3 協力関係
「まあそれはそれとして。これを」
「んっ?」
「あなたの分け前です。この装備は既に入手しているので私には不要ですのでどうぞ」
そう言って差し出されたのは蛇の頭が自身の尾をかぶりついている意匠の、所謂ウロボロスの輪を連想される金色の腕輪と、キラ鉱石と呼ばれる換金用のアイテムだった。キラ鉱石はナユタと俺とで平等に半々で分けていたが、唯一のドロップアイテムは迷うことなく俺に譲ってくれた。
まあ巻き込まれたとは言えども、止めを刺したのは(たまたまとは言え)俺だからな。
これは彼女のご厚意に甘えてありがたく戴くとして、問題はそこではなかった。
「おいこれって、輪廻の腕輪!? 最強の呪いの装備じゃないかよ!?」
ヘルヘイムドラゴンが遺したドロップアイテムに俺は戦慄した。
装備者は自身の生命力が時間経過と共に減少していくが、代わりに魔力が時間経過と共に回復していく特殊効果がある。
おまけに最強の呪いの装備と言うだけあり一度装備すると教会のお払いでも絶対にとれないと言う呪物だった。
俺は初対面の奴から呪いの装備を押しつけられた畏怖というよりも、いままで手を伸ばしても手に入れれなかった代物をこうもあっさり手に入れれた事に高揚している自分に恐怖を覚えた。
「あなたの攻撃は代償が多い代わりに単発の威力は絶大です。魔力をより早く回復させる事によって魔力濁流の使用効率を向上させる事が可能です。生命力の回復など私の回復魔術で事足りますし、私がいない場合でもあなたが回復薬を多く携帯しておけば解決できます。装備しないデメリットよりメリットの方が私は多いと判断しました」
確かにナユタの意見は正しかった。
回復薬は店ですぐに買えるが、魔力水は多少割高となっている。宿代やら武具のメンテナンスにもキラは当然掛かるので、買うものを回復薬だけに絞れるのはお財布にも優しいし、万一の時にカバンの中身を取り違えるミスもなくなる。
万年金欠でテントに野宿も厭わない俺には、まさに良いことずくめだった。
「……なるほど。あんたが人工知能っていうのはこの際おいておいて、頭が切れるってのは本当みたいだな」
「だから本当なんですって。この世界では人工知能自体が普及してないようなので、回りからはそれに近い存在である人工人間と呼ばれていますが。まあ、私と組まないと言うならばあなたに渡す義理もないので、さっさとこれを換金してぱーと使ってしまいますか」
「ちょーとタンマ! 分かったから。よし、今日から俺達は仲間だ。宜しくな……いだだだぁ!」
手渡された輪廻の腕輪を右腕に装着する刹那、身体中に想像を絶する激痛が俺を襲った。腕輪の呪いが俺の全身を駆け巡っているのだ。
これは武具の呪いであって、決して、いきなり少女に図々しくなった俺への客観的制裁でないことを祈りたい。
「当然私と組むからには私の目的に協力してもらいますからね。本来私があなたにつくす義理はありませんから。あくまでビジネスパートナーとしての関係ですので悪しからず」
「分かってるって、……で? その目的ってのは何だ?」
「私はここへ転送される前に既にイルタディアという世界を知っていました。とは言えVRMMOゲームの舞台としてですが」
「VR……すまん。さっぱりわからん」
何でそんな哀れみの目でみられなきゃあかんのだ。
俺ら討伐者にとって狩りはゲームじゃなくて命を懸けたデスゲームなんだから、教会で蘇生し放題の冒険者には理解できないのだろう。
「つまり平行世界から私は転移したのです。しかし、私が実際にこの世界に来てからこの世界は以前のイルタディアとは全く異なる世界だと判明しました。なのでこの世界の事を熟知している人間、討伐者の存在が必要不可欠なのです。イルタディアの情報を随時上位修正するために。不具合を放置しておくのは私自身の故障に繋がり兼ねません」
難しい言葉で何を言っているのか分からないが、要するにこの世界の情報を教えてくれと言うことなのか。だったら単刀直入にそう言えば良いのに。
「まあ、俺にできる範囲の事なら協力するよ」
「……それでは、これからよろしくお願いします。ハジメ」
ナユタは年相応の少女のように明るく微笑んだ。
言っていることは時々意味不明だけど、この笑顔だけをみるとやはりただの可愛い少女だった。隣の物騒な大剣さえなければ。
「……そういえばナユタも輪廻の腕輪をしているんだな」
「はい。色々と便利ですので。回復なら自分で出来ますし困ることはありません」
別に少女と腕輪がお揃いになってる事がうれしい訳ではない。
確定ドロップでもないレアアイテムが複数あると言うことは、それだけヘルヘイムドラゴンを討伐したという実績でもあるのだった。
「いや、あんな無茶なレベリングずっとやってたのか?」
「ええ。輪廻の腕輪はあと15個所持してあります。レベリングにもそろそろ飽きてきたので、数個だけ手元に残して他は全て売却しようと思っていますが、それが何か?」
……俺にはただ他の人が彼女の巻き添えに為っていないことを祈るしか出来なかった。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
※補足解説
魔術濁流
MP満タン時限定でのみ使えるドラクエのマダンテを思い浮かべて貰えば宜しいです。
あまりに局所的な攻撃魔法ですが、代償として攻撃力は尋常ではありません。
あと、このスキルはイルタディアの討伐者一人しか取得できないスキルで、その持ち主が死んだらまた別の討伐者に無作為で転移します。
その為冒険者は入手出来ません。できたらそれこそバランスブレイカーですからね。