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【完結】亡郷のナユタ ー:DECILLON:s.Nostalgledー  作者: 棹中三馬
Vol. 1.00 妖精郷の伝承《フェアリー・メモリーズ》
18/47

1ー11 招かれざる客

スイラ酒はスイラを特製の酒樽の中に入れて発酵させて造るお酒である。

度数は高いが芳醇で味わい深く、妖精郷のエルフ達はこのスイラ酒を祝いの席にも出している程親しんでいる。

タイムにとってこのスイラ酒造りが自身の趣味にして仕事であった。



妖精の宿から外れた先にある酒蔵場にて、十年物の酒樽を開封して瓶に移し代える作業に追われていた。

本来だったら酒蔵の初代蔵元杜氏である父と一緒にする作業だったのだが、今回ばかりは一人でするしか無くなった。


父親が戻ってくるまでの間、一日一時間の誤差で味が変わる繊細な酒を放っておく訳にはいかないからだ。



「やっと終わったー。さてと、後はラベルを貼るだけだな。でもラベル貼りはパパが帰ってきてからでもいいかー。その前に早速味見しよーと」



容量が中途半端で売り物にならない瓶を傾けて、杯に注ぐ。

仰ぐと喉元が熱く、鼻に心地よい香りが貫いていく。

俄によろめく視界に戸惑いながらも、また父の味に一歩近付いていく嬉しさに、いつもの幼顔を殊更に朗らかに緩ませた。



「うん。美味しい! 完璧だね!」



完成品の中でとびきりの自信作を一本持ち出して、妖精の宿へと持っていく。

そこでタイムは初めて調理場のテーブルの上に空瓶が一本、無造作に置かれていたことに気付いた。


気になり食堂の方に向かっていると、大きな食卓に一人ケシアが凭れ掛かって天使のような寝顔を無防備に晒していた。


テーブルの上には傾いたグラスに、つまみである食べ欠けのタンクモズチーズが散乱している修羅場と化している。



「おーい。こんな所で寝ないでよー」


「……タイム。私もしかして寝ちゃいましたか?」


「うん。ぐっすりだった。あんまりお酒強くないのに飲んじゃったんでしょ?」


「ええ。久し振りのお客様だったので、嬉しくなってつい」



清楚な彼女も今回は酒に火照り頬を紅に染めている。

人によれば鼓動が緊迫しそうな妖艶なる彼女の姿にも、当然ながら弟はただ姉を気遣うだけの感情しか生まれない。



「そうかー。もう少し持ってくれてたら、出来立てのスイラ酒を飲ませてあげれたのに、残念」


「良いんですよ。お酒は飲んでも呑まれるな。ハルトニウス様に仕える修道女たるもの、過剰な飲酒はご法度ですから。奥の酒蔵庫に寝かして置いて下さいな」


「うん。分かった」



タイムは暗室にスイラ酒を安置しに向かった。

再びリビングへと戻ってくると、温続球の一つから引っ張り出した、仕事終わりのご褒美であるタンクモズの自家製アイスを一つ持ってきた。


温続球とは、一定の温度で内部のアイテムを保管できる魔法具の一種。

透明な正八面体の風貌をしているこれは、中身を取り出すとそのまま砕ける。

生産系スキルの中でも比較的に覚えやすい『温続球生産』を有していれば、少量の魔力を消費して大量に作れる事が可能な魔法具だ。


スプーンで甘い雪を一匙掬い、口へと放る。

スイラ酒の辛さの口直しで食べる、タンクモズアイスの甘さは格別だ。



「そう言えば、姉さん一人で飲んだの? グラスの量が多いけど」


「コルトさんとナユタさんにも振る舞いましたよ。ハジメさんは片付け後にすぐ部屋に行かれたので飲まれてませんが」


「えっ、いいのー? 子供にお酒を飲ませちゃって?」


「ちゃんとジュースで割っているから大丈夫ですよ。余ったストーンアップルでジュースを作ろうと思ったんですけどね、折角だから私達の名産を味わって頂きたくて、お二人には言わずにこっそりとアップルカクテルにしちゃいました」



親に悪事がバレた悪戯っ子のようにてへと可愛らしく舌をだす。



「うわー、シスターさんなのに知らない子供に飲酒させるなんてサイテー」


「うちの宗派は外の国の宗派とは違いますから。それにあの二人は子供じゃありませんよ」


「そうなの?」



小首を傾げるタイムに自慢するように、ケシアは修道服に隠された豊満な胸を包むように両手を組み、自身のスキルについて誇らしげに語る。



「ええ。私のスキルは【審判(ジャッジメント)】。その人が出すオーラの色でどんな人か一瞬で分かりますから。結論を先に言うと、コルトさんはナユタさんの契約神器です」


「ええっ!? 180年ずっと暮らしてたけど初耳だよ!?」


「コルトさんは黄色なので神様。神様なので問題ありません。ナユタさんは灰色。神様とは違うけど人間とも違う……不思議な人なのです。だからこちらも問題ありません。もっともこの郷にこもってると使い道が無いんですよね。修道女として修行を積んでいる途中に、偶然手に入れたスキルなんですけど」


「へぇー、すごいなー! 流石姉ちゃんだ!」


「ふふん。だてに1000年は生きていませんから」


「ハジメ兄ちゃんには言わないであげてね。多分泣いちゃうから」


「聞かれても絶対に言いませんよーだ。女の子の年齢を聞くのは不躾ですって追い返します」



二人が人間達の理解には及ばない談笑を交わしている最中、突如ガチャリと廊下の扉が開かれた。

そこにいたものは、コルトでも、ナユタでも、ましてやハジメでもない。



「元気だったか。二人とも」



それは茶髪のオールバックに眼鏡をかけたエルフの優男だ。



「……お父様!」


「パパだ! 帰ってきたんだぁ!」


それはケシアに接客のノウハウを教えた妖精の宿の支配人だった。

それはタイムに酒の製造方法を教えた酒蔵の初代蔵元杜氏だった。

それは盗賊に捕らえられた筈の二人の父親だった。


少なくとも二人から見れば。





紅葉に囲まれた聖霊泉の中で俺は一人長風呂をしていた。

俺と契約している神様ゴトクの話をじっくりと聞いているのだ。



「実はな、我はれっきとした神様ではあるが所謂出来損ないの神様でな。他の神々から散々馬鹿にされてきた。我の妖刀『神喰(カミクイ)』はその特性ゆえに、他の神々の聖剣達と違い斬撃による攻撃力がまるで無かったのだ。他の奴らは巨大な石柱でも一瞬に斬り捨てたと言うのに、我は若い苗木一本すら斬れなかった。皆からは(なまくら)だの、木刀だの、偽妖刀だのと、言われるがままだった」



身を切らずして、霊のみを喰らう。

契約した時に告げられた言葉を思い出す。



「霊のみを喰らう。……つまり、『神喰』は身を切れない刀だけど、刀身で触れた相手の魔力だけを喰い、持ち主の魔力として奪う刀と言うことか?」


「ああ。それだけだ」


「普通に凄い武器じゃないかよ!」


「だが遅いのだ。神々の奴らは最後まで我の力を認めようとはしなかった。ついには我を本格的に『神喰』に封印し、あの蛇の腹の中に呑み込ませた。『お前は天界に要らない。追放だ。この堕ちた神め』とだけ言い残してな」


「……すっげえ酷い話だなぁ」


「神々の権力争いは、人間以上に醜いのだ。自身の神のランクを上げるために、平気で己の信者達をたぶらかし、他の神々の信者を殺す。恐怖で恐れた信者達はその神々の信者として寝返り、寝返られた神は信仰力を無くしていく。終いには信者を失った神は存在すらできなくなり、自然消滅する。神が不在になった世界は滅亡の一途を辿るのだ」


「神様にも階級制度とかあるんだなー。大変だ」


「だからうぬがあの蛇を討伐し我を解き放ってくれた事には本当に感謝している。うぬの特性と我の特性は実に噛み合うものだとうぬは勝手に思っておる。今後も何卒頼むぞ、ハジメよ」



確かに相手の魔力を吸収する『神喰』と、全ての魔力を一度に消費する魔術濁流(マナカオス)はとても相性が良い。

ナユタから貰った『輪廻の腕輪(ゼーレヴァンリング)』も合わせて、最初の頃と比べてかなり魔力の回復効率は上昇したと思う。



「分かった。これからも頼むよ、ゴトク」



最初は強面のおっさん神様だと思っていたが、彼も俺と同じ追放された身だった。

波瀾万丈な神生を送っていたんだなと思い少し親近感が湧いてきた。


男同士の裸の付き合いとでも言うか、こう言うのも悪くないなと思いながら湯船に浸かっていると、雰囲気をぶち壊す自体がなんの前触れもなくやって来た。



「たっ! 大変ですハジメさぁん!」


「いつまで長風呂しているの……早く来て!」



なんと、寝間着のままの二人が更衣室のドアから入ってきたのだ!

さっきの二人と同じとは想像できない程に緊迫感に駆られた表情で、露天風呂の方へと歩いてくる。



「おい!? 風呂に入ってくるなってあれだけ言っただろ!?」


「それどころじゃない。二人が……誘拐された!」


「タイム君とケシアさんが知らない男に、連れ去れててしまいました!」


「なっ、何だって!」



衝撃に堪えかねられず思わず俺は湯船から立ち上がった。

二人は一瞬思考を止めて、直ぐ様に顔を紅に染めている。



「ちょっと、思っていたよりも……立派ですね」


「いきなり入ってきた私達も悪いけど……最低」


「ハジメよ。取り合えず前を隠せ」



ゴトクの言葉で我に帰って、すかさず頭に載せていたタオルを腰に巻いた。

ここまでお読み下さりありがとうございます!

次回は、拐われた二人を救出しに行きます!

お楽しみにー(* ´ ▽ ` *)ノ


ここまで読んで、面白いな、続きが気になるなと思ったら、評価とブックマークを宜しくお願いします♪

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