1-9話 僕のもう一人の味方
ベンケイさんと出会い3ヶ月がたった。
僕は相変わらず、朝起き着替えたらすぐにベンケイさんの元へ向かった。魔力もある程度使いこなして来ている僕はベンケイさんの元へ向かうときも何処に行ったかわからないように街の屋根の上を跳び跳ねて人目につかないように移動した。
「あっ、そうだ! 今日は食料買い貯めの日だった! ベンケイさんの大好きな牛のお肉いっぱい買っていこ!」
途中の屋根から路地に向かって飛び降り、両手いっぱいの食べ物を買い込んだ。
「今日は焼き肉と特製ビーフシチューだね! ふふっ……ベンケイさん喜ぶだろうな~」
僕は再びベンケイさんに会うために駆け出した……
森に入り中間地点の湖を越えた所で急に獣人に話しかけられた。
「おい。お前こんなところで何してるにゃ?」
短髪でオレンジ色の髪にヘソ出しのスポーツブラの様な服にショートパンツ。語尾の「にゃ」からわかるように猫耳、猫尻尾。ベンケイさんのようなグラマーな身体ではなくスポーティーな感じで彼女もかなり美人だった。
ん? でも何でこんなところに?
「え~と……僕はちょっとこの奥に果物を取りに……」
ベンケイさんと周りを探索していたときにたまたま果物を発見したことを思い出した。ベンケイさんのことはいくら同じ獣人の人でも言えないし……
「ガキんちょがこんなところに1人で? ……怪しいにゃ」
「父様は仕事で着いてきてくれなくて……僕は片親しかいないので……」
嘘は言ってない。こういう場合、素直に本当のことを話しつつ、真の目的を話さないようにするのがいい。
美人……恐らく12、3歳の美少女だけど、腰には短剣が装備されているしここらでは全く見たことのない人だから少し用心しないと……
「そうかにゃ……嘘は言ってないみたいにゃ。悪かったにゃ」
「いえいえ気にしないでください! それでは僕はこれで……」
頭を下げた猫耳の獣人……猫娘に軽く会釈をしてその場を離れた。
迂回しよう……
「これくらい時間を開ければいいか……」
「……何がにゃ?」
「えっ!?」
声をした後ろを振り返ると木上に腰掛けた、先程の猫娘が足をブラブラさせながらこちらを見ていた。
「お前。やっぱりおかしいにゃ。果物取りに行くっていったのにこの辺をのらりくらりぶらぶらして……やっぱりこの先のことかにゃ?」
僕は思わずビクッとした。
僕が適当に時間を潰してぶらぶらしていた所をばっちり見られていた。
「その反応……とりあえず私じゃ判断できないから捕縛して連れいて行くにゃ!」
猫娘は木から飛び降りると行きなり腰から短剣を出して飛びかかってきた。
「うわあっ!」
「あん? かわすにゃよ!」
飛びかかってきた猫娘を避けた。
「今のでわかったにゃ! 魔力操作してるにゃ! そんなことできるガキ普通じゃないにゃ! お前は手先にゃ!」
「いや! なんのことでしょう! 手先!? ちっ違いま……」
「問答無用にゃー! ……しっ!」
「うわっ!」
蹴りが顔を掠めた!
危なっ!
「まだまだいくにゃ!」
まだ、滞空中の猫娘はまだまだ攻撃してくるようです。
「……【サテライト】」
「にゃあっ!?」
【光魔法 サテライト】により光のレンズを空中に作り出し猫娘の顔に太陽光を反射させた。
「まっままままま眩しいのにゃ~!」
危なっ!
同じ反応をしたのには理由があった。光で目潰しをした後猫娘は手に持っていた短剣をブンブンと振り回し始めたのだ。
今のうちに少し距離をおいて僕はスキルを使った。
実は一番最初に選んだスキルだったのにベンケイさんと特訓するまでは使えなかったスキルだ……
「【天使召喚】!」
スキルを発動すると目の前に1人の白い羽根が生えた金髪の女性が現れた。
「マスター。天使ミストリアここに参りました……」
level1からスタートした僕は膨大な魔法・スキルの中から最初に選んだものは、
・光回復魔法【ヒーリング】
・光召喚スキル【天使召喚】
この2つだ。しかし、最近まで全くスキル【天使召喚】は使えなかった。
ベンケイさんとの特訓によりある程度、体力・魔力が底上げされたというのが使えるようになった理由だそうだ。
召喚スキルは各属性にも存在するらしい。召喚後は契約を結び自分の魔力を使い契約した天使・精霊・魔物などを召喚する。
そして、僕は天使ミストリアを召喚して契約を結んだ。
その時のお話はまたの機会で……
「マスター。私はあそこにいる獣人を滅っすればいいのですね」
「滅っするまではしなくて大丈夫です! 殺さないでなんとか捕縛できませんか?」
「かしこまりました。私1人で全く問題ございませんので、実行いたしますね……」
ミストリアは低空飛行で猫娘に一気に近付いて……
「ぐえっ!」
……そのまま猫娘にボディブローをかました。
なんというか【聖なる魔法】とかなんやかんやを期待したのですがベンケイさんとの実践の時も拳で戦っておりました。
白くて染み1つない綺麗な細腕から奏でられる『ドゴォッ……!』という鈍い音は1周回って聖なる一撃と呼ぶのに相応しいのではないでしょうか?
そして何処から取り出したのかわからないロープで、近くの木に猫娘をぐるぐる巻きに拘束した。
ここまで召喚してからたったの1分足らずでミストリアは完璧に遂行した。
「マスターいかがでしょうか?」
「はい……見事なお手前でございます」
「……」
ミストリアは全く平静を装った顔をしているが羽根が少しそわそわと動いていた。嬉しいんだね。
「ではマスターお約束を」
「はい。ミストリアありがとうございます」
両腕を広げたミストリアに抱き付き、ぎゅっとハグした後で左右のほっぺたを重ねた。
これはミストリアとの契約内容の1つで呼び出したら必ずハグをするとのこと。
……どこの欧米でしょうか?
「ミストリアお願いがあります。あの……僕を抱えて飛ぶことは可能でしょうか?」
「!? マスターを抱っこ!? ……だと!? もちろん可能でございます! 早くこちらに!」
「あっ……はい」
ミストリアに再度抱き締められ、そのまま飛び立った。
「それでマスター。どちらに向かいますか?」
「ベンケイさんの所へお願いします!」
「……マスター、交友関係は考え直した方がよいですよ?」
「また……そういうことは言わないの」
「かしこまりました……」
ミストリアは顔をしかめて飛び立った。
僕を抱えているにも関わらず速度は早くあっという間に岩場までたどり着いた。
無事着陸すると岩の抜け穴から見知らぬ眼鏡をかけた男が出てきた。
その男もまた獣人で群青色髪に灰色の犬耳をはやしたクール系の男でした。
「おや……あなたがボスの話していたマキナさんですか?」
「応える義理はありません。あなたは何者ですか?」
ミストリアがすぐに庇うように僕の前に立ち、その獣人男性に向かってそう言った。
「まぁ、そう威嚇しなさんな変態クソ天使。こいつはあたしの仲間のウォルフだよ」
「自己紹介が遅れすみません。私は【虎爪】のメンバーのウォルフと申します」
群青髪の犬耳獣人のウォルフさんが礼儀正しく挨拶してきた。
きりっとクールな感じ……凄いイケメンで……
ベンケイさんと特別な関係なのだろうか?
なんかヤダな……
「初めまして、マキナと申します。よろしくおね……」
「へぇ~、野蛮な品のない貴女に部下がいたとはびっくりです」
「なんだ? 変態クソ天使。お前のその羽根むしりとってホコリ取りにしてやろうか?」
「ほぉ、やれるもんならやってみやがれです」
あーあ。
また、始まったよ……
なんかこの2人仲悪いんだよね。
「失礼。いくら天使さまでもボスを愚弄するなら黙っておりませんよ?」
ええっ!?
まさかのウォルフさんまで!?
やめてよ! 3人で揉めるとか止められる訳ないじゃん!
「ウォルフ。やめとけ。いくらお前でもこの変態クソ天使には勝てねぇよ。これはあたしらの挨拶みてぇなもんさ。それにウォルフの会いたがっていたマキナも来たことだしよ。ここはぱぁっと……」
パシッ!
僕の所に伸びてきたベンケイさんの手をミストリアが叩いた……
「何がぱぁっとですか? まだ、7歳のマスターにたかり食料をめぐんでもらっている野蛮巨大ネコ助の分際で良くそんなこと言えますね? あと、気安く私のマスターに触らないでくれますか? 獣臭さが移ると困るので」
「オーケーオーケー……その喧嘩買っちゃるわ!」
ドゴォッ!
バシッ!
「相変わらず野蛮な拳ですこと」
「へんっ! マキナはあたしの肉球にメロメロなんだぜ」
「はあっ!? 今はそんなこと関係ないでしょ!」
「はっ! 悔しいんだ! ウケるわ~」
「こいつっ!」
いつも通り2人の戦闘が始まった。
仲がいいんだか……悪いんだか……
そんな時、僕の側にウォルフさんがやってきて
「マキナさん……いろいろ苦労してそうですね」
「流石に2~3ヵ月この環境にいると馴れますよ」
2人の争う姿を遠い目をしてウォルフさんと眺めた。
そして、食事の準備を初めていたらウォルフさんが「もう1人の仲間が戻って来ない」と言い出し、先程の猫娘の話をしたら凄い謝られ猫娘がくくりつけられている木の場所を教えると迎えに行った……
僕のご飯が出来上がるのと同じくしてウォルフさんが猫娘を連れてきた……
それまでベンケイさんとミストリアは殴り合いを続けていた……
つづく