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ビビアンの酒場と湖の騎士

馬車旅は思いのほか短かった。孤児院自体が王都からそれほど離れていないせいもあるかもしれない。


「あの孤児院。王都で匿いきれない子たちを入れるための施設だったんだよ最初は。」


「そうだったんだ。」


王になって一人でも困っている人を助ける。違う助けていく過程で王になるのだ。

カバンで眠っている聖剣をなでる。錆びだらけだがその圧倒的な存在感は勇気を

与えてくれる……気がする。


「でもその髪すごい変化よね。聖剣の力っていうか呪い?」


「そう?私は気に入ってるよ。」


サヤカは金髪へと変色した髪をなでながら言う。聖剣を抜いた際、サヤカの見た目に変化が起きた。

もともとは黒髪黒目の通常の日本人だったのだが今は金髪で青目だ。

これで日本に帰ったら帰国子女を名乗れる。親はドン引きだ。

馬車が止まる。


「さあ王都だよ。お嬢ちゃんたち!」


サヤカ/アーサーは王都へと足を踏み入れる。





王都カーリオンは円形の都だ。東、西、南、北、中央で地区が分かれている。

アーサーたちが来たのは西地区だ。

西地区には食料や宿など旅人の生活に必要なものがある。


「ビビアンの宿場っていかにも西地区っぽいよね。」


アーサーはガレスから渡された地図を見ながら言った。


「私もまだいった事無いからわからないけどそうじゃないかしら。」


地図には一つ一つの店の情報がない。おおざっぱな形しかわからない。


「スマホがあれば……。」


「どうしたの?」


こっちきて現代機器がなくて困ったのは初めてだ。


「そうだ人に聞こう!すみませんそこの人!ビビアンの宿場って知りません?」


話しかけたのは、はげたおじさんだった。大柄で強そうな装備を付けているところから

歴戦の猛者のような雰囲気があった。


「ビビアン?知らねぇな。西地区は宿が多いからな。小さいところだと知ってるのなんて

 そこのファンくらいしかいねぇよ。」


「そうですか。ありがとうございます!」


「おう。頑張りな。」


アーサーは礼を言いガレスの元へ戻った。


「知らないみたい。小さい宿だからじゃないからかな?って。」


「あんたよく知らないやつに話しかけられるわね。尊敬するわ。」


そこからが大変だった。道行く冒険者が誰も知ら無いと言い衛兵すら知らない。

西地区ですらないとすれば一体何日かかるのやら。



二人は疲れて道で休んでいた。西地区は店や宿が密集しやすい為日陰が多く

全体的に暗い。暗いところで可愛い女の子が二人休んでいたら

何か来そうだなとアーサーは思った。


「おお!そこの嬢ちゃん。俺たちと遊ばない?」


「うわ。ベタなの来たぁ。」


いかにもガラの悪そうな三人組だ。赤いバンダナのひょろひょろ男と

緑のバンダナの太っちょ男と、青いバンダナのぐるぐる眼鏡男だ。


「なあなあいいじゃねぇか。ちょっと遊ぶくらいさ。」


ガレスを見るとガチガチに固まっている。

アーサーは不思議と怖く感じることはなかった。


「私たちまだ未成年だけど。」


「おれたちぁ女の子にえり好みしないんだよ。」


と言いながら赤バンダナがガレスの腕をつかむ。


「いやぁ!」


「いいじゃんいいじゃんそうこなくっちゃふぁぼぉ!」


赤いバンダナの顔面にアーサーの飛び蹴りが炸裂した。

聖剣の加護がないので鍛えた女子中学生程度の威力だがひょろひょろの赤バンダナには効いたようだ。


「ガレスちゃんに触れる奴はわたしが倒す!」


「てめぇ……よくもやってくれたな!もう容赦しねぇぞ!」


三下のセリフを言いながら赤バンダナがナイフを取り出した。

それに応じて後ろの二人も武器を出した。

アーサーは後ずさる。武器と言えば錆びたエクスカリバーのみ。

馬車で一回抜いたのだが加護がないと武器としてお手軽に振り回せないのが難点だ。

ナイフ相手にそれはまずい。

ガレスを見た。あまりの恐怖故か立ちながら失神していた。


「ガレスちゃぁぁん!!帰ってきてぇ!」


ガレスの体をぶんぶんゆすっても反応がない。


「無視するたぁいい度胸じゃねぇか!」


3人組が走ってきた。一人はナイフ。一人は棍棒。一人は大きな分度器(?)。


「まさかこんなところで終わるとは。」


アーサーは目をそらさず敵の目を見据えた。その時


「まだ終わりじゃないです!」


突如3人組が一斉に転んだ。そしてアーサーの前に、上から女の子が降ってきた。

メガネっ子だった。青い髪のロング。アーサーよりも身長が高い。

その子はこちらを見て言った。


「あなたが(わたくし)たちの王ですね。初めまして(わたくし)はロッタと言います。」


「後ろ!後ろ!」


自己紹介している場合ではなかった。3人組が起き上がっているのだ。


「大丈夫ですよ。それなら」


3人組のうちの大柄な緑バンダナの頭が何かに触れた。そしてそれは大きくなり

緑バンダナを拘束した。ワイヤーだ。近くの壁から伸びていたワイヤーは緑バンダナ

ごと引き寄せた。ちょうど挟まれた位置にいた赤バンダナは緑バンダナと壁に挟まれる

形で潰された。一人残った青バンダナは分度器を投げ捨て逃げた。


「逃げた!」


ロッタは追わない。


「王。心配せずともああいう輩は叩いても叩いても出ます。逃げるものまで追っていたら

 キリがありません。事情は聞いています。ビビアンの酒場まで案内します。」


どうやらロッタが場所を教えてくれるらしい。ロッタについていこうとしたら

急に立ち止まり言った。


「それからそちらの方を起こされた方がよろしいかと。」


「ガレスちゃん……もう終わったよ。」


「……ふぇ?」





ロッタの道案内で西地区を移動する。ガレスからもらっていた地図は昔の物だったらしい。


「それならたどり着けないのも無理はありませんね。」


「だって私王都初めてなんだもん。地図が変わってるとかわからなかったもん。」


「落ち着いてガレスちゃん。」


「して王。先ほどはなぜあのような手心を?」


「え?」


「聖剣の加護を得た王の力ならば容易に倒すことはできたはず。」


「聖剣が錆びついてて加護がうまく機能しないらしいわよ。」


「なるほど。聖剣はずっと雨ざらしでしたからね。」


ロッタも色々と事情を知っているようだ。ガレスがアーサーの耳に耳打ちした。


「アンタが異世界から来たってことは、秘密にするのよ。いいわね。」


「了解。二人だけの秘密だね。」


「…………!!。もうっ!」


「ぐふぁあ!」


ガレスはアーサーの頬をぶっ叩いた。叩かれたアーサーの頬は当然ながら

ガレスの頬も赤く染まっていた。




ビビアンの宿場は街の入り口にほど近い位置にあった。実は何度か通りがかっていた

道だったが地図の件もあって、素通りしていた。それもそのはずなぜなら


「看板ついてない……。」


「我らは現在秘密裏に動いていますから、あまり人目につかないようにしているのです。」


どうやら公的にはお店として扱われているらしい。この店はいわゆるお得意様向けだ。

お得意様と言うのは当然、堅気の人物ではないと思われる。


「どうしよう。私怖くなってきちゃった。」


「大丈夫。ガレスちゃんはわたしが守るから。」


店に入ると細長い通路だった。その通路は暗く足元が見えない。


「王。お足もとにお気をつけを。もし不安なら(わたくし)の手を握ってください。」


「え?!じゃ……じゃあ遠慮なく。」


一瞬ロッタの手がこわばった気がした。


(手汗大丈夫かな。)


空いたもう片方の手をガレスに向ける。


「あ……ありがと。」


「ロッタちゃん準備できたよ。」


「わかりました。では行きます。ゆっくり歩きますので何かあったらすぐに(わたくし)に。」





ロッタは恐れることなくずんずん進む。手を引かれ歩いていると、下っているような感覚があった。


「下ってる?!」


「ええ。ビビアンの酒場は二つの顔があります。実はお二人と先ほど入ったのは裏口です。表には看板がありますし、しっかり酒場として機能しています。」


「そうだったのか。」


看板無いから気付かなくても仕方ないよね、と言う逃げ道は初めから用意されていなかったのだ。


「なんで裏口なのよ。」


「あなたたちは我々の仲間、ひいては王になっていただきたいのでこちらから入りました。」


「なんか秘密結社みたいでかっこいいね!」


「アンタ気楽すぎない?誰がいるかわからないのよ。」


「大丈夫ですよ。皆、善良な人間。歓迎しますよ。」


やがて光が見えてきた。真っ暗の細道の終わり、伝説の始まりだ。


「我らは<マビノギオン>。あなたのためのユニオンです。」

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