レパント村
先日、本作の元となったふきの精様の作品「武具乙女」が完結致しました。ふきの精様、お疲れ様でした。
マリーさんが率いる隊商に分乗したあたしと蓮華が初めて訪れた小さな村、レパント村、隊商の車列はその村の中央に移動した所で停車し、あたしは蓮華と一緒に馬車から降りた後に馬車から降りて護衛の人や隊商の人に指示をし始めたマリーさんに声をかけた。
「マリーさん、ありがとうございました」
「何、元々此方に来る用事の片手間に乗せたんだ、礼を言う程の事じゃ無いよ、因みにこの村の宿は一軒だけであの建物だよ」
あたしの言葉を受けたマリーさんはそう言うと少し離れた所に建っている2階建ての建物を指差し、あたしはその建物を確認した後に笑顔で口を開いた。
「ありがとうございます、マリーさん」
「いいさね、いいさね、明日から商売を始めるから良かったら冷やかしに来ておくれ」
「はい、ありがとうございます」
マリーさんの返答を受けたあたしは手を振りながら笑顔でマリーさんに挨拶をし、マリーが笑顔で手を振り返してくれたのを確認してから蓮華と一緒に宿へと向かった。
到着前に傾きかけていた陽射しは既に茜色になりかけていて、あたし達はその陽射しに照らされる通りを歩いて宿屋に到着してドアを開けた。
「いらっしゃい」
あたしと蓮華が室内に入るとそこは食堂兼酒屋となっていて、店番をしていた女将さんらしい恰幅の良いおばさんは声をかけた後に物珍しそうにあたしと蓮華を見ながら言葉を続けた。
「おや、見かけない顔だねえ、旅人さんかい?」
「はい、マリーさんの隊商に乗せて戴いてこの村に来ました」
女将さんの言葉を受けたあたしは笑顔で応じ、女将さんは気の良い笑みを浮かべながら問いかけてきた。
「そうかい、そうかい、レパント村にようこそ、泊まるのかい?」
「はい、一泊おいくらですか?」
「一泊2000ヴェールだよ、食事は一食につき150ヴェール頂いてるよ」
女将さんから宿泊料を聞いたあたしは現在の所持金(8400ヴェール)を確認し、一度後ろを向いて宿泊料と今日の夕食と明日の朝食代、2600ヴェールを具現化させて女将さんに渡した。
「……はい、毎度あり、これが部屋の鍵だよ、夕食が食べたくなったら降りておいで」
「はい、ありがとうございます」
代金を受け取った女将さんは笑顔でそう言いながらあたしに鍵を渡してくれ、あたしは笑顔で御礼を言いながら鍵を受け取ると蓮華と一緒に2階へと上がった。
2階にあがったあたしと蓮華は鍵に記されていた番号の刻まれたドアの鍵を開け、小さなテーブルと椅子に大人の男性が余裕を持って寝られる大きさのベッドが置かれている部屋の中へと入った。
「ふー、野宿しなくて済んだね、蓮華って、蓮華いつの間に着替えたのっ!?」
あたしがベッドに腰掛けながら蓮華の方を向くとそれまで黒の巫女装束だった筈の蓮華がラフなブラウス姿になってしまっていて、あたしが思わず驚きの声をあげてしまうと蓮華は戸惑いの表情になりながら口を開いた。
「いえ、部屋に入りましたので寛ごうかと思ったのですが、やはり、備えは必要でしょうか?」
蓮華はそう言うと瞬時に妙法蓮華経を腰に着けた黒巫女装束となり、その光景を目にしたあたしは自分にもその便利な行動が出来るかどうか試してみる事にした。
(……えっと、脱ぐって思ったらいいのかな、脱ぐ、脱ぐ、脱ぐっと)
あたしが脱ぐ事に意識を集中させているとライトアーマーの重さが消失し、それと同時に蓮華が真っ赤な顔になって慌てて明後日の方向を向いてしまった。
「……蓮華、どうしたの?」
「……り、リリカ、様……ぬ、脱ぎ過ぎ……です」
あたしが蓮華に声をかけると蓮華は真っ赤な顔のまま小声でそう告げ、それを受けたあたしが嫌な予感を感じながら自分の身体を見てみると一糸纏わぬ状態となっている自分の身体が視界に飛び込んで来た。
「……ッ!!……ご、ゴメンねっ蓮華!!」
あたしは慌てて蓮華に謝罪すると、頬が熱るのを感じながら服装をライトアーマーを外したシャツとスカート姿に戻した。
「……ご、ゴメンね、蓮華」
「……こ、こちらこそ、申し訳ありません、リリカ様」
あたしが蓮華に声をかけると蓮華は真っ赤な顔で返答し、それを受けたあたしは蓮華にもう一度ブラウス姿になって貰った。
ブラウス姿になった蓮華は真っ赤な顔のままあたしの隣に座ってくれて、あたしは頬が未だに火照っているのを感じながら蓮華に声をかけた。
「……戦ってくれてありがとね、蓮華、蓮華のおかげでこうして宿に泊まる事が出来たよ」
「……私は当然の事をしたまでですよ、リリカ様」
あたしに声をかけられた蓮華は少し恥ずかしそうにはにかみながら返答し、それを受けたあたしはゆっくりと頭を振って言葉を続けた。
「……それでもあたしは感謝しているよ、蓮華、蓮華に会えなければあたしはこの世界で生きる事なんて出来なかった筈だよ、だからあたしは本当に感謝している、本当にありがとね、蓮華、あたしと出会ってくれて……」
「……リリカ、様」
あたしが蓮華の薄い桃色の瞳を見詰めながら告げると蓮華は真っ赤な顔であたしの名を呼んでくれて、それを受けたあたしが頬が熱いくらい火照るのを感じながら頷くと真っ赤な顔であたしを見詰めながら言葉を続けた。
「……御礼を言うのはこちらの方です、リリカ様、貴女を主としてお仕えする事が出来て光栄です、私にも御礼を言わせて下さいリリカ様、私と出会って下さり、ありがとうございます」
真っ赤な顔であたしを見詰めながらそう言ってくれた蓮華、その姿は窓から入ってくる茜色の陽射しに輝いていて、あたしは蓮華と同じ様に頬を火照らせながら蓮華を見詰めた。
それからあたしと蓮華は夜の帳が降り始めた頃に1階に降りて食事を摂り、食事に訪れていたマリーさん(マリーさん達は村長さんの屋敷に泊めて貰っているとの事だった)と暫く談笑した後に女将さんから蓮華が使う為の椅子を1つ借りてから部屋へと戻った。
部屋に戻ったあたしと蓮華は今後の方針を相談し、取りあえず生活資金を獲得する為にモンスターを討伐する事を確認してから就寝する事になった。
あたしがベッドに横になると蓮華が小声で「失礼します」と言いながらベッドにあがり、ベッドが微かに軋む音を耳にしたあたしは自分の心臓が喧しく鳴り始めたのを感じながら蓮華が目の前に横たわるのを見詰めた。
「……も、申し訳ありません、リリカ様、お仕えする身でありながら床を共にする等」
横になった蓮華は仄かに頬を赤らめながら謝罪の言葉を発し、それを受けたあたしはゆっくりと頭を振りながら蓮華の手に自分の手を重ねた。
「……り、リリ……カ様!?」
「……気にしないで良いよ、蓮華、こんな風に蓮華と一緒に寝られて嬉しいよ」
あたしは驚きの声をあげた蓮華に優しく語りると頬が火照るのを感じながら蓮華の手を優しく握り締め、蓮華は真っ赤になりながらも嬉しそうにあたしの手を握り返してくれた。
「……ありがとね、蓮華、今はちょっと頼り無い主だけど、蓮華に相応しい主になってみせるよ、これから、宜しくね」
「……リリカ様はとても素晴らしい主です、これからも、我が身、我が心の全てをかけて貴女様に忠節を尽くします、リリカ様」
あたしが蓮華の手を握りながら告げると、蓮華は少し遠慮がちにあたしの手を握り返しながら応じてくれて、あたしは握り合った手から蓮華の存在を確かめながら頷いた。
「……おはすみ、蓮華」
「……おやすみなさい、リリカ様」
あたしと蓮華は互いを見詰め合いながら言葉を交わし、あたしは蓮華の手を握りながらゆっくりと目蓋を閉じた。
初めて訪れた村、レパント村、その宿屋であたしは蓮華と出逢える事が出来たと言う幸運と彼女の存在を噛み締めながら眠りに就いた……




