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領主の子に転生したけど自由がほしい  作者: ペロリネッタ
2『クランスルの森』
10/16

(10)ハチの巣夜襲戦

 王都ギルドに森の異変を報告したイヴは、討伐隊が派遣されるまで少数で攻略作戦を探ることにする。アリの死骸回収にまわるとムシの勢力図が浮き彫りになった。


 ※説明セリフ、多し。

(6.7k)



 ◆(エセ)三人称です。


 イヴは困った面持ちでミカを見る。イヴの姉、ミカの義理の姉になるエリサ(エリザベータ)に助力を乞いに単身王都へ飛ぶと言う。


「……無理を言うな。人には向き不向きがあるのだ」


「私が迎えに行き、(あした)、義姉上を連れて戻ります」


 フランの小屋を飛び出すミカを追ってイヴも外へ出た。魔法を唱えているのであろう身構えるミカの姿に高速詠唱で「防護付与」を与えた。


「方向はあっちだ。魔素(マナ)を練るほど速く飛ぶぞ」


 姉を呼ぶことは拒んでいたイヴだが、ミカのわがままは許しているようで助言までして見守っていると、突然ミカがふらつき始める。


「ひィちョぉオおおぉ」


 聞き取りにくくも死力を振り絞り発動句を発し、ぐったりと脱力して浮かぶミカを、イヴは飛びつき抱きかかえた。


「よくぞ唱えた。見事だ、ミカ」


「イヴ。ミカは、大丈夫か?」


「ああ。(おの)魔素(マナ)を搾り尽くしただけだ。()の子にしておくには、もったいない胆力だ。しばらく安静にしていれば、回復する」


 傍観していたクランスルの二人は、驚いている。特に魔術師のナタリーは青い顔をして、剣士ノーラと顔を見合わせている。


「こう言う場合は、魔素(マナ)回復薬(ポーション)で治るのだろう。持っていないのか?」


「持っている。しかし飲ませるのは、次に必要に駆られて魔法を唱えようとする直前だな」


「なぜだ。今はダメなのか?」


「なぜ……か。そうするのが良いとしか言えぬ。ミカが、また何か唱えようとしても唱えられず、唱えても唱え終えることもできずに、魔素(マナ)枯渇で気絶するだろう。

 誰もが、そこまで搾る出す前に苦しみに耐えられず、やめてしまうのが普通だ。だが、その苦行を繰り返すと、魔素(マナ)の自己回復が早くなる。経験から知ることで理由は分からぬ。飢餓状態の体がより魔素(マナ)を周りから取り込もうとするからだとも言われているが真偽は分からぬ。

 ミカの魔法鞄(カバン)魔素(マナ)回復薬(ポーション)をいれておくが、さっき言ったように飲ませるな」


「……分かった」


「フランも、ミカに飲ませないように頼む。それから、我らの天幕にミカを寝かせるゆえ、気にかけてくれ」


「分かったブヒ。気にかけてペロペロするブヒ」


「ペロペロはいらぬ」


「じゃあ、じゃあ、ムチュムチュ気にかけるブヒ」


「ムチュムチュもダメだ。ナタリー、ミカが起きたら『氷弾(アイシクルボルト)』を覚えさせてくれ」


「えっ? ……はい。あの……私も覚えて良いでしょうか?」


「構わぬ。ミカのカバンに入っている。ぜひ覚えてみよ」


 覚えろと言ったイヴだが、火魔法使いのナタリーが水魔法の中位以上である氷魔法の「氷弾」が唱えられるとは思っていない。しかし、困難でも覚えようとする努力にムダはないと考えている。


 ミカを天幕に横たえたイヴは、吊るされた灯火魔道具を(とも)して、ミカのカバンから水魔法の魔導書と保存食をいくらか出してナタリーに託した。


 イヴや他の者達はフランの小屋に集まると、並ぶ料理にイヴの収納の保存食を添えて、夕食を取った。


「食べながら聞いてくれ。一刻(約二時間)のち、ハチの巣へ夜襲をかける――」


 途端に、小屋が静寂に包まれた。視線がイヴに集まり、話が続けられる。


「巣の主要門を探し突貫して、夜のうちに出来うる限り数をけずる。我とリューゼを含め『夜目()』が利く五人で当たる。夜であればハチとてアリと変わらぬ。ヤツらは音に頼って飛びついてくるだろうが、我らは『静音』で隠れるゆえに、やすやすとは見つけられぬ――」


「すごいブヒ。イヴならではの最良の作戦ブヒ」


「はい。アリがいては、ハチの巣には届かないと思っていました。私も参加させてください」


 フランはイヴの作戦を絶賛し、ノーラが興奮して参加を求めた。


「待て。まだ、続きがある。分かる裏口はふさぎ、入り口全面を三名で囲み、後方警戒に二名を当て、適宜(てきぎ)、前衛と後衛を交代しつつ一刻(約二時間)ほど殲滅(せんめつ)に注力する。

 一刻が過ぎれば、氷結魔法で入り口をふさぎ八分(はちぶ)刻(約十五分)休み、また殲滅を再開する。もし、新しく空けられた裏口などからハチが回りこんできたり、アリがハチの巣まで足を伸ばして来たなら、中止して作戦の練り直しだ。

 我々は少数ゆえ、一対一でけずるしかない。囲まれる状況にならぬのを最優先にする」


「いけます。やりましょう」


「腕が鳴るブヒ」


「ノーラ、ナタリーに聞かなくて良いのか? フランはダメだ。族長が集落を離れてどうする。次席以下の者を頼む」


「ナ、ナタリーなら、大丈夫です……たぶん」


「ひどいブヒ。族長は引退するブヒ」


 ノーラは自信なさげだが参加する意志は固そうだ。フランは慌てて小屋を飛び出していく。族長の継承をすませてしまうのだろう。


「こいつは、タクスぶひ。タクスドンに名前を変えて新しい族長にするブヒ。こっちは、ナサラぶひ。作戦に連れていくブヒ。二人ともあいさつするブヒ」


「タクス、ドンですブヒ。ハチ退治をよろしくブヒ」


「ナサラですブヒ。が、がんばるブヒ」


「しょうがない。ナサラ、『夜目』は利くな?」


「はいブヒ」


「では、武器か……。できれば一(撃必)殺の武具が良いが」


 フラン達オークは、使い慣れたこん棒と槍で迷ったがこん棒を用意した。リューゼ、ノーラの剣は回りこんでの体節斬りならばこと足りるのだが、対面斬りには不向きと判断された。


 ミカに与えられたリューゼの鋼鉄剣も良いが、何百匹と斬るには心もとない。イヴは佩剣(はいけん)の王家に伝わる宝剣をリューゼに託した。


 ノーラには、収納からミスリル剣を渡した。こちらは、魔力を流していれば切れ味を損なわないので数をこなすには丁度よい。


「佩剣を渡してイヴは、得物をどうするんだ?」


「現地で出すから大丈夫だ」


 イヴ達は、十分(じゅうぶん)お腹を膨らませ食休みしたあと、ハチの巣に飛び立った。



 イヴ達は、到達したハチの巣を周回しながら出入口を探った。ハチ山の頂き辺りに裏口が対極に二つ、地面をえぐって口を空けたところが正面口と思われた。二~三匹づつ、門番のハチが出入口を護っている。


 これは幸運と、二つの裏口を次々に凍らせて、門番を始末した。「静音」をかけ、イヴ達は玄関前に下り立つと「氷弾(アイシクルボルト)」を門番に浴びせた。


 左右にリューゼとフランを配して、収納から取り出した短槍を持つイヴが中央を取って入り口を囲む。「氷弾(アイシクルボルト)」を食らってもがく門番をリューゼとフランが直ちにほふり、イヴが死骸を収納する。ノーラとナサラは、後方を固めて警戒する。


「フラン、ナサラ。あまり地面を叩くなよ。振動で怒らせ要らぬハチを呼び起こす」


「や、槍が良かったブヒ?」


「裏口から押し寄せなければ、大丈夫だろう。けずるぞ」


「「「(おう)っ!」」」


 それから半刻(約一時間)近く、這い出てくるハチをイヴ達は狩って、狩って、狩り続けた。イヴは本来なぐ(・・)槍で刺突をくり出している。フラン達の刺突槍では、ハチの頭を捉えるのは難しく、やはりこん棒と変わらずカブト割りで倒すことになっただろう。


「リューゼ、フラン。しばらく、任せる」


「イヴだけ休憩ブヒか?」


「違う。頂き辺りの裏口を再び凍らせてくる。頼む」


「そうブヒ? こっちは簡単過ぎて、退屈ブヒ。ナサラ、交代ブヒ」


「は、はいブヒ」


「リューゼさん、われらも交代しますか?」


「そうだな……。イヴが戻ったら交代するか……」


 フランは、突き出てくるハチの頭を叩く簡単なと殺の繰り返しで緊張は解け、だらけていた。後方警戒の二人も暗闇に目をこらし、耳をそばだてているだけで、手持ちぶさたにしている。


 しかし、見えていないだけでハチは足の下に数えきれないほど存在して、アリは逆襲するために今、ハチの巣に集まってこようとしているかも知れない。


 イヴは登頂すると裏口からもがきながら這い出ようとしていたハチをさばくと収納して、再び凍らせた。入り口へ舞い戻ると()まった死骸を収納した。


「裏口はまだ()ちそうだ。フラン、もう交代か? リューゼは?」


「フランは、飽きたそうだ。あたしも交代する。ノーラ、頼む」


「はい!」


「一刻は長いか……。裏口が凍っているのも半刻ほどだし、半刻にするか」


 今度は、リューゼとノーラがスイッチした。後方に下がったリューゼが聞き耳をたてる。この度は「静音」の「結界」を張ったが、結界中の音を外に出さないで、外の音は伝わってくる。


「…………」


「どうしたブヒ?」


「……フラン、少し一人で警戒を頼めるか?」


「いいブヒが?」


 リューゼが、巣を離れて大きく外周を回っていくと、カサカサと落ち葉を踏む音がかすかに聞こえる。巣の外周を三()(約百十度)も回ると確かに聞こえてきた。


 夜目()で識別できるものは四~五匹のハチだが、その向こうからも落ち葉を踏む音が響いてくる。リューゼは後退しながら巣のほうに視線を向けると巣の壁肌に取りつき這いよるハチが確認できた。


 来た時よりも慎重にリューゼは戦場に戻る。


「イヴ。別の裏口から這い出たハチがこちらに向かって来ている」


「やはり、まだ他にもあったか。あるいは今夜、穿(うが)ったか。正面口(ここ)は一旦凍らせてふさぎ、ハチを狩りながら、あふれた穴へ皆で向かうか?」


「いや、ここはフラン達に任せ、あたしとイヴで、ふさぎに行こう」


「……ふむ。少し危険だが攻めてみるか。……『探索』。巣の向こう側から湧いているようだ。まだ後方には反応はないし、アリらしい反応はかなり遠い。半刻の間、辛抱してくれ。スタミナ回復薬(ポーション)魔素(マナ)回復薬(ポーション)を置いてゆく」


「分かったブヒ」


「お願いします」


 イヴとリューゼは、這い来るハチのほうへ向かった。



  ◆


 ナタリーは、ミカの様子を看ながら水魔法の魔導書を見つめていた。


「いきなり水魔法を、しかも高位だろう呪文を覚えられるだろうか。……いえ、覚えなくては」


 ノーラはイヴと共にフランの小屋に戻っていった。かなり時が過ぎたが天幕のナタリーの元に現れていない。ナタリーは「氷弾(アイシクルボルト)」の呪文を覚えながらノーラはどうしているだろうかと思いを馳せる。


「食事をしながら作戦会議をしているのでしょう。私も頂いたもので食事にしますか」


 呪文習得を中断して保存食の粗末な夕食を取りつつミカを眺めると、死んだように眠る姿がナタリーの目に映る。ミカの口に手をかざして呼吸を確かめると、弱々しく吐く息を感じた。


「本当にこのままで大丈夫でしょうか……。イヴ様は何も言われなかったが……」


 魔術師は体内の魔素(マナ)が枯渇するのを感じると、もう唱えないし、魔素(マナ)回復薬(ポーション)があれば回復させる。自分の限界を知るため唱え続けたことはあったが、倒れるまで呪文を唱えることなど、ナタリーはしたことはなく、そこまでして倒れた人も知らなかった。


 未知の状態にあるミカを覗きこんだ。艶やかな唇が誘うように少し開いている。緩やかな胸の丘陵が穏やかに上下している。息のひと吐きごとに甘やかな香りが漂ってくる。


 ナタリーは食べ物をゴクリと()み下して、ミカの唇に顔をよせると、吸い寄せられるように唇を重ねた。唇を離すと、猛然と食べて呪文の記憶に戻った。


「いったい、私は何をしている……」



 遠くでガシャガシャと音がたつのを聞いてナタリーは、あわてて天幕を出た。かがり火に照らされたイヴを含む数人がまとまって飛び立っていく。


 何かあったと感じたナタリーは、フランの小屋へ急いだ。小屋にはフランはおらず、新しい族長だと言うタクスドンに確かめると、事の次第をナタリーに話した。


「では、ノーラも一緒に夜襲に向かったのですね」


「そうブヒ。イヴ達に任せるブヒ。ナタリーは、もう休むブヒ」


 ノーラが相談もせず夜襲に加わったことにナタリーは憮然としながら、ノーラ達の飛び去った(おおよ)その方向に視線を向けた。


 呼び名はタクスで良いと言う新族長に礼を言ったナタリーは、天幕に戻って呪文の習得を再開した。一刻の時を詠唱にあてて何かをつかんだナタリーは、切りがいいと眠ることにした。


 剣帯を緩めて外し、ローブを脱ぐと次々と服を脱いで素裸になったナタリーは、ミカの隣りに潜って横たわった。寝るのに何もまとわない嗜好なのだろう。横になるやナタリーは寝息を立てた。



 ◆


「我が、なぎ払って血路を開く。リューゼは、討ちもらしを片付けてくれ。『風雪(スノーウィンド)』」


「分かった」


 イヴは槍の穂先を鈍く光らせ、這いよるハチをなで斬って行く。穂先の光に(おび)きよるハチを、ひとなぎで数匹を一度にほふり、よりつくハチを押し戻すように(こご)える風が吹く。イヴは、自ら作るハチの死骸の道を進んでいく。


 横や後ろからイヴによりつくハチを、リューゼはなぎ払い、突き刺し、縦横無尽に蹴散らしていく。


 死骸で築いた道の先に、ようやく口を開けた裏口を認めた。わらわらと這い出るハチに氷魔法をお見舞いして裏口に取りついた。(こご)ったハチを裁断し、動きが鈍るハチをかち割っては、半刻ほどを費やして裏口を攻略した。


 目的を遂げたイヴ達は狩り残したハチを掃討しつつ、死骸を収納しながらフラン達の元に取って返す。


「なんとか、片付いたな」


「そうだな。そら、スタミナ回復薬(ポーション)を飲んでおけ。我は、死骸をしまいつつ戻る。先に行ってくれ」


「分かった」


 リューゼは帰りを急ぐ。イヴはハチ山に登り、裏口を確認しつつ這い出してくるハチを片付けて、再び凍らせた。



 イヴがフラン達のいる正面口に降り立つと、再び「静音」をかける。フラン達が死骸の山に押しつぶされそうになっていた。フランとリューゼがハチを狩り、ナサラとノーラが死骸を取り除いている。


「待たせた」


「イヴ、助かったブヒ」


 イヴが、ハチを収納して、入り口を凍らせると、フラン達がその場にへたりこんだ。


回復薬(ポーション)は……飲んではいないな。さあ、飲め」


「飲む暇もなかったブヒ」


「始めはまだ良かったのですが、死骸がかさ張ると、片付けに追われて……迎え打つものと片付けに別れて……ハチの体液で足下はゆるむし、危うく死骸で生き埋めになりそうでした」


「そうブヒ。イヴドンの片付けのありがたさが身にしみたブヒ」


「イヴドン、言うな」


 フラン達に、スタミナ回復薬(ポーション)を渡し、ノーラには魔素(マナ)回復薬(ポーション)を追加した。スタミナを消費すれば、体内の魔素(マナ)で補う上、ノーラはミスリル剣を振るうのに魔素(マナ)を使う。まして武闘スキルを駆使すれば尚更(なおさら)である。魔素(マナ)が枯渇寸前だったのだろう、回復薬(ポーション)を飲むとノーラに生気がみなぎった。


 長めの休憩のあと、イヴは裏口を点検、凍らせて回って、ハチの駆除を再開した。


「今からは半刻で休憩を入れよう。そのたびに、続行か撤退を決定しよう。這いよるアリもまだ遠い」


「アリも来てるブヒ? 一体いくら狩ればいいんだブヒ」


「……今、収めたハチを数えたが五百匹は狩っていない。巣に二千匹はいそうだから、およそ三倍はハチを狩らないと。アリについては――」


「聞きたくないブヒ。アリのことまで、言わなくていいブヒ」


「…………」


 愚痴(ぐち)が思わず出たフランの独白に、答えなくて良かったのかも知れないが、アリのことまでは聞きたくないと返されてイヴは憮然とした。


「そう言うな。殲滅まで我らだけではできぬ。都にある回復薬(ポーション)を集めてきたので、無くなればジリ貧になり、集落を護るだけで精一杯になるだろう。今は、凶悪な獄殺蜂(ヘルホーネット)炎牙蟻(フレイムオーガント)の数をできるだけ(けず)るだけだ」


「分かったブヒ。ガンバるブヒ……」


「しかし、――」


 言いかけたイヴは口ごもって(つぶや)く。


「――ハチが二千として、それを支える幼虫が数多(あまた)いて、それを支える食料がいる。もう森にはアリしかいない。森からの食の供給は枯渇していて、この先何が起こるのか想像できぬ」


 もう一刻の間、ハチを狩り続けたイヴ達は、背後にアリが迫ったのを期に、オーク集落へ撤退した。



「では、我は休む。昼前に偵察に飛ぶまで、眠っているかも知れない」


「分かったブヒ。今夜はお楽しみブヒ。うらやましいブヒ」


「お楽しみなどない。そうだ。ナタリーはどうしているかな? ノーラとナタリーにひと張り天幕を出そう」


「いえ、私はフランにお世話になります。ナタリーをお願いします」


「そうか。念のため、用意しておく」


「よい夜を」


 ひと張り天幕を張り寝台をふたつ据えたイヴとリューゼは、ミカの眠る天幕を潜った。簡易寝台(マットレス)の上には折り重なるミカとナタリーがいた。ミカの様子は、まだ目覚めていない風だ。


「この時間まで起きているほうが異常だが、ナタリーまで眠っているとはな……。我は、ミカの横で休むがリューゼはどうする?」


「仕方ない。毛布でももらえれば、くるまって寝る」


 イヴは、数枚の毛布を渡し、リューゼは重ねた毛布の上に横になった。イヴは(よろい)を脱ぎ、薄着に着替えてミカに抱きついた。


 オーク集落の護りに信頼をおいていても、敵地で武装解除するなど危険であるが、イヴは何よりミカの温もりを優先した。どこであろうとミカと一緒ならば、誰はばかるつもりはなかった。


「我の回復薬はミカだからな。今宵、たっぷり補給せねば」


 イヴの思うこととは逆で、魔素(マナ)の超回復を(あらわ)し始めたミカに触れることは、枯渇寸前のイヴの魔素(マナ)が、吸収されるだけだった。


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