1ー4 作戦会議
「それじゃーお前らー。昨日も言ったがな、今回のダンジョン調査遠征には俺の独断で彼らを参加させる事になった。期待の新星、戦闘もできる回復職の冒険者ナユタ。彼女の親友で精霊術士のコルト。……ついでに、保護者枠として黒魔術師の討伐者ハジメ。嬢ちゃん達に格好いい所見せれる様にお前ら頑張れよー!」
デカさんがばかでかい声でメンバー達に渇をいれる。
「「「おおおおおお!!」」」
と、漢達の暑苦しい雄叫びをもって返事を返す。
うわー、本当に男性だらけなんだな【電波箱】。
というか俺は完全におまけなのね。まあわかってたけど。
さあ、俺は俺の役目を全うしますか。
*
「え? コルトを人間の状態で参加させるのか?」
シャワーを済ませ脱衣所で寝間着に着替えた俺は、ナユタの提案に頭を傾げた。
現在は三人で円形に囲んで、中央に置かれたクッキーやらチョコレートとやらという何処から仕入れたのか分からない茶菓子とか、サービスで貰ったおばちゃん謹製のジュースを飲み食いしつつ、明日の作戦会議をしている真っ最中である。
ナユタ曰く、修学旅行みたいな感じ、らしい。
「彼らはコルトが本当は神様である事も、私が契約神器持ちであることも知りません。あなたには今後のいざこざを回避するために教えるべきだと判断しましたが、本来無闇に他人に話す事はご法度なのです」
「それに団長さんに私の事見られちゃいましたからねー。女の子目当てでお誘いを貰ったのに、私だけ抜ける訳にもいかないじゃ無いですかー」
「じゃあナユタの武器はどうするんだよ? 他の武器でも変わりに使うのか?」
ナユタは首を横に振りつつ返事を返す。
「そう言う訳にもいきません。契約神器とは神様と契約して一心同体になってこそ、本来の力を発揮されるのです。一つの神器で敵を倒していくことで契約者と神様との同調が増加していきますが、別の武器を用いて敵を討伐すると神器との同調がリセットしてしまいます。これ自体は以前のイルタディアと同じ仕様ですが、現在の私の同調がリセットされるとまた最初から上げ直さなければいけません。そうなるとこれまでの私の努力が水泡に帰してしまうのです」
「つまり、同調の数値が高いほど、武器としての強さが増すって事か?」
「そう言うことです」
「だけど素手でモンスターを倒したり、呪文でモンスターを倒す場合は同調に変化はありませんよー」
そんな隠れたルールがあったのか。
意外に面倒くさいんだな契約神器。
てっきり最初は選ばれし者のみがもつ最強の武器みたいなイメージだったけど、そういわれると別の武器を握れなくなる呪いの武器にも見えなくもない。
まあ同調がリセットされるだけで別の武器に変えれるんならば、俺とナユタが手首に嵌めている《輪廻の腕輪》の方がよっぽど呪いの次元が高いわけか。
なんせ教会のお払いでも取れないんだから。
「なので私は武器を持たず回復職として皆さんの回復魔法、強化魔法に専念します。ハジメは陣形の最後尾に配置し、魔力が満タンになれば魔術濁流を用いて遠距離から敵を殲滅してください。ハジメのステータスを鑑みた場合、3分程で再発射が可能になる筈です。それまでの間は死なない様に必死に逃げてください。私が速度上昇、回避率上昇の強化魔法をかけれるだけかけて措きます」
流石人工知能だ。戦略が完璧である。
俺も昔から色々な本を読んでいた影響で、それなりにこの世界の知識はある方なのだが(不登校の間に、実家の親父の書斎の本を片っ端から読み漁ってたからな。これも親父がキレた原因の一つかも知れない)、彼女を越える戦略が出せるはずもない。
「つまり、俺の作戦名称は『三分たったら本気出す作戦』だな」
「某ラノベみたいな名称は止めてください」
「なんだよラノベって!」
「萌えーとした小説です」
意味わかんねえよ! ちくしょう!
親父の書斎にラノベとかいう小説一冊も無かったよ!
様々な世界のあらゆる分野の本をフルコンプしたと豪語してたのに、なんでラノベだけ置いてないんだよクソ親父!
「……はあ。じゃあなんて作戦名ならいいんだよ」
「うーん。どちらかと言えばー『ゴキブリ戦法』じゃないですか?」
「その方がしっくり来ますね。彼らは本気出せたら空を飛べますし。ハジメさんと同類で本気を出せば脅威です」
ゴキブリってのがこの世界に存在しないので二人が何をいっているのが分からないが、ニュアンス的に凄く侮辱されてる事だけは理解できた。
「もういいよ。……因みにゴキブリの意味は?」
「部屋を這いずり回り、新聞紙で叩き潰される定めにある黒い虫です」
「人類の敵です」
「……聞くんじゃなかった」
「べ、別にハジメさんが人類の敵って訳じゃありませんから安心してください……多分」
そこは最後までちゃんと断言してくれよ。
ま、確かに本の虫ではあったけどさ。
「まあそれはもういい」
「精神の強さだけはある意味立派ですね」
「流石ゴキブリさんですー」
無視無視、虫だけに。
「問題はコルトだよ。この状態でもお前は戦えるのか?」
「それは勿論! 私は四大精霊を司る精霊術を得意としていますー。風、水、火、地の精霊達から力をお借りして、敵の弱点をついた攻撃をすることができますー」
「皆さんにはコルトの事は精霊術士だと説明しておきます。本来の火力ではすぐにバレてしまうので、最低限の火力で戦って貰いますが。神様は全体的にスペックが高いので十分に戦闘には貢献できます」
それって、完全に俺の上位互換じゃね?
このパーティにおける俺の存在意義は何なんだ一体……。
やはりここでも俺は二人の……
「でも、勘違いしないで下さい。あなたが不要ならば端から私は誘ってはいません。あなたはあなたの役割だけに専念してください」
「そうですー。実はこの世界で魔術濁流を習得している人間はハジメさんただ一人なんですからー。使い場所さえ間違えなければー、火力だけで言えば全魔術最強クラスといっても過言ではないのですー」
……え? こんなに凄い呪文だったのかこれ?
「問題は敵に正確に照射する技術力だけです。つまり、あなたは遠方からでも精密に敵を狙撃する事だけを考えれば良いのです。他の事は私達に任せてください」
「……分かった。つまり俺は狙撃手みたいに立ち回れば良いんだな。本でそこら辺の情報を読んだことはあるから。本の情報だけでどこまでできるかは分からないけど、やれるだけやってみるよ」
「そうです! やってみないことには成長しませんよー!」
「では。作戦会議はここまでにしましょう。明日は早いのでさっさと寝ましょう」
そう言って備え付けの電光玉を最少にする。
仄かな当たりだけが部屋を照らし、俺はソファに寝転ぶ。
「……で、俺がソファで眠るとして、ナユタとコルトのどっちがベットで寝るんだ?」
「「? 一緒にですけど?」」
……まあ。女子同士だからいいか。
眠いから俺はさっさと寝る。お休み。
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