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3/3

「はぁ、はぁ」


5日後、ようやくパーティーはダンジョンの入口まで出てきていた。


彼らは満身創痍で、傷だらけであった。


普通なら3日ぐらいで戻れるものの、5日かかったのには理由があった。


「はぁ、なんであんなに魔獣と罠に遭遇するんだよおぉぉぉ!」


勇者はやけくそ気味に叫んだ。


そう、彼らが遅れたのは紛れもなく普段とは段違いな頻度で遭遇する魔獣と罠が原因であった。


「しかたないわ。これまで暗殺者アサシンの彼がすべてよけてくれていたもの。...なんで、彼をおいていったのよ!?どうやって国王様に報告するの!?」


フィオナはいらだった様子で勇者に反論した。


「黒竜が起きていて、襲われた。そう不慮の事故だったとでも説明すればいい。冒険者は危険と隣り合わせなんだ。」


「でもっ」


「あぁ、うるさい!そんなに男に反論するような女は嫌いだぞ!?聖女なんだからもっと勇者の妻となるものとして慎みのある行動をとれ。それができないならお前みたいなやつはこのパーティに不要だ。」


勇者は大声を出すことで反論を静止した。なんとも子供じみた行動であった。


「なら、出ていくわ。」


セレナはせいせいした顔で言い切った。


「...はっ?う、うそだろ?お前何かあてはあるのかよ?」


「あなた、私をなんだと思ってるの?私はこの国の大半が信仰する宗教において信仰を一身に受けるものよ?断じて、あなたの妻なんかじゃない。」


そういってスタスタと離れていった。


勇者は信じられないことを聞いたかのように刮目し、発狂した。


「ああ゛ぁぁ、なんで誰も俺の言う通りに動いてくれないんだ!どれもこれもあいつのせいだ!」




すると不意に声が聞こえた。


「勇者パーティ様一行とお見受けします。私は第二王妃様の使いでございます。謁見の間で報告を求むとのことでした。」


「俺は今イライラしてんだよぉ」


そう言って手を上げようとした。


「おっと、私への暴力は第二王妃様への反逆となることを覚えていてくださいね。」


それを聞くと最低限の理性は保っていたのか、それはまずいと勇者はぴたっと手を止めた。


「くそっ、ついて行けばいいんだろ?」




数時間後、勇者パーティの三人は謁見の間にいた。そこには彼らを送り出した国王ではなく、第二王妃が座っていた。


「ご苦労であった。報告を上げよ。竜の鱗はどこだ?」


勇者は口を開いた。


「竜の鱗を持ち帰ることができませんでした。」


「なんと」


「ですが、報告したいことがあります。黒竜が目覚めていました。」


「黒竜が?!」


「はい。黒竜の強さは伝説の通りすさまじいもので、命からがら逃げてまいりました。」


「そうか、なら仕方がないか...そういえば勇者パーティは五人だと聞いていたが他の二人はどうしたのだ?」


勇者はわかりやすく眉間にしわを見せた。だが淡々と報告を続けた。


「そうですね、クロムに関しては黒竜から逃げ遅れて戦死しました。俺はやめておけと言ったのですが、その注意もむなしく...フィオナは精神的な疲れを見せたので休暇を取らせました。」 


「そうだったのか。2人ともとても優秀だと聞いていたが。だがそれでは近々の魔王討伐は到底不可能だな。楽しみにしていたのだが。」


その言葉を聞いて勇者はわかりやすく顔を歪めた。


クソっと小声で嘆くレオンを、賢者と聖騎士は当然の報いだと冷ややかに見ていたが、その直後に彼から発せられた言葉に耳を疑う事となった。


「いえ、そんなことありません。あの無能2人なくしても、この世界で最強と言われるこの俺がいれば魔王討伐などたやすいことです。必ずややってのけましょう。」


勇者は血迷っていた。彼の膨大までに膨らんだ自尊心にとって、自分の選択が間違っていたというのは到底受け入れられるものではなかった。自分を正当化し、自己を保つためにも彼は急いで功績をたてる必要があった。


そのあまりにも無謀な判断に賢者と聖騎士は驚いたが、その直後に勇者から発せられた殺気に言い返すことはできなかった。


「そうかそうか。それならよかった。」


そう第二王妃は答えた。


会話がひと段落すると、賢者が口を開いた。


「1つ疑問に思っていたのですが、国王様は今どちらに?」


「ああ、あの無能のことか。奴なら自殺したよ。娘を失った悲しみからな。」


「...え?」


賢者は驚きのあまり声を失った。


それで質問は終わったと思ったのか第二王妃は再び口を開いた。


「それでは行ってまえれ!よき報告を待っているぞ。」


その言葉とともに勇者パーティーは謁見の間を追い出された。




ーーー




次の日、勇者らは魔王城へと向かった。以前は開けずに引き返した重厚な扉を開いた。


すると、そこには小さな娘がちょこんと魔王の大きな椅子に鎮座していた。


「勇者よ!よく来たな!」


そんな幼さの残る高い声が、荘厳なホールに木霊した。




ーーークロム視点




不意に物音が気終えたかと思うと、意識が覚醒した。


剣が突き抜けたはずの腹を見てみるが、そこに傷口は見当たらなかった。


「はっ、セレナは?」


俺の頭は重要なことを思い出し、ひどい焦燥感にかられた。少しでも情報を得ようと視線を張り巡らすと隣にいたセレナと目が合った。


「おきた...!」


彼女は驚きながらもどこか安堵したような表情を浮かべていた。


おれは極度の安心感につつまれた。前に泣いたのはいつぶりだろうか。俺の目には涙が自然とたまっていた。


「よかったっ、!本当に。もう会えないかとっ、!」


「ふふ」


セレナはそう微笑んでいた。


ーあ、セレナ起きたのかい?


「そう!」


え、?


不意に聞こえた声、それも頭に語りかけるような声に俺は混乱した。


上を見上げると黒竜が顔をのぞかせていた。


ーきみがセレナの言うクロさんだね?


な、なっ


俺は理解に苦しんだ。


ー僕は黒竜だよ。王族である彼女と契約したんだ。


そういえば、気を失う前に王族の血がなんとか...


「どこか高貴な生い立ちだと思っていたがまさか王族だったなんて。」


ー彼女は君を直してと強く願うものだから僕が直してあげたんだよ。


そうだったのか。

セレナに命を救ってもらったのか。


「ありがとう。」


「いいの」


ー本当によく寝ていたね。君が意識をしなって今日で1週間だよ。僕は治癒魔法がそこまで得意なわけじゃないから何か失敗してしまったかと思ったよ。


一週間!?


「...そういえば他の仲間は」


ーあー、君と一緒にいた人たちならダンジョンから出て行ったみたいだよ。今は...魔王と戦っているんじゃないかな?魔王城の方で膨大な魔力の衝突を感じるよ。


あいつらめ、思い出すと怒りがふつふつと湧いてきた。だがまさか俺が抜けてこんなすぐに魔王討伐に行くなんて。




ひと段落したところで黒竜が口を開いた。


ーさて、クロさんも起きたことだし、これからどうするんだい?何かしたいことでもあるのかな?


そう黒竜はセレナに問いかけた。これまでとは比べ物にならないほどの可能性が一度に提示されてるんだ。今すぐに答えを出せというほうが酷だろう。そんな俺の考えとは裏腹にセレナは比較的すぐにぼそっと呟いた。


「ふくしゅう」


え?


「えほんのまおうといっしょ。わるいひとにはおしおき」


ーはは、いい考えじゃないか。君はどう思う?


俺は混乱した。こんなにも強い思いをセレナが持っているとは思ってもいなかったからだ。


俺はどうしたい、か。


実際俺はあいつらが憎い。だけどセレナの前でそんなことをしてもいいものなのか...?


だが、


「俺は...行こうと思う。復讐するかは別として、彼らが魔王と戦闘している様子を見に行きたい。最後は裏切られたにせよ長い時間を共にしたからな。」


ーそうか。なら、早速行こうか。魔王との決着はわりかし早くつきそうだ。つかまってくれ。転移魔法でいこう。


転移魔法?遠い昔に継承が途切れた最難関の魔法だと聞いていたが、どこまで規格外なんだこの竜は。でもだからこそ狭い通路が続くダンジョンの最奥に住んでいることができるのか。そんな規格外さに謎の納得を示しながらも、俺たちはダンジョンを後にした。




ーーー




長かった乱闘の後、勇者は左手を失っていた。


賢者と聖騎士は、魔王との戦いの途中吹き飛ばされ、勇者の遥か後ろの地面に倒れ伏し気絶していた。


パーティは半壊状態、明らかに満身創痍の彼ら。だが、彼らはついに成し遂げていた。


勇者の片手を犠牲に放った一撃を受けた魔王は遂にその動きを止めていた。




ついに魔王を倒すことができた。


その喜びに勇者は勝利の喜びを表すかのように残った右手を上げる。


これで、俺は国で一番の栄誉を手に入れた。


勇者の加護によって体に刻まれていた紋章が彼を祝福するかのように輝く。


幸せの絶頂。


これより先に自分を阻むものはないだろう、そんな考えすら浮かぶような全能感と達成感に包まれていた勇者だったがふと気づく。




先ほどまでの晴天が突如として曇り始めたのだ。


どす黒い雲が立ち込めていく様子に、気分が削がれたと不満気な顔を浮かべる勇者だったが、その雲の中から現れたソレに言葉を失う。


黒漆のような艶のある鱗に纏われた馬鹿でかい胴体。そしてそれを支えるような大きな翼。


それに彼らは見覚えがあった。初代勇者パーティでも討伐をなしえなかった、魔王領人間領のどちらからも手を出すことを暗黙の了解として禁じられている”生きた災害”。つい最近も相対した極大の脅威。



黒竜が、そこに居た。



「なっ...なんでここに!?」


勇者の体は黒竜から発せられる圧倒的なプレッシャーからがたがたと震え出す。


そして彼の前に降り立った存在が既に混乱している彼の頭にさらなる衝撃を与える。脳は状況を理解しようとするのに、心がそれを拒否する。



死んだはずのクロムが、勇者を憎々しげな眼で睥睨していた。



「お、おまえ、なんで…?


...あぁ、俺らを助けに来てくれたのか?


そ、そうだよな?だが生憎もう倒し終わったんだ。残念だが、歴史書にはお前の名前は載らない。


何の功績も立ててないやつが俺たちに名前を連ねることができるわけないだろう?はは」


がたがたと震えながらも手柄を主張してくる勇者をクロムは冷ややかに見つめた。その目には軽蔑とともに諦めの感情が読み取れた。


すると後ろから少女が降りてきた。


「な、なんでそのガキが生きているんだ?」


勇者は自分の見たものが信じられなかった。




「セレナは魔物使いだったんだ。それも王族の。」


クロムは口を開いた。


「なっ…!?じゃあ、そ、その竜は?」


「彼女の使い魔だ」


勇者の脳は今更ながらに自分の命の危機を察知した。そしてその危機を回避しようと、勇者はその口を開く。


「な、なあ。魔王討伐したパーティーの中に君を入れてあげるよ。ダンジョンの帰りに君の必要性を改めて感じたんだ。


魔王討伐の栄誉も君には分け与えてあげよう。もちろん報酬もたっぷりと出る。これから俺たちは遊んで暮らせるんだ。いい案だろう、なぁ?」


一度裏切っておきながら、命の危機に陥ればすぐにその手のひらを返してみっともなく命を乞う。ぺちゃくちゃといまだ喋り続けるそれは、もはやクロムの目には醜い肉の塊にしか映らなかった。


そんな中黒竜がするりと空中から降りてきて言った。


ーなーんだ勇者だって聞いていたから多少は手ごたえのあるものかと思っていたけど、こんなのが”勇者”?笑っちゃうよ。僕がちょっと威圧しただけでそんなびびっちゃうなんて、勇ましい者の名が泣くね。しかも心まで醜い。今までも微妙な勇者は居たは居たけど、その中でも君はとびっきりに格好悪いよ。

そう言って黒竜は威圧を強める。


勇者はもはや命乞いの言葉は発せなくなるほどがくがく震えて、しまいには立てなくなる。


ーこれを滅ぼせばいいのかい?


「ま、待ってくれぇっ!!欲しいものなら何でもやる!なんなら俺のファンから妾を見繕ってやっても...」


「じゃあな。」


クロムは顔をしかめ、一刻も早くセレナの視界から消したいというかのように別れを告げた。



ぐちょ



ぐちゃりという何かがつぶれるような粘着質な音の合間に断続的にぽきりという乾いた音が鳴る。そうして、音が収まるころには先ほどまで勇者だった肉塊がそこに転がっていた。




ーーー

それからセレナはクロムと黒竜の助けもありながら魔王となった。黒竜を操る彼女の前に多くの魔獣はひれ伏した。


魔王領は再び拡大し、いつしか隣接していたファフニール王国も滅んでいた。



短編なのでこれにて終了です。

もし機会があれば(多分ないけど)クロムとセレナが魔王領を切り盛りしていくほのぼのとした続編を執筆したいと考えています。

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 出来損ない勇者が、魔王に歯が立つはずもなく、ボロボロになっているところに主人公たちが登場し、魔王をあっさりと倒した後に、ぐちょ。だったなら★5つ。
[一言] 最後の終息のしかたから察するに飽きたか、思いつかなかったか…少々残念
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