1ー13 兄弟の因縁
今回は胸くそ展開注意です!
最終的に主人公が勝ちますが。
「何ですかこの爆発は! 吾輩の手下達はどうしたのです!?」
狼狽えている目の前のあほ面を見ながら、俺は喜びに全身を震わせていた。
因果は巡ると言うか、同類は自然に引かれあうと言うか。
まあそんな事はどうでもいい。
漸く、あの親父にギャフンと言わせる絶好のチャンスが到来したんだからな!
「全く、洞窟の入口に物騒な奴らが屯しているからさ、邪魔だったから一発ぶっぱなして追い払ってやったよ。しかし、まさかこんな所でお前と出くわすとはなぁ、クソ兄貴」
「……兄? このクズがハジメの兄なのですか?」
「確かに顔の雰囲気だけはちょっと似てますね……」
「ほう。誰かと思えば役立たずで家から追放されたゴミ虫じゃないですかー。てっきり餓死したもんだと思っていましたがねー。……で? テメーが吾輩の邪魔をしたのですかぁ?」
「ああそうさ。お前達が不良品扱いしていた『魔術濁流』でな、俺は成り上がって来たんだよ。確かに今の俺は相変わらず魔力を全部使いきって漸く一発しか打てない。だけどな、俺はその一発を正確に当てる様に努力して、魔力を一秒でも早く全快出きるように模索して、多くの人に助けられてここまで来れた。今の俺は追い出された時の俺とは違うんだよ!」
俺はすかさず妖刀『神喰』を抜刀。
刃が付いてない刀、確かにゴトクの言った通り切れ味には期待できそうに無い。
「ふん。そんなふざけた刀で吾輩に挑みますか。生憎魔法具の天才たる吾輩謹製の魔法銃相手には、その刀など玩具も同然。所詮テメーはどれだけ努力しようが我が一族の恥なのです。私の邪魔をするなぁ虫けらがぁぁ!!」
激昂したイルが俺に向けて拳銃のトリガーを引いた。
あの魔法具は使用者の魔力を弾に変換しているので、自分の魔力が底をつかない限りはいくらでも発砲でき、自分が求める弾を思考しただけで瞬時に装填できると良く自慢していた『魔廉丁』だとか言っていたか。
この拳銃が契約神器等ではなくあいつの自家製だと言うのだから、あいつの魔法具の才能の凄さだけは一人前だ。
その他(特に人格面)が全くと言ってダメダメだが。
「……ハジメさん危ない!?」
俺は凄まじい速さで照準範囲から回避。
標的を見失った魔力の弾丸達は洞窟の壁へとめり込んでいく。
「事前にナユタに走神の息吹を可能な限り重ねがけして貰ったからな、これしきの弾なんかあたんねーよ!」
素人ながら一発突きをお見舞いしてやる。
確かにこの刀は斬る事ができない。
「がぁ!?」
ならば殴って攻撃すればいい。
普通に金属の延べ棒で殴られれば痛いし、何より相手の魔力も奪えるんだからな!
「ふん。でかい口を叩くだけあって少しはやるようだ、その小娘がなぁ!!」
「くっ!?」
よりにもよってクソ兄貴は俺じゃなくナユタに向かって発砲した。
右足に被弾して身動きがとれないのを利用して、ナユタを無理矢理引っ張りつけて捕まえる。
「ナユちゃん!?」
「……本当に、子供を巻き込むとか……どこまで性根が腐ってるんだコイツ」
コルトの痛烈な叫びが洞窟を包み込んだ。
ケシアとタイムの前に立ち塞がる男も、朦朧とした意識の中で批評を溢す。
「おい! ナユタは関係無いだろうが!」
「そもそも、複数で吾輩一人に楯突く時点でテメーが卑怯なんだよ。こっちが人質を取って初めて平等なんですよー!」
「ふざけるなぁ! 放せ!」
クソ兄貴にまた一撃打撃を喰らわせてやろうと前進するが、気色の悪い笑みを浮かべながらナユタを俺の方に突きだしてきた。
「おっと、この小娘に当たっても良いんですかねー?」
「くっ!」
『魔廉丁』の発砲口をナユタのこめかみに当て付ける。
いくら冒険者は教会で蘇生できるとは言えども、ナユタにあんな惨い死に方をさせる訳には行かない。
下手したら脳の損傷によって蘇生しても完治できない後遺症を起こすかも知れないのだ。
「……ちぃ!」
刀がナユタを斬ることはないと解ってはいるが、それでも彼女の顔に痣でもついてはいけないと思い攻撃を中断させる。
それを狙ってたのだろう、ゲスな表情を晒しながらクソ兄貴は俺に向かって拳銃を発砲した。
「はん! 素早さバフ掛けまくってる癖に、隙だらけだな!」
「ぎゃぁ!?」
何とか致命傷には為らなかったが足を撃たれたのでまともに立ち上がれない。
大量の血液が溢れだし、地面が紅蓮に染まっていく。
貧血の影響なのか頭がくらくらする。
或いは、毒でも盛られたか……?
「どうですかぁー、吾輩の対人魔共用猛毒弾の威力は。こいつに撃たれたら身体中に強烈な猛毒が駆け回る。討伐者のてめぇにはちと強力過ぎたかもしれんが、せいぜい死ぬなよぉぉー!」
やはり、どうしようもないクズ野郎だった。
子供の頃から天才肌なのを良いことに他者を見下す癖が強かったが、特に俺への苛めは尋常じゃ無かったからなあ。
「大体虫けらのお前ごときが、女をはべらかすなど百年速いんだよ! テメーを殺した後はこの小娘達は吾輩の奴隷にして、ねっちょねちょに可愛がってやりますよぉ!」
「誰が、あなたなんかに……」
「ふん。そう強がっていられるのも今のうちですよ! 吾輩の作る魔法具、特に拷問魔法具の扱いにおいてはイルタディアでは右に並ぶ者はいないのですから!」
全然自慢にならない事をドヤ顔というかゲス顔で言うクソ兄貴。
取り巻きはいくらでもいるが、絶対に窮地に頼れる友達はいないタイプだろうな。
「ハジメ。私の事は気にしないで。この男を倒してください!」
「出来る訳が無いだろうが! この距離で魔術濁流を撃ったらナユタもただじゃすまない!」
「……私は冒険者ですから、死んでも教会で蘇生できます。ハジメとは命の重さが違うのです……ぐぁ!」
「くくく、面白い。それじゃあ思う存分いたぶってあげますよ! この生意気な小娘め!」
白スーツのポケットから首輪型の何かを取り出した。
それをナユタの首に取り付けると、強烈な電流がナユタを包み込んだ。
「ぐぅ、がぁぁ!?」
「はは。どうですか私の魔法具『拷問首輪』の威力は。私に服従するまで高圧の電撃は続きますよー?」
「テメー、調子にのるな……ぐはぁ!?」
猛毒が効いてきたのだろう。
口から血が混じった嘔吐物を吐き出す。
「まずは、戦いで傷付いた吾輩を回復呪文で癒して貰いましょうか? 勿論その後は、あの娘と一緒にたーぷりと、一晩中癒して貰いますけどねぇー?」
「そんな要求……飲み込める訳がなぁぁ!」
目が虚になって屈辱に喘いでいるナユタを目の前にしても、俺にはクズ兄貴をぶっ殺せるだけの力はまだ持ち合わせてはいない。
本当の意味で俺がナユタを守ってやるには、まだまだ俺は実力不足だと現実が突きつけている。
「……詠唱 全快復」
「ふふふ。到頭吾輩に忠誠を誓う気になりましたかぁ?」
「……ナユタ」
「酷いです。あんな辛い顔をしたナユちゃんなんて、見たくありません……」
「ははは。これは傑作ですねぇ! 忌々しい弟のその顔っ、最高に気分がいい! このまま毒が回って死ぬまでの間に、この娘のあられもない姿を見せてやるので感謝しろよ……ぐべふっっ!?」
クズ兄貴の腹に脇差が貫かれていた。
ざまあみろ、と心の中からつくづく思ったのは久しぶりだ。
「おい。いい加減にしろや」
背後にいたのは、ケシアとタイムを誘拐した張本人だろうと思われる緋眼の男。
仲間割れか? ……まあこんなクズ兄貴何だから当然と言えば当然だが。
「お前、何故吾輩の猛毒が効いてない!? 不老延死で傷口は直っても、内部に入った猛毒は解毒処理をしない限りは絶対に消えない筈だ!」
慌てふためくクズ兄貴に、緋眼の男は快活な笑みを浮かべる。
そのすきに解放されたナユタはコルトが優しく保護する。
「そうだな。だけど今はもうすっきりだぜ。さっきこの嬢ちゃんが治してくれたからな」
「何を言ってる……さっきの全快復は吾輩の為に……」
「んな訳あるか。あんたにも使ったのはフェイク。本当はあんたと俺に同時がけしてたんだ。俺があんたに攻撃の隙を作るための、嬢ちゃんの芝居だったんだよ。なあ?」
さっきまでの死んだ魚のような瞳が嘘だったかの様に、けろりとした表情でナユタはニヤリと笑っていた。
「……ふふ。ご名答です。詠唱 全快復!」
今度の全快復は俺に向かってだ。
さっきまで血を垂れ流してた被弾の後も綺麗に塞がっている。
意識的にまだ安定はしないが、何とか両足で立てるようにもなった。
やはり凄いや、ナユタの奴は。
俺もナユタに負けてられないと、バックから魔力水を取り出して一気飲みする。
魔力も満ち溢れ、俺の怒りもとっくに沸点を超えて腸が煮えくり返っていた。
「そんな馬鹿な!? あの電撃を喰らってなお、演技をする余裕があるわけが……」
「……言いたいことはそれだけか? クソ兄貴……」
「ハジメ!? ……いや、これはただの芝居だ。だからな。お互いに穏便になあ? なんなら親父に頼んで復縁してやってもいいんでs……」
「ふざけんなよ! 俺達のナユタを弄びやがって……、もう許さねえ!」
「いや、話せば解り合える……てえぇぇぇ!?」
「問答無用! 魔術濁流!」
激しい魔力の濁流に飲み込まれたクズ兄貴は、部下たちや棲息しているモンスターもろともに、洞窟の外まで吹っ飛ばされた。
*
「本当に大丈夫ですかナユちゃん!」
「大丈夫って言ってる。コルは心配しすぎ」
コルトはナユタに抱き付いて、頬を擦り合わせている。
ナユタとしても悪い心地はないのか彼女を振りほどく事はしない。
撃たれた右足は既に自身の全快復によって傷口も塞がれており、勿論魔法銃の毒も解毒済だ。
一方、俺はと言うとケシアさんに傷口の手当をして貰っていた。
この近距離からだと、普段修道服姿で目立たない彼女の大きな胸が強調されて目の付け所に困ってしまう。
「よし。応急措置も終わりましたよハジメさん。暫く安静にすれば元通りです」
「ケシアさん。ありがとうございます。あと、折角の素敵なハンカチを台無しにしてしまってすいません」
「いえいえ、ハルトニウス様に使える修道女たるもの、負傷している者に救いを施すのは当然の事ですから」
「それにしても、あいつどーなったんだろうね。死んだんかな?」
タイムがあいつと言っているのは当然クズ兄貴のイルの事だ。
まあ正直に言わせて貰うと、あいつが死んでも哀しむ人の方が少ないだろうけどな。
「多分それはない。あいつ無駄に生命力高いから、一発撃っただけじゃ死なねえよ。それにあいつとは今後とも関わりたく無いしな」
「とか言って、『吾輩はまた何度でも蘇るのですよ!』とかほざきながら、あっさりハジメさんにやられにくるのですよね。テンプレですから」
「うわー。それは本当に勘弁してくれー。普通にありそう……」
ゲスさと執念深さと魔法具の扱いだけで言えば一応、イルタディアで一二を争える討伐者だからな。
「ハジメ。ちょっといい?」
「何だ?」
「さっきの言葉、俺のじゃなくて、俺達のなんですね?」
「? そりゃそうだろ。それがどうしたんだ?」
「……馬鹿」
「いだだだだだぁ! 何で首を絞めるんだよぉぉぉ!? 意味わかんねぇぇぇよおぉぉぉ!?」
因みに、構図的にナユタの平たい胸が俺の胸にピタリと当てられているが、この状況下で満喫できる訳もなかった。
「お楽しみの所悪いな」
「助けてくれてありがとうございます……そう言えば、あなたの名前は?」
手が塞がっているナユタの代わりにコルトがお礼を言う。
「よしてくれやい。元々俺がこいつらを誘拐したからこうなってる訳なんだし。俺の名は……ギムだ、ギム。宜しくな」
何故か自分の名前で一瞬考えていたが、まあいい。
兎に角ギムさんにはお世話になった。
と言うか、別の意味で意識が朦朧としてきたのですがナユタさん……?
「私達の妖精の宿に不届き者が入り込むのと比べれば、今回は被害が少なかったですから。私からもお礼をさせてください」
タイムと一緒にお礼をするケシアを見て、ギムさんも何処か嬉しそうにボサボサの頭を掻いている。
「そか。そう言えば、あいつのしたっぱをいたぶってやったらあっさりエルフ達を収容している場所をゲロってくれたんでなあ、これからそこに乗り込もうと思うんだが……どうする?」
「それは勿論……」
「お供させて下さい!」
「私とタイムもお願いします!」
「ほほはへひははふははひへ……」
いよいよ、エルフの人達を救う為に……動き……だs。
ここまでお読み下さりありがとうございます!
次回 イル兄貴のざまぁ回ですね。そして主人公サイドは新たな場所へと旅立ちます。
お楽しみにー(*´∀`)♪
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