1ー8 エルフの少年
「おい! お前ら盗賊だろ! ここからから出ていけ!」
妖精郷の草原を暫く散策していると、一人の少年と遭遇した。
上には独特な模様のポンチョみたいなのを纏って、下には簡素なシャツと短パン姿、頭にはヘッドバンドが巻かれたエルフ耳の少年だ。
その少年は木の枝を小さな両手で握り締めて、俺達をまるで親の仇をみるかの様な形相で睨み付けている(残念ながら彼が思っている程怖くはなく、寧ろ可愛いくらいだったが)。
しかし、出会い頭で盗賊に間違えられるというのもお互いに最悪の第一印象であるのもまた事実。
「いや、俺達はそんな怪しい者じゃ……」
「嘘だ! 女の子達に囲まれて鼻の下を伸ばしている男はろくな奴じゃないって、パパも言ってたもん!」
今の俺そんなにだらしない顔をしてたのか。
反省するべき所は確り反省するとして、誤解は解いて置かなければ。
「本当に俺達はあそこの洞窟から抜けてきただけの、ただの一般人なんだ」
「ふーん。あの洞窟って俺が見に行った時は、確か行き止まりだったと思うけどなぁ」
「それはさっき俺がダンジョンを攻略したからだ。今は誰でも通り抜けできるようになってる」
「えっ!? じゃあやっぱりお前達悪い奴じゃないか!」
なんでそうなる。
「だって外の連中は悪い奴らなんだ! 俺達エルフを虐めるんだぁ! 俺のパパとママを返せぇー!」
言っていることが支離滅裂である。
だけど何か複雑な事情が有りそうな事だけは、流石に鈍感な俺でも察せれる。
と言ってる側から、少年エルフに馬乗りにされて関節が曲がらない方向へと両手を引っ張られる。
「ぎゃ、ちょっと痛い痛い! タンマタンマ!」
「待ってやるもんかー! おりゃぁ!!」
「ちょっと、二人もこの子を止めてくれよ! あだだだだ!」
「男同士のタイマンに女が介入すべきではありません。仁義なき戦いです」
「エルフのショタ君を虐めちゃ、めっですよ!」
だからなんでそうなる。
しかし、俺としても子供相手に手は出せんからなぁ。
と言うか、子供相手の喧嘩に負ける俺ってめちゃ惨めだなぁ。
*
「……ごめんなさい。頭の中が一杯一杯だったんだ。妖精の里にいきなり盗賊がやって来て、俺のパパとママを……奴隷として連れていったんだ」
散々暴れまわった挙げ句、漸く落ち着いたらしいエルフの少年は、今にも水滴が溢れそうな表情で事情を語る。
さっきの肩の痛みはナユタに全回復をかけて貰い、幾分か楽になった俺は彼の話に耳を傾ける。
要約すると、数日前に盗賊が彼の故郷である妖精の里のエルフ達を、大人から子供まで奴隷としてかっさらっていったらしい。
彼は物陰に隠れる事で盗賊からは見つからなかったが、盗賊達が去った後に一人だけで生活を強いられていたのだった。
「そうか。エルフとは言えこの年頃の子供がそんな体験をしたら、そりゃムシャクシャしても仕方ないよな」
エルフは見た目の年齢と実年齢が解離している事も珍しくないから、実際はもっと年上なのかも知れないが、あまり深く考えないでおこう。
世の中には知らない方が幸せな事だってあるんだ。
「外の連中はろくでもない奴だから、女の子とイチャイチャしている兄ちゃんが、ろくでもない奴だと思ったんだ。本当にごめんなさい」
「そうか。だから俺達を見て盗賊だと勘違いしたわけか。所で、そんなに俺達っていちゃついてたか?」
「端から見たら、そう見える物かと」
「十分イチャイチャしてる方だと思います」
自覚はしてるんだな……。
「だけど、もしも俺達が本当に盗賊の仲間だったら君は捕まってたぞ? もしかしたら奴隷にされたかも知れなかったし、その場で殺されたかも知れない」
「……それはそうだけど。それでも、パパとママを放っては置けないよ! 兄ちゃん! 俺と一緒に盗賊をコテンパンにしてくれよ! そしてパパとママを助け出すんだ!」
純粋な瞳を涙で滲ませながら言われると、とてもじゃ無いけど断れないよな。
しかし、仮に俺が助けた事で力不足かもしれないし、万が一に事件が解決出来たにしても俺にメリットがあるかも怪しい。
自身を犠牲にしてでも出会ったばかりの人を助けると言うのは、あまりにお人好しすぎるんじゃ無かろうか。
そんな俺の賎しい思考も露知らず、コルトは何故かガッツポーズをしながらはしゃいでいた。
「良いですねー! 通りすがりの旅人が異変を解決して一件落着って、なんかいかにもテンプレって感じで!」
「だからメタいって、コル。だけど私はこの子を助けたい」
萌えだかなんだが知らんが、きっとラノベという小説の話でもしているのだろう。
俺にはちょっとついていけそうにないな。
「よっ、流石ナユちゃん! それなら私もお供します!」
しかし、二人がやる気を出しているし、折角顔を明るくしてくれたこの子を再び泣かす訳にも行かないからな。
なし崩し感が否めないが、こればかりは仕方がない。
「分かった。俺達にできる範囲の事なら協力するよ」
「本当か! ありがとうな! あと、俺の名前はタイムって言うんだ」
さっきまでの弱い自分を吹っ飛ばすべく、大げさに声を張ってみる。
「任せとけ! 俺の名前はハジメ。そしておっきい方の姉ちゃんがコルトで、ちっちゃい方がナユタだ」
「タイム君宜しくお願いしますー!」
(……はあ。今度もこう言われ続けるのでしょうか……)
何故か悲しそうな表情をしているナユタだが、彼女の考えてる事は大方察しがつく。
今後もこうやって紹介するから、早いうちに馴れてくれ。
この何処か気まずい場の雰囲気を吹っ飛ばしたのはタイムだ。
「そうだ! これから俺んちに行って姉さんと一緒に夕食を食おうぜ!」
「姉さんがいたのか?」
「うん。ケシア姉さんっていうんだ。俺と一緒に物陰に隠れてたから盗賊に見つからなかったんだ。とっても優しい修道女なんだ!」
まてよ。
とっても優しい修道女のエルフお姉さん?
もしかしたらこれ、妖精の里を救ったらケシアさんに感謝されたりして。
俺と一緒に旅をしたいって泣きながら懇願されたりして。
仕方がないから、俺のハーレムに入れて上げたりして。ぐふふ。
「何気色悪い顔してるのお兄ちゃん?」
ドン引きした表情でタイムは言い放ち。
「ただの穢れた青少年の妄想ですよー。タイム君にはまだ早いですー」
「ちょっ……コルト姉ちゃん!? ごふっ!?」
彼から俺にむけた目線を隠そうと、コルトは豊かな膨らみでタイムの顔面を抱き込んだ。
嫌、逆効果だろそれ。と言うか純粋にタイムが羨ましい。
「忠告して置きますが、私はあなたのハーレムに入ったつもりはありませんからね。あくまであなたとの関係は協力関係です」
さっきのお返しと言わんばかりに的確にツッコミを入れるナユタ。
人工知能には俺の妄想もバレバレなのか。末恐ろしい子。
「女にうつつを抜かすとは。この痴れ者め」
久し振りにゴトクの声が脳内を過ってきた気がするが、無視無視。
兎に角、俺に向けられた不穏な雰囲気を吹っ飛ばすのが最優先である。
「じゃあ早速お邪魔しようかな。こう見えて俺、料理は最低限なのは出来るから。厨房と食材だけくれたら簡単なのを作れるぜ」
「「へー意外」」
声を同調させるまで言うことがそれ?
どうせなら「きゃー素敵ー」とか言ってくれても良いのに。
……この二人に黄色い歓声とか期待しない方がいいな。
「じゃあ晩ごはんはお兄ちゃんに任せるよー。今は街には僕達しかいないから、ゆっくり休んでいくと良いよ。僕の実家温泉宿だから、食べる物には困らないからー」
「温泉! 入っても良いんですかー!」
「勿論! 山奥にあるけど絶景な露天風呂なんだー!」
「鬼の居ぬ間に洗濯ですね。楽しみです」
話がとんとん拍子に進んでいき、俺達は妖精の里に向かって進みだした。
*
実態の無いそれは空を駆ける。
険しい山々の中に標的の反応が見られた。
「上空から発見されぬように、隠蔽魔法をかけているのか。だが、俺には通用しないがな。あそこに、奴らがいる」
それは標的に向かう。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
次回は、異世界の食材を使ってクッキングします。
お楽しみにー(*´∀`)♪




