1ー5 ケセ風洞の邪神
「チームA! スレイバードラゴンの群れに突入! チームB! 遠隔魔法でサポート! チームCは戦線から退いて回復……とぃや!」
「「「おうっ!」」」
指揮官であるデカさんは仲間達に的確な指示をだし、その傍ら近くに迫っていたモンスターを剣で凪ぎ払う。
「詠唱 戦神の領域。追唱 聖母の慈雨」
ナユタは半径100M範囲の人間の攻撃力と攻撃魔力を上げる領域呪文と、同範囲の人間に生命力を継続回復させる領域呪文を展開。
「あんがとな嬢ちゃん! ドラゴンどもよ喰らいやがれぃ、流豪槍!」
「アイストルネス!」「竜滅砲!」
各種各々の特技で一人一体確実にモンスターを仕留めていく電波箱のメンバー達。
「水の精霊よ我に力を。……アクアフィールド展開。一斉発射」
コルトは大量の魔方陣を空中に展開、一斉に激流を放出。
火属性のドラゴン達は購う術もなく呑み込まれては、消えていった。
「……凄い。皆息がピッタリだ。流石歴戦の攻略班だな。それにナユタは勿論だけど、コルトも凄いなー、いだぁ!?」
別にモンスターに襲われた訳ではない。
ナユタに膝でどつかれたのだ。
「そう言うハジメもぼさっとつったってしないで、あそこのグレートバットの群れを倒してくださいよ」
「おっ、おうっ! 魔術混沌!」
ありったけの魔力を放出し、手の平からどすくらい閃光を発射。
モンスターの一体に命中することで大爆発が発生。
爆風によって回りのモンスターも巻き添えで倒せる事は便利ではあるが、仲間に爆風が当たらない様に微調整しなければならないのが難しい。
「……よし、この層のモンスターは全員狩り終わったな。各自モンスタードロップを速やかに回収し、次の階層への階段を捜索開始!」
「「「はっ!」」」
今回の遠征で魔術混沌を幾度とも撃っては、モンスターの攻撃から逃げ回った。
最初こそは閃光が関係ない方に飛んでいったりしたが、次第に照準の定めかたのコツも掴めてきた。
プロの冒険者の戦闘パターンを観察することで、自身の戦いにも生かせそうな事がちらほらと見つかった。
俺が想像していた以上に、この遠征で得られる物は多そうだ。
*
「おっと、どうやらもうボスの扉の前みたいだ」
メンバーの一人が発見した階段を下ると、そこには奥に大きな扉が佇んでいるだけの何もない空間が広がっていた。
「よし。俺が扉の中のダンジョンボスを確認してくるから、お前達は今のうちに回復とアイテムの整理をしておけ。それでお前達はどうするか? 脱出したいなら仲間を一人付き添わせて転移魔法で送ってやるが」
当然俺達飛び入り参加組の事である。
しかし、ナユタはやれやれと言いたそうに首を振る。
「ここまで私達を良いように使っておいて何を今更ですよ。最後までお供させてもらいます」
「当然私だってー! まだまだ暴れ足りませんよ!」
「……えっ。二人とも約束が違うんだけど……」
おじけついてる俺に、ナユタは無い胸を張りながらほくそ笑んでいる。
そんなに俺を虐めるのが楽しいのはこのドSは。
「じゃああなた一人だけで帰っても良いんですよ? 唯一の討伐者がここまで潜入できたんだから、誰も文句は言いません」
「そうですよー。私達だけでもー、ボスなんてちょちょいのちょいなのですー」
「どうする? ここで逃げてもここにいる奴らは誰も責めはしないぞ?」
ここまで言われると、逆に逃げづらくなるよな。
分かっててわざと言ってるよなこの人たち。性格が悪い。
女の子を見捨てて俺一人だけ逃げれるわけ無いだろ(泣)
「……くぅ、俺も行きます。ここで逃げたらいつまでたっても成長できませんから」
「よく言った。じゃあ開けるぞ」
ニヒルに笑ったデカさんは扉にポンと手をそえると、自動的にギシギシと扉が開いていった。
その先には暗闇が広がっており、一人パーティが扉を跨ぐごとに部屋の壁に付けられた松明が一つずつ灯っていく。
次第に暗闇が取り払われいき、そこが神聖的な教会だと判明する。
地面は大理石が敷き詰められており、荘厳な雰囲気を醸し出している。
全員が扉を潜り抜けると、扉が勝手にしまってしまい唯一の退路が絶たれる。
部屋の最奥にぽつりと佇んでいるのは痩せ細った神父……いや、ゾンビの神父だ。
巨大な金色のロザリオを杖のように持っている。
「汝、我が聖域を脅かす者か。大人しくとぐろを巻いて逃げておれば良いものを、その上一人冒険者ではない紛れ者が混ざっておると見える。そこまでして自らの命を粗末にするか、愚民どもよ」
瞳の見えない空洞で神父は俺の方を見ながらそう言った。
この神父。俺が討伐者だって分かってるのか!?
「お前ら! ベラベラあいつがお喋りしている間に、フォーメーションAの準備だ! 急げ!」
「「「はっ!!!」」」
「詠唱 戦神の領域。追唱 聖母の慈雨」
「四大精霊よ我に力を。……リーズンフィールド展開」
電波箱のメンバーは一斉攻撃の布陣に体制を整え、神父に向かって走り出した。
ナユタは自分達に有利になる戦場を整え、コルトは全ての精霊達を一度に召喚する高等精霊術を展開させた。
「我は蛇神官 ゴスペルヘッド。愚民どもを欺く為の苟の姿なり……。我の殻を破りし時、掟を守る者達は神に救われ、掟を破りし者は神に喰われる。今こそが愚民選別の儀式なり」
「……待ってください、あれはあいつの罠です! 今は攻撃しちゃダメです!」
「……え?」
俺の言葉を聞いてくれたのはナユタだけだった。
「構うなー! 罠が発動するまえに速攻で蹴りをつければ良いだけだぁ!」
「「「おおお!!!」」」
メンバー達は神官に向かってさらに距離を詰める。
「リーズンフィールド展開最大。一斉発……」
「まってコル!」
「へっ、ナユちゃん!? わぁぁ! ちょっと胸当たってるってー!」
ナユタがコルトにのし掛かるように倒れこみ、なかば無理矢理に詠唱を中断させる。
「ああ神よ。この愚かな子羊たちに。死という永久の祝福を……与えたまえ!」
虚無しか存在しない神官の眼に魔方陣が展開された。
「結界崩壊 罪人の浄化」
神官の身体が木っ端微塵に砕かれた。
否、不要になった脱け殻が高濃度の呪力となり教会全体を満たしたのだ。
目を見開いた先に映ったのは、特攻していた【電波箱】のメンバー達の石像。
そして、巨大な法衣を纏った毒々しい配色の大蛇だった。
喉仏を貫く様に金色のロザリオが貫かれた、まさに死霊と呼ぶに相応しい……ナニカ。
「……おい、お前たちどうした!? どうして石になってるんだぁ!?」
「蛇……、まさかメデゥーサ?」
咄嗟に目を反らそうとする俺を嘲笑うかの様に、蛇は言う。
「当たらかずも遠からず。我はメデゥーサの下位互換にすぎぬ。我の瞳をお前達が視ても石にならないのがその証拠よ。我の『罪人の浄化』は無力な我、脱け殻に危害を加えた者のみを石にする。あれほど忠告をしてやったのに、自らの過ちを正さなかった当然の報いである」
「……くそっ。そんなのありか。俺が余計な事をしなければ……あいつらは……」
泣き崩れるようにデカさんは崩れ落ちた。
あんな仲間思いだった優しい人が、こんな顔をするなんて。
絶対に許せない。
「じゃが、此度は四人も生存しているとは珍しい。今までの奴らは全員石と化していたというのにのぅ。よりにもよりその紛れ者の少年が勘づくとは、なんとも奇怪なr……」
「黙れよ蛇ジジイ! 石になった奴はちゃんと戻るんだろうなぁ!!」
「……ハジメ?」
「ハジメさん……」
「……!? おいやめろぉぉ!」
大蛇の胴体が鞭の様に地を這い進み、石にされたメンバー達を叩き付けた。
木っ端微塵に砕けた石像は石ころとなり無惨に散らばっていく。
「ああああぁぁ!!」
デカさんはショックのあまりに気絶してしまう。
「我を倒せば石化の呪縛は解ける。じゃが、石化した人間が粉々になった状態で呪縛が解ければ、蘇生されても粉々のままよ」
「……どうしようもないくず野郎だな。俺はお前を殺す……絶対になぁ!!!」
「さあもう手汚い小細工はない。いくらでも我に憎悪をぶつけよ。それが我の力となるのだ……」
「言われなくてもやってやるよ! 魔術濁流!」
怒りに身を任せ黒い閃光を放つ。
蛇は微動だにもせず閃光は直撃した。
しかし、煙が晴れた先に合ったのは、痛みにもがく事もなく嘲笑する蛇だ。
「これぞ我の真の姿。蛇神狂 ゴスペルスネイカー。これからが正念場じゃよ、か弱き子羊たちどもよ」
ここまでお読みくださりありがとうございます。
次回、追い詰められた主人公が勝ちます。絶対に勝たせます。




