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【完結】亡郷のナユタ ー:DECILLON:s.Nostalgledー  作者: 棹中三馬
Vol. 1.00 妖精郷の伝承《フェアリー・メモリーズ》
31/47

1ー23 少女達の目的

あれから一時間くらいして漸くナユタは病室に戻った。

何故か彼女は出ていった時の逼迫した表情とはうって変わって、まるで憑き物が落ちたかの様に爽やかだ。


自分の中のなにかのけじめをつけて、新しく生まれ変わった様なそんな顔。



「ナユタ何してたんだ?」


「うん。お腹すいてたからエリシアとレストランでご飯を食べてた」


「そっか、厄介事に巻き込まれた訳じゃ無くて安心したよ」



ベットの上でほっと安堵する。

しかし、ナユタはマジックバックの中を探り一枚の封筒を取り出した。



「……あの、エリシアからパーティのお誘いをされたんだけど……ハジメも一緒に行こ?」



ベットのすぐ側まで近寄って俺に封筒を渡してくる。

この角度からだと彼女の潤んだ瞳が自然に上目遣いとなり、いつもの彼女の愛らしさをより強調していた。


心無しか頬も火照っている様な気もして、声色も甘ったるい猫撫で声。

まるで想い人に恋文を渡す少女の様な儚さと、幼さに隠された発育途中の色気に、俺はゴクリと唾を飲んだ。



(ふふ。私の演算処理能力を甘く見ないでください。エリシアから男の口説き方をレクチャー(インプット)して貰い、そこから更にシミュレーションを重ねて私独自の攻略法を作成してきたのです。これなら流石の朴念仁のハジメも私の好意に勘づくに違いない)



「……だめ、かな?」



追い撃ちのごとく、ナユタの甘声が俺の鼓膜を貫いた。

いやいや、いかんいかん。

あくまで俺達の関係は協力関係だ、また彼女の逆鱗に触れて折角治りかけている傷口を開かせたくは無いからな。


しかし、いつもの彼女だったもっと事務的に言うと思うんだけどな……、「ハジメ。エリシアの主催するパーティへ行くことに成りました。絶対に忘れないで下さい!」……的な。


常時の彼女を思い出す事で一旦心を落ち着かせ、封筒を受け取り封を開封する。



「何々、新国王の就任記念パーティか……、おおっ、凄いじゃないか! 俺とコルトまで招待されてるぞ!」


「わーい! 今から何を着ていこうか楽しみですー!」


「だけどさ、俺達が行っても場違いじゃないか?」


(……あれ? 私がシミュレーションしていた結果と違う。「そうだな。何時もの服でこんな場所にはいけれないからな。今度一緒に街へ買い物に行こう」ってなる筈だったのに……)



何故か表情が曇ったナユタだが、俺は構わず中の達筆な文章を読み進める。



要約すると、日程は3日後、場所は王宮『王家の聖域(マルクトル)』の迎賓の間。

食事は立ち喰いのビュッフェ形式で、王宮専属のコックが手掛けるとなれば大層料理には期待ができる。


しかし、迎賓の間で催されるパーティ、それも新国王の戴冠式ともなると隣国の要人なども来るであろう国家行事であろう。



「ハジメよ。権力者直々のパーティの参加を断るなど、国家に対する侮辱行為だぞ? ちゃんと無礼の無いように出席しろ」


「勿論分かってるって……」


(……私はともかく、エリシアの気持ちにも気付かないなんて、ハジメの大馬鹿)



さっきと違いナユタの痛々しい非難の目線が俺に降り注ぐ。

急に優しくなったと思ったらこれである。



「……と言うか、我は招待されてないのか?」


「パーティの場に武器の形態で持っていける訳がないだろ? コルトみたいに人間の姿になれる訳でも無いんだし」


「ゴトクは大人しくしてればついてきて良いってさっきエリシアが言ってた」


「本当か! 猫を被っておるからどうか留守番だけは勘弁してくれ!」



意外な事にパーティに一番行きたがっていたのは、おっさん猫のゴトクだった。

まあエリシアが許可してるんだったら止める必要は無いけどな。

兎に角も、まずは俺の身体を治すことが急務だ。





王国病院のエントランス前の休憩所にて、ハジメとエリシアが小さなテーブルを挟んでイスに座っていた。

エリシアが持ってきたマジックボトルからハーブティーが注がれる。


「うん。これ美味しい」


「わたくし自ら育てたハーブでいれましたの。気に入ってくださって嬉しいですわ!」


「へー、すごい!」



素直な感情で称賛を贈るナユタにエリシアは悪い気はしなかった。

いつもおこぼれに肖ろうと近寄ってくる取り巻き連中の見え透いた称賛よりも、何倍も価値があったからだ。



「それで、どうでしたハジメ様の反応は?」



飲みかけのティーカップを机に置いてから、エリシアは本題にはいる様に促す。

ナユタは申し訳無さそうに首を横にふる。



「ううん。全然だめ。やっぱハジメは鈍感すぎる」



一連の流れを彼女に説明すると、エリシアは両手で頬杖をついて悩めかわしい溜め息をつく。



「ふーん。これは思ってたよりも厄介そうですわね……。ですが! その難儀な恋こそ乙女達を磨き上げより美しくするのですわ! だからナユタもめげずに頑張るんですわよ! まあ、結局はわたくしがハジメ様を戴くのですけどね!」



おほほほと、高飛車なお嬢様笑いをしてみせた。

周囲の通行人は何故新国王がこんなところにいるのかと疑問に思いながらも、なるべく二人に関わらない様にそそくさと立ち去っていく。


やはり、前国王の悪政の影響で国民達の脳内にすっかり『国王=関わるな危険』というイメージが定着してしまっているのだ。

これからエリシア自身の手でそのイメージを払拭することから始めなきゃならない。



「うん。もっと頑張る。ハジメは私が貰うから、絶対に」


「まあ、ハジメ様の特殊な性癖に口を挟むつもりはありませんけど。確かにナユタは女の子のわたくしからしてみても食べちゃいたい位に可愛いですから」


「……せえへき? たべる?」


「ジョークですわ。本気にしないで下さいませ。就任早々スキャンダルは御免ですから。おっと、もう日が暮れてきているわね」


「本当だ。楽しい時間ってあっという間だね」


「それでは今回はこのくらいでお開きとしましょう。わたくしは早速国王としての仕事に取りかからなきゃいけませんから。それではごきげんよう」


「うん、またね!」



エリシアは後片付けを済ませてそそくさとナユタの元を去った。



「ナユちゃん……」



物陰に隠れて二人の話を隠れて聞いていたコルトは、どこか悲しそうな目をしていた。





おそまきながらですが自己紹介をさせて下さい。

私はコルト。

神様見習いです。

神様ランクは最下位のE、人間一人を守護する程度の守護神です。



因みにDランクは小さな集落を守護する程度の守護神、Cランクは大きな街を守護する程度の守護神、Bランクは国一つを治める程度の守護神、Aランクは世界の均衡を保つ程度の守護神、Sランクは天界にてあらゆる異世界を管理して、不要な異世界があれば即刻排除する破壊神……って教えられました。



何でAまで皆を守っているのに、Sで逆転して壊す側になるのか、今でも私はさっぱり分かっていません。



折角神様になったんだから護ることに専念すれば良いのにーって愚痴った事がありましたが、一度に作れる異世界には上限があるので生産性のない異世界は一度壊して新しく作り直さなきゃいけないらしいです。



神様によって壊された異世界は神様だけは天界に戻りますが、それ以外のありとあらゆる全てが滅亡してしまいます。



そうならない為にも私達護る方の神様達は、自分達に託された異世界を護りきれる様に一生懸命民達を間違った方へ進まない様に救っているのです。



さあ神様の裏事情はこれくらいにして、師匠のマテルダ様の命令により私は『契約神の儀式』というテストを受けている真っ最中です。



まず第一段階 『転生者召喚及び転生先に無事に送り届ける』。

これはナユちゃん(正確にはスーパーコンピューター本体ですが)を召喚出来たので問題なくクリアできました。



ナユちゃんの意思を封じている身体はマテルダ様が用意されました。

どうしてこんな幼い体つきにしたのか聴いてみたら、「コルトは妹が欲しいってこの前言ってたろ?」って、酔っ払ってた時に言った冗談を本気で真に受けていた様です。



まあ実際に妹のように可愛いんだから良いんですけど。

おまけに実の妹ではなく、義妹ですから。



次に第二段階 『神様自らが転生者の世界に旅立って、転生者をサポートする』。

これは異世界によって方法にばらつきがありますが、イルタディアの場合では転生者が契約神器を獲得すると、本来ドロップする契約神器の代わりに、転生させた神が契約神器として下界に降り立つ、という仕組みです。



なので転生者は契約神器を二つ以上持つ事は本来は不可能なのですが、IDOで契約神器を二種類以上所持していたプレイヤーは『二重契約者ディエル・コンタクタス』というスキルが与えられ、特例で二つ所持したまま転生できると言う特権があります。


注意としては、例えば十個契約神器を持ってたとしても持っていけるのは二個までなので、後の契約神器は処分しなければいけない事です。

この取り返しの効かない選択を間違えるといくら『二重契約者ディエル・コンタクタス』であっても不利に為ってしまう場合もあります。



最後に第三段階 『転生者が危機的状況に陥っている世界を救う』。

イルタディアでは近い内にも魔王達が最終戦争(ラグナロク)と呼ぶ戦争を起こすと、最高神ゼウシス様は予言しておられました。

そして魔王サイドが勝利すると、人間達は全員殺されて魔属だけが生き続ける世界が訪れてしまうとも。



その様な事になってしまったらイルタディアを一度破壊して、また別の異世界を創る必要があるとおっしゃっていました。

だけど私はイルタディアは素晴らしい世界だと自負しております。

そうやすやすと壊してほしくはありませんので、何としても最終戦争(ラグナロク)を止めなければいけません。



私はナユちゃんに余計なプレッシャーを欠けないように、あえて最後の条件は教えていません。

だっていくら人工知能とは言っても彼女は儚い女の子ですから。

だけど私は信じていますよ、彼女は必ずイルタディアを救ってくれるって。



この3つをクリアして、漸く私はDランクに昇格できます。

出来なければ私は神様に向いていなかったと判断され、信仰と神力を剥奪されて消えてしまいます。



死ぬなんて優しい物ではありません。

死ぬだけなら他の誰かが覚えてくれます。

覚えてくれる相手は無くても、天国か地獄のどちらかには行けます。



だけど私達神様は違います。

不要になった神様の信仰は全て新しい神様が引き継いで、前の神様を信仰していた信者達もなんの違和感も持たずに新しい神様を信仰し続けます。

私達には覚えてくれる人は誰もいませんし、天国や地獄にすらいけません。

ただ、光と化して消えてしまうだけ。



しかし、ナユちゃんは違います。

人間の信仰は直ぐに書き換えられても、電子の情報はそのまま残ってくれる。

私が光になって消えてしまっても、ナユちゃんの中でデータとして生き続けられる。

だから私はナユちゃんが大好きなのです。



ナユちゃんの為なら私はなんだってするし、私の全てを彼女に捧げられる。

そんな私は狂っているのでしょうか?

ここまでお読み下さりありがとうございます!

次回、コルトがナユタにぶつけた思い、少女二人だけの約束……

結構攻めた百合回になりますので、エロ描写苦手な人は読み飛ばしてください。

百合苦手な人はここまでこの話を読んではいないと思うけど、一応警告。


ここまで読んだ上で面白かった、続きが気になるという人は評価とブックマークをお願いします♪


※誤字報告してくれた読者さん、本当にありがとうございました!

誤字は既に訂正させて貰いました。

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