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【完結】亡郷のナユタ ー:DECILLON:s.Nostalgledー  作者: 棹中三馬
Vol. 1.00 妖精郷の伝承《フェアリー・メモリーズ》
25/47

1ー18 神遊びの儀式

闘技場の中央には階段が設けられた巨大な正方形の台が置かれており、その中央にはフォルネイスとメイドが立っている。



「ようこそ挑戦者達よ。私はフォルネイス。『王国騎士団』の総団長にして、この世界で一人しかいない剣聖の称号を授かった冒険者だ」


「そして私はヴェルノエール。ヴェルと呼んで頂戴。エディと同じくフォルネイス様に仕えるメイドですわ。因みに、貴方の隣にいるエディは私の双子の姉なのよ。顔が似ているでしょ?」



ヴェルという金髪ウェーブのメイドは、無表情なエディと違って表情豊かである。

同じ双子でもここまで性格が違うのも珍しい。



「ふん。剣聖て、ただのおっさんじゃ無いですか」


「ちょっとナユちゃん! いきなり挑発しないで下さいよ!」


「……お前! フォルネイス様を侮辱するのかぁ!」



エディは物凄い剣幕でナユタに抗議をする。

無表情と言うのがまたなんとも言えないシュールさを醸し出している。

しかし、侮辱された張本人は少しも動揺する事もない。

大人の余裕と言う物だろうか、敵ながら少しだけ格好良いと思ってしまった。



「エディルナーラ。大勢の人が見ているんだ、子供相手にムキになるもんじゃない。こっちに来なさい」


「……はっ」



エディはシュンとしながら、トボトボとフォルネイスの方へと移動していく。

顔は無表情だが意外に行動で感情が露呈しやすい性格のようだった。


さっきの戦いで所々破れたメイド服に観客席からは歓喜の声が上がっていたが、当人達はそんな低俗な奴等など眼中にすらなかった。


フォルネイスは自分の鎧の上に纏っていたマントを外し、エディの上に被せる。

続いて俺達の方を見ると、第一に称賛の言葉を送る。



「ほう、随分と強気なんだね君達は。嫌いじゃないよ、そう言う子は。最も、自身の力に自惚れているだけの未熟な冒険者は、我に勝てた試しは無いんだけどね」


「そうか、俺達が未熟かどうか、実際に味わって見るか!?」



先制をとろうと魔術濁流(マナカオス)を撃つ準備をするが、フォルネイスは手に追えない子供の世話を任されたみたいな困った顔をしている。



「まあ待て、ここは神聖なる決闘の場だ。事前にルールの説明をさせていただくが、素直に聞いてくれるね?」



ナユタが制止を促すために、俺の前に手を指し伸ばす。

彼は今までの様な問答無用で攻撃する奴等とは何処か違う、まるでスポーツをするかの様にルールに則って戦いをしようとする。

武士道精神とでも言うのだろうか。



「……まあ、それくらいは」


「手短に頼む」


「宜しい。この戦いは神遊び。遊びとはついているが、これは立派な儀式である。神と神、……正確には立派な神様になるための新人の神様同士が競い争い、天界の神々に後続達の勇姿を奉納する為に行われる、神々達の晴れの場だ。ハジメ君の妖刀『神喰』と、ナユタ君の『クリフォニア』。そして我の契約神器達との真剣勝負さ」



ナユタが目を見開いて、フォルネイスに問い返す。



「契約神器? どうして私達の事を……」


「自覚が無かったのかい? あれだけ世間を騒がしていれば、嫌でも情報が世界中に広まるものなんだよ」


「まあ、確かにちょっとだけは暴れたけど……」


「いやいや。ちょっとだけ処では無いと思いますけど? 普通にあれだけ死傷者出してたら騒ぎにもなりますって……」



呆れ気味に俺に突っ込みをいれるコルト。

それを言われたらぐうの音も出ないが、元々あれはクソ兄貴が喧嘩売って来たのが悪いんだからな?


少々言い訳がましくもあるが、俺の中ではそう自己弁護しておく。



(いや、私の太刀の正式な名称は自分で喋った事すら一度もない。何処で情報が漏れたのでしょうか?)



何が不思議だったのか一瞬だけ考え込んだナユタだが、今は必要の無い事とすぐに思考を放棄する。

フォルネイスはお構い無しに続けて話を進める。



「よって神と契約している人間のみが、この戦舞台に立つことを許される。勿論、赤の他人の妨害などご法度だよ」



ギムさんの方を見ながらフォルネイスは口調を強めて言っている。

分かりやすい警告の態度だった。



「分かった。俺はタイムとケシアと一緒に闘技場の端で観戦している。お前達三人に任せた」


「ああ、分かった」


「私達に任せて下さいよー!」


「うん。行こう」



俺達はフォルネイスと同じ戦舞台へと足を踏み入れる。

ギムさんはケシアとタイムを後ろへと移動させ、闘技場の壁端に待機している。

ケシアが俺達に向かって大きく手を振っていた。



「ナユタさん、ハジメさん、頑張ってくださいね!」


「つーかさおっさん、普通にメイドを戦舞台に入れちゃっているじゃないか!」



苛立ってるタイムだが、彼の意見は少し違う。



「……いえ、違います。あの二人はコルトと同じ神様……フォルネイスは契約神器の使い手、それも二重契約者ディエル・コンタクタス。以前の世界ではごく僅かですが確かに存在していた、二柱の異なる神様と契約した人間」


「成程な。神様だったから俺の魔術濁流を零距離で喰らってもピンピンしてたのか」


「ご名答。さあ、ヴェルノエールとエディルナーラよ。今一度、真の姿を我の為に貸して頂きたい」



二人が眩い光に包まれて、やがてそれは繊細な装飾が施された槍と、鏡の様に世界を写し出す綺麗な大盾となった。

それを拾って装備しながら、自慢げに武器の説明をする。



「これが我の契約神器、『討魔の楯』と『滅神の槍』。あらゆる契約神器使い達を葬ってきた最強の武具さ」


「なんかさ……いかにもチート武器みたいな名前だな……」


「みたいではない。実際にそうなのだ。『討魔の楯』は契約者に向けられたあらゆる魔法を無効化する。『滅神の槍』は神の顕現に必要な神力自身にダメージを与え、消滅させる。またの名を、契約神器殺し」


「本当にチートじゃ無いですかー!?」



うん、前言撤回だ。

武士道精神なんか欠片もないぶっ壊れ装備だった。



「ふむ。面白い事になってきたな。精々気を緩まさず励めよハジメ」



すっごい久々にゴトクの声が聞こえてきた。

まあこればかりはゴトクは当事者であるから当然と言えば当然か。



「気にする必要はありません。私達ならきっと倒せます」


「……そう、なのか……?」


「私達は十進法を採用している訳ではありません。二進法を採用しているのです」


「またも意味分からんことを……」



何処からかそんな自信が生まれているのだろうか、フォルネイスに臆する事もなくナユタは俺に話しかける。



「ここに来て夫婦漫才をするとは良い度胸だ」



いや、夫婦じゃないから。

こんな生意気暴力人工知能幼女が奥さんな訳がないだろ、いい加減にしてくれ。



「最後に、この戦舞台は眼には見えないが特殊な結界が張られている。どんな攻撃でもギャラリーに攻撃が届く事は一切無いから安心したまえ。君達の勝利条件は我を教会送りにする事、我の勝利条件はナユタ君を教会送りにする事。当然討伐者であるハジメ君の命の保証は出来ない。魔法の使用は可だが、アイテムの使用は不可だ。これで良いね?」



俺が死んだ場合も決闘は継続させると、フォルネイスは宣言した。

つまりあいつは俺よりもナユタやコルトを優先的に攻撃する筈。

だったら俺は彼女達をサポートする事に専念すべきだろう。



「……分かりました。お受けしましょう」


「俺も問題ないぜ。正々堂々勝負してやろうじゃないか!」


「やってやりますよー、このヤロー!」



俺達の意思表明を聞いて、フォルネイスはニヤリとクールに笑う。



「宜しい。それでは、神遊び(戦闘)始め!」



闘技場の何処からか銅鑼の音が鳴り響き、決闘の火蓋は切って落とされた。





イルタディアの遥か上空にある異世界。

あらゆる異世界を管理し統括する神の住む世界、天界。



「ついに始まったか。神遊びの儀式が」



下界の様子を映し出す水晶を覗き込むのは、男勝りな口調が特徴の女神。

肌の露出が多い白のローブを惜しげもなく着こなし、彼女から感じられるのは単なるエロさではなく、勇ましさだった。


しかし、やはり出ている所は出ているし、出ていない所は出ていない、まさに下界の人間達が想像する理想の女神像のお手本の様な女性だった。



「マテルダ君よ。自慢の教え子が立派に成長した感想はどうですかね?」



ふらりと現れたのは、杖を突いているヒョロヒョロとした男の神様。

おどけた表情からは想像もつかないが、彼はイルタディアを含むあらゆる世界の全てを創造した最高神である。


普段はお茶目なご老人でしかないが、彼を本気で怒らせると平気で世界を滅亡させる程の神力も併せ持つ、天界屈指の危険人物でもあった。



「まだまだですよゼウシス様。あいつはまだまだひよっこだ。これしきの事では民に慕われる立派な神様にはなれません」


「ほほ。相変わらず教え子には厳しいのお。それも愛ゆえの鞭ではあるのだがな」


「……そう想ってくれて構わねぇよ」



照れ臭そうにマテルダは言う。

ゼウシスは立派な白髭を弄りながら、過去の回想に浸っていた。



「いやいや。コルト君やマテルダ君の様子を見ると、遥か10億年前のワシの新人時代を思い出すのぅ。なつかしやなつかしや」


「やれやれ。この世界の全てを生み出した創造神様が何を仰っているのやら」


「ワシだって昔からこうしてぐうたらしてた訳じゃない。数えきれない多くの人間達を殺して、数多の同胞()達を葬って、どん底から成り上がって、ワシはこの世界を創造できる迄の地位と信仰と神力を手にいれたのじゃよ」


「その英雄譚は今日だけで4回は聞いたぜ?」


「はて、そうだったかの? それはすまないのぅ。ホッホッホッ」



ゼウシスはお気楽に笑いながらマテルダの元を去っていった。

怒らせたら誰にも手をつけられない最高神様が気を利かして自分から去ってくれたので、これで心おきなく愛弟子の試合を観戦する事が出来る。



「さあ、お手並み拝見といこうじゃないかコルト。そして亡郷の(ロスト)電子姫(エレクトリンセス)さんよ。……あいつにも、この試合を見せてやりたかったなあ」



水晶の先に映り込むのは、凄絶なる戦場だった。

ここまでお読み下さりありがとうございます!

次回、チート契約神器に苦戦するハジメ達。

窮地に追い詰められた彼が閃いた攻略法とは……。

お楽しみに(*´∀`)♪


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