モンハンを買わなかった後輩の話
俺はモンハンを買った。
俺は、モンハンを買った。
なのに、あいつは買わなかった!
約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに!!!
すごい楽しみだったのに!裏切られた!裏切られた!!裏切られた!!!
…殺す。
あいつを殺して俺も死ぬ。
俺はモンハンを買ったゲオの真向かいにあるディスカウントショップでカッターナイフを購入した。
その足で駅から快速マリンライナーに飛び乗ると次の駅で特急南風に乗り換える為に一度降りた。
暖かい車内から急に出たからか、寒い。今の俺の心のようだ…コーヒーかお…
…おいちい…おいちい…おいちいなぁ…
あーなんかもうどうでもよくなってきたなーうん。だってここから高知まで南風で何分よ?あ、今の別にギャグじゃないからね。
リアルな話こっから2時間コースですよ?仕事終わりの2時間コースしかも四国の山々を渡るあのクソみたいな線路。なんだかなぁ。別に殺さなくてもいいかもなぁ。若しくは別日にするとか。
…いや、ここで辞めたら俺は人間としてダメになってしまう気がする。
なんとしてもあの邪智暴虐の後輩を討たねばならぬ!一つ心に決めました!殺しまーす!絶対後輩殺すマンになりまーす!
さぁ、丁度よく南風もきやがった。俺を運命の地、トゥサヤマダに連れてってくれ!!!
俺は南風に意気揚々と飛び乗った。
とはいえ2時間暇である。早速心が挫けそうになっていた。
今手元にあるのカッターナイフと財布とスマフォだけだしなー。スマフォはここら電波悪いしなー。カッターナイフちきちきするだけで一時間は暇潰せるけど車内でやったら流石に車掌さん怒るだろうしなぁ…
車掌さんには幾度となく世話になってるから頭が上がらないのである。
どうしたもんか…
うん。モチベーション維持の為後輩へのヘイトを高めよう。そうしよう。
あいつなんて言ってたっけ?金がないから買えないとか抜かしてやがったよね?一月以上前に一緒に買って遊ぼーねって言ったのにそんなのあるかぁ!殺す!許さん!
え?あれか?女か?あーそうか。クリスマスだもんなぁ。そりゃ金も要るわなぁ。遠くにいる先輩と遊ぶためだけに高い金払ってモンハンなんて買わねぇよなぁ!??!?おオン!??!?
ちくしょー。リア充かよー。死ねよー。もうなんなんだよー…
あーこの惨めさ力に変えよう。枯れないように強く咲こう。なにせ俺は後輩絶対殺すマンである。
…おしっこ。
俺はおもむろに席を立つと車両の連結部に向かった。俺ほどの南風ラーになると車内設備の位置なぞ全て把握しておるからいちいち表示やらなんやらを見なくても良いのである。ふふん。
じょばー
あーきもちえがったぁ…
席に帰ると、俺の座っていたところに変なおっさんが座っていた。隣の席には大きなアタッシュケースを置いて。
おっさん。そこ俺の席だよ。荷物も置いてたっしょ。あ、やべ。荷物ってカッターナイフじゃん。これやばいパティーンのやーつー?
「お兄さん」
「はい。」
「お兄さんは何しにいくの」
「ええと。後輩を殺しに。」
「ほほう!そりゃいい!このカッターナイフでかい?」
「ええ、まぁ。」
「悪くない。カッターナイフでの殺しってのは。それはどこか日常を思わせて、それでいて悲しみが増すような気がするからね。」
「はぁ。」
「だけど、一世一代の大勝負。こんなチンケな得物でいいのかい?」
…このおっさんは…何を言ってるんだ?
「お兄さんは現実的に殺す方法としてカッターナイフを手に取った。そうだろう?」
「…やっぱり、包丁とかも考えましたけど。長距離移動のこととか考えたらカッターかなぁって」
「そうだろうそうだろう。それは悪いことじゃあないさ。誰だってそうするだろう。人を殺すってんだから現実を見据えなきゃならない」
「なにがいいたいんです?」
「せっかくの殺しだ。ここには君の望みを叶えるものがある。」
そう言うとおっさんはアタッシュケースを開いた。
そこには武器武器武器武器武器武器武器武器。古今東西あらゆる武器が揃えられていた。
「…すっげぇ!」
「そうだろうともそうだろうとも。さあ、好きなものを手にとりたまえ。」
「うひゃー!たまんねぇぜ!」
めちゃくちゃ目移りする。カッターナイフなんかおもちゃである。おもちゃのcha-cha-cháなのである。
でも、なぜか、俺の手は吸い寄せられるようにして黒のそれを持った。
「ベレッタM92…君は王道が好きなのかな?」
「いや、別にそう言うわけじゃ…なんなら邪道を裸で突っ走る派っすけど…」
なぜだか手に取った。そして驚くほど馴染む。まるで自分の息子のようだぜ。
そういえばグアムでぶっ放したのもベレッタだったなぁ…
俺が南国の地に想いを馳せていると、気がつけば目の前のおっさんは消え失せていた。
俺の右手に黒を残して。
『土佐山田〜土佐山田〜』
すごい時間たっていたらしい。キングクリムゾン食らった感じである。(ジョジョを読もう!)
トイレ行った時はまだ阿波池田あたりだったはずなのに…
まぁ、よし!さっさとあいつを殺しに行こう!そうしよう!
あれ?そういやあいつんちって高知市内?あれ?なんで俺トゥサヤマダで降りた?反射なの?
えーこれ終電だったじゃん!もう行けないじゃん!高知!ざけんなよまじでー!どーすっかなーほんとになー。
歩くか。
なに、俺は何回か高知土佐山田間を踏破している。やってやれないことはない!まってろ!ファック!
ごめんなさい。本当に。踏破するにはしたことありますけど毎回ほんと後悔してました。なんか高知離れて半年以上経ってたんで調子乗ってました。許してしんじょう君…
ああ、なんだか眠気が…もう、楽になっていいよね?あっ、あれは!やなせさん!?やなせさんが手招きしてる!?いかなきゃ!!!
「なにしてるんだい?」
俺はやなせさんのとこへ!!!
…
「…おっさん!?!?」
「元気のいいお兄さんだ。こんなところでどうしたんだい?」
ここはまじで道だけの道って感じ。高知じゃざら。だからみんな車なり原付なり持つのである。高校生だってクロスバイクとかちょっといい自転車乗ってる。
「えと、歩いてて」
「歩く?この道を?どこまで?」
「高知市内まで…」
「はっはっ!そりゃいい!君はこの市内まで20キロ以上ある道を歩こうってのかい?そんな物騒なものぶら下げて?」
「うるさいんじゃ!いくんじゃ!もんもん!!!」
「君のなすことは夜のうちにやるべきだ。そうだろう?」
「もん…」
「君は歩くしかなかった。だから今歩いてる。そうだね?」
「もんじゃあぁ…」
「ここには君の望みを叶えるものがある」
言うとおっさんは自分の背後を指差した。
車バイク車バイクチャリ!ジェット機!スケボーインラインスケートキックボード!
「なんてご機嫌なラインナップだ!」
「そうだろうそうだろう。さぁ好きなものを選びたまえ。」
「んーとねーえーとねー…これダァ!」
俺はオフロードバイクに飛び乗った!やっぱり乗りなれてるこいつが最高だぜ!
そういえば、社会人になってからバイク、全然乗れてねぇなぁ…
と想いを馳せているとおっさんや他の車は消えていた。俺のまたがってる鉄馬を除いて。
バオンバォォォン!!!
風!風になってる!クソサミィ!そういえば冬!冬のバイクはアホ!普通に車にすればよかっだ!
俺は鼻水をだらだら垂らしながら後輩の家に向かった!
キキィ!アクセルドリフトぉぉオォ!!!
あれ、あいつんちこんなに豪勢だったっけ。
なんかオートロックとか警備員とかいてやばそう。近くにいるだけでもなんか怒られそうな感じ。俺の小学校時代に鍛えた危険区域立ち入りスキルがそう言ってる。
こまった。こまった。これじゃ入れないじゃないか!あと少しなのに!クソゥクソゥ!悔しいのうくやしいのう!
俺は大人しく待つことにした。向こうから見つからずこちらから玄関を見ることのできるところを探しに探したが全然なかったので一般ピーポーを装いちょいちょい玄関前を通るので精一杯だ。誰か入って行く時便乗で入れないかなぁ…
「お兄さん」
「ひぎいっ!ぼくはここの家の子のおともだちでち!」
「入りたいのかな?このマンションに?」
「…おっさん!」
もー!おどろかせないでよね!プンスコプンスコ!
「そうなんだよ!でも俺の力じゃどうしようもないんだ!いや!最悪警備員全員ブチ殺せばいいんだけど!それはこう、俺の良心が耐えきれないなぁって。」
「君の望みを叶えるものがある」
「こ、これは…!」
…世の中金だなぁ。ほんと。握らせたら一発だった。信用問題とか大丈夫なのかなぁ。
僕偉くなったらお金以外で人を支配したいなぁ。そう思いました。
さぁ!ついに!きたぜ!後輩ぁ!
あいつのことだからどうせ部屋に鍵なんてかけねぇだろ!それが命取りだぜザマァミロ!ヒャッハァ!
てめぇはなす術なく脳漿ぶちまけんだよほぉれ!
さぁ!突入だ!
3・2・1ー!
「先輩じゃないすか。ちっす」
俺が勢いよく扉をぶち破ろうとしたまさにその瞬間、後輩が外行の格好で扉から顔をのぞかせた。
「あっ、え、あの。お久しぶりぶり座衛門…」
「なんか全然久しぶりって感じしないっすね」
「まぁ、一月に一度はきてるから高知…」
「そういえばそっすね。あっ、せっかく来たんだし上がってってくださいよ」
「えっ、あっ、うん。俺もそのつもりで来たっていうか?後輩が先輩をもてなすのは当たり前っていうか!?」
「寒いんで早く閉めてくださいよー」
「あっはい。あの、どっかいくんじゃなかったの?」
あっ!さては女のとこだな〜?殺す〜!
「いや、ちょっと飲みモン買いに行こうかなーって思っただけっすよ」
「ほんとかよ〜」
「ほんとっすよ。冷えたでしょ?コーヒーしかないけど飲みます?」
こいつ!俺がコーヒー大好きなこと知ってて…!
「のむ!」
「じゃあちょっと待っててくださいね」
…やつは台所へ消えた。
スーパーがさいれターイム!!!
何が出るかな何が出るかな?!
ベッドのした!引き出し二重底!それからそれから〜
あ、なんか普通に部屋の隅にプレゼントっぽいものある。
へへ、こいつが女にどんなモンプレゼントすっか見てやっぺ!
「お待たせしました〜って!あああ!」
「おまえ、さすがに女の子にこれはまずいんじゃないの?」
袋の中身は溢れんばかりのエログッツだった。正直、引いた。
「あーもう、先輩見ちゃったならいいですよ。それ、先輩へのクリスマスプレゼントっす。」
「…へぁ?」
「いやだから先輩へのプレゼントっすよ。誕生日にあげたオナホ使い捨てだったでしょ?だから今度は洗ったら使い直せるやつあげようと思って…そしたら他の奴らもあれやこれや集めてきてくれてそんな風になったんすよ…あーもうみんなにどう言えばいいんだか。」
「ブワァっ‼!」
「あっ!先輩!汚い!涙流しながら小便漏らすのやめて!」
なにも、後輩は悪くなかった。なんか、自分が浅ましくて醜くて。
その日は身体中から体液が止まらなかった。
それから数日後。俺はクリスマスプレゼントにモンハンを後輩に送った。今日も一緒にこんがり肉焼いてる。
んなわけないじゃん。
今回のお話は後輩がモンハンを買わなかったとこまでが本当でそれ以降は全部嘘っぱちなのである。
モンハン買わなかったからって殺すわけない。アホか。
もちろんクリスマスプレゼント云々の話もない。そもそも今年のクリスマスはド平日で俺はバリバリお仕事年末大忙しである。現実は非リアである。
だけれども後輩がモンハンを買わなかったことでありえた一つの世界かもしれない。もう少し俺が後輩に対して倒錯的な愛情を抱いていれば、そうなったかもしれない。
つまり、結局、なにが言いたかったかというと、モンハンさえ買っていれば万事丸く収まったのである。
事実俺は裏切られたのである。殺すほどじゃないけどマジ末代まで呪うかんな。さて、飯食って風呂入ってモンハンして寝るか…(´・_・`)
今の俺はスマフォ片手に文章を打ち込んでいる。これまでの文章は俺のイメージというか想像の産物なわけだけども、ふっと湧いたものなのである。考えに考えた俺の文章っていうよりかは、そうなのである。
だから南風の中にいた武器商人のおっさんが実は本当はいるんじゃないかなんて思う。今この瞬間もしかしたら南風で俺のことを待っているかもしれない。
そんなはずは、ないのだけれども。
カッターナイフ、買いに行こうかなぁ。




