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【完結】亡郷のナユタ ー:DECILLON:s.Nostalgledー  作者: 棹中三馬
Vol. 1.00 妖精郷の伝承《フェアリー・メモリーズ》
17/47

1ー10 聖霊泉と甘い誘い

俺は夕食の後片付けを済ませて、割り与えられた自室で休んでいた。

女子と同室にならないのは本当に気が楽だ。


昨日は二人の恥ずかしくて声に出せないような寝言が気になって実は全然眠れなかったからな、よくあのコンディションであの蛇を討伐できたものだと自身の悪運の強さには(つくづく)呆れる。

二人の名誉の為にこれ以上は深く語らないでおこう。


この旅館の客室は極東の国の建築物で観られる、いわゆる和室だった。

極東の国は古来より他の国とは異なる生活様式を遵守している島国であるが、ここの独自の文化は人気があり、他国へ輸入されている事も珍しくない。


畳と言うらしい草で出来た奇妙な床に寝転がりながら、至福の孤独の時間を堪能していると、早速襖と言う木製の扉の向こうから声がする。



「ハジメ。入っていい?」


「お誘いにきましたよー!」



言わずもがなコルトとナユタだ。

ほんの一瞬の静寂だったなと、内心うんざりしながら入るように促した。


開かれた襖の先には昨夜と同じ、白衣にネグリジェ姿のナユタとモフモフパジャマ姿のコルトである。

だが前回と異なる事といえば、二人とも顔が熟れたトマトの様に真っ赤となり、髪も艶やかに濡れていた事、ではない。



「なんか臭うな……」



二人とも仄かに酒の臭いがする。

大人がいないのを良いことにちゃっかり飲酒しちゃってるなこの二人。



「もーう。開口一番で臭うなは女の子に失礼ですよー、ハッジメさーん」



いつも以上に陽気なテンションで、コルトはわざとらしく怒っている様な素振りを見せる。



「ハジメにはデリカシーがないから。仕方無いです」



さりげなく入るナユタのディスりも今回は少しばかり大人しめな気がする。



「ごめん。それでどんな用だ?」


「ハジメも温泉に入れば?」


「ああ。そうだな。二人が出たら行こうと思っていた」


「聖霊泉といって、一面紅葉に囲まれた絶景の温泉でしたよー。すっんごく気持ち良かったですぅー」


「そうか。それは楽しみだなー」



早速立ち上がって廊下に出ると、何故か二人も俺の後ろをついてくる。

温泉へ向かう方向は彼女達の自室の方向とは真逆なので、こっちに用事は無い筈なのだが。



「え、二人とも入ったんじゃないのか?」


「はい。お先に頂きましたよ? だけど最初はナユちゃんと二人きりで入りかっただけですし、私は二回目も全然大丈夫ですよー」


「私も。早く行こうよ。早くしないと湯冷めしちゃう」



どこか引っ掛かりを覚えながらも、まあ男女別々に入れば問題ないかと思い直す。

温泉がある場所は宿がある場所よりもさらに山奥で、一本道に整備された植物並木を進んでいった先に簡素な脱衣所と露天風呂がある。


しかし、実際に温泉の入口前にまで来てから漸く俺の甘い考えが通用しない事に気付かされた。



「ん? 何で入口が一つしかないんだ?」


「だって混浴だから。ここ」



混浴だ?



「いやいや、ちょっと待て。どうして混浴なのに二人ともついてきたんだ?」


「だって、ハーレムと言ったら混浴で入浴はテンプレですよー? てっきりハジメさんもそう言う下心があったから、断らなかったのかとー」


「混浴だって分かってたらもっと早く断ってたって!」



それにさっきハーレムに入ってないって言いませんでしたっけナユタさん?

きっとコルトが俺をおちょくっているだけなのだろうと思い、駄目元で隣のナユタに助け船を求めてみる。



「ナユタだって嫌だろ? 俺に……その……見られるの」



コルトにつられて俺をからかおうとしているのだろうが、聡明で保守的な彼女なら俺の言葉でやっぱり恥ずかしくなって、コルトに止めるように説得するはずだ。



「体に触なかったら、私は……別に良い」



良くねーよ。

何期待と羞恥心に眼を潤わせていってんだよ。

酔っぱらってる影響でいつものクールで強気な彼女では無くなっている。

と言うか、酔っぱらってエラー起こす人工知能(AI)って、それはそれで大丈夫なのか?



「頼むから空想のラノベと現実世界を一緒にしないでくれ。俺は一人で行くからな。絶対についてくるなよ?」


「それフリですよね? 折角ハーレムを作ったんだからーハジメさんも素直になりましょうよー。謙虚すぎる男は嫌われますよー」


「ちょっと?」



コルトは幼い見た目の割りにはそれなりに大きい胸を、俺の腕に押し付ける様に抱き着いてきた。柔らかな感触が布越しに伝わってきて、彼女の心臓の音が直に伝わってくる。


さっきタイムに羨ましいとは言ってみたが、実際にされてみると嬉しさよりも困惑の方が勝ってしまう辺り、性格的に少し損してるなと改めて思う。


どう対応するべきか分からずどぎまぎする俺の反応を見て、小悪魔の様に妖艶に笑うコルトを見て、ナユタは少し詰まらなそうに愚痴をこぼす。



「コルはズルい。私が持ってない物を持ってて」


「あら? ナユちゃんどういう事ですかねー? これはお仕置きが必要ですかねー」



惜しみもなく俺の元から離れたコルト。

俺としては助かったのだが、かわりに火花は別の方へと飛んでいく。



「ちょっ……だめ。そこ感じちゃ……ん」



柔らかそうなナユタの耳を甘噛みしている。

通常でも手に追えないのに、酒が入ると余計に手をつけれない。

これは風呂上がりの晩酌は二人が寝静まってから一人でするしか無さそうだ。



「兎に角俺は一人で入るからな! あー、いちゃいちゃしたいなら自分らの部屋でやれよ! ここじゃ他の人に見られるぞぉ!」



逃げるように俺は暖簾を潜る。





何とか二人は大人しく帰ってくれた。

恐らく自分達の部屋でゆっくりしているのだろう。

何をとは言わないが。



「はー。極楽極楽」



露天風呂の回りは本当に紅葉に囲まれていて、まさに紅の幕に包まれてるかのように綺麗な景色だった。

遠くの川から聞こえるせせらぎも聞いていて心地が良い、まさに隠れた銘湯である。


水面に浮かんでいた紅葉をぼーと見ていると、頭の中で聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「ふん。うぬも貞操を護れるだけの常識くらいは持ち合わせておったか」


「あー、ゴトクか。あの二人ってどうしてあんなにいちゃついてるんだろうな? 単純な友達と言うよりかー、もうカップルだよなアレじゃ」



普通のカップルでもあそこまで露骨にイチャイチャしているのは珍しいが。

俺としては同性カップル自体にはそこまで偏見は持たないつもりだが、せめて二人には最低限の羞じらいは持ってほしいものではある。



「誰が誰に恋い焦がれようがそいつの勝手だ。他者が割り込むべき事ではない」



それを言ってしまえば反論は出来ない。

しかし、俺と契約している神様はその定型文だけでばっさり切り捨てる事はしなかった。



「だが……契約神器の契約を交わした者同士は、同調(シンクロ)と呼ばれる共通数値が新たに付与される」


「ああ、もうナユタから聞いたぜその話は」



俺の制止を聞かずに、ゴトクは「良いから聞け」と話を続ける。



「同調とは神と人間、互いの心を繋ぎ会わせる一種の鎖。その鎖が太ければ太いほど、両者は一度に多くの情報を共有できる。視覚、嗅覚、味覚、聴覚、触覚、第六感。ありとあらゆる感覚をな」



ほう。それは初耳だ。

ナユタも知らなかった情報なのか、知ってても教える必要がないと判断したのかは分からないが、ナユタの性格的に態々隠す事はないと思われるので前者であろう。



「で? その鎖が太ければどうなるんだ?」


「人間は行動的だがそれ故に制約も多い。神は奇跡を生み出す神力を有するが、人間の信仰が存在しないと神は存続できない。その両者を繋ぎ合わせる為に創造神ゼウシスは思考を重ねた。試行錯誤の末に彼が出した結論が、神々の魂を人間達の武器に閉じ込める事だった」


「それが、契約神器か?」


「その通り。様々な世界で神の名を承った神器の話が伝わっているだろう。この方法によって神々は人間の信仰を必要とせずに自身の魂を下界に残す事ができるのだ。しかし、あくまでこの段階では神の真の力は発揮できない。憑代となる人間が契約神器を握る事で、初めて神は憑代の情報を共有して、その世界の全てを知ることが出来る」


「言っている事は理解出来るんだけどさ、それが結局あの二人とどう関係があるんだ?」


「弊害だ。同調が上昇するにつれて両者に一種の特別な感情が芽生えて惹かれあうことは珍しくはない事だ。一心同体になると言うことは、詰まるところ互い無しでは以前の様に一人前として成立しないと言うことでもある。それを失う恐怖を紛わらす意味もあるのだろう。……あの二人は極端過ぎる気もするが」



つまりあの二人がいちゃついてるのは同調の高数値が原因とでも言いたいのか。

そう言われたら納得するような気もするし、反面他の理由があるんじゃないかと勘繰ってもしまう。



「じゃあ、ゴトクもそのうち俺の事が好きになるのか?」


「気色悪い事をほざくな。馬鹿ガキが」


「へいへい。俺だっておっさんに溺愛されたくはねーよ。はー。どうせだったらゴトクがぴっちぴちの美女だったら良かったのになー」


「……そんなに我の姿が気になるか?」


「別に、ゴリゴリマッチョのおっさんに出てこられても困るからさ。今まで道理、声だけの出演で良いよ」


「……そうか」


「……ん? 俺なんか不味いことでも言ったか?」


「いや、何でもない」


「中途半端に逃げるなよ。気になるだろ? 悩み事なら相談くらいにはのるぜ?」



よく考えたら神様相手に失礼かなと思ったが、ゴトクはそんなことは気にしない神様だった。



























それは標的の住みかに辿り着き、元より透明だったそれはついに姿を表す。

エルフ耳の眼鏡をかけた優顔の男の様相で、足音を奏でずにそれは行く。



「悪いなグロリオ。お前の姿、借りさせてもらう。これも奴等に忘れ形見を渡さぬ為。迷惑料に、今度上手い酒を持ってくからな」



それは標的に迫る。

ここまでお読み下さりありがとうございます。

次回は、二人が酔っぱらった原因が判明します。あとゴトクの昔話もちょっとだけ。

お楽しみにー(*´∀`)♪


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