第二十一話『脱出』
「これは……」
あまりにも衝撃的な状況だった。
俺達はダンボールを繋ぎ合わせて、大きく辺りを囲んだ格好で準備をしていた。
このダンボールに、部屋に貼られているお札を貼って、出口まで強行しようという作戦だった。
稚拙だが、恐らく最善な方法だ。
「よし。皆、準備は良いか?」
俺と悠子姉、そして伊知郎がダンボールの中に入り、庄助さんとミコがお札を取り、ダンボールの中に飛び込む。
そして、ダンボールにお札を貼り付ける、という訳だ。
二人は息を整えると壁からお札を何枚か取る。
その瞬間、赤ん坊達がガラスをすり抜けて入ってくる。
「急いで!」
返事をする余裕もなく、二人はダンボールに戻ると、表面にお札を貼り付ける。
赤ん坊達は、周りには来るものの、見えない壁があるかのように、一定の距離離れていた。
「行くぞ」
俺達は皆でダンボールを持ち上げると、そのまま息を合わせて歩き出した。
恐らく、誰かに見られれば、馬鹿みたいに見えるだろう。
しかし、こちらは生きるか死ぬかだ。
真剣そのものだった。
えっほえっほとダンボールを抱える。
入り口を抜ける時はドアなどに触って、お札が剥がれないように気を付ける。
「階段だぞ。皆、気を付けろ」
庄助さんが注意を促してくる。
目を瞑って聞いていると、もう引っ越し屋か何かだ。
一歩づつ声掛けしながら下に降りていく。
即席チームの割には、連携は完璧だ。
これなら、出口まで行けそうだ。
しかし、実際はそうは上手くいかないものだ。
「マズいな……」
先頭を歩く庄助さんが、ポロッと呟く。
庄助さんの視線の先には、ダンボールに貼っていたお札があった。
しかし、先程とは様相が違っていた。
焦げたように黒ずみ始めていたのだ。
改めて貼ったのがいけなかったのか、それとも、ダンボールがいけなかったのかはわからないが、このままでは、俺達は赤ん坊達の餌食になってしまう。
と言っても、慌てて進めば、お札が剥がれたり、転倒したりするかもしれない。
慎重かつスピーディに進まなければならない。
それは全員が理解していた。
俺達は、恐怖から逸る気持ちを抑えつつ、一歩づつ足並みを揃えて歩いた。
だが、階段を降り切る時には、全体的に黒ずんでいた。
俺達が入ってきた穴までは、約百メートル程、到底間に合わない。
「あちらを目指そう」
「了解」
俺達は見張りがいる方へ進路を変える。
そこならば、すぐ目の前だ。
とはいえ、外には見張りが待っている。
戦闘は必至だろう。
バレないように気を付けないと。
「いや、逆だ。騒いで、ドアを開けさせるんだ」
なるほど。
戦闘よりも、赤ん坊達から今逃げ出すのが先だという訳だ。
俺達はゆっくりと歩きながら、大きな声で喋り続けた。
しかし、ドアが開く様子は見られない。
もしかすると、何があっても開けるなと言われているのかもしれない。
だとすれば、かなりマズい……。
表の扉は鉄で出来ており、恐らく施錠されているだろう。
開けるのに手間取ればアウトだ。
「任せて!」
「!?」
俺の目の前で起きたのは、ミコの衝撃的な光景だった。
ダンボールから飛び出すと、鉄の扉に凄い飛び蹴りを放ったのだ。
扉はいともあっさりと弾け飛んだ。
あんなの人間が食らったら、ひとたまりもない。
想像しただけでゾッとしてしまう。
俺達は急いで工場の外に飛び出した。
赤ん坊達は、工場の外には出られないようで、俺達を名残惜しそうに見ながら、その姿を消していった。
工場の外には、弾け飛んだ扉に驚愕の表情で固まっている警備員がいた。
未だ固まっている警備員をミコがあっという間に沈黙させる。
「急げ。逃げるぞ!」
庄助さんの言葉に、全員が一気に走り出す。
もちろん、目指したのはあの涸井戸だ。
こうして、俺達は脱出に成功した。
亜沙美と見張りをしている男子学生と合流して、俺達はその場から逃げ出した。
その後、庄助さんの家へと戻る。
そこで、俺達は今後の事を話し合ったのだった。




