。

お楽しみにーヾ(*>∇<*)ノ

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