1-7話 あたしのこととマキナのこと
◇ベンケイ視点◇
あたしは目の前にいる小さな男の子の手を握り話た。
「マキナには聞いてほしいんだ……」
ぶっちゃけどうかしてるよな?
あたしよりも一回り小さな男の子にこんな話をするんだからさ。
「はい。僕はベンケイさんの話聞きたいです」
そんなマキナはしっかりとあたしを、その優しげな目で見つめ返してきた。あたしは顔が熱くなった。それと同時にこれから話すことを考え、マキナがあたしを嫌いになってしまうのではないかと怖い気持ちもあった。
あたしは意を決した。
「あたしはおたずねもので盗賊なのさ」
「はい。知ってます」
「そうなんだ。知ってるのか……って、えええええっ!」
知ってるってなんで!?
あたしを捕らえると報償金まで出るんだぞ!
そんなやつと一緒にいるなんて!
「なんとなくですけどね。ほら、言葉使いとかも荒々しいですし、普通の人よりも人相が悪い……びっ美人ですけど。それに身体中に大小の傷跡などもあって、身なりを考えると冒険者か盗賊の方かなって思ってました」
「ははっ……よく見てるな。そうあたしはここより北西部にある獣人の国【シルバリオン共和国】の冒険者だ。これでもギルド内ではBランク冒険者で凄いんだぞ? ……ただ、ここ人族では盗賊集団【虎爪】のボスでありおたずねものさ。聞いたことあるだろ?」
「いいえ。まったく」
ガクッ……
きっぱりと言ったマキナに力が抜けてしまった。
「まぁ、いいや。故郷でそこそこ名の知れた実力者のあたしは同じ冒険者仲間やダチに声をかけて【虎爪】を作った。最初は盗賊団じゃなくて普通に以来をこなすギルドのチームみたいなもんさ。ただ、シマを人族の街に移してからは変わった。なぁ、マキナは知ってるか? 奴隷の6割は獣人なんだぜ? 魔族は属性平均が高い奴が多いし魔力も多い。妖精族は特集な連絡手段を持っているのと何より美形が多い。じゃあ、獣人族は? 魔族なんてトータル値が高いやつらよりも劣っていて、妖精族に比べて容姿もピンきりさ。人族は差別意識が高いから耳やしっぽもがある動物の派生の下等生物だと思っているのさ。だから、奴隷のほとんどは獣人なんだ」
恨み辛みを話し出した。話し出したくはないけどマキナにはすべてを話すと決めたんだ。
「それであたしたち【虎爪】は人間族の悪い奴らを襲撃し、財産を奪い人族の社会に閉じ込められた貧しい獣人族に資金を配りシルバリオン共和国へと逃がしていた。特に奴隷の荷馬車は積極的に襲った。それに場合によっては殺しもした。しかし、その時に気付いた。このままでは大きくはなにも変わらないと……」
マキナは真剣に聞いてくれている。
「そこでこの前、貿易国であるルートマリアの奴隷館や娼館などを同時に強襲したんだ。結果、300人近い奴隷となった獣人を共和国内へと逃がすことができた。当然追手は殺したり先頭不能にまでした。そこで一人……ジークフリートと呼ばれる勇者の使徒が現れてソイツにバッサリ。命からがら逃げたところでマキナがあたしを見つけて治してくれたわけ」
「そんな事情があった訳ですね……」
マキナの顔が見れなかった。あたしは人を殺したり、金品を奪い取ったりもしていた。
それは同じ獣人族を逃がすためだと……
マキナは人族だしそもそも幼い。こんなあたしみたいな奴と関わっちゃダメなんだ。
そう思っていたらあたしの手がより強く握られていた。
顔を上げてマキナを見た。
「ベンケイさん……凄いですね。まさにこの手で困ってる人を助けたんですね」
マキナの優しい声に動揺する。
絶対にあたしに恐怖して逃げられると思った。
「いっ、いやお前さっきの話を聞いていたのか!? あたしはお前と同じ人族を殺したんだぞ! お前の触ってるその手で! 恐くないのか!?」
「怖くないですよ。まだ出会って数日でベンケイさんのことを良く知ってる訳ではないですが……」
「だったら! ……なんでだよ」
自分でも反射的に声を荒げていることに気付いた。
相手は小さな男の子だぞ……
自分よりも歳の離れた年下の……
自分でも無理に落ち着かせマキナ再度聞いてみた。
「だって例え同じ種族であっても他人は他人じゃないですか。見ず知らずの同じ種族というだけで奴隷から数百人も解放するなんて普通の人じゃ絶対にできませんよ? 奴隷を売買してる人なんて裏でどんな奴と繋がっているかわからないし、そういうことしてる人の大半は悪い奴なのでそっちに関わるほうが怖いです」
「あたしだって悪い奴さ……」
「助ける都合で殺しもしていますからね。……でも、悪い奴って今のベンケイさんのような顔してないですよ」
「今のあたしの顔……?」
「はい……なんか上手く言葉にできませんが無理してるような顔です」
あたしはマキナに握られていない方の手で顔を触る。
まったくわからない。
だけど、仲間たちにも言われたことがある『無理をしないでください』と……
「そうだ! じゃあ指切りしましょう!」
マキナは小指を立ててあたしの方を見てくる。
「指切り?」
「あれ? 知りません? じゃあベンケイさんも小指を立ててください」
あたしが同じように小指を立てるとマキナはあたしの小指に自分の小指を引っかけて繋げようとしている。
そもそも、あたしたち獣人とマキナ人族の手の形は違うため少し戸惑っているみたいだ。
繋ぎ終わるとマキナは言った。
「指切りげんまん~嘘ついたら針千本の~ます。指切った」
「なんだい? そりゃ?」
「僕の知ってる約束をする儀式みたいなものです。約束を破ったら針千本のみますっていう」
「えっ!? 怖いわっ! なんだそりゃ!」
「まっ、まあ諸説ありで怖い話でもありますが、約束は守りますっていう歌? みたいなものです」
「そっ……そうか。それで何を約束してくれたんだ?」
「僕はベンケイさんを嫌いになりませんっていう約束です!」
優しく微笑むマキナを見てふとあたしの目から涙が零れた。
その涙は一度溢れだすと止まらず一瞬にして視界がぼやけた。
「へへっ……なんだいそりゃ……」
「ちょっとキザでしたか? 少し恥ずかしいですね。でも、僕はこの先ベンケイさんのことを嫌っても僕は嫌いになんてなりません。だってベンケイさんは優しいしとても凄い方だと思いまっ!?」
かばっ……!
あたしは溢れる涙をハンカチでぬぐってくれるマキナの手を取り、自分の方へと引き込みそのまま抱き締めた。
「……ほんと、ガキのくせに……」
そして、抱き締めたまましらばらく泣き続けた。
自分のしたことに対して、少なからず後ろめたい気持ちを持っていてそれが自分を押し続けていたんだと思う……
引くに引けないし、周りを無下にできない。
でも、恨みを買っているしそれが影響して誰かを傷付ける可能性がある。
それを考えると最終的には周りに誰も居なくなり、1人ぼっちになってしまう。それでいいと納得したふり……強がっていた。それをわかったかのようにマキナは「嫌いにならない」と言ってくれた。自分より小さく弱い子どもがそういってくれた。
これほど嬉しいことがあるのだろうか……
そして、このままこの子に寄りかかってよいのだろうか……
そんなことを考えながらあたしはマキナを抱き締めながら泣いていた……
……
……
◇マキナ視点◇
「ふぅ~……久しぶりにいっぱい泣いたらスッキリしたぜ! ありがとうな!」
目を赤くしたベンケイさんが微笑んだ。
それはとても落ち着いており、どこかの柱の一族のようだった。
「お役に立てたなら何よりです」
「ああっ! ホントにマキナに会えてよかったぜ。傷も治してくれるしよ」
ベンケイさんは治療途中のお腹の傷をなぞる。
「おそらくあと2、3回くらいで治ると思います。ごめんなさい。もっとレベルが高ければ一発で治せたのですが」
「いやいや、凄いわ。てかマキナ何レベルなの?」
「おそらく……level2かと思います」
「level2!? おかしすぎるわ!」
確かに……
この世界では、
【祝福持ち】→全て、まだ無能力
【level0】→祝福持ちの約半数
【level1】→level0の約半数
【level2】→level1の中の100人に1人
【level3】→ごく少数
【level4】→一握り
【level5】→英雄など選ばれた者のみ
となっている。それに8歳でようやく祝福されるため、そこから力をどんどん蓄えていく……条件はわからないが……
「それにマキナはまだ7歳って言ってたよな?」
「はい。それに関しては僕もお話いたします……」
……
……
「なるほどな……マキナは新しい勇者の1人だったのか……」
「はい……黙っていてごめんなさい」
僕は勇者という話をベンケイさんに話した。ベンケイさんも自分の過去を話したんだ。ゼルさんよりもしっかりと……
「凄いなっ!」
「ええっ!? ちょっとベンケイさんっ!?」
ベンケイさんはまたも僕を抱き締めた。少し苦しいけど、めっちゃ幸せ……
「凄いよ! あたしは未来の英雄さんに助けられたんだな!」
「大袈裟ですよ……」
「そんなことないさ。前の勇者はもうみんな死んでる……まあ、その使徒は数人生きているけどね。……ということはマキナも来るべき終焉に立ち向かうのか……」
ベンケイさんが何かを考えている……
あまり、時間が掛からずにベンケイさんの顔は何か思い付いたという様子になり急に立ち上がり……
「よし! 1発あたしとヤろうか!」
……はい?
つづく