(6)初床を終えて、
ミカことミカエラは、曲がりなりにもイヴとの偽装婚約の報告を終えて、充てられた客室に戻りました。そこで催淫剤ギヤワに当てられたミカに欲情したイヴは、婚前にも拘らずことに及んでしまいました。
※前話、「婚前の初夜――」、衆人監視で初染めの行為が行われたあとからの話になり、話の流れが変わっています。
(「初染め」……妻夫の初めての行為の血で寝床を汚す事)
※「発床」……妻夫が初めて寝床を共にする事。
(6,2k)
陛下や母が出ていかれた後、イヴさまとこれからのことなど、睦言を交わしています。
「――ところで、ミカエラは水魔法のみであったな?」
「はい、今は火魔法も習得中です」
「探索者の魔法使いでは火魔法は必須に等しいからの。では、火魔法と……収納もいるであろう? 雷魔法も便利じゃな。おお、空を飛んでみたければ風魔法も面白い。妾はどうも性に合わなんだが……」
「あの、なんのお話でしょうか?」
「これから、そなたに魔法の礎地を授ける」
「はい……ええっ?!」
イヴさまは何の事を言っているのでしょう?
「妾たち王族は何代にも亘り魔法を継承してきたのじゃ。王族はそれゆえ王族なのじゃ。『チート』じゃろう? そなたも配偶者とはいえ王族となったのだ。妾の持てる礎地を授ける」
「はいいっ?!」
「探索者を続けるのであろう。何よりの助けとなるぞ。妾を選んだ褒美と思えばよい」
理解しようとする間もなく、イヴさまは始めてしまわれた。
「では、まいる」
「私」をこじ開けて「イヴ」が入ってくる。糸のような細さで始まったそれは、次第に小指のような太さへと、行きつ戻りつ拡げていく。
「そなた、もっと心を拡げ流れに身を委ねて受け入れるのじゃ。妾も初めてで難儀する」
「は、はい。でもイヴ様が太くて、入ってこられるのが怖いのです――」
理解が追い付かないままに、こじ開けた「路」を拡げながら潜り来るイヴさまに、いかんとも受け入れ難く抗ってしまいます。
「なんの。火魔法でつまずいていては、収納など夢のまた夢じゃ」
「はい……」
イヴさまによると概念的に火魔法を一とするなら、収納は三~四倍の太さ、つまり十倍以上の面積が必要なのだと言います。
イヴさまのチャネルは私の下腹につながり、そこから上へと伸びる。胸に到達して一応の連結はなったようです。
「では、まず火魔法じゃ」
「ひぎぃ! ……イヴ様、裂けます。もう拡げないで。それに流れが速いです」
小指の太さのつながりを更にえぐって拡げ火魔法の奔流が流れ込む。初めての感覚に獣の悲鳴のような声をあげてしまいました。
火魔法の熱い熱い奔流は下腹の留まりを少し経て、すぐ上へ上へと駆け登り、胸の内圧を高め拡げられていくのを感じます。それは短い脈動を伴って次々と送られてきました。
「身を委ねて受け入れろ」
「イヴ様、もうダメです。熱に当てられ気を失いそうです」
「ダメじゃ。気をしっかり持て。今気を失うと、そなた破裂するやも知れぬぞ」
ひええっ!
私は緩んだ気持ちを一気に引き締めました。破裂するリスクは聞いていません。それに火魔法と意識したゆえに熱く感じるだけだと知らされます。イメージの問題だそうです。
止めどなく滴る汗を浴びて、イヴさまをいとおしく感じました。送りだすイヴさまも、すごく苦心しているのが分かりました。なんとしても儀式を無事に終えようと従いました。
「今宵は火魔法でとどめておくか……」
「そ、そういたし……ましょう……」
私達は、一通りの契りの儀式を曲りなりにも終えて、さらに火魔法の礎地の授受も……おそらく巧くいきました。熱くないと言われたけれど、体は火照って汗がにじんでいます。
自身を確認してみると胸が膨らんでいました。AAカップがBカップほどに。これは、胸帯をしなければなりません。イヴさまは心なしかしぼんでいる気がします。
儀式はほぼ目をつむって耐えていただけで、現実の変化を目にすると、飛んでもない儀式だと理解しました。慣れない儀式でイヴさまと二人、ぐったりとして寝物語りを続けていましたが、次第に返事はおろそかになり生返事となってイヴさまは眠ってしまわれました。
だるい体を起こしてイヴさまのお体を拭い秘めごとの後片付けを済ませます。
側仕えの部屋に下がらず壁際で控えていたリューゼは、ようやくといった素振りで寝台へと近づき服を脱ぎだしました。
「リューゼ。一体、なにを?」
「初夜も終えた事だし、もう良いだろう」
まさかとは思いますが、ここで報酬を払えとでも言うのでしょうか? イヴさまも寝ておられると言うこの場所で。
頑なに拒んだのですか押しきられてしまいました。イヴさまを起こすのは、はばかられて静かに隣りを空けます。
リューゼはそのまま私の隣りで横になり寝息を立て始めます。私はリューゼとイヴさまに挟まれ、まさに川の字で眠りました。
リューゼは私を抱き枕にするし、イヴさまもおおいかぶさってくるし、横になって目をつむっているだけで私は眠る事など出来ませんでした。
◇
早朝、目を覚まされたイヴさまは、お風呂へ行くと言われてベッドを脱けられた。目を覚まして、まどろんでいるリューゼを見ても、特に悪感情はないようでした。
イヤな汗をかいた私は傍らのローブを羽織り、急いで半裸のイヴさまを追いかけていきました。
行き着いた場所は荘厳な彫刻で飾られた浴室で、私には居心地が悪いところです。脱衣場に積まれた湯あみ着に着替えてイヴさまの傍まで行きました。
イヴさまが湯女に挟まれていて、行き場がなくオロオロとしていると、湯女の一人に姫様の正面を示されて、私はそちらにひざまずきました。
湯あみ着は申し訳程度の丈で、ひざまづくとお尻は言わずもがな、体の前が露わになってしまいました。イヴさまには全てを曝しているので構わないのですが、湯女に見せるのははばかられ、両太ももをそろえて座ります。
「失礼します」
両手に泡を取ってイヴ様の正面を洗います。ギルドの酒場で確認したよりも、やはり幾分胸がしぼんでいるようです。
昨夜も感じましたが、イヴさまには胸や脇腹に向こう傷がたくさんありました。恐らく、腕にも。一匹狼――王家の紋章は獅子なので、さしずめ両手剣使いの「一匹獅子」と言うところでしょうか。
「ミカエラ、湯女の真似などしなくてよい。妾がそなたを洗ってやろう」
「私は構いません――」
イヴ様の言葉を聞いて湯女の二人が固まった。お互い顔を見合せている。
姫様は構わず泡を取って私に塗りつけてきます。
「――伴侶となった旦那さまには、奉仕するよう教わっています」
「ああ、それは下級貴族に嫁いだ場合であろう。上級貴族や直系嫡嗣などは違うぞ」
「確かに……そうでした。私の嫁ぎ先は同格の傍系の方と思いこんでいました」
「母御に確認すれば良かったのだ。そなたの相手は妾と決まっていたのだから」
手を止めていた湯女たちが、にわかに後ずさりひれ伏しました。
「聞いていません。イヴ様は知っておいでなのですね」
「そうだ。とは言え婦夫で洗い合うのも悪くないな」
「そうですね。ところで、湯女のかたが控えてしまいましたが?」
「そなたが、肌を曝したからであろう」
「あっ、はしたなかったでしょうか?」
「まあ、構わないであろう。ここにいる内は、そなたも仕えられる立場になるのだ」
「えっ? それは遠慮したいのですが」
「いやであれば、拒めばいいだけだ」
「はい」
私はイヴさまに引き寄せられて、湯着を脱がされた。抱きよせられると泡を塗りつけられて、背中に手を回して洗われる。
私も洗って差しあげたかったが、手が届くところは背中しかなく、イヴさまと同じように手を回して背中を洗いました。イヴさまと私の間で胸と胸がつぶれあっています。ふくらんだばかりで雄っぱいが痛かったです。
他人が見ると、抱きあって泡と戯れているとしか見えないでしょう。
いつの間にか、湯女たちはいなくなっていました。少し変な気分になってしまったので、いなくなってくれたのは、助かりました。
イヴさまとは、洗いっこしたあと、ふたり並んで浴槽に浸かりました。
「ミカエラ、今日はどうする? 離宮で休すむか、学園に戻るか?」
「そうですね。学園に戻り協会の依頼にいそしみたいと思います」
「そうか。食事のあと、契約をすませ共にゆこう」
「……はい?」
いろいろと湧いた疑問を呑みこみ、お風呂を上がりました。
脱衣場には湯女と共にリューゼが控えていた。
手早く体を拭いて、イヴさまを拭い用意された下衣や服を着せていきます。リューゼは私の傍にきて、丁寧に拭いてくれます。
「そなたは、自分の身を整えよ。湯女たちが近寄れぬぞ?」
「……はい」
やめろと言われても、染み付いた教えがそれを許さない。しないでいる不作法より、するお世話のほうがいい。
「さあ、これを穿け」
リューゼが私とイヴさまとの距離をとって、下衣を穿かせてくれる。独りでできると拒みましたが許されず、私はリューゼに着付けられた。イヴさまと離れたせいで、湯女たちはイヴさまを着付けていった。湯女に髪は結われることなく、イヴさま手づから編んで、いつもの粗い三つ編みをひとつ、垂らす髪型に戻ってしまいました。
「リューゼは、お風呂に入らないの?」
「あたしが、あそこに入れるワケないだろう」
ここは特別なお風呂だったらしい。私がお風呂をいただくのは、問題なかったようです。って言うか王宮なんだから、分かれ私。
イヴさまの後を追って食堂にいくと、陛下お二方と母上は朝食を食べ終えられて、お茶を待っておられるようです。
こちらは王族の私的なダイニングで、二十名ほどが座れる長方形のテーブルの上座で皆様は歓談しておられる。私は昨夜の引け目もあり、ご挨拶だけしてテーブルの下手に座った。
上座のイヴさまが、手招きする。やはり下手にぽつんと独りでいるのは、特異なのでしょう。仕方なく、イヴさまの隣りで隠れるように座ります。
「ミカエラ。今日はこれからどうするのだ?」
「……ご用がなければ学園に戻り、明日に備えたいと思います」
お風呂でイヴさまにされた質問を陛下からも言われた。できれば今日もギルドの仕事を少しでも片付けたいところです。学園に戻るとは言いワケで、稼いでリューゼの対価を賄わなければいけませんから。
「そうか。離宮に部屋を用意させておる。こちらから学園に通ってもよいのだぞ」
私達の居所は、離宮の中に設けられたようですが、王宮から学園へ通うなど聞いた事がありません。王族ですら学園には寄宿するのです。陛下もご存知と思うのですが。
「ありがとうございます。ですが、寄宿が原則の学園規則を、私ひとりが破るわけにはまいりません」
「そうか……ミカエラは生真面目なのだな。エレオノーラ、そなたにそっくりだ。部屋は用意してあるのだ。休日の夜くらいは帰ってくるがよい。そなたが帰ってくればエヴァンジェリナも城に寄りつくであろう」
「……しかるべく学園側と相談しまして、お心に沿うように致します」
陛下は母上にたぶらかされております。猫かぶりが過ぎるのですよ。気質を受け継ぐ私が言うのですから確かです。私が暴露して旧交を汚すことなどいたしませんが。
イヴさまは……もっとご両親にお顔をお見せになってはいかがです? イヴ様は王都に私邸などを、お持ちではないのでしょうか? そちらから通うなら、城から通学するなどと言う特別をかわせる気がします。
あとで、お話しないといけませんね。
「ミカエラ。話があります。食べ終えたなら部屋へ来なさい」
ああ……恐れていた母上のお召しです。母上からお小言でしょう。何ごともなく母上が領地へ帰られるのを望んでいたのですが、無理でした。みぞおちの辺りがキリキリしてきました。
お茶を楽しまれて陛下婿下は執務に、母上は客室へ戻られた。
私たちも食事を終えると、イヴさまとの契約魔法を結びます。イヴさまが先ほど言われた契約とは、婚約の契約魔法のことでした。
契約魔法を施す宮廷魔術師がこられました。契約魔法の媒体はチョーカーが選ばれ、私の前に様々な物が広げられた。レースで飾られたものや、飾り気のない帯状のもの、色も様々なものがあった。
私は、飾り気のない帯状のものを選びました。
「ミカエラ。こちらのレースはダメなのか? そなたに似合うと思うのだが」
「そのように目立つものは困ります。協会の人や探索者に気付かせないようにしないと」
「そうか……仕方ないな」
男と分からないように色々と方策を巡らせてみましたが、ことごとく失敗して今さらですが、それでも目立つのは困ります。残念そうなイヴさまには心苦しいですが。
私が選んだのは、バックルが青みがかった銀色の白い帯のチョーカーです。見た目が一番おとなしく、私の髪や肌と馴染んで目立たないでしょう。惜しむらくはバックルの意匠が王家の紋章をかたどっているところです。
宮廷魔術師が契約の呪文を唱え、私の首に結われたチョーカーにイヴさまが自身の指輪を当てて契約が結ばれました。リューゼと結んだ簡素な契約とは違う正式なもので、私はイヴさまの所有物となりました。
私は母が独り滞在する客室に急ぎました。リューゼに付いてきてもらいたかったのですが、まだ食事を取っていなかったので仕方がありません。イヴさまも、食堂に残ってくつろいだ後、客室に戻ると言います。
「母上。ミカエラ、参りました」
扉の前で中の母に声をかけます。控えている侍女が扉を開けてくれ部屋に入りました。
母の前まで進むと、母は人払いの仕草をした。分かっていましたが、母上と二人だけでは、ものすごーーく嫌な予感がします。
「は、母上。お久しゅうごさいます。ご挨拶が――」
「もっと傍へ」
母上は、座っているソファーの座面をポンポンと叩いて私を招きます。
「わたくしは、こちらで構いません」
「なんと! 母の傍は嫌なのだな?」
「とんでもございません」
「ならば、もっと近う」
「はっ」
「もっと……」
「はっ」
私は一歩づつ近寄っていく牛歩戦術を続けて、時間と距離をかせぐことにしました。そんな作戦がかなうはずもなく、業をにやした母に手を掴まれソファーの上に倒されました。
「ミカエラ、よくやりました」
「……ひゃい」
母は私の頬っぺをつねって話しかける。
「婚約を厭っておられたエヴァンジェリナ殿下を籠絡するとは」
「いへ、まれにゃれあひれあったらけれす」
「そうですか。さぞかし楽しい出会いだったのでしょうね。それで、そなたの髪はどうしたのです?」
「まひあって、ひってひまひまひた」
「さぞや大変な間違いがあったのですね。また、そなたの美しい髪を見るのにあと何年かかることやら……」
「いひゃい、いひゃいれす」
母上は、つねる指に力をこめた。
「間違って切った髪は、もちろん残しているのでしょうね?」
「…………」
「残っていますね?!」
「……もう、ありまひぇん」
母上はやっと、つねるのをやめてくれました。
「聞き間違えましたか。ミカエラ、もうない、と聞こえましたが?」
「もう……ありません」
「ミカエラ~! 捨ててしまったとでも言うのですか?」
「……はい」
母上、そんなに大声をあげなくても聞こえます。もちろん、捨てたと言うのはウソです。切った髪は売ってしまい、ローブやスタッフに化けてしまいました。
切った髪がもうないと知った母上はソファーに突っ伏しました。
「なんてこと……ひと月ほどでおそらく婚約のお披露目……一年もせず卒園に合わせて挙式が……いや、その前に結納に新居造営、住み替え……」
「母上?」
母が何ごとか呟いている。
「……それまでに、なんとしてもカツラを都合しなければ……」
なにやら、母上は自分の世界に入られたようなので、お邪魔をしないようお暇しましょう。
ほっぺをさすりながら、入ってきた扉へそろりそろりと後退していきました。
「ミカエラ。私は他の準備を進めます。……そのみすぼらし頭と衣装をなんとかするのですよ」
「はい! 失礼します」
「……秘蔵の房中術で殿下を――」
扉の側まで退いていた私は、転がるように部屋を出ました。去り際に聞こえたの善からぬ言葉は、直ちに忘れました。
一応、五話で完結させた訳ですが(ファンタジーな)探索者のエピソードがもう少しほしいとか、ミカの卒園・イヴとの婚姻までの話も少しほしいかな、とか思い余話として少し追加してみます。
◇
「礎地」について
簡単に言うと、かけ算などの暗算をするための頭の回路のように、親が練り上げた魔法詠唱を手助けする回路・フィルターのようなもので、子に遺伝する形質まで高めたものです。
子や人に伝え、複製する秘法をもって王族は、王族たる訳ですが、受け継いでも、活用しなければ廃れます。
伝え方は、カーマスートラ的にチャクラを起こして伝えるイメージです(むふふ)。