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【完結】亡郷のナユタ ー:DECILLON:s.Nostalgledー  作者: 棹中三馬
Vol. 1.00 妖精郷の伝承《フェアリー・メモリーズ》
28/47

閑話 王都転覆、そして再建

会場全体が予想外な結末に対応しきれず静まり返っていた。

当然それらは一般人だけではなく、この戦いの主催者達も同じだった。



「……えっと、私達は何を見せられているのでしょうか?」


「あの野郎め。よりによってこんな大事な日に、あんなふざけた死に様を曝し追って……。もういい、あいつは首じゃぁぁ! 王都から追放じゃぁぁ!」



目を点にしている聖女セレシアスに、癇癪を起こしている国王。

側近達も()()()()()()()には困惑しており、VIPルームは混沌と化していた。

唐突に、入り口から二人の人影が入ってきた。

一人はスーツ姿のがたいの良い男、一人は赤髪ポニーテールのドレス姿の少女。



「すまんがなぁ、王都から追放されるのはてめーの方だ」


「そうですわ。今までの落とし前をつけて貰いますわ!」



唐突なる乱入者達に国王のやり場の無い怒りの矛先が向けられた。



「だっ、誰じゃお前らは! 勝手に来賓専用の特別室に入りおって、直ぐにお前も殺してやるから覚悟しろ!」


「俺はイデカミ。八勇人のイデカミだ」


「……私の顔、覚えていないのですか? まあ良いですが……」



ごもごもと口ごもる少女の事は知る由もない様子の国王は、隣の椅子に座っていた聖女に疑念の眼差しを向ける。



「八勇人。……まさか、セレシアス様もこの者達のグルだったのか!?」



今更気付いたかと言いたげな表情で、セレシアスは椅子から立ち上がる。

もうこんなクズに敬語を使う必要はないと、思いっきり本性をさらけ出す。



「そう言うこと。そうじゃなかったら、わざわざあんたみたいなエロジジイと一緒に観戦する訳が無いじゃない。はー、気持ち悪っ」



聖女の豹変ぶりに呆然としている国王に追い討ちをかけるように、イデカミはクリアファイルに入れた状態である書類を見せつける。



「あんたの部屋から『永生命人計画エタルズ・ヴェータプロジェクト』の犯行計画書、及び闘技場地下の牢獄から生贄にされる予定の囚われたエルフ達を発見した。既に人質達は俺の仲間が救出している」



追い詰められて気でも狂ったのか、国王はデカイ腹に手を抱えながら笑う。



「……ははは。はっははははは! だったらお前をここで殺して、証拠を全部処分して、口封じすれば良いだけだぁ! さあやれお前達!」



周囲のボディーガードを兼ねた側近達に指示を送るが、誰一人とも動かない。

ドレスの少女はクスクスと可笑しそうに笑っており、イデカミはわざとらしい溜め息を出しながら国王に一歩ずつ歩み寄っていく。



「……残念だけど、もうここにお前の命令を聴く奴らはいないぜ? 彼らはとっくに次の王様に仕えているからなあ」


「王都は今日より私、エリシア=アキメストが新たな国王として就任することと為りました。既に貴方以外の全員の民達が把握しております」


「アキメスト……あの王位継承権第2位のエタン=アキメストの娘だと……。そんな筈はない! だってあいつらは全員殺し屋を雇って殺させたの……はぁ!?」



口を滑らした国王はあわてて両手で口を塞ぐが、当然ながら自白してしまった物は覆る事もない。

エリシアは常態化しているつり目を殊更に吊り上がらせて、国王を糾弾する。



「ついに白状しましたわね! そうですわ! 貴方の仕向けた殺し屋に私の父上と母上は殺されたのです! その時私は別の場所で生活していたので無事でしたが、私は貴方の事を絶対に許しません!」


「お前は転生時に神から、他の人間を洗脳し絶対服従させる『独裁者』の不法(チート)スキルを授かり、王族唯一の転生者として裕福な環境で生まれ育った。そして本来お前の皇位継承権は13番目で、まず国王になれる訳が無いのにこうやって国王の座についている。これは『独裁者』の不法スキルと潤沢な国家の(キラ)を存分に使い、大金で雇われた冒険者に皇位継承権が高い王族達を全員殺させたからだ! 既に彼らからの証言も録音魔法具に録っているぞ!!」


「ひぇぇぇぇぇぇ!?」



情けない悲鳴を上げる国王に、三人は更に追求する。



「さあ、大人しくお縄について貰おうか。この重罪のフルコースじゃあ、全スキル剥奪は免れないし、死刑もありえるだろうなぁ?」


「弾劾裁判に貴方の味方はいないから、覚悟しておきなさい!」


「冷たい牢獄の中で、自分の罪の重さを身で染みて感じていると良いですわ!」


「嫌だ、このスキルは俺様の者だぁ! これからも俺様は『独裁者』であり続けるんだぁ、ぶひぁぁぁぁぁ!」



元国王は暴れまわって抵抗するも虚しく、イデカミに背負い投げをされて気絶した隙に手錠を嵌められた。

王都を裏で牛耳っていた悪意ある冒険者の末路は、まさに自業自得と言う言葉が良く似合っていた。





王家の聖域(マルクトル)』、王座の間に三人の人影がいた。

そのうちの一人は王のみが座ることが許される玉座にちょこんと座っている。



「感謝いたしますぞイデカミ氏。お陰様で王都にまた平和が戻りましたですじゃ」



執事服を着こなしたご老人は、深々と頭を下げる。

彼は王室に使える執事長エトソン。

前代の暴君はさっぱり国王としての仕事をやりたがらなかったので、彼が国王がするべき全ての書類作業を代理でこなし、かつ執事長としての仕事もしっかりこなしていたスーパー執事である。



「嫌々、俺達はやるべき事をやったまでだぜ。お礼を言うならこの嬢ちゃんに言ってくれ。彼女が今回の国家転覆計画を発案したんだからな」



電波箱エレキテル】の団長であり、八勇人の一角であるイデカミは、人使いの粗い上司から前国王の極悪非道な冒険者から王座を剥奪する任務を任されていた。

玉座で寛いでいるエリシアは不服そうに口を尖らせる。



「そんな下品な言い方はよしてくださる? これは立派な革命ですわ!」


「ああ、エリシアお嬢様。あんな愛らしかったお嬢様が、こんなに立派な淑女になられて、爺は嬉しゅうございます」



赤子の頃から彼女を育てていたエトソンは、目にハンカチを当てながら嬉し涙を溢す。



「10年ぶりですわね。元気そうで嬉しいわ」



エリシアも実の祖父の様に慕っていた執事との再開に女神のような笑みを溢す。



前国王の陰謀にいち早く気づいた彼女の父・エタンは、王族の身分を隠してイショドのとある老夫婦に養子として彼女を引き入れさせた。

父がエリシアに繋がる情報の全てを処分した事で、当時7歳だった彼女は無事に魔の手から逃れることが出来た。


その後、イショドの一般学校にて8年間の義務教育を受けていたが、彼女の類いまれなる魔術のセンスに一躍村の人気者となった。

育ての老夫婦は彼女の才能に漸く気付き、無理をさせてでも王都の魔術学校へ進学させたいと言ってきた。


本人はあの暴君に気づかれるのでは無いかと思い最初は断っていたが、暴君を善く思ってない者達の助力もあり、無事に暴君に勘づかれない様に魔術学校へ入学を果たした。


因みに、肝心の暴君は仕事もせずに贅沢三昧をしていたし、彼女は父母共に死亡したと部下から渡された改竄済みのデータをまんまと信じきっていた。

前国王が気づく訳も無かったのだが、彼女には知る由もない。


その後、あらゆる学門で優れた成績を修め、特に錬金術に精通していた彼女は、魔術学校でも群を抜いており優等生だった。

常に女子中で首席の座を独占し続け、本来4年かけて18歳で卒業する所を半分の16歳で卒業と言う史上初の飛び級を実現させた。


その後は討伐者として一年間自身の戦闘と錬金術の技術を磨いていき、彼女曰く革命によって晴れて国王の座へと帰り咲いたのが今日である。



「さあエリシアお嬢様……いや、エリシア女王陛下。早速正式なる就任式の日付を定めましょうぞ。新たな国王の誕生を世界中に発信しましょうぞ!」


「うふふ、相変わらずせっかちですわねエトソンは。ですが、それよりも早くお伝えしなきゃならないお方がいます」


「はて、それは一体どなたでしょうか?」


「それは勿論、さすらいの勇者一行ですわ。ですが、生憎彼らの名前を存じ得てなくて困ってますの……」


「ははーん、さてはハジメとナユタ達だな?」



面白半分に口を挟んできたイデカミに、興味津々に彼女は食い付いてきた。



「知っているのですかイデカミ様!」


「ああ、この前一緒にダンジョンに潜入したんだが、あいつ達が俺達を救ってくれたんだ。ハジメの助言がなければ今頃俺達は石にされたままモンスターに粉々にされてただろう」


「まあ、私達だけでなく貴方まで助けてくださったの? きっと彼はこの世界を救う英雄なのよ! 私の王子様になるべきお方なんだわ! 早速王子様の眠ってる王国病院へ急がなければ!」



思春期の少女のような単調な思い込みだが、彼女にはれっきとした純情だ。

エリシアは玉座から勢い良く飛び降りて、早速馬車の停まっている玄関先へと向かって走り出した。


残されたイデカミは、隣の彼女の実質な育ての親でもあるエトソンに話し掛ける。



「……止めねえのか爺さん?」


「エリシア様の子供をだっこする日が来るまでは、まだまだ死ぬ訳には行きませんですじゃ」


「本当にせっかちだな……爺さん」



「あいつ、これから大変だぞー」とイデカミは冷や汗を流していた。

ここまでお読み下さりありがとうございます!

次回、病院で目を覚ましたハジメの目の前にいたのは……新国王のエリシアだった。

彼女は新たなヒロインになるのか、それとも……

お楽しみに(*´∀`)♪


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