プロローグ
ーーーーどうしてこうなったのか僕にはわからない……
「ーーーっ! ーーーーっ!!」
僕を糾弾する声が周囲に響き渡る。
僕と同じように集められた8歳の子どもたちは皆、怯えた目・蔑む目・怒りを込めた目、様々な見られ方をする。
ガッ!
急に僕の胸ぐらが誰かに捕まれる。
掴んだ人を見ると僕の双子の姉が憎しみ・怒りを込めた目で睨み付けながら僕に罵声を浴びせている。
「なんで! あんたなんか生まれてきたのよ!」
それに呼応するかのように周りの他の子どもたちや司祭、騎士たちもざわめき出す。
「こんなこと前代未聞ですぞ……」
「あぁ、まさか勇者が不完全な者で誕生するなんて……」
「今殺してしまえば何とかなるのでは?」
姉と周りの声は僕をドン底に落とすには十分だった。
生まれ変わったあの時、僕は3人の女神より【勇者】として転生すると言われた。
「どうして……」
僕はただ唖然して、僕に対する言葉の数々を受け止めることしかできなかった……
そう……
僕は勇者じゃなかったんだ……
◇
気が付くと僕【藤島 真姫奈】は白い空間にいた。
足元には磨きあげられた石の床があり、どの大理石よりも綺麗だ。
……大理石詳しくはないけど
良く目を凝らすと大理石よりも綺麗な床は若干透けており、下には地球が見えた。
「ここはどこ?」
「ここは【女神の神域】でございます」
ぼそっと呟いた僕の言葉に反応する声が聞こえた。
声のする方を向くと少し離れた先に、金色のウェーブのかかった髪で、透き通るような色白の女性がいた。
美しい……という一言では片付けることのできないほどの絶世の美女がそこにいた。
このような状況でも僕は落ち着いている。
おそらくこのあとは異世界転生・転移、もしくは天国・地獄、はたまた知識を持ったまま2度目の人生がスタートするのであろう……
まさに小説・漫画・アニメなどのフィクションの世界のように……
「はい。真姫奈さんの考えてる通りです。正確には今の世界とは違う、あなた方の言う異世界転生ですね。違う世界にて新しく生まれ変わって頂きます」
「わかりました」
即答する僕に女神は目を丸くする。
「受け入れてくれるとは思っておりますがこんなにあっさりとは……そこまでは思っていませんでした」
「女神さま……でよろしいでしょうか? 生前の僕のことはごぞんじですよね?」
「ええ。私は【光の女神 アストライア】と申します。そして質問答えは肯定でございます。藤島 真姫奈……22歳男性で人生の幕を閉じる。14歳までは普通の学生でしたが病気が発症し、個室で一人闘病生活を送る。趣味は読書やゲーム、ネットサーフィン……広い外の世界を見ることや想像することが大好きでしたね」
とても優しい顔で女神……アストライアさまが僕に微笑む。
それはまさに聖書などでも見かける【慈愛】という言葉そのものだろう。
自然と涙が流れ、それをアストライアさまは抱き寄せてくれた。
僕の過去を知っているからだ。
僕は14歳の時に現代医療では治すことのできない病気となり、死ぬまで病院の個室で過ごした。
友達は次第に来なくなり、両親や親戚もこない……かなり、割り切るタイプの両親でもう治療方法がないとわかった時点で僕のことは見限り他の兄弟に愛情を注いだ。
僕には産んだ責任として一つの病室とPCや小説やゲームなど暇潰しになるものを定期的に月1万の小遣いにて別途用立ててくれた。
医者や看護師も業務以外では関わりを持たないようにしていたし孤独であった。
アストライアさまからはそんな僕に久しぶりにぬくもりを与えてくれた……
「あ~……アストライアちょっといいか? お涙頂戴はもういいから肝心な話を進めないか?」
知らない声が聞こえた。
声の主は炎のような真っ赤な髪をした褐色の女性……そしてその横には腰に日本刀のような刀、背中には西洋の剣を装備して黒髪を一つ結びにした女性。
2人ともアストライアさま同様に美人な女性だった。
そして武器を装備している方の女性の口が開いた。
「我は【武の女神 ヤマト】そして横にいるのは……」
「あたしは【炎の女神 マーズ】」
「私たち女神は14柱おります。【光・闇・炎・水・氷・雷・風・土・樹・鉱・武・護・生・幻】を司る女神がおります。あなたは選ばれました……あなた以上に苦しんでいる人の子は多くおりますが、今の記憶をそのまま引き継ぎ第2の人生を違う世界で……勇者として転生してもらいます」
僕を抱き寄せたままアストライアさまは説明してくれた。
まさにアニメや小説、ゲームなどにある転生が僕の前に現実として現れたのだった。
そして思いもよらなかったのが……
「僕が異世界に転生できる。勇者として……」
「不安かい?」
炎の女神であるマーズさまが腕を組みながら僕に問いかける。
「はい……僕にそんな魔王を倒したりなどそんな大役が勤まるかどうか……」
小さいころ武道を習っていたり、喧嘩・武道・格闘技のテレビや漫画をたくさん読んだ。
そして、異世界転生や突然力を手にいれた勇者の物語も沢山知っている。
このあとの流れとしてはチート能力を女神さまから授けられるのだが正直な話チートがあったとしても命の危険や痛いことは怖い……第三者目線で小説を読んでいる分に関しては問題ないが、いざ自分がその場面に直面したら、いきなり使ったこともないチートをもらい命の危険がある全く知らない場所に行くのは不安だ。
「魔王は倒さないよ?」
「えっ?」
「いや、マーズ……それはまだわからないだろう」
「どういうことですか?」
「真姫奈さんが混乱することもわかります。あなたの世界の物語の勇者は大抵【魔王】と戦うものを指します。これからあなたが転生する世界の勇者は【終焉】を阻止することが目標となります」
「まぁ、魔王もいるがな」
「そーそ、んで魔王を倒したのは3世代目の勇者たちだったっけか?」
「なんとなくわかってきた気がします……女神さまたちのお話から察するに【終焉】と呼ばれる現象が定期的におこり、それを止めるのが勇者の役目ということでしょうか?」
「ほぅ……そなた中々に察しがよいな。その通りだ。そなたのもともといた世界でも大規模な災害や虐殺などあっただろう? 新しい世界ではそれを止めるのが勇者の役割だ。まぁ、魔法や様々な種族やドラゴンなどのモンスターもいるから一筋縄では行かんがな」
「そういうことさね。まあ、あんたの世界のおとぎ話のように必ずしも魔王と戦わなきゃならないわけじゃないのよね。例えば5世代目の勇者は政治を駆使して、文字通り世界に生きるものたちが協力し合って世界を飲み込む災害……【終焉】から救ってるよ」
「ヤマトとマーズの話を聞いてご理解頂けたと思いますが、世界を揺るがす事象を【終焉】とこの世界ではいいます。【終焉】が起こることがわかったら勇者たちが選定され、真姫奈さんは勇者に選ばれました」
なるほど、女神さまたちの説明で理解ができた。
新しい世界を揺るがす事象である【終焉】を止めるのが勇者たちの役目であり、極端な話自分はサポートに周り他者の力を借りてもいいということなんだ。
そして、気になったことがもう一つある。
「勇者は1人なのでしょうか?」
「はっはっは、我は気に入ったぞ! ここまで理解がいいとはな。確かにいくら我々の力をもらっても育つかどうかはまた別、そもそも1人の生命に14柱の神力を注いでも許容量が足りんわ」
「ぱんっ! って生まれてくる生命が弾けちゃうしね」
「勇者は4人おります。そして、勇者1人1人には3柱から力を授けます」
「僕はそうしたら【光の女神 アストライアさま】【炎の女神 マーズさま】【武の女神 ヤマトさま】から力を頂けるということですか?」
「はい。私たちの力を授けます。勇者には【女神の加護】として身体能力の向上・成長促進など恩恵を貰えます」
「そして、あたしたちの力を【level1】からスタートできる」
「【level1】はスゴいのでしょうか?」
「新しい世界ではね。14柱誰かの特性を持って生まれてくるんだ。例えば……
【炎】これは特性なだけで何も使えない
【level0】ここから能力が使えるお試しレベル
【level1】生活~実戦でまぁ使えるって感じ
【level2】実戦レベルで成人の時までに到達できるかどうか
【level3】ここから到達が厳しくなってくる大体10000人に1人かな
【level4】一握りの到達者で私たちの武器【神器】を一つ与えられるわ
【level5】勇者にしか到達できない領域ね
他にもレベルが1上がる毎に魔法を自分の身の丈にあった力が与えられるけど勇者は好きなものを選べるっていう利点があるわね! まぁ好きな力が選べてスタートダッシュができる。更には成長促進でレベルも上がりやすいっていうのはチートよね」
「確かに利点は多いですね」
「あとは3人まで自分の使徒を選ぶことができる。3つの女神の力の内、1つを認めた仲間に与えられる2つ女神の加護を受けた仲間を作れる……まぁ、あとは嫌でも向こうで調べられるだろう……アストライアそろそろ儀式を始めようじゃないか」
「そうですね。ヤマト……では真姫奈さんはこちらへ……」
アストライアさまに呼ばれ近付くと女神さま3人に囲まれ、僕の足下の床には光輝く魔方陣のような紋章が絵描かれた。
魔方陣の周りには下の地球のような星に一直線に伸びるような光のヴェールが掛かった。
「それでは真姫奈さん……あなたが勇者として世界を救うことを我ら3柱の加護のもと願います。そして、生まれた親元では【終焉】まで幸せに……」
僕の意識は遠退き、足下の星に吸い寄せられるかのように気を失った……
……
……
◇女神 アストライア視点
「おいっ! おかしくないか!?」
真姫奈さんを新しい世界へと送った後、ヤマトが叫び出す。
いつも落ち着いている彼女がとても慌てているのがとてもおかしく感じてしまう。
「ヤマトどうしたのですか? あなたらしくもない」
「……真姫奈とあたしに繋がりがない……」
普段お気楽なマーズでさえも青ざめた顔をしている。
「どういう……ことです……か……」
私は二人を問い詰めようとしましたが、勇者に加護を与えるとしばらく眠りについてしまう……
ここでの眠りは一瞬ですが起きる頃には、向こうは7年くらい経っているであろう……
マーズとヤマトにも同じ反動で眠りに着き始めている……
「今回の【終焉】は……一体どうなっているのですか……」
真姫奈さんの身の心配をしながら2人に続き、私も意識が消えていった……
◇とある少女視点
「あぁっ……づぅ……」
「奥さま! 気を確かに! そこで力んで!」
「んんっ!」
「お義母さま! しっかりしてくださいっ!」
私は大好きなミラお義母さまの手を握る。
ミラお義母さまも女性とは思えない力で私の手を握り返す……
「さぁ! 奥さま! もう少しですわよ!」
「うっ……あっ……産まれ……るぅ! ああっ!」
いよいよ……ミラお義母さまに子どもが産まれるその時屋敷がまばゆい光で包まれた!
どういうことですか!?
お義母さまは無事なのですか!?
……
……
『あぁ~! んっぎあ~!』
赤ん坊の鳴き声と共に光が消えてました!
「た……く……せん? 勇者の? まさか……」
経験豊富な助産婦はぼっーと呟きながら産まれてきた赤ん坊のへその尾を切り、体を拭いてあげていた……
だけど、ぶつぶつ呟き手際が悪い……
「……わた……くし……わたくしの可愛い我が子は……?」
「ミラお義母さま! ほら! 無事に産まれております! 元気な赤ん坊ですよ!」
呆けている助産婦から赤ん坊を奪い取り、大好きなミラお義母さまへと赤ん坊を渡した。
「ふふっ……凄いかわいい……マリアちゃん……ありがとうね」
「いえっ! お義母さまありがとうございます……これで私もお姉ちゃんですね!」
「そうね……この子をよろしくお願いね。名前はお姉さんの方が【ティオ】で弟くんが【マキナ】ね……」
「ティオちゃん! マキナくん! これからよろしくね!」
私は嬉しくて2人をミラお義母さまごと抱き締めました!
嬉しい!
5歳で歳の差はありますが2人も家族が増えました!
「私の代わりに……沢山愛してあげてね……マリアちゃん……」
「お義母さま? ミラお義母さまっ!? 誰か! 誰か早く来てーーーーー!」
その日私【マリア・シルフィル】は2人の新しい家族を迎えたのだが、それと同時にとても大好きな人を失った……
そして決意した……
【この2人は私が守ろう……他の何を犠牲にしても……】
つづく