(16)蟲騒動の後始末
オーク集落への帰路でハチの巣へ侵攻してきた炎牙蟻の群れに遭遇したミカたちは、女王と雌雄を決する戦いに挑み、苦難を越えてそれを降した。集落で怪我の手当てをするとイヴは療養すべきと決め、協会の依頼も完遂されたと判断してミカたちは王都に帰還するのであった……。
(完)
いやいや、終わってないや。
できるだけ伏線の回収という後片付けしないと……。
(8.1k)
クランスルのオーク集落から飛んで王都の南門近くに着地した私たちは入街の列に並びました。
「無事、王都の南門まで着いたな。ミカ、もう良いぞ? ここからなら歩いて――」
「まだ、イヴさまは乗っていてください。『浮遊』を維持して運びます」
「……強情だな。しかし、都内で魔法は……。『浮遊』ならば良いか。ミカ、王宮より先に協会に報告しなければならぬ」
別に手をつなぐ程度でもイヴさまに触れていれば「浮遊」は効くとイヴさまもご存知でしょうが、しばらく担架のままでいてもらいましょう。
「報告は、私がいたします。イヴさまは、王宮で帰還のごあいさつののち、離宮でお休みください」
イヴさまは、王都に私邸をお持ちでなかったのですが、お持ちであっても離宮で静養されるほうが、ご両親のお二人も安堵されるに違いありません。
「しかしな……」
「イヴ、ミカがこう言っているんだ。早早こんな機会はないんだ、折角だから甘えておけ」
「そうするか……。リューゼ、耳をかせ」
王宮に着くと女王陛下に帰還の報告を乞いました。残念ながら陛下はご不在で王婿殿下のおられる執務室に通されました。
「殿下、執務中に失礼いたします――」
「あらあら。婿どのに負われて……イヴちゃん、丸くなったのでしょうか」
「父上、ちゃんはやめてください。歩けると言ったのですが、ご覧の通りで」
「帰参のごあいさつを申し上げたいのですが、……陛下はおられないのですか?」
「あちらで出会わなかったかしら? 行き違いね。クランスルの危急を聞き王国軍を率いて飛び出して行かれたけれど。火事場って聞くと血が騒ぐって言うのか……まったく、いつまで経っても女の人は……」
「そうなのですね。それでイヴ――エヴァンジェリナ殿下を離宮の部屋へお運びしたいのです」
「分かりました。少し待ってね」
殿下が手を挙げ控える侍女に指示しました。準備が整うのを待つ間、クランスルでの話や陛下が飛び出して行った話などを交わしました。しばらくして居室へ案内してくれる離宮付き侍女が連れてこられたのを機に執務室を辞しました。
「リューゼ、先ほど言ったように協会の報告を頼む。お前の黒鉄証を返納してくれ」
用意された居室の寝台に体を横たえたイヴさまはポーチからリューゼの黒鉄証を取り出して渡した。
「分かった」
「報告なら私が――」
「あたし独りで大丈夫だ、ミカ。お前はイヴの世話があるだろ。あー、ミカの青銅証も渡してくれ」
「えっ?」
「リューゼ、それは後で良いのではないか?」
「……そうか? まあ、念のために預かる。特別に昇格されるかも知れないからな」
「そうですか? そんな簡単に昇格しないと思いますが。イヴさまの協会証もいるでしょう?」
「いや、妾は構わない」
「昇格されるなら、きっとイヴさまですよ」
「青銀級は、そうそう昇格するものではないぞ? リューゼ、話がある」
宙に視線を漂わせて……何やらイヴさまの態度が怪しいです。リューゼを呼んで内緒話をまたし始めるし。まあ、いいでしょう。片付けねばならないことを私も思い出しました。
「――そうです。イヴさま、少し暇をいただいて学園へ報告に行ってもよろしいでしょうか?」
「うむ、そちらもあったか……」
「え? なんでしょう」
「いや、なんでもない。ならば、リューゼと共に行くがよい。リューゼ、……」
――またしてもリューゼとゴニョゴニョ相談しています。
「学園にはミカが体調不良でしばらく休むと言ってある。協会の依頼については言わず適当に話を合わせれば良い」
「なるほど。ご高配ありがとうございます」
仕事で身動きができなかったと言うよりは体調不良で休学した体のほうが世間体がいいですね。
「では、行ってくる」
「行ってまいります」
「あっ、待て待て。その恰好で行くのか?」
「そのつもりでしたが……確かに失礼ですね」
イヴさまに指摘された通りご挨拶に訪れるにはふさわしくないと気付きましたが、身仕度で困りました。ゆったりした上着がありません。
「しばし待て」
すかさずイヴさまは部屋の隅にひかえる侍女さんに衣装の支度を合図しました。
ほどなく侍女さんは前合わせのワンピースを用意してくれました。それはまるで着物のようで、義母父さまが育児にお召しの物だと教えてくれました。
それは聞かなければ良かったと思いましたが、背に腹は代えられず、かしこくも拝受しました。
久しぶりの学園です。学園長に面会を求めると突然の訪問にも拘わらずすんなり応じてくれました。
「久しくお休みいたしまして、申し訳ありません、学園長先生」
「ミカエラ様。抱えられた、そ、そのお子は……」
「ああ、この子はですね――」
「なるほど……。分かりました。そうですか、殿下の……。おめでとうございます」
「えっ? いえ、この子は――」
「分かっています。学園での生活は配慮いたしますから、ご心配なく。そうですか、お休みとは、そう言う……。卒園を待たず、そう言うこともございますよ……」
「あの、学園長先生――」
「そうです! 王宮、離宮から学園に通われても構いませんよ」
「いえ、学園長先生――」
勘違い学園長の余計な心配りなのですが、離宮からの通いならばイヴさまのお世話に支障がなくなり助かると思い直し、ありがたく受けることにしました。
「――格別のご配慮ありがたく、イヴ……エヴァンジェリナ殿下のお加減が良くなるまで、しばらく離宮より学園へ通わせていただきます」
「産後の肥立ちが、ございますからね。ミカエラ様も身の回りが落ち着くまでお休みして構いませんよ」
もう、取り返しがつきません。ご厚意に甘えましょう。身の振り方はにごし学園長先生にお礼を言って辞去しました。次は協会です。
協会に着くと自分が報告するからとリューゼに依頼のならぶ掲示板へ追いやられました。一応、私がパーティーリーダーなんですけど……まあいいか。
「薬草採集の依頼がだぶついた上に、イノシシ型など魔物の討伐、肉の採取ですか……」
手続きを終えたリューゼが、カウンターから呼びます。側まで行くと昇格したと、期待していなかった黒鉄証を私に差し出しました。驚き押し戴く気持ちで受け取りました。すべてイヴさまとリューゼのお陰です。
「なんだか追加報酬も出たそうだぞ」
リューゼの示すカウンターの上には四角いお盆に金貨四枚と銀貨がたくさん載って皮袋が添えられていました。クランスルの調査報酬だとリューゼが言う。いくらなんでも多いんじゃないですか。受託の時はイヴさまの言われるまま請けたので、報酬がいくらとか依頼の詳細は気にもしなかった私ですが。
「へえぇ、多くいただけるならありがたいけど、クランスルの人には申し訳ないね」
「それより、クランスル方面から逃れてきたのか、近くの森に魔物が増えているそうだ――」
私は、皮袋に硬貨を詰めながら、ニヨニヨと笑みがこぼれるのを抑えきれませんでした。
「――魔物討伐と薬草採集の護衛依頼を請けてくれと、強硬に勧められた。パーティーで相談すると待ってもらったが……」
「クランスルのほうに駆り出されて、こちらは手薄になったでしょうね。薬草と肉の採取依頼がいっぱい――」
ジャラっと音を立てる皮袋の重さが嬉しくてリューゼの言葉にはうわの空で答えました。パーティーのお金だけど、こんなに金貨を持ったことなんかなかったんですから。いや、イヴさまから大金貨をいただいていました。金貨十枚相当の大金貨を二枚も持っているんだから、嵩は少ないけどすでに大金持ちでした。
「――そうだ。ここの主力はクランスルに行ってしまって、いくらか黒鉄級が残っているが、今のところ私たちが首席パーティーだと。護衛なしでは、下級探索者が主にする採集依頼ができないし、肉が品薄になってきているそうだ。あたしは請けて討伐に行こうと思う……」
「……えっ?」
――いけない。頭が山吹色一色になって話をちゃんと聞いていませんでした。ええっと、討伐に行くの?
「ミカ、許可してくれ」
「リューゼなら大丈夫だと思うけれど独りでは危ないし、二人で行くとイヴさまのお世話が……」
「イヴはきっと賛成する!」
勢いこむリューゼは私の返事――許可を待っていました。クランスル事変の余波がこちらを襲ってきたのなら払わなければと私も思います。
「……リューゼ、悪いけどイヴに報せてくれる? お傍を離れ依頼を請けるって」
「よしきた」
「あ、それから装備に報酬を使っていいか聞いて」
「おうっ!」
協会のフロントから飛び出すリューゼを見送って、赤茶髪のマルティーさんに依頼の説明を聞きました。大きなイノシシ型の魔物がやはり難敵で青銅級数パーティーで囲んでも蹴散らされてしまうとか。今朝も黒鉄級パーティーが徒党を組んで討伐に向かったと言う。
私たちの問題は装備が貧弱なところとギーちゃんの保護ですが、金貨二四枚相当を当ててそろえればいいし、地を這う魔物なら飛んで逃げればいいし、なんとかなるでしょう。
「ミカ、イヴは許したぞ。装備の更新に使えと金も渡された。それとクランスルの報酬は全てミカの好きにして良いと言っていた」
協会に戻ったリューゼが魔法のカバンを差し出した。受け取って中を確認するとリューゼの槍の他に武具、魔法薬類が詰まっていて、金貨五十枚も入っていた。大金持ちだとはしゃいでいた私は……。
「そ、そう。じゃあ報酬はリューゼと私の分を分けようか?」
「あたしはいい。装備も買うんだろ。まず防具屋に行くか?」
「分かった……。お金の分配はあとにしよう。店の前に、朝は食べられなかった食事にしましょう」
なんだか私だけお金に執着しているみたい。まあ払わないといけないところがあるから仕方ないけど。
とりあえず協会に併設された酒場で食事しましょう。私は主材が川魚の日替わり定食、リューゼは敢えて肉の定食、それとギーちゃん用に味付けなしのハーフステーキを激レアで頼みました。やはり肉は値上がりしていて普通定食が銅貨二~三枚程度のところ、スペシャル肉定食が銀貨が必要な時価でした。
先にお願いしたハーフステーキを小さく切り刻んでギーちゃんに与えていると、残りの定食が配膳されました。メインの焼きものの皿に、干し肉の欠片が入った豆の麦粥に黒パンです。
「あんた、赤子に肉を食わせて大丈夫か?」
「大丈夫です。この子は特殊なので」
「肉を食うなんて初めてだよ」
「……そうですね」
いくら暇でも食事中に話しかけるのは失礼ですね。どうせ私の胸元を観てるんでしょうけどぉ。観たいんでしょうけどぉ、と思ったけれど私が男だと分かっての態度じゃないので単に子連れが珍しく不思議なだけなんですか。
それはそうと、リューゼの食が進みませんね。口元に肉をやっているけど食べるのをためらっています。
「リューゼ、食欲ないの?」
「いや、そうじゃないんだ……」
朝は食べられなかったんだからお腹は空いてるはず。あっ……もしかして、「つわり」かな。
「もしかして、胃が受け付けない感じ? 肉の匂いがダメ? 魚なら大丈夫そう?」
「……どちらもダメっぽい」
「パンは?」
「ああ、パンならなんとか……」
「分かった。私のパンを食べて。女将、素の麦粥を頼むわ」
「おいおい、素粥なんて作ったことないぞ。その豆粥じゃダメか?」
「ええっ? まあ酒場料理が主だし仕方ないね。かまどを借りていい?」
「あんた、できるのかよ」
「たぶん、ね。麦と柑橘類の実はある?」
「あるぜ」
酒場のかまどを借りて素の粥を作ることになってしまった。手ごろな鍋がないのでステーキパンを使う。お米があれば良かったんだけど麦でもなんとかなるでしょう。
少し熱して脂を飛ばし、少量の「創水」の水とひと握りの麦をパンで温める。突然現れた水に驚いた女将がうるさい。ここの水がめに用意された水は不衛生なので使いません。
プツプツと沸き始めると火口からずらして木ベラでゆっくりと煮詰め麦粒がふやけると火から下ろす。岩塩をけずり落として味を調え、仕上げにユズかライムか分からない小ぶりの果実をしぼり入れた。分けて用意していたコップの水にも垂らします。
「リューゼ、これはどう?」
「……うん、美味い」
「ゆっくり食べてね。さあ、ギーちゃんお待たせ」
すっかり冷めてしまったステーキをギーちゃんにあげながら私は魚定食を食べた。リューゼの残した定食は、魔法カバンが美味しくいただきました。
食事後、防具屋に移って店頭に並んだ鎧を眺める。品揃えが薄いのはクランスル遠征で売れてしまったのでしょう。
「リューゼは何がいい? 硬革のベストとかどう。要所は金属の補強が付いてる」
「そうだな。それなら軽くて強度もあるな。しかしかなり高いぞ」
「これくらいなら大丈夫でしょ。その上だとミスリルの補強が入ってて手が出ない」
買えない訳じゃないけど、買うと他にお金が回せなくなるかもしれないからね。
「――じゃあ、胴装備はそれにして、盾はどうする? 腿当てとかは?」
「いや、そちらはいい。今回、特に動き易さと素早さが必要だからな」
「分かった。リューゼはそれで良いとして、私は革ベストくらいかな。ギーちゃんを抱えていて大丈夫だといいけど」
リューゼの硬革ベスト、私の革ベストで金貨七枚、リューゼの古着の買い取りは捨て値だったので魔法カバンで保管することにしました。店の奥で革のベストにローブ姿に着替えて森へ出発です。武具についてはカバンの小剣で足りていると結論して購入は見送りました。イヴさまに預かった魔法カバンの中身はリューゼの槍を除き私のカバンに移して、槍だけ入ったカバンはリューゼに持ってもらいました。
すっかり忘れてお借りした着物ワンピースのままでいましたが特に変な対応はなくて助かりました。今は大切に魔法カバンに収めています。用を済ませた防具屋からは南門より西門が近いので、そこから都の外へ。
「ミカ!」
門を出て森へ飛ぼうとするところへ声をかけられました。見知った人――オーク集落で蒸し肉をくれた娘でした。
「こんなところでどうしたの?」
「ミカに会いにきた、ブヒ。仲間にしてほしい、ブヒ」
なんだか、ブヒって言うところで言葉が詰まる。なぜか顔も赤くして恥ずかしそうにしています。
「無理したね。いきなり王都に来ても会えるか分からないでしょう? 街にも入れてくれなかった?」
「そう、ブヒ。ミモトホショウとニュウガイゼイが要ると言われて、困ったブヒ」
若いオーク娘――フロォラは、握っていた銅貨数枚を見せてくれた。確か入街税に銀貨が要るので彼女の手持ちでは足りません。彼女を助けてあげたいけれど差し迫った用があるので今は先送りにします。
「仲間にするかは分からないけど、今は人手がいるの。手伝ってくれる?」
「手伝う、ブヒ。なんでもする、ブヒ」
「じゃあ、お願い」
余らせていた皮鎧をフロォラに渡して、武器は携えている短槍をそのまま使ってもらう。説明ももどかしくリューゼとフロォラに手をつなぎ「浮遊」して、「飛跳」で飛び森へ急ぎます。飛ぶのが初めてのフロォラは、大丈夫と言うのにすがり付いてきて困りました。
森の縁で十数名の探索者達が茶色い毛並みの魔物を囲んで戦っていました。相手は件のイノシシの魔物でしょう。負傷したと思われる地に伏した探索者があちらこちらにいます。寸刻を惜しんで助けに入りたいですが、いきなりの参戦で混乱させないよう、リューゼに救援だと周知してもらいましょう。
カバンから出した槍を携え、探索者の元へリューゼは飛び降りました。怖がってすがるフロォラはそのままに、私はイノシシの斜め上方に位置取ってリューゼの応えの合図を待つ。
「協会の依頼で助けにきた!」
「た、頼む! 助けてくれ」
リューゼから合図を受けてイノシシの正面から保留させた「氷弾・改」三連弾を次々撃ち出しました。初弾が額を穿ったあとは、動きが鈍り容易く後続の氷弾の餌食になってイノシシはたおれました。
リューゼの元に降り立つと、横たわって腹を曝す巨体にリューゼが槍を突き立て止メを刺していました。私たちでもやれそうです。
「討伐レイドのリーダーはどなたですか?」
「オレだ。『月夜の星』のリーダー、ルーナだ。救援助かった」
「私は、ミカ。あちらがリューゼとフロォラです。怪我のひどい人はいますか?」
「ああ、三人いる。突進を受けたり踏まれたヤツがひどい」
「では、これを飲ませてください。軽い怪我の人は私が治療します」
「なに? 魔法薬か?」
「はい。早く飲ませてあげて」
「あ、ああ。すまん」
カバンから取り出した魔法薬を多めに渡しました。魔法薬と言ってもイヴさまが仕入れた低級品がカバンにいっぱい残っているものですから在庫処分なんですけどね。
うずくまる人を回り「水の癒し」で応急手当して不足の人は魔法薬を与えていきます。
見渡すと森の端に繁っていた薬草などの草花は、魔物との争いと食害で荒らされ、採取はできなくなっていました。
この場でさばくと思ったのか、フロォラは気を利かせてイノシシの頚動脈を切って血抜きの準備をしています。森で暮らすフロォラなら解体はお手の物でしょう。別に協会に任せてもいいけれど解体できるならそのほうが助かります。フロォラを一旦とめて近くの川へ運んでから本格的にやってもらいましょう。
近くの河原に移り私が浮かんで吊り上げフロォラにさばいてもらいます。心臓の側に魔石があり、炎牙蟻の女王同等の大きさだけど色は薄いモノでした。モツは、心臓と肝を確保して他は廃棄のつもりだったのですが、何やら水際で他のモツも処理し始めたのでフロォラに任せ、取りあえず魔石と本体、確保したモツはカバンに収納した。
見慣れてしまったし他人も気にしていないのですが、フロォラの着る「服」と言っていいのか疑問なモノはドレイの服より粗末です。麻に似た糸で編まれた布に頭を通す穴があるだけの、いわゆる貫頭衣を腰ヒモで留めるだけのもので、丈が短く立ったり座ったりするとピンクのお尻がまる見えです。と言ってもオークの肌がピンク色なので、ことさらお尻がピンクなワケじゃないのですが。
森の奥で暮らしていたフロォラには初夏の日射しは厳しいと思うので速やかに服を用意してあげなければ。
「私たちが先行して狩っていきますから、後掩をお願いしたいのと、たおした魔物を処理してほしいのです。構いませんか?」
「ああ、オレ達は願ったりだが……あんたらは大丈夫か? って、心配など不要な武勇だったが」
「後詰めはまかしてください」
「後ろは護ります」
集まったパーティーリーダー達は口々に賛同してくれました。
「そうですね。ダメなら私たちも逃げます。怪我せずに街に帰りましょう」
「もちろんだ」
「「「おうっ!」」」
魔物探索はこれでいいとして、薬草の件もありましたね。
「――それから、薬草も集まらず依頼が増えているのは知っていますか? 無事な薬草を見つけたら採取してください」
周りに集まった、特に青銅級らしい若い探索者達は首肯く。
「あのぉ……ブヒ」
「何、フロォラ?」
ブヒと言うところでフロォラが頬を赤らめるのは言いたくないのかも知れないですね。
「草なら元気にする、ブヒから、わざわざ警戒するところで採らなくていいよ……ブヒ」
「ええっと……、どう言うこと?」
「こうする、ブヒ」
フロォラがしゃがんで足許のしおれた草に手を添えていると、草が自らゆっくり茎を起こしていく。とても驚いたけれど、それはいいのだけれど、フロォラの見えちゃいけないものが全開で見えています。ダメだ、何か布地を渡して巻いてもらいましょう。
「フロォラ、すごい! この辺りの草花は回復できる?」
「できるよ、ブヒ。でも草には朝早くのほうがいいよ、ブヒ――」
――ん? 今のは語尾を言い間違ったのかな?
「――それに、朝じゃないと今は魔力が足りない、ブヒ」
なるほど、森からそう時間もかからず王都に来たんだから、何かしらの技能で魔力を消費しているんだね。すぐにその回復術を確認したいけど今は我慢して明日に期待しましょう。上手くいけば薬草不足も解決できそうですね。
私たちの力は小さいけれど地道にクランスル事変の後始末を片付けていきましょう。私の平穏な――自由のある生活のために。
私たちは、森へ進みました――。
(おしまい)
余話としていながら本編より大きい話になってしまいました。
これで終わりにしておきます。ここまでお付き合いくださりありがとうございました。