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夢祓い  作者: 夜猫
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第三話『廃病院』


「本当に何とかなるんでしょうね?」


クラスで霊感があると自称する女子の時任が、目を釣り上げて迫ってくる。

あの日、廃病院に行ったメンバーで悠子姉が気になるという時任を呼び出した。

電話で『何か変な事起きてないか』と切り出すと、時任は途端に動揺し始めた。

問い詰めると、俺と同じように目に遭っていたらしい事を告白した。


「さて、これから怖い目に遭うんだけど、覚悟は決まったかな?」


「は……?」


「ちょっと、そんな話聞いてないわよっ?」


俺は呆然として、時任は噛み付かんばかりに、悠子姉に詰め寄っていく。

確かに、悠子姉と一緒に心霊スポットに行くと、毎回心霊体験してしまうが、まさか確信を持って言われるとは思わなかった。


「まあまあ。何とかする為の儀式儀式」


『……』


手をヒラヒラと振って、ケラケラと笑う悠子姉に、俺はかける言葉が見つからなかった。

時任はといえば、何も言わず、ジト目で睨み付けていた。

行くぞ、と無駄に元気に拳を突き上げて、悠子姉は歩き出した。

仕方なく、深いため息を吐いて、俺もその後に続く。

時任も渋々歩き出した。

目の前の廃病院は、以前来た時よりも威圧的で、全てを拒絶する意志のようなものを感じた。

玄関のドアは崩れ落ち、ガラスの破片が散乱している。

悠子姉は気にする様子はなく、中へと侵入した。


「ねぇ、あの人、本当に大丈夫なの?」


「力が強いのは間違いないよ」


怪訝な顔で耳打ちしてくる時任に、俺も小声で返した。

嘘を吐いてない。

ちょっと、濁した感じはするけど。

この病院は上が三階に地下が一階という構造になっている。


「この廃病院の噂って知ってる?」


「一応ね。確か、三つぐらいあったはずだけど……」


懐中電灯で辺りを照らしながら、悠子姉は俺達に尋ねる。

この廃病院は、県下でも有名な心霊スポットである。


一つ目は、地下の霊安室に聞こえる女性の声だ。

物寂しげに泣いているらしい。


二つ目は、二階のナースステーションで鳴るナースコール。

電気はすでに通ってないにも関わらず、鳴り出すのだという。


三つ目は、屋上の縁に立つ男性の霊。

屋上へ上がると、男性が飛び降りる姿が見られるらしい。

慌てて降りても、人が落ちた痕跡は何もないのだ。


「おかしい。少女の霊が出て来ない」


そこまで説明して、ようやく、自分達が遭遇した少女の霊の目撃談がない事に気付いた。


「確かに……一体どういう事なの?」


「まあ、取りあえず、行ってみよう」


俺の疑問に、時任も疑問符を浮かべて首を傾げる。

俺達は、何処で少女にとり憑かれたというのだろう……?

考え込む俺達に、悠子姉が手招する。

まず向かったのは、地下の霊安室だ。

真っ暗な階段を俺は恐る恐る降りる。

その時だった。

うううっといった感じで、女性が泣いているような声が聞こえてくる。

時任が『ひっ』と小さく悲鳴をあげた。

悠子姉の足がピタリと止まる。

耳を澄ましているようで、少し俯いて目を閉じている。


「霊安室は止めときましょ」


「もしかして、かなり危険なの?」


「逆よ。地下には何にも感じないわ。多分、風の音ね」


戻り始めた悠子姉に、時任は怯えた表情を見せる。

それに対して、悠子姉は肩を竦めて、面白くないとサッサと登り始めた。

そういえば、風の抜ける具合で、唸り声や泣き声に聞こえる

とテレビで言っていた気がする。

次に向かったのは、ナースステーションだった。


『……』


「鳴らないわね。仕方ないから先に進みましょ」


暫くナースステーションで待機していたが、ナースコールが鳴る気配は無い。

俺達は上へ行く事にした。

拍子抜けだった。

怖い思いをすると聞いていたが、ここまで何もない。

前回同様に、何も起こらないかもしれない。

この状況に、俺は完全に油断していた。

最後に向かったのは屋上だった。

崩れてるドアの隙間から屋上に出ると、男性が今まさに飛び降りた。

俺は慌てて、飛んだ場所に走り寄る。


「康助、離れて!」


「え……?」


珍しく焦った口調で叫ぶ悠子姉に、俺は思わず振り向いた。

その時だった。

急に足が滑った。

いや、滑ったのではない、誰かが足を引っ張ったのだ。

俺はグラリと体勢を崩してしまう。

視線が足元に向いた時、青白い顔の男が俺の足にしがみついていた。


「……ッ!」


「康助っ!」


悠子姉に、首根っこを掴まれて、思い切り引っ張られた。

コンクリートになす術無く転がった。

転んだ時に打ち付けたのだろう、肘が激しく痛んだ。


「大丈夫?」


何だか、うわーってな感じで見ると、時任は倒れたままの俺に、遠巻きから声を掛けてきた。


「大丈夫だ」


「まったく迂闊よね。あんな分かり易い罠にはまるなんて」


ヨッコイショと立ち上がり、服についた埃を払う俺に、悠子姉が後ろで深々とため息を吐いた。


「罠?」


「目の前で飛び降りて見せて、気にして寄って来たところを引き摺り込む……安直よね」


危なかったのよ、と続ける悠子姉に、俺はゾクリと背筋に悪寒が走った。

立ち尽くす俺に、悠子姉が痛む肘の様子を看てくれた。

骨折もヒビが入ってもいないという診断結果で、大きめの絆創膏を貼っただけで済んだ。


「戻りましょう」


悠子姉はスタスタと屋上を後にする。

俺はその背中を追いつつ、一度後ろを振り向いた。

そこには、今まで何度も飛び降りる男の霊の姿が見えた。


「行くよ」


「ああ」


前を行く時任の声に、俺は一言だけ返して、屋上を後にした。

結局、少女の霊の謎は何もわからなかった。

これからどうするべきか考えていると、急に時任が立ち止まる。


「どうしたんだ?」


「聞こえる……」


「え……?」


俺は時任の言葉に、耳を澄ましてみる。


……ル……プル。


確かに、何か音が聞こえる。

これは、ナースコールの音だ!

まさか、そんな……電気が通ってないのに鳴るはずない。

だけど、確かに下から音が聞こえる。


「さあ、怖い思いをしに行きましょうか」


真っ青な顔の俺達に、悠子姉はニヤリと笑みを浮かべる。


これから起こる恐怖体験に、身の毛も弥立つ思いだった。


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