第十九話『作戦』
「ここか……」
町から少し離れた所に、知る人ぞ知る心霊スポットの廃工場が目の前に現れた。
以前は、不良の溜まり場だったりしたが、一年前から私有地になったらしく、二十四時間体制で警備員が見回るようになってしまった。
まさか、それがスアレス教団だったなんて……。
そう、この場所がスアレス教団の仮アジトの一つなのだ。
子供の時に、悠子姉に連れられて、俺も来た事がある。
ついでに言えば、昨晩夢の中でも訪れた場所だった。
「本当に悠子君は、ここにいるのか?」
「間違いない。昨日、夢で教えてもらったから」
まあ、夢の中で教えてもらったと言ったって、簡単には信じられないだろう。
例え悠子姉の能力を知っていたとしても……。
だけど、何度も悠子姉と夢の中に行くうちに、単なる夢なのか、それとも夢祓いなのか、わかるようになっていた。
「よし。じゃあ、作戦を確認するぞ」
俺達は、庄助さんを中心に輪を作る。
作戦はこうだ。
突入するのは交替の三十分前。
これには、もちろん理由がある。
人間というのは不思議なもので、見たくないものを見なかった事にしたりする。
特に交替寸前であれば、多少の物音などは聞こえなかった事にするだろう。
逆に交替直後ならば、何かあったとしても連絡ミスかもと思うかもしれない。
次に進入経路だが、実はあまり知られていないのだが、この廃工場には秘密の抜け道が存在する。
近くに川があるのだが、その川岸の藪の中に下に降りる縦穴があるのだ。
その縦穴を降りきると、横道が通じている。
それは進むと、廃工場の中に繋がっているのだ。
出口は、今は使われていない涸井戸。
蓋をして閉め切った状態にしてあるが、下からならば簡単に開く仕組みになっているのだ。
廃工場いるスアレス教団の人間達は知る由もないだろう。
突入するのは、俺と庄助さん。
現場の見張りが優乃と今日会ったばかりの男子学生だ。
彼の友人もここに捕まっているという話だった。
秘密の入り口の見張りを時任と庄助さんの知り合いの女性といった配置だ。
「準備は良いか?」
庄助さんが、俺達の顔をグルリと見回した。
皆、緊張感はあるものの、覚悟を決めた表情をしていた。
俺も生唾を飲み込みながら決意する。
庄助さんは、皆の意志を確認すると、一つ頷いた。
「よし。じゃあ、始めるぞ!」
そして、悠子姉奪還する為の作戦は始まった。




