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納得できない

作者: 賽の目コロ助

短編が好きです。

次は長編をと言う、ありがたい言葉をいただきました。

嬉しすぎて死にそうです。

  「納得できない」

 まずボクの事を語る前に、彼女の事を語るべきだろう。

何しろボクはずっと彼女のことを見続けていて、どんな些細なことも知っているのだから。

 〈彼女〉は、

 血液型はB型。

 変わり者とか自己チューとか言われるが彼女限ってはそんな事はないが、熱し易く冷め易い性格ではある。

 年は14才。

まだ幼いという印象が残る顔立ちだが将来は10人中12人が振り返るような美人になる事は請け合いだ。しかし身長145cm体重33kgと小柄なのでどちらかと言うと美人というよりはかわいらしいという事になるのかもしれない。

 住居は市内西部にあるアパートの二階で母親と2人暮らし。働いている母親に代わり家事全般を担当、料理は苦手だが掃除は好きらしくゴミ出し等する姿がよく見られる。

 学校は市内の私立中学に在学中、去年は体調不良で数ヶ月ほど入院したが現在は回復している。

 クラスでは目立つ方ではなく地味に学生生活を送っている。

 好きな食べ物はチョコレート、あまり高いものは好まない。

 嫌いな食べ物は芋と茄子、天ぷらならなんとか食べられる。

 運動は女子の中では上の方、体育祭では毎年リレーの選手。

 成績は浮き沈みが激しく、前回テストは「壊滅的だ」と言っていた。

 特定の異性との交流は無いが陸上部の同級生が気になっているようだ。

 ほぼ毎日、7時10分に家を出る。


 断っておくが、ボクは彼女の家族ではない。

 そればかりか話した事もないし、知り合いでもない。

 彼女はボクの事を何も知らない。ボクは彼女ことを何でも知っているのに。

 付かず離れず彼女を監視する、それがボクの仕事である。


 聞いた話ではテレビが世に出始めた頃、人々は街頭で立ち並びテレビをみんなで見ていたと言う。それがやがて一家に一台となり、一人に一台、今ではそれを持ち歩いている。車や携帯電話も言わずもがなであるが、ロボットも例外ではなかったのである。

 事件や事故、犯罪が横行する世の中では安心して子供を育てる事は出来ないし、その子供の数もどんどん減っているという社会情勢を鑑みれば子供一人に一体、ボクのようなロボットを監視護衛に付けるようになったとしても何ら不思議ではない訳である。


 今日は2月2日で彼女が日直のため二本早い電車に乗る事をすっかり忘れていた。いや、正確には忘れていた訳ではない。時々、重要な事を失念していたフリをしてあわてて行動するというプログラムを実行したにすぎない。

 ボクはこう見えても最新鋭の機体を持つロボットなのだ。

 世間的にはロボットという存在はあまり一般的ではない。

 研究開発されてはいるがボクのように人間の生活に溶け込んで共に生活しているロボットがいるとは普通は考えないだろう。とにかくより人間の性格に近く、〈人間らしいミスをする〉ことがロボットとして優れている証明になるというのだが、ボクとしては絶対に納得できない。

 ボクと同じように人間を監視している同僚のロボット達はみんなミス無く仕事をこなしているというのに、ボクだけ失敗続きなのだ。

 ロボットにだって妬みや嫉みの感情は備わっている。なにしろ人間の心を模して造られているのだし、それに近しい事が優れている事の証というなら当然だろう。

はっきり言って同僚達からは蔑み、バカにされている。

 最新鋭機というだけでも肩身が狭いのにそれがミス続きなら失敗作の烙印を押されるのは時間の問題だし、何よりミスしない事がロボットの矜持のはずなのに、わざわざそうなるように仕向けるなんて凶事に他ならない。

 しかしながら、人間に近い事を感謝する場合もある。

 彼女の成長を見てきたボクの中には父親のような、兄のような、親友のような奇妙な愛情が存在している。近づく事は出来ないが彼女の側にいることはボクにとって幸福なのだ。

 ボクは彼女の通学を見守るために急いで家を出た。

 僕の家は小高い丘の上にあり、人間ならその不便さで嫌遠するような所だがここからはすぐ近くにある彼女の部屋の窓がよく見えるのだ。

 十字路の角に隠れ、追跡素子で彼女の位置を確認。

 息を殺して待つ。いや、正確には息はしていないのが。

 彼女が来た。紺色のコートに白いマフラー、白い息を蒸気機関車のように吐きながら小気味よい靴音が近づいてきた。

まずい、走っている。

 彼女の足なら電車の時間にぎりぎり間に合うだろうが、一緒に駅まで行く訳にはいかない。少しでも怪しまれるような行動は慎まなくてはならないのだ。

 しかたなくボクは、先回りをして駅近くで彼女に合流する事にした。

 自慢ではないがボクは移動に時間がかかる。運動性能は悪くないのだがいかんせん機械だから体重が重いのだ。しかしそこは要領でカバーする事にしよう。すなわち、出来るだけ直線距離を行けば良いのだ。

畑を横切り、フェンスを越え、猫に威嚇され、犬に吠えられ、彼女において行かれないようにと必死だ。いや、正確には必ず死んだりはしないのだが。

駅まで数百メートルというところの民家の庭先から道路に飛び出たボクは周りの人間に怪しまれないようにさっと物陰に隠れ、追跡素子を確認。

無事先回りできたようだ。

 ほどなくして後ろから元気な足音が聞こえ始める。これで後は物陰から顔を確認して、同じ車両に乗り込むだけだ。

 人の列の後ろからだんだんと足音が近づいてくる。5m、4m、3m…

その瞬間、一定のリズムを刻んでいた足音はにわかに乱れ、ボクの頭の中に甲高い警告音が短く鳴り響き彼女に危険が迫っている事を知らせる。


 転ぶ!


 この時ほどボクは自分がロボットである事を感謝し、かつロボットである事を呪ったことはなかった。

 彼女が転ぶ瞬間にボクの体は緊急護衛モードに入り、いつも以上の俊敏さと筋力を発揮して彼女の腕をつかみ、その体を引っ張り上げた。

そのままゆっくりと直立へと体制を戻すと彼女の小さな体は宙に浮いてしまうような格好になってしまった。

「問題ありませんか? 」

 この問いかけはあまりにも機械的すぎたかと後悔した。

 彼女は自分がどうなってしまったのか分かっていないようであったが、転びそうになった事が恥ずかしかったのだろうか何も言わずはじかれたように駅に向かって走って行ってしまった。

 ボクは彼女の後ろ姿を見届けながら、あれなら電車にも日直にも間に合うだろうとほっと胸を撫で下ろした。


 夕方、仕事を終えたボクは本部に呼び出された。

本部とは言っても駅前の高層ビルの裏手にある狭い雑居ビルで、他のビルの影に切り落とされた小さな空に駅の喧噪がこだまするのみの谷間にあって全体的に陰鬱で汚いという印象が強い。そのビルの地下にあるオフィスは、いつも未整理の本やら書類やら何かの資料で雑然としている。そこには、多くても3,4体のロボットしか見かけた事はない。他にボクみたいな仕事をしているロボットが何体かいるらしいが詳しくは知らされていない。ボクは、おそらくその中で一番えらいと目される本部長ロボットの前に立たされた。

 「お前には監視ロボットとしての自覚はあるのか?周りの人の目のことも考えろ。なにより《彼女》と会話しようとするなど前代未聞だ」

 本部長は薄汚れたグレーの小さな机の前に出来るだけえらそうに分反り返って座り、大会社の社長といった風体の貫禄のある体躯と深く刻まれた額の皺が厳格な印象を植え付けるような苦悩した表情でギロリとボクを見た。

 人間は時としてこういったロボットを必要とするのだろうか。

「あの時は…つい口がすべってしまいした。彼女が無事か確認したかったので」

 ボクは無駄と知りつつマニュアル通りの対応であることを主張した。

「《彼女》に、お前の存在を知られるわけにはいかないのだ」

 本部長は表情を変えることなくため息まじりに我々の仕事の大原則をつぶやいた。

 それは当然知っている。

「対応は協議する。処分がある事はかくごしておけ」

 彼女を転倒から守った事は護衛監視ロボットとして当然であるがその後の“声をかけた”事に問題があるというのだ。

 何しろ護衛監視するという性格から何をしていようとずっと見られている訳だからプライバシーも何もあったものではない。

 実際、ボクも彼女の事なら視力(現在右眼0.92左眼0.88)から足のサイズ(右足24.45左足24.70)胸のサイズ(77.55cmBカップ左乳房が1.2cm大きい)など詳細に知っている。人によってはそれに異常な嫌悪感を抱く人もいるし、個人情報漏洩の危険性もある。なにより非常に危険な事なのだ。よって、護衛対象本人には絶対にバレない事が絶対条件なのだ。


 結果、ボクの処分はシンプルなものだった。


 解体、分析し、破棄。

 要するに首を切られたのだ。いや、正確には切られ…るのかもしれない。


 その結果を聞いた時、ボクは怖いとか悲しいといった感慨は何も浮かばなかった。

 ただ彼女をもう見守れないことだけが残念だった。

 その後3日間を本部の一室で過ごしたが、ボクは彼女の事ばかりを考えていた。

 もうすぐバレンタインだからチョコレートを放課後買いに行きたいだとか、一過性に流行るダイエットとかで食事を十分に摂らないだとか、欲しい本だとか、細かくてどうでも良いような事がいちいち思い出されてじっとしていられない。

 定義がはっきりとしないので断言はできないがこれが恋とか愛とか言うものなのだろうか。


 4日目の朝に解体分析される研究所に移送されることになった。


 ボクは特に拘束される事もなく護送車らしからぬ小さな車で移動し始めた。きっとロボットが命令に背いたり、突拍子もない行動に出る事などないとの判断であろうが、ボクはこの時、はっきりとこのまま彼女と別れてしまうのは嫌だと感じていた。車はまるでドライブにでも出発するかのように呑気に町並みを縫って走り始めた。

 窓の外には冬の朝の風景が流れ、駅へと続く道には通勤通学の人々がいつもの日々を送っていた。

ボクがいなくなってもこの世界は周り、彼女はいつもの日々を送っていくのだろう。

 もしもボクが涙を流すことができたなら今この時にこそ流す時なのだろうが、その機能が付いていないという事はロボットに涙は必要ないということなのかもしれない。

 車は程なくして研究所の門をくぐって建物の裏へと周り静かにとまった。

「着いたぞ、降りろ」

 同乗していた男が扉をあける。

 そのとたん、ボクは外へと飛び出した。

このまま消えてしまうなんて嫌だ!せめて彼女にボクと言う存在があった事を知って欲しい。もう一度会いたい!

 ボクは必死になって彼女の家をめざした。この時間ならまだ家にいて通学の準備をしているはずだ。

 慣れ親しんだ町並みをくぐり抜け一直線に彼女の家を目指す。

二階の彼女の部屋の窓が少し開いている。ボクは躊躇せずにその隙間に飛び込んだ。


 いた!彼女だ。ちょうど制服に着替えているところだ。

ほんの何日か離れていただけなのにもう何年も顔を見ていないような感覚に襲われ、時間の流れに差異を感じるこれが相対性というやつかと実感する。

 いつもは遠くから見ているだけだったが感極まったボクは思わず彼女の肩に飛びついてしまった。

とたんに彼女はものすごい勢いでボクの体をぺちゃんこに叩き潰してしまった。


「どうしたの?」

「こんな時期に蚊がいたの。いま咬まれそうになったわ」


 監視に有利な蚊型ロボットのボクは監視対象に見つかった時、非常に叩き潰され易い。それ故、その存在を知られる事は絶対に避けなければいけなかったのだが、

 こんな時にそんな重要な事をうっかり失念してしまう〈人間らしい〉プログラムが発動してしまうとは、やはりボクは納得できない。



勉強してます。

学ぶことが多すぎて途方に暮れてますが、楽しくて仕方がない。

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