(5)婚前の初夜――
王宮へ婚約の報告に登る。女王陛下ほか、ミカの母にも、ミカの秘密が露わになってしまった。
※「破瓜の花が咲く」……初行為の血で床を汚す事。
※ちょこっと改稿。
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「これで良かったのでしょうか? 女王陛下、王婿殿下や方々に婚姻を偽って――」
「偽りなどではないぞ。妾はそなたを夫とし子を成す。そなたは親元に気兼ねなく探索者を続けられるであろう。頃合いに妾を離縁すれば良いぞ。それは約束の通りだ。出来れば三人ほど子を成してくれれば良いだけじゃ」
「約束が違います」
食事の後、充てがわれた部屋で膝を付き合わせてイヴ様――エヴァンジェリナ姫殿下と「お話」です。
王女殿下を離縁できようはずはなく、私が離縁される方です。もし離縁などされようものなら私は家名に泥を塗った恥さらしの汚名をかぶり、アースノル家は貴族社会から爪弾きされるでしょう。
「違わぬ。もう、そなたを指図する者はおらぬ。探索者を続けられる」
「うぐっ」
確かに親からは干渉されないでしょう。姻戚の公爵家辺りからは、ねちねち嫌みや嫌がらせされる可能性はありますが、されてもその程度でしょう。
「妾が相手ではなくとも誰かがあてがわれたであろう。なあ、リューゼ?」
「そうだ。イヴが隙間に入っただけだ。イヴが孕み相手が出来なくなれば次を探してあてがう」
「そうじゃ。逞しい男の子を遊ばせては勿体ない」
「イヴが孕んだ後は誰を? 王女に比肩する者はそうそういないが」
「あの……孕まない可能性もあるのでは?」
次々孕むのが前提なのが不思議なんですけど?
「取りあえず、公爵侯爵あたりの継承外の娘を――」
「探索者でないと生活が出来ないな。稼げないのは困る」
おっと、二人にスルーされました。
「男を紹介するゆえ探索者にならぬかと言うのは?」
「面白そうだが、探索者になる者は、お前くらいだぞ」
「その通りじゃな……」
「納得するなよ。まあ、先の事はお前が孕んでから考えよう」
「うむ」
なんか、二人が凄く仲良くなってる。
「普通、そんなには孕まないと思いますが……」
私が孕ませる前提の話の流れが分からない。そう思い再び話を戻して聞きました。
「リューゼ、お前の腹の子は誰の種じゃ?」
リューゼは私を顎で示す。やはり私が父親ですか?
「そう言う事じゃ」
「意味が分かりません」
「はぁ~。リューゼ。そなた、何人産んだ? 何度孕んだ?」
「初めて孕んだ。この通りまだ生まれていない」
「そなたは、時さえ合えば女を孕ませる力を持っておる――」
「うえっ?!」
驚愕の事実を諭すように言われました。
「――人がそうそう、獣人や混血種と子は成せぬ。そなたはリューゼと何度交わった?」
「え~……」
何気にセクハラな事を。出会って十日は経っていません。たぶん二回……くらい?
「リューゼは孕んだと分かったのはいつだ? ミカエラとは何度まじわった?」
「ついこの頃だな。回数は言わぬが花」
うえっ? 回数は言われたくはない。言われたくはないが、その口振りは凄く多いと取れるのですが。
「そなたは、ほぼ機会さえ合えば孕ませる黄金の種を持っておる。リューゼは、そなたに他の女が寄り付かない程度搾っていたのだと思う」
「ほぼ的を射ているな。イヴが現れたのは今は必然だと思っている。――」
リューゼは、私のフェロモンが拡散しない程度に搾るように努めたと言い、近くにいることで沸き起こる情欲を自制するのに苦労したと言った。
「――搾っていなければミカから発するフェロモンに女どもが群がってくるに違いない」
「そうじゃな。今宵ずっと側にいて、ミカエラから目が離せなくなるのを感じる。感受性の強い混血のリューゼでは、さぞ辛かったであろう」
「ああ……」
うええっ? リューゼにそんな配慮があったの?
「妾も当てられて辛抱できぬ。ミカエラ、今宵、妾たちも……な?」
「な?」ってなんです? 顔合わせしたばかりですよ。婚儀もまだですよ? 姫様なんですから自重しましょう。
姫様はチョコレート――ギヤワの箱をと言われたので、お渡しすると。
「これはどうした。半分しか残っておらぬ」
「半分の四つは食べて宜しかったのでは?」
箱に八つ入っていたので、半分は食べても良いと思ってたべました。ダメだったでしょうか?
「そなた、体はなんともないのか?」
「えっ? そうですね……少しドキドキほっこりしています」
「これは、一晩一つか二つで十分じゃ。よく平気でいる。眠れなくなるぞ」
えっ? 確かに初めて頂いた時は、眠れなくなりました。この丸薬はそもそも媚薬で男をその気にさせて初夜を乗りきる為の物らしい。
◇
薄衣をまとってベッドで三つ指を突く。結局、押しきられて婚前初夜となってしまった。
「婦夫となります今宵、わたくしの操を捧げ、契りを結び、いく久しくお傍に付き従うと誓い申しあげます。願わくは、お情けを以ってお導きくだされば終生、善き良人となり全霊を以ってお仕え致します」
「よくぞ申した。妾も終生そなたを離さぬ。言いたき事はすべて申せ。善きようにしよう」
「いえ……」
姫様一応、初夜の作法、テンプレですよ。「離さぬ」なんて言われたら恥ずかしながら本気になってしまいます。でも誓うからは全てはイヴ様のもの。その覚悟はしました。
「なんじゃ」
「継嗣がなれば、自由にしてよいのでしたね?」
「そうじゃ」
「王族の姫君を捨て置き自由など叶いますか?」
「叶う。妾はそうした――」
「しかし、陛下の意を汲み婚姻なさるのでしょう」
「半分そうだ。妾一人で子はなせぬ。妾に子をなす時が残り少ないゆえ仕方ない。次代を遺せるならば妾は永遠に生き続けられる。そなたも」
イヴ様は恐らく何でも聞いてくださるでしょう。でも、王族でも叶わない事はあるのです。探索者としてあちらこちらに流れては行けないでしょう。今は学生の身で王都からは離れられませんが、修学のその先、王都を離れる事が出来るでしょうか?
「姫様はこれからどうされますか」
「しばらく、そなた達と依頼を片付けつつ、そなたが修学の後、どこかへ武者修行にゆこうか?」
「ほ、本当に? 構いませんか?」
「構わぬ。『新婚』旅行じゃ。恐らくは、リューゼと妾の子も入れて五人で」
ど~んと打ち上げ花火が上がるようです。子連れで旅行……しないより良いか。この世界を旅して回れる!
「話が長いな。早くヤれ。部屋の外でやきもきしているぞ」
「部屋の外?」
リューゼが催促してきました。部屋の外に何があると言うのでしょう?
「仕方ない。リューゼ、済まぬが入れてくれ」
リューゼが外から招き入れた。エミーリア女王陛下とアレッシア王婿殿下、エリサこと義姉エリザベータ姫殿下が入ってこられた。ついでに母上も。
「これはいったい?」
「母上達は、妾たちの契りを祝福されに来たのじゃ」
「……ものは言い様です。私達の事の次第を確認される為ですか? 閨での営みを御目にかけるとでも?」
「左様じゃ。平素は侍従が隠れて、婦夫となったかを認めるのじゃが、妾は信用がないゆえ母上が直々に御覧になるようじゃ」
王族パナイ。姫様、信用なさすぎ。私も信用がなくなってしまったし、辛抱です……一時の恥です。偽装婚約もバレていた気がします。
婚儀前どころか、婚約の御披露目の前ですらあるのによろしいのでしょうか? 婚前の初夜を見込んで待ち構えてらした方々は、それを望まれていたのかも知れませんが。同じ部屋に押し込められギヤワを手にした私達が事に及ぶのは想像に難くない事でしょう。
「ゆくぞ!」
姫様、そんなに気合いは要りません。体勢を整えて受け入れた私は、ぴしっと弾けて白いシーツを温く濡らします。案外、一瞬で痛みは少なかったのでした。
「破瓜の花が咲くとは、どうした事じゃ」
契りを認められた陛下が唸ります。ようやく私の純潔の証しを皆様に示せ、面目を果たせました。リューゼが孕んでいた事、それを知らされた事さえなければ、完璧だったのに。
「純潔を保ち、子をなす……むむっ」
悩んでいる陛下は放っておいて、儀式は済みましたので御母姉の皆さん、退場してくださ~い。
(注:この辺りより第2部へ続きます)
姫様と私は、深く重なり婦夫の契りを交わしたのでした。ミスリル探索者の攻めは身を委ねるしか術はなく、じっと嵐が過ぎ去るのを待つのみでした。
「イヴ様、『新婚』など、こちらで使われない言葉はどちらでお知りになったのでしょうか? 少し気になってしまって……」
「父上に教えて頂いた。それがどうした?」
「いえ、出処を知りたかったものですから」
少し気になっていた事を寝物語に訊いてみました。王婿殿下は、転生者なのかも知れないですね。ご本人に確かめるのは憚られますが、私と同じ境遇の人はかなりいるのかも。世界を旅するのが楽しみになりました。
その後、子供は三人は欲しいだとか、どこを巡って旅しようとか将来の事を話し込んで興奮していました。ギヤワのせいかも知れませんが寝付けずに、はしたなくついイヴ様におねだりしてしまいました。こちらに生まれて初めての欲求かも知れません。普段は溜まってきた頃にモヤモヤする程度しか感じないので新鮮です。
再びの契りの後、リューゼが不満をもらすので宥めるのが大変でした。主従の約束で交わした件でしょう。リューゼも元はイヴ様と同じミスリル探索者ですから受け止めるのは大変でした。既に寝入った姫様と満足したリューゼに挟まれ川の字でいる今世の私は背徳を感じますが、いまだに情欲が衰えません。きっと、ギヤワは用量を守って使おうと誓いました。
◆
私達は、正式な御披露目を経て婚儀に臨み、晴れて婦夫となりました。私は残りの学園生活を探索者との掛け持ちで過ごし無事修学、エヴァンジェリナ姫様との御子が産まれるのを待って新婚旅行に出発しました。
私が嫁いだ事で、母上は子爵から伯爵に陞爵なさいました。領地は相変わらず猫の額ですが、エヴァンジェリナ姫様との御子が産まれた功により国替えがささやかれています。
旅の同行者はリューゼ、エリザベータ義姉殿下、私達婦夫と子供達です。結局、私が幼き頃、親――女王陛下と母上が決めたイヴ様との婚約の道筋に乗ってしまいましたが悔いはありません。封建的束縛の中にも自由はありました。何にも縛られない自由など、どこにもありはしなかったのです。
子育てしながらの旅は大変だけど、すごく充実しています。まずはアースノル領まで母上に会いに帰ります。
(おしまい)
最後までお読み頂きありがとうございました。
これで短編として完結なのですが、余話的なエピソードを第二部として追加することにしました。これがどんな話になろうと第一部の結末には沿うとお考えください。