1-1話 僕の新しい世界のこと
「ふあぁ……んーー!」
ベッドから起き伸びをする。
アストライアさまたちにより新しい世界に転生して7年がたった。
僕が産まれたのは【シルフィル家】という【ガルド=シルフィル=アーガスト】辺境伯が納めるアーガスト領と呼ばれる王国の領土の1つである街に産まれた。
お父さまであるガルドは2人の妻を持ち、第1婦人が【カルナ=シルフィル】、第2婦人が僕の母親でもある【ミラ=シルフィル】である。
偶然とは思えないが僕は転生前と同じマキナという名前を着けてもらった。
僕と姉である【ティオ】を出産してすぐに衰弱してしまいそのまま亡くなってしまった。
恐らく【勇者】として転生した僕を産むために力を使ったのだろう……
ミラお母さまは屋敷内でも使用人に優しく接していたために、皆僕やティオ姉さまには優しく接してくれた。
正直、貴族に転生できていい暮らしはできているのだが申し訳ない気持ちでいっぱいだ……
自分が産まれたせいでのスタートからは正直かなり重い。
しかし、母親の愛のようなものは感じている。
そう、もうすぐ扉が……
……こんこんこんっ
「マキナ? もう起きているのか?」
扉がリズミカルにノックされる。
「はい。マリアお姉さま、起きております」
「うむ。それでは入るぞ」
扉が開き女の子が入ってくる。
【マリア=シルフィル】僕より3歳歳上の第1婦人カルナお義母さまの1人娘だ。
白と青の綺麗な服に金髪の綺麗な髪を後ろでまとめている。
才色兼備とはまさにこのことで、剣技や魔法、そして勉学でさえ超1級である。
そして10歳の時点でもかなり美人なのにこれからどうなっていくんだ?
という火の打ち所のない姉で実際に縁談の話が後を立たない。
この前は王族である公爵家から見合いのお話が来ていたりもした。
そう、火の打ち所がない……1点を除けば……
「マキナくーん! 王都に行ってて寂しかったよ~!
お姉ちゃんいなくて寂しかった?
ねえねえ、怪我とかしてないよね?
とりあえず、マキナくんチャージさせて?
ぎゅう~……んんー! お姉ちゃんの元気がどんどん満ち溢れてくるわ~!」
「あはは……僕も寂しかったですよ」
「んん~ごめんね~! 悪いお姉ちゃんで!
でも安心して! もうしばらくは何処も行かないからね!
お見合いの話もみーんな無しにしてきたんだから!」
「えっ!? マリアお姉さま、それは大丈夫なの?」
「えっ!? 逆に何? ぶぅー……マキナくんはお姉ちゃんがお嫁にいってもいいってことっ!?」
……そう、彼女は重度のブラコンなのだ。
姉のティオに対してはそうでもないのだが、僕のは特にひどい。
しかし、人前ではこういった態度はせず実に厳格な態度である。
「マリアお姉さまが幸せになってくれればそれが一番です」
「じゃあ、私の幸せはマキナくんといることだな~……むふふ……でもあーあ……あと数日で休みも終わりか……【王立エクスティア学園】で10年間寮生活で夏と冬、半年に一回しか休みで会えないのは嫌だな~」
……こんこんこんっ
「失礼いたします……マリアお嬢さま、マキナさま。朝食の準備が整いました」
「あっ、ああ! わかった! 私はマキナを連れて一緒に行くから」
扉の向こうにいる屋敷のメイドの声に慌てて普段の態度で返事をするマリアお姉さま。
僕はマリアお姉さまに半強制に着替えを手伝わされ、食事の広間へと向かったのだった……
……
……
部屋に入るとガルドお父さま、第1婦人のカルナお義母さま、長男である【マルス】がいた。
マルス兄さまは14歳で勉学優秀だ。
王都の学園の中でも10位以内の学力でよく、学友を連れて帰っては「兄のように」と良く言われる。
マルス兄さまも自慢兄だ!
「おはようございます。お父さま、お義母さま、兄さま」
「おはよう。マキナ。帰ってきたばかりのマリアにすぐに捕まったか」
「お父さま、教育です。家督を継げるのはマルスお兄さま。マキナは学園卒業までには婿入りしてもらうか、実績を積んで独立していただきます」
「学生で独立ってかなり厳しいぞ?」
「私はマキナならできると思っております」
「あはは……マキナも大変だな。兄さんの僕も追い抜かれないように頑張らないとな。ところでティオはどこだい?」
「僕はわかりません」
「あら、ティオなら屋敷の騎士たちと訓練をしておりましたよ? まったく、マリアもティオも我が家の女性はもっとお洒落するべきなのに……マリアもお見合いを無下にしすぎているし」
「私は別に嫁入りするつもりはありません」
「僕はマリアお姉さまは今のままでもとても美人だと思いますよ?」
「かっ……からかうにゃ……」
あっ、凄い動揺してる。
本当にマリアお姉さまは可愛いなー。
あいつも見習ってくれれば……
ばんっ!
大きな音が食堂に鳴り響いた。
扉を蹴り開け部屋に入ってきた少女は、腰まである赤髪をゆらゆらと揺らしながらドカッと偉そうに僕を押し退け席に座った。
これが双子の姉であるティオだ。
「なんだティオ! マキナにあやまれ!」
マリアお姉さまはそう言うとティオの肩を掴む……
しかし掴んだその手を逆にティオの手が掴み返し簡単に引き剥がす。
「痛いんだけど?」
「ぐっ……」
「よさないか。お前たち」
「「ちっ」」
2人の舌打ちが重なる。
「さっ……さぁ、みんな揃った所でご飯によう! なっ、マキナ」
「はっはい! 兄さま」
「そうね! 食べましょう」
悪い空気を払拭するかの如くマルスお兄さまが提案して、その案に僕とカルナお義母さまも乗る。
この双子の姉であるティオとは双子にも関わらずまったく似ていない。
顔はぶっちゃけ悪くない、少しつんけんしてるような顔付きだが、むしろどんどん可愛くなってくる。
何故だか知らないがいつも僕を敵視しており殴ったりなどは当たり前、僕のものを取ったりなどは日常茶飯事だ……
「父上本日の夜ですが……」
「わかっておる。アガーテ公爵家の皆様が2~3日滞在する件だろ? 準備等は抜かりなしさ。マリアは心配ないがティオとマキナはしっかりと貴族としての振る舞いをしなさい」
「はい」
「……」
今夜はアガーテ公爵家の方々が来られるそうだ。
現在目立った争いもないためお偉い様はコネクション作りをより重点的に行っている。
アガーテ公爵家の子どもは男2人の女3人……
公爵家の跡取りを1人決めても残り4人の子どもは溢れる。
であればマルス兄さまは辺境伯を継ぐため、爵位的にも降嫁できる範囲で、更には軍事力が強いため子どもを嫁がせるには安牌だろう。
そして逆に男の跡取りにマリアお姉さま、ティオのどちらかを嫁がせることができればシルフィル家としては尚よしという感じだ。
一通り朝の食事が終わり夕方までの自由行動が許された。
……僕だけ
マルス兄さまは嫡男としてお父さまの手伝いで、マリアお姉さまやティオは2人して嫌がりながらも公爵家を迎える準備を始めた。
僕は一応前世での小説・ゲーム・アニメなどの知識があるので、この世界での礼儀作法の勉強も要領よく覚えることができた。
あとは良く遠足や旅行前のリーチや事前準備もオーケーだ。
それをお父さま、お母さまに説明した所自由時間が認められたのだ。
そして、公爵家が来るこのタイミングで必要なものを街の雑貨屋に取りに行く。
「こんにちは! オーグさんいらっしゃいますか?」
「よう! マキナさまいらっしゃい!」
オーグさんはこの雑貨屋の店長。
身長は180くらいで結構大きくガタイもいい。
もともとは冒険者で今は引退して実家のこの店を引き継いだ。
「依頼されたものはできてるよ。作るのは簡単だったからな! というかこの四角の板と表裏白黒の丸いやつで何すんだ?」
そう……
オーグさんが持っている物は【オ●ロ】だ。
異世界転生・転移ものの主人公は【オ●ロ】にて資金調達するのは鉄板である。
僕はシルフィル家の嫡男ではないから家を継ぐことはできない。
だからこその前世での知識を使い荒稼ぎをする!
……この時僕は現実はそんなに甘くないということを知らなかった。
「ありがとうございます! 思っていた通りのできです!
使い方は……秘密です!」
「なんでぇけちくせぇな! まっ、何かまた作って貰いたいものがあったら来いよ」
「はい!」
うきうき気分で店を出る。
鞄には【オ●ロ】がしっかりと入っている。
「順調順調! はぁ~この世界にアイテムボックスがあれば便利なのになー【オ●ロ】しまえるのに……というかこれ名前どうしよう……やっぱり王道のリバー……」
「きゃーーーーーーーっ!」
「おいっ! お前ら俺たちが誰だか知らないのか!?」
路地裏から誰が言い争いをしているようだ。
覗いて見るとガラの悪い大人3人が僕と同い年くらいの男の子と女の子2人に絡んでいた……
物語の主人公であれば恵まれた身体能力で上手いことやっつけ、女の子に惚れられるのがテンプレだけど……
……僕は7歳だけど女神の恩恵である身体能力向上はまだ発動していない。
というよりも【光・武・炎】のスキルはlevel1のはずだけど、何故か【光】の魔法が2種類と、光の通常魔法【ライト】という光を発生させる魔法しか使えない。
そして本来この世界では魔法は年に1度、8歳の子どもが祝福を受ける日があり、その日にならないと魔法は使えないという設定があるため僕は隠している……
恐らくその祝福の日に残りの【武・炎】が加わり、この世界の言い伝え通り手の甲に紋章が浮かび上がり勇者デビューとなるのだろう!
……と説明はこの辺にして僕はやることがあるので失礼しないと。
力を見せる訳には行かないし、祝福前の7歳の子どもだからね。
◇ロニ 視点
チクショウっ!
どうしてこうなっちまったんだよ!
ただ、街についてちょっと退屈しのぎに待ちを見ようとしてゼルねぇと妹のクレアと馬車を抜け出しただけで!
「弟がぶつかったことは謝りますし、謝礼もお支払い致します! だから許してください」
「ゼルねぇ! なにいってんだよ!」
「おうおう……せっかく姉ちゃんがまとめようとしてんのによー」
「ほんとだよな自分の立場わかって言ってるのかよ?」
「ちょっと痛い目みないとなっ!」
1人の男が拳を上げて殴り掛かってくる。
こええ……
俺は目をぎゅっと閉じたのだが痛くない。
「ぐぅっ!」
「ゼルお姉さま!」
クレアの声が聞こえ目を開けると倒れているゼルねぇがいた!
口の端から血が出ており、俺を庇って殴られたんだ!
許せない!
「おいっ売もんに何してんだよ」
「こいつが前にでるからさぁ……」
「そこで何をしているんだ!」
いきなり男たちの後ろから怒鳴り声が聞こえて騎士たちが、路地に入ってきて男たちを抑え込んでいった……
◇マキナ視点
シルフィル家の騎士たちにお願いをし俗を捕らえてもらった。
割りと放任主義なのか僕とティオには余り口を出さないお父さまだが、流石に7歳の子どもが外に出るとなると街の詰所に巡回の命令が入る。
つまり、僕が出歩いている間は警備が強くなる。
それに今日に限り要人である公爵家が来るためより警備は強くなっている。
僕がしたのは急いで巡回中の騎士を見つけ、現状を報告することだ。
騎士たちが男たちを捕らえている中、座り込んでいる女の子を見つけた。
残りの2人の子は状況に唖然としている……
座り込んでいる女の子は口の端から血が出ており、恐らく殴られたのだろう。
頬を押さえてるし。
「大丈夫ですか?」
「あっ……あなたは?」
「僕はシルフィル家次男のマキナ=シルフィルです。ちょっと失礼しますね」
魔力を絞りあまり放出しないイメージでボソッと【ヒーリング】と呟く。
小さな光が出て女の子の傷が治る。
「きっ、傷が痛くない……治って……る?」
僕は女の子にわかるように人差し指を口に持ってきて、
「しー……ないしょにして」
僕の行動がもう少し早ければこの子も殴られなかっただろう。
というかこんなにかわいい子殴るなよな。
透き通るような水色の髪でショートヘアー、少し強めな顔付きだが周りの子を守るため殴られたんだろう。
こっそり周りのバレないように光属性のlevel0で取得した【ヒーリング】を使った。
levelは1のため0で取得したときより魔力の込めかたで治る幅が広がっており、切り傷くらいならすぐに治療できる。
「改めてまして大丈夫ですか?」
「はいっ! マキナさまのお陰です! 私の名前はゼル=アガーテ。向こうにいるのは弟のロニと妹のクレアです! 助けて頂きありがとうございました!」
ペコリと頭を下げた……ん?
アガーテ……
これはなんか不味いのでは……?
つづく