1ー17 決闘の場
一方通路の地下通路の先についたのは、何も置かれていない空間。
奥には手で押しても動きそうもない扉と、その隣にレバーのスイッチがあるのみ。
そして案の定エディがその中央で佇んでいた。
「一応再確認をしますが、貴殿方が私達が捕らえたエルフを強奪しようとせん不届き者で宜しいですよね?」
一言目からきつい言葉を放ってきて、タイムが眼を尖らせる。
「何が強奪だよ! お前達が俺達のパパとママを連れていったんじゃないか!」
「これにはある事情があるのです。最も、貴方達に話す理由はございませんが」
「エディさん。貴方達は人を拐った挙げ句に、人身売買をして儲けようとしている。これは立派な犯罪です。今からでも中止してください」
ナユタの忠告にも聞く耳を持たず、エディは人形の様な無表情を貫いていた。
「馬鹿馬鹿しい。外の世界の法律などこの国では無意味。ここでは権力者の言葉こそが正義、それ以外は罪。よって貴方達は国家反逆罪に相当します。大人しく国の為に生きる奴隷となりなさい。まずは、貴方から……!」
エディは突然残像が見えそうな程の神速で詰め寄ってきて、何処から取り出したのかダガーナイフの切先を俺の心臓に向けて突き付けてくる。
「……! 魔術濁流!」
なかば反射的に俺は手のひらから漆黒の魔力の塊を放出する。
狭い空間で放出すれば彼女はまず逃げることはできない。
普通の人間だったら間違いなく即死してしまう火力だが、何分こっちは自身の命が掛かっているのだ。
撃たなければ俺が死ぬ。
だったら相手が女だろうが、敵である以上は容赦なく殺す気で撃つ。
しかし、予想外の展開が起きたのだ。
「何? この近距離でまともに喰らったのに……ほぼ無傷!?」
彼女以外の場所は壁が抉れたりしているが穴までは空いていない。
これはまだ分かる。
俺達の知らない様な強固な物質で作られているのだろう。
理解が出来ないのは、当の本人はメイド服の所々が多少破れたりはしたものの、体には全く傷どころか汚れ一つすらなかったのだ。
「確かに貴方の魔法は大変に興味深い。これは有力な憑代候補になりそうですね」
意味が解らない事を言っているが、俺としては唯一の攻撃魔法を防がれたショックの方が強かった。
「ちぃ、相変わらず頭わいてんなぁ。このキチガイメイド」
「やはり貴方が反逆者でしたか。不老不死のでき損ないごときが、大人しく王国の犬として生きておれば良かったのに」
「! こんにゃろ……! 言わんで良いことをペラペラと!」
鬼のごとき顔をしながらギムさんは脇差でエディの腹部を一閃する。
流石に刃での攻撃は通用するのか、切りつけた痕から鮮血が飛び散る。
「ギムさん……なんかいつもより感情的になってます……」
「不老不死……でき損ない……どういう事ですか?」
「あの……今まで言っていなかったんですけど、実はギムさんは遠い昔、多くのエルフの命を犠牲にして生み出された『不老延死』の討伐者なんです」
「! と言うことは、今回のエルフを拐っていったのって……」
「妖精郷のエルフ達を、犠牲にするため……!」
真実を知って驚愕する俺達。
鮮血を滴らせながらもエディは顔を歪める事もなく、淡々と計画を白状した。
「ご存じでしたか。だったら隠す意味も無意味ですね。その通り。今回のエルフの誘拐は人身売買の為ではなく、売れ残った不良品達を『永生命人計画』の生贄にする事。そして、今度こそ完全なる不老不死の討伐者を我らの手で生み出すのです。奴隷市など、ただのカモフラージュにすぎません」
「何処までも、救いようがない奴らだな……!」
「私達を止めたいと言うのならば、これから私の仕える王国騎士団総団長フォルネイス様と決闘していただきます。貴方達が勝てば捕らえた奴隷を開放し、今回の計画を破棄。貴方達が負ければ、その修道女を頂きます」
とても受け入れがたい要求を突き付けてくる。
タイムは目を見開いて俺の服の袖を強く引っ張る。
「! 駄目だよ! 姉さんは計画に絶対必要なキーだって言ってた! 姉さんが捕まらなきゃ、絶対にあいつらは計画は進めれないって!」
「だから頂くのですよ。さあ、どうしますか? 今大人しくその修道女を差し渡せば、貴方達だけはそのままお返ししても良いのですが……」
「ナユタさん……」
ケシアのやるせない表情の意味は良く分かる。
自分達を犠牲にして、俺達とタイムだけでも見逃す選択肢に惑わされている。
しかし、俺達が……タイム自身が、そんな選択肢を受け入れる訳もなかった。
「犯してもない罪を償えなど、私達にそんな義理はありません。そしてケシアを貴方達に渡す意味もありません!」
「ええ。絶対にあなた達の野望を止めて見せます!」
「そう言うこった。お前のご主人様に言ってやってくれ、俺達はただで負けてやる程お人好しでは無いってな!」
俺達の回答に心底呆れた様子のエディは、扉の隣にあったレバーを引き上げた。
ギギギと、鈍い音が部屋中を蹂躙する。
「……無駄な足掻きを。後悔しても知りませんよ?」
奥にあった重厚な金属で作られた扉が開かれる。
その先にあったのは、広大な砂で作られた地面。
その周囲を覆うのは歓声を上げる有象無象の観客達。
その中心で佇んでいるのは軽装な鎧の上にマントを纏った白髪の壮年の男と、その隣にいたのはエディに瓜二つな金髪のメイド。
そう、俺達がいたのは闘技場の控室だったのだ。
「現王国総団長との決闘の舞台は既に整っております。どうか、観客を退屈させない様に、一秒でも長く生き残って下さいませ」
*
闘技場のVIPルームには二人の大物と彼らの側近達がいた。
一人は王都の現国王、この王都のあらゆる物を牛耳っている最高権力者。
今回の『永生命人計画』をフォルネイスに指示したのも、この決闘の舞台を用意させたのも、観客を入れることで民衆から金を巻き上げるのも、全部この暴君の一存であった。
一人は王都の聖女、異世界から冒険者を召喚する使命を受け持った冒険者。
イルタディアの均衡を維持するための重要な役職を担っているため、表向きは王国教会に仕える美人な聖女でしかないが、裏の彼女は冒険者達を裏で支配する『八勇人』の一角、それも序列三位の大物だった。
「聖女セレシアス様。わざわざこのような僻地にまで足を運んで頂き、我々としても誠に光栄でございます」
「いえ、国王陛下。私としてもとてもとても楽しみで仕方が無かったのですわ。何せ今宵、新たなる不老不死の討伐者がこのイルタディアに君臨するのですから」
「勿論ですとも。1800年前の国王は無様に失敗をしましたがね、私の手にかかれば必ずや、夢物語を現実にへとして見せましょう」
(あんたが一番不安なのよ。そもそもあんた人をこき使ってばっかりで、あんた自身は何もやってないじゃない。肝心な政治ですら部下の側近に丸投げって言うじゃない、このニート)
勿論、本音などおくびにも出さずに、セレシアスは営業スマイルを国王に向ける。
「ですが、万一にもフォルネイス卿が敗北したら、その夢物語も水泡に帰してしまうのですわよね?」
「ご心配には及びません。我々《王国騎士団》が誇る最強の剣聖、フォルネイス=ドラコニアスがあのどこぞの馬の骨かすら判らない小娘に負ける訳がございません。ましてやあの落ちぶれたマテリアル家の次男坊など、一瞬で殺してしまいますとも」
「あらあら、乱暴ですわよ。せめてレディには優しくしてあげなさいよ」
「流石聖女様は慈悲深い。それではあの男を惨殺した後に、あの小娘の身ぐるみを剥いで私自ら優しく洗礼をして差し上げねば。げふぁふぁふぁ!」
豚のように汚く笑い散らす王様に、セレシアスは背筋に劇的なる寒気を覚える。
(……はあ。仕事だから嫌々来たけど、ここの王様本当にクズね。女の敵ね。私の事もさっきからずっとやらしい目でみてくるし、さっさと寿命でくたばれば良いのにこのエロジジイ)
あくまで、王様に見せる表情はまさに聖女そのものだが、本心では今にも嘔吐を催しそうな位には気分が悪かった。
ここまでお読み下さりありがとうございます!
次回、闘技場で待ち構えた敵 王国騎士団総団長。
妖精郷の運命を掛けた戦いの火蓋は切って落とされた。
お楽しみに(*´∀`)♪
ここまで読んだ上で面白かった、続きが気になるという人は評価とブックマークをお願いします♪




