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【完結】亡郷のナユタ ー:DECILLON:s.Nostalgledー  作者: 棹中三馬
Vol. 1.00 妖精郷の伝承《フェアリー・メモリーズ》
12/47

1ー6 卑怯者の死

「……まじかよ。俺の一撃を……」



「ふふ。確かに討伐者にしては中々の火力であった。だが所詮は討伐者。玄人の冒険者の魔法には足元にも及ばぬわ……」




くそ。ここまでなのか。


ここが俺の墓場になるのか。


親父から訳も分からず追放されて、

討伐者で何とか食い繋いでた惨めな俺。


ナユタが拾ってくれて、俺を変えてくれた。

コルトが励ましてくれて、俺は強くなった。

デカさんの勇姿を見て、俺は希望を抱けた。



それなのに、俺の夢はここで……




「詠唱 走神の息吹(アキレスブレス)! 追唱 全回復フルヒール!」



「四大の精霊よ我に力を! リーズンフィールド展開 一斉照射!」



二人の祝詞が紡がれ、俺は安らかな光に包まれた。



「……ちぃ! 小賢しい小娘どもめ!」



魔方陣から放たれた四色の光線達が蛇の顔面に直撃。

蛇はがらがら声を震わせて怨情を吐露する。



「ハジメ! 走力を上昇させました。イデカミさんを安全な場所へ運んでください! 早く!」



「ハジメさんの魔力が再び溜まるまで、私が応戦しますからー、ぐっ」



そうだ。まだ戦いは終わっていない。

ここからが始まりだったんだ。



「……わかった!」



魔法の力によって飛躍的に走るスピードが速くなった。



「無駄なあがきを。この腰抜けもろとも叩き潰してくれるわ!」



大蛇の胴体が持ち上がり、気絶しているデカさんにのし掛かろうとする。



「まにあええ!!」


「ドン!」



轟轟と粉塵が舞い上がり、視界を曇らせる。



「はあ、間に合った」



間一髪でデカさんを助け出し、扉の隅にそっと寝かしつけた。

蛇は虚無のみが映り出す瞳で俺をつまらなそうに見つめる。



「別に冒険者の一人など死んだところでまた教会で生き返るのだろう? 何故生き返れぬお前が奴を助ける?」



「そんなの簡単だろ。これ以上お前に殺される冒険者(仲間)を増やしたく無いからだ!」



「つくづく、理解に苦しむ感情だ……なあ!」




また蛇の鞭が撓り、地面を穿つ。


粉塵が舞い上がり、視界を奪う。


この粉塵を見てある考えを思い付いた。

恐らく、俺達があの蛇を倒すのにはこれしかないだろう。



「蛇ジジイ! 何処に向かって攻撃してるんだよ! こっちだこっち!」



俺の挑発に蛇は容易く乗っかってくる。



「ぐむむ。こいつ、ちょこまかと逃げおって! 佐々と死を受け入れたらどうだ!」




一発、一発、さらに一発。


蛇の周囲の地面が抉りに抉られていく。


粉塵はいよいよ、蛇全体を包みこむ程に舞い上がる。



「けっ、煙で前がよく見えぬ! これもお前らの下らん魔法かぁ!」


「ええっ、私達何もやってないんですけど……」


「同じ所をグルグルと回ってばかり……、意図的にゴスペルスネイカーの周囲だけに粉塵を発生させている? 目眩ましが目的?」



俺は、呆然としている二人にむかって指示を出した。



「コルト! 火の精霊だ! 手加減はいらねえ! 粉塵の溜まってる方に最大火力だ!」



「はっ! はい!」



「ナユタは俺達の火属性耐性を上昇させる魔法と、無呼吸状態に強くなる魔法を頼む!」



「わかった」



コルトは慌てふためきながら、ナユタは冷静に俺の指示を受け入れてくれる。



「何をゴチャゴチャ言っておるのだぁ! この卑怯者めえ!」



「卑怯なのはお前だろうが。石にした人間をなぶり殺しやがってぇ!」



「火の精霊よ我に力を! フレイムフィールド展開! 限界突破リミットブレイク!」



今までよりも格段に大きい緋色の魔方陣が空に多数描かれ、蛇に照準が定められる。



「詠唱 火炎神の加護(フレイムトレランス)、追唱 気圧維持(エアーキーパー)



俺達を二つの魔法のバリアが包み込んだ。

勿論、気絶しているデカさんにも忘れず掛けてくれている。



「一斉照射!」



コルトの号令を起爆剤にしたかの様に、数多ある魔法陣から一斉に業火が放出。


粉塵に炎が触れた瞬間、とてつもない大爆発が巻き起こった。

爆発は蛇を包み込んで、業火に蛇は包まれた。

反動で部屋全体を高度の熱風が包み込んだが、魔法のバリアのお陰で俺達には少し熱いくらいの温度になっている。



「ぎゃぁぁぁぁ!? お前らぁぁぁ! なにおしたぁぁぁぁ!?」



間一髪爆発から逃げきれた俺は、炎上する蛇に向き合ってキメ顔をかまし、トリックの種明かしをする。



「この世界では普通に俺達は呼吸をして生きている。つまり、サンソがあるんだよ。サンソはよく燃える物体で、この聖堂は外部に放出される隙間が微塵もない密室だ。そこで大量に舞い上がる可燃性の粉塵に火がつけば……」



「……! まさか! 粉塵爆発!?」


「……て、何ですか?」



ナユタは驚きに目を見開いて、コルトは理解が出来てなさそうで首を傾げている。



「そうさ。それを神の本気の炎で炙ったんだ、さぞや熱いだろうなぁ!」



蛇はようやくコルトの正体を見破った。だがもう遅い。



「くそぉぉ! この小娘ぇぇぇ! 契約神器の使い手だったかぁぁ!! おのれぇぇぇ、おのれぇぇぇぇぇ!!」



そして、ゴスペルスネイカーは断末魔だけを残して燃え尽きた。

そして俺の意識も遠退いていった……。





「ハジメ。ハジメ!」


「しっかりして下さいハジメさん!」


「……ああ。俺、生きてるのか?」



再び目を覚ました時には、ナユタとコルトに囲まれていた。

どうやら蛇との戦闘による疲労で倒れてしまった様だ。



「ええ! ゴスペルスネイカーを討伐出来たので、奥の螺旋階段から上に昇れるようになりました!」



コルトが指差した先を見てみると、祭壇のあった場所から上空へ続く螺旋階段が出現している。



「まさか、あの蛇が前座で、上にもっと強いボスがいる……なんて事は無いよな……」


「大丈夫。ダンジョンはもう攻略済みになっている。勿論、ダンジョン攻略者の名前はハジメでね」


「でもコルトの炎で倒したんだからコルトなんじゃないか? それか契約神器の持ち主であるナユタじゃ……」



くずぶる俺に、ナユタは不思議そうな顔をして訊いてくる。



「ううん。良いの。ところでさ、ハジメ。どうして粉塵爆発なんて知ってたの?」


「ああ。昔親父の書庫で読んだことがあるんだよ。異世界から取り寄せたらしい科学の世界の書物をなぁ。そこで書いてあった事が正しければ、こっちでもできるんじゃないかと思ったわけ……」


「私がもし魔法をかけるのが少しでも遅れてたら、ハジメは絶対炎風に焼かれて、肺に二酸化炭素が充満して死んでた。無茶しすぎ」


「まあいいじゃん。今回は上手くいったんだから……ナユタ?」


「ひゃ、ナユちゃん!?」



なんとナユタが抱き付いてきたのだ。

彼女の微笑ましい胸が俺の胸に重ねられる。



「ハジメがさっき逃げてたら、私達も全員石にされてたと思う。これはそのお礼」



ナユタが顔を上げると、お互いの唇が触れそうなまでの近距離となり、今更ながら今の状況の危険さに生唾を飲んだ。

天使のような笑顔でナユタは一言だけ告げた。



「私とコルを守ってくれてありがとう」


「……ま、今回はハジメさん頑張ったからー特別ですね。勿論私のナユちゃんですけど」


「ああ……いだぁ!?」



調子にのって俺もナユタを強く抱き締め返そうかと思った矢先、いきなりナユタに強く押し返された。



「……じゃ、さっさとドロップアイテムを回収してここを出ましょう。こんな辛気ぐさい所に長居する意味がありません」



ははは。切り替えが早い。

そして自身の行動を恥じているのか、頬が紅に染まっていたのがまた可愛い。

口に出すとまたどつかれるから止めておこう。


蛇の焼け崩れた後には大量のキラと、金色の十字架のネックレスと、鞘に納まった日本刀が遺されていた。



「『妖精の十字架(フェアリーロザリオ)』? 装備不可、売却不可、廃棄不可のアイテムらしいです。何に使うんでしょうか?」


「さあね。あの蛇の遺物とかじゃねーの?」


「今後に関わる大事なアイテムかも知れませんねー」


「コル。あまりメタい事言わないでください」


「まあまあ。そしてこの刀は……わぁ!?」



俺が日本刀に触れようとすると、電撃に撃たれたかのような衝撃が体を駆け回った。

そして俺の脳内に直接、男の声が語りかけてきたのだ。



「我の眠りをさます者は……貴様か?」

ここまでお読みくださりありがとうございます。

次回は、ハジメに新たなる力が……!?

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